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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 2 ①
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[2]
俺はここで折れるわけにはいかない、と言ってみせたのは、意地でも強がりでもなんでもなく、本心に近かった。
「成瀬、朝っぱらからなにやらかしたんだよ、おまえ。うちの寮、今すげぇ騒ぎ……って、は?」
勢いよく生徒会室に入ってきた篠原の声が、そこで途切れた。室内の一角をまじまじと凝視している。苦笑をこぼすと、その視線が自分のほうを向いた。そうして、呆れ切った顔で溜息を吐く。
「なに、おまえら。仲直りでもしたわけ?」
小学生のような言葉選びに、成瀬はもう一度小さく笑った。どう取り繕っても、これはそんなにかわいいものではない。強いて言うなら――。
「利害の一致、みたいなものかな」
「利害の一致」
信用していない調子で繰り返した篠原が、向原に視線を向けた。
「……って言ってるけど?」
「まぁ、べつに否定はしない」
「…………同じ空間にいる気があるなら冷戦はやめろ。マジで頼むから」
そう釘だけは刺してから、「それで?」と篠原が問い直してくる。
「利害の一致って、なんの利害だよ」
そう言いながらも、だいたいの見当はついているのだろう。入学してからずっと、このメンバーでする悪だくみと言えば、相場は決まっていた。昔と違うものがあるとすれば、自分たちのあいだにある不必要な感情だけだ。
つくり慣れた笑みを浮かべて、成瀬は切り出した。
「そんなに荒れてるんだ? 楓寮」
「『ハルちゃん』がな」
乱雑に机の上に鞄を放って、篠原が経緯をかいつまんだ。
「大泣きしてたぞ。おまえ、公衆の面前でいじめたんだって?」
「人聞きが悪いな。人目のある場を選んで突っかかってきたのは向こうのほうだ。俺としては、会長として、この学園のルールを教示しただけのつもりだったんだけど」
ありったけの敵意を込めて睨みつけてきた幼い顔を思い浮かべながら、ほほえんでみせる。
「それをいじめだととられたのだとしたら、しかたないな」
「どんな化かし合いだよ」
「うん、それもべつに否定はしない。天使の皮が一枚剥がれたのは事実だし」
嫌そうな顔をものともせず、成瀬は笑って頷いた。たしかに、あれは生徒を巻き込んだ盛大な化かし合いだった。
「まぁ、本当に嫌われてるんだなって、ちょっと笑いそうにはなったけど。なんでだろうな。俺、そこまでなにもしてないつもりなんだけど」
そう、なにもしてこなかったつもりだ。嫌われている理由は、嫌というほど知っているけれど。
その理由のうちのひとつには、心当たりがあるらしい。ちらりと向原のほうを窺ってから、篠原が寮の様子を明かした。
「あいつ、楓寮に戻るなり、ロビーでぐすぐす泣いてたぞ。やっぱり会長は僕のこと嫌いなんだって」
「出くわしたんだ。気の毒に」
「ちょうど出るところだったんだよ。っつか、うちの寮長……長峰、けっこうキレてたから。おまえ、必要以上に教室で煽るなよ。絶対揉める。マジで今日はやめとけ」
「そんなこと言ったら、俺も面と向かって大嫌いですって言われたんだけど」
そう言ってみせると、篠原がじと目になった。
「化かし合いどころか、幼稚園児レベルの喧嘩じゃねぇか」
「言えてる」
「言えてるって、おまえな。笑いごとかよ」
「でも、だって、そうだろ」
笑いごとだと言えばそうでしかないと、俺は思っている。
「結局、欲しいものが手に入らないってごねてるだけだ。きっと今までぜんぶ思い通りになってたんだろうな。自分の思い通りにならないことが気に食わなくてたまらないって顔してる」
アルファなんて、オメガのフェロモンで簡単に操れると信じている傲慢さ。改めたほうがいいと忠告してやったときは、一応は善意のつもりだった。向こうがそうと受け取らなかったというだけで。
向原は、なにも言わなかった。素知らぬ顔で、自分が不在だった期間のファイルを淡々と繰っている。
けれど、これも今に始まった話ではなかった。そうして、なにも言わないのは文句がないからだと知っているのも、自分だけではない。呆れ半分諦め半分といった調子で、篠原が小さく肩をすくめた。
「いい性格してるよ、本当」
