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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 1 ⑥
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「まったく、どいつもこいつも朝から元気なことだな」
注目を浴びたからしかたなくといったふうに近づいてきた茅野の顔には、思いきり苦笑がにじんでいた。
「あ、あのっ」
「まぁ、なんだ。そう心配そうな顔をするな。見たらわかっただろう。腹が立つくらいあいつは通常運転だ」
「で、でも」
「昨日、俺がどれだけ今後についてを聞かされたと思ってるんだ。おかげで寝不足でな。そういうわけだから、おまえらも構内で揉めてくれるなよ」
なにも言わせてもらえなかった上に、最後は完全に居残り続けるギャラリーへ向いたものだった。けれど、この場で言えることも聞けることも、それ以上はないということなのだろう。
渋々ながら頷いた行人の肩を、ぽんと茅野が叩く。
「ほら、わかったら、解散、解散」
その声に、固まっていた人垣がゆっくりと解け始める。行人たちのほうを気にしながらもぞろぞろと校舎へと向かっていく。その背中を、気がつけば行人は睨むように見つめていた。
彼らのうちの何人が、水城の側につくのだろう。ひとりもいないなんてことは、きっとありえない。いくら自分が成瀬寄りの見方をしていると言っても、そのくらいのことはわかる。
目立つ人だから、その分、敵もいるよ。だから悪口を言われたくらいでいちいち気にするな、というふうに高藤に諭されたことは幾度もあった。
でも、これからは、もしかしたら、悪口だけでは済まないのかもしれない。その想像は、すごく嫌な感じがした。
「そうだ、荻原」
「は、はい!?」
急な名指しに、荻原の声は裏返っている。その反応に、茅野が心外そうに顔をしかめた。
「なんなんだ、おまえまで。四谷や榛名みたいな反応をしなくてもいいだろう」
「いや、その、すみません。ちょっと気が抜けて」
「まぁ、いいが。とりあえず、今日の放課後は空けておけよ。追って通知は出すが、寮生委員会の緊急総会があるからな」
「え? 緊急、ですか?」
「そうだ。詳細は言えないが、議題は楓寮で――、あぁ、榛名は出なくていいぞ。今回は各フロア長までの召集なんだ」
そういう意味で凝視していたわけではなかったのだが、来なくていいと言われてしまったので、こくりと頷く。
――それにしても、楓寮が議題の緊急総会って……。
いったい、なんだというのだろう。おまけに、このタイミングだ。それ以上の説明はしないまま、「またあとでな」という一言で、茅野が立ち去っていく。
「完全な言い逃げだったね、寮長」
行人の心情を代弁するように、四谷がぽつりと呟く。その横顔には、一日分の精神力はもう使い切ったと書いてある。
「言い逃げっていうか、聞かせてたよね、絶対」
はは、と諦めたふうに荻原は苦笑していたが、そのとおりだった。行人たちのそばを通り過ぎていく生徒たちは「ハルちゃんのことに違いない」とさっそく推測を繰り広げている。
「どっちにしろ、これ以上荒れないといいけど」
そう言いながらも、こちらも半分ほどは諦めた調子だった。俺たちもそろそろ行こうか、と言って荻原と四谷が歩き出す。ちらちらと寄こされる視線を鬱陶しく感じたまま続こうとしたところで、行人は「あれ」と足を止めた。
「榛名?」
立ち止まった行人に気づいたらしく、高藤が振り返る。
「どうかした? いいかげん行かないと遅刻するぞ」
「悪い」
視界を過っていった人影を視線で追いながら、行人はそう応じた。
「先、行ってて」
「先行ってって……、榛名!」
引き留める声を無視して、人波に逆らって走り出す。なにも今ここで追いかけなくてもよかったのだろうけれど、気になってしまったのだ。
昨日からの消化不良が爆発してしまったのかもしれない。
「向原先輩!」
人気のない校舎裏に足を踏み入れたところで、ようやく追いつくことができた。荒い息のまま呼びかける。行人が追っていたことに、気がついていたのだろう。振り返った向原は驚いた表情は見せなかった。
「あの……」
無視されなくてよかった、と内心でほっとしつつも、切り出し方に詰まって行人は口ごもった。
