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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 7 ②
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「よかったな、じゃねぇだろ」
呆れたようにそう言って、篠原が会長席のほうに歩み寄った。机に手をついて、言い聞かせるように距離を詰める。けれど、成瀬は目を合わせようともしなかった。そこまで急ぎでもないはずの書類の確認を黙々と続けている。
その態度に、皓太は気配を殺して、止まっていた手の動きを再開させた。できるだけ関わらないほうがいいと思ったのだ。耳は会話を拾おうと篠原たちのほうに集中してしまっていたけれど。
「さっきも言ったし、わかってると思うけど。おまえ、最近いろんなところで無駄に敵つくりすぎ」
「べつにつくってないと思うし、