「おかげさまで」
にこ、とほほえんでから、決定事項として成瀬は告げた。
「だから、楓寮から潰そうかと思って」
俺はここで折れるわけにはいかない、と言ってみせたのは、意地でも強がりでもなんでもなく、本心に近かった。
「成瀬、朝っぱらからなにやらかしたんだよ、おまえ。うちの寮、今すげぇ騒ぎ……って、は?」
勢いよく生徒会室に入ってきた篠原の声が、そこで途切れた。室内の一角をまじまじと凝視している。苦笑をこぼすと、その視線が自分のほうを向いた。そうして、呆れ切った顔で溜息を吐く。
「なに、おまえら。仲直りでもしたわけ?」
小学生のような言葉選びに、成瀬はもう一度小さく笑った。どう取り繕っても、これはそんなにかわいいものではない。強いて言うなら――。
「利害の一致、みたいなものかな」
「利害の一致」
信用していない調子で繰り返した篠原が、向原に視線を向けた。
「……って言ってるけど?」
「まぁ、べつに否定はしない」
「…………同じ空間にいる気があるなら冷戦はやめろ。マジで頼むから」
そう釘だけは刺してから、「それで?」と篠原が問い直してくる。
「利害の一致って、なんの利害だよ」
そう言いながらも、だいたいの見当はついているのだろう。入学してからずっと、このメンバーでする悪だくみと言えば、相場は決まっていた。昔と違うものがあるとすれば、自分たちのあいだにある不必要な感情だけだ。
つくり慣れた笑みを浮かべて、成瀬は切り出した。
「そんなに荒れてるんだ? 楓寮」
「『ハルちゃん』がな」
乱雑に机の上に鞄を放って、篠原が経緯をかいつまんだ。
「大泣きしてたぞ。おまえ、公衆の面前でいじめたんだって?」
「人聞きが悪いな。人目のある場を選んで突っかかってきたのは向こうのほうだ。俺としては、会長として、この学園のルールを教示しただけのつもりだったんだけど」
ありったけの敵意を込めて睨みつけてきた幼い顔を思い浮かべながら、ほほえんでみせる。
「それをいじめだととられたのだとしたら、しかたないな」
「どんな化かし合いだよ」
「うん、それもべつに否定はしない。天使の皮が一枚剥がれたのは事実だし」
嫌そうな顔をものともせず、成瀬は笑って頷いた。たしかに、あれは生徒を巻き込んだ盛大な化かし合いだった。
「まぁ、本当に嫌われてるんだなって、ちょっと笑いそうにはなったけど。なんでだろうな。俺、そこまでなにもしてないつもりなんだけど」
そう、なにもしてこなかったつもりだ。嫌われている理由は、嫌というほど知っているけれど。
その理由のうちのひとつには、心当たりがあるらしい。ちらりと向原のほうを窺ってから、篠原が寮の様子を明かした。
「あいつ、楓寮に戻るなり、ロビーでぐすぐす泣いてたぞ。やっぱり会長は僕のこと嫌いなんだって」
「出くわしたんだ。気の毒に」
「ちょうど出るところだったんだよ。っつか、うちの寮長……長峰、けっこうキレてたから。おまえ、必要以上に教室で煽るなよ。絶対揉める。マジで今日はやめとけ」
「そんなこと言ったら、俺も面と向かって大嫌いですって言われたんだけど」
そう言ってみせると、篠原がじと目になった。
「化かし合いどころか、幼稚園児レベルの喧嘩じゃねぇか」
「言えてる」
「言えてるって、おまえな。笑いごとかよ」
「でも、だって、そうだろ」
笑いごとだと言えばそうでしかないと、俺は思っている。
「結局、欲しいものが手に入らないってごねてるだけだ。きっと今までぜんぶ思い通りになってたんだろうな。自分の思い通りにならないことが気に食わなくてたまらないって顔してる」
アルファなんて、オメガのフェロモンで簡単に操れると信じている傲慢さ。改めたほうがいいと忠告してやったときは、一応は善意のつもりだった。向こうがそうと受け取らなかったというだけで。
向原は、なにも言わなかった。素知らぬ顔で、自分が不在だった期間のファイルを淡々と繰っている。
けれど、これも今に始まった話ではなかった。そうして、なにも言わないのは文句がないからだと知っているのも、自分だけではない。呆れ半分諦め半分といった調子で、篠原が小さく肩をすくめた。
「いい性格してるよ、本当」
「おかげさまで」
にこ、とほほえんでから、決定事項として成瀬は告げた。
「だから、楓寮から潰そうかと思って」
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