そもそもとして、成瀬や茅野が立ち会っていない場で、この人とふたりきりになること自体が、ほぼはじめてのことだったのだ。
注目を浴びたからしかたなくといったふうに近づいてきた茅野の顔には、思いきり苦笑がにじんでいた。
「あ、あのっ」
「まぁ、なんだ。そう心配そうな顔をするな。見たらわかっただろう。腹が立つくらいあいつは通常運転だ」
「で、でも」
「昨日、俺がどれだけ今後についてを聞かされたと思ってるんだ。おかげで寝不足でな。そういうわけだから、おまえらも構内で揉めてくれるなよ」
なにも言わせてもらえなかった上に、最後は完全に居残り続けるギャラリーへ向いたものだった。けれど、この場で言えることも聞けることも、それ以上はないということなのだろう。
渋々ながら頷いた行人の肩を、ぽんと茅野が叩く。
「ほら、わかったら、解散、解散」
その声に、固まっていた人垣がゆっくりと解け始める。行人たちのほうを気にしながらもぞろぞろと校舎へと向かっていく。その背中を、気がつけば行人は睨むように見つめていた。
彼らのうちの何人が、水城の側につくのだろう。ひとりもいないなんてことは、きっとありえない。いくら自分が成瀬寄りの見方をしていると言っても、そのくらいのことはわかる。
目立つ人だから、その分、敵もいるよ。だから悪口を言われたくらいでいちいち気にするな、というふうに高藤に諭されたことは幾度もあった。
でも、これからは、もしかしたら、悪口だけでは済まないのかもしれない。その想像は、すごく嫌な感じがした。
「そうだ、荻原」
「は、はい!?」
急な名指しに、荻原の声は裏返っている。その反応に、茅野が心外そうに顔をしかめた。
「なんなんだ、おまえまで。四谷や榛名みたいな反応をしなくてもいいだろう」
「いや、その、すみません。ちょっと気が抜けて」
「まぁ、いいが。とりあえず、今日の放課後は空けておけよ。追って通知は出すが、寮生委員会の緊急総会があるからな」
「え? 緊急、ですか?」
「そうだ。詳細は言えないが、議題は楓寮で――、あぁ、榛名は出なくていいぞ。今回は各フロア長までの召集なんだ」
そういう意味で凝視していたわけではなかったのだが、来なくていいと言われてしまったので、こくりと頷く。
――それにしても、楓寮が議題の緊急総会って……。
いったい、なんだというのだろう。おまけに、このタイミングだ。それ以上の説明はしないまま、「またあとでな」という一言で、茅野が立ち去っていく。
「完全な言い逃げだったね、寮長」
行人の心情を代弁するように、四谷がぽつりと呟く。その横顔には、一日分の精神力はもう使い切ったと書いてある。
「言い逃げっていうか、聞かせてたよね、絶対」
はは、と諦めたふうに荻原は苦笑していたが、そのとおりだった。行人たちのそばを通り過ぎていく生徒たちは「ハルちゃんのことに違いない」とさっそく推測を繰り広げている。
「どっちにしろ、これ以上荒れないといいけど」
そう言いながらも、こちらも半分ほどは諦めた調子だった。俺たちもそろそろ行こうか、と言って荻原と四谷が歩き出す。ちらちらと寄こされる視線を鬱陶しく感じたまま続こうとしたところで、行人は「あれ」と足を止めた。
「榛名?」
立ち止まった行人に気づいたらしく、高藤が振り返る。
「どうかした? いいかげん行かないと遅刻するぞ」
「悪い」
視界を過っていった人影を視線で追いながら、行人はそう応じた。
「先、行ってて」
「先行ってって……、榛名!」
引き留める声を無視して、人波に逆らって走り出す。なにも今ここで追いかけなくてもよかったのだろうけれど、気になってしまったのだ。
昨日からの消化不良が爆発してしまったのかもしれない。
「向原先輩!」
人気のない校舎裏に足を踏み入れたところで、ようやく追いつくことができた。荒い息のまま呼びかける。行人が追っていたことに、気がついていたのだろう。振り返った向原は驚いた表情は見せなかった。
「あの……」
無視されなくてよかった、と内心でほっとしつつも、切り出し方に詰まって行人は口ごもった。
そもそもとして、成瀬や茅野が立ち会っていない場で、この人とふたりきりになること自体が、ほぼはじめてのことだったのだ。
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