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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 7 ①
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[7]
「なんでもかんでもひとりでできるつもりでいると、おまえも二年後ああなるぞ」
ああ、というのが誰のことを指しているのかがわかったから、自然と皓太の顔に苦笑いが浮かんだ。
その当人と篠原は会議で席を外していて、生徒会室にいるのは自分と向原だけだ。少しくらい、休んでもかまわないだろう。
やりかけていた事務手続きの手を止めて、机のそばまでやってきた向原を見上げる。
「いや、……さすがになるつもりはないんですけど」
「なら、七割くらいでやめとけ。ぜんぶやるから、やれるって思われるんだ。篠原くらいの抜き方がちょうどいい」
「向原さん」
今まで一度もされたことがないとは言わないが、聞いてもいないのに積極的に教えてもらった記憶はあまりない。それとも、思わず助言をしたくなるような顔をしてしまっていたのだろうか。
そうじゃないといいんだけど、と思いながら、皓太は問いかけた。
「もしかして、ちょっとくらい俺に悪かったって思ってくれてるんですか?」
「あいつよりはな」
だったら、もうちょっと生徒会室にいるときの空気を良くしてほしい。いや、まぁ、この人も幼馴染みもいつもどおりと言えばいつもどおりではあるのだけれど。
ただ、なんというか。
――いつもどおりすぎて、逆に怖いんだよなぁ、なんか。
一蹴される未来しか見えないから言わないだけで、この数週間、皓太はずっとそう思っている。
――嵐の前の静けさ、とまでは言わないけど、なんかあっさりしすぎてるっていうか。
悶々としたものを抱えたまま、向原をそっと窺う。幼馴染みのことはよくわからないが、この人は怒っているのだとも思っていた。
「成瀬さんには言わなかったんですか、それ」
だから、その名前を出したのは、様子見のようなものだった。成瀬が自分に甘いことは承知しているし、その延長線上で篠原もよく気にかけてくれているが、向原も同じなのだ。
榛名には信じられないという顔をされてしまうけれど、もうずっと昔からこの人たちにかわいがってもらっている。
多少踏み込んでも、許されてしまうくらいには。想像どおり、向原は小さく笑っただけだった。
「無駄だろ」
「無駄って。向原さんの言うことならちょっとくらい……」
「本当に聞くと思うのか、あいつが」
「……いや」
どうだろうと悩んでしまったのが答えだった。その反応に、また向原が笑った。呆れたように。
「あいつのあれはな、他人を信用してないんだ。他人を頼る気がない、でもいいけどな。だからぜんぶ自分でやる。――なるなよ」
「……なりません」
想定以上の辛辣さに、再度の苦笑いで首を振る。やっぱり怒っているのかもしれない。
「あの」
「本当、信じらんねぇ、こいつ!」
呼びかけと、生徒会室の扉の開く乱雑な音が見事に被った。同時に響いた篠原の声に、視線が入り口のほうにいく。
「あー……、悪い、おまえいたの忘れてた」
「いえ、お疲れさまです」
バツの悪い顔でそう言われてしまって、座ったまま軽く頭を下げる。応じたのは、続いて入ってきた成瀬だった。
「皓太もお疲れ。ごめんな、いろいろ任せて」
わかりやすく苛立っていた篠原とは異なる、いつもどおりの調子。申し訳なさそうな笑みひとつで、立ち止まった篠原を追い抜いていく。
自分の席に戻って、皓太が置いた書類をさっそく確認し始めている姿も、まったくいつもと変わらない。
たぶん、篠原はここに戻ってくるまでにも、「信じられない」ことについて、散々言っていたのだろうに。なにひとつ響いていない態度を気の毒に思いつつ、皓太は口を開いた。
「いや、その、大丈夫です。向原さんも手伝ってくれたので」
「向原が?」
そこでようやく、自分たちのほうに顔が向いた。自分となにも言わないでいる向原とを見比べてから、にこりとほほえむ。
「そっか、よかったな」
「なんでもかんでもひとりでできるつもりでいると、おまえも二年後ああなるぞ」
ああ、というのが誰のことを指しているのかがわかったから、自然と皓太の顔に苦笑いが浮かんだ。
その当人と篠原は会議で席を外していて、生徒会室にいるのは自分と向原だけだ。少しくらい、休んでもかまわないだろう。
やりかけていた事務手続きの手を止めて、机のそばまでやってきた向原を見上げる。
「いや、……さすがになるつもりはないんですけど」
「なら、七割くらいでやめとけ。ぜんぶやるから、やれるって思われるんだ。篠原くらいの抜き方がちょうどいい」
「向原さん」
今まで一度もされたことがないとは言わないが、聞いてもいないのに積極的に教えてもらった記憶はあまりない。それとも、思わず助言をしたくなるような顔をしてしまっていたのだろうか。
そうじゃないといいんだけど、と思いながら、皓太は問いかけた。
「もしかして、ちょっとくらい俺に悪かったって思ってくれてるんですか?」
「あいつよりはな」
だったら、もうちょっと生徒会室にいるときの空気を良くしてほしい。いや、まぁ、この人も幼馴染みもいつもどおりと言えばいつもどおりではあるのだけれど。
ただ、なんというか。
――いつもどおりすぎて、逆に怖いんだよなぁ、なんか。
一蹴される未来しか見えないから言わないだけで、この数週間、皓太はずっとそう思っている。
――嵐の前の静けさ、とまでは言わないけど、なんかあっさりしすぎてるっていうか。
悶々としたものを抱えたまま、向原をそっと窺う。幼馴染みのことはよくわからないが、この人は怒っているのだとも思っていた。
「成瀬さんには言わなかったんですか、それ」
だから、その名前を出したのは、様子見のようなものだった。成瀬が自分に甘いことは承知しているし、その延長線上で篠原もよく気にかけてくれているが、向原も同じなのだ。
榛名には信じられないという顔をされてしまうけれど、もうずっと昔からこの人たちにかわいがってもらっている。
多少踏み込んでも、許されてしまうくらいには。想像どおり、向原は小さく笑っただけだった。
「無駄だろ」
「無駄って。向原さんの言うことならちょっとくらい……」
「本当に聞くと思うのか、あいつが」
「……いや」
どうだろうと悩んでしまったのが答えだった。その反応に、また向原が笑った。呆れたように。
「あいつのあれはな、他人を信用してないんだ。他人を頼る気がない、でもいいけどな。だからぜんぶ自分でやる。――なるなよ」
「……なりません」
想定以上の辛辣さに、再度の苦笑いで首を振る。やっぱり怒っているのかもしれない。
「あの」
「本当、信じらんねぇ、こいつ!」
呼びかけと、生徒会室の扉の開く乱雑な音が見事に被った。同時に響いた篠原の声に、視線が入り口のほうにいく。
「あー……、悪い、おまえいたの忘れてた」
「いえ、お疲れさまです」
バツの悪い顔でそう言われてしまって、座ったまま軽く頭を下げる。応じたのは、続いて入ってきた成瀬だった。
「皓太もお疲れ。ごめんな、いろいろ任せて」
わかりやすく苛立っていた篠原とは異なる、いつもどおりの調子。申し訳なさそうな笑みひとつで、立ち止まった篠原を追い抜いていく。
自分の席に戻って、皓太が置いた書類をさっそく確認し始めている姿も、まったくいつもと変わらない。
たぶん、篠原はここに戻ってくるまでにも、「信じられない」ことについて、散々言っていたのだろうに。なにひとつ響いていない態度を気の毒に思いつつ、皓太は口を開いた。
「いや、その、大丈夫です。向原さんも手伝ってくれたので」
「向原が?」
そこでようやく、自分たちのほうに顔が向いた。自分となにも言わないでいる向原とを見比べてから、にこりとほほえむ。
「そっか、よかったな」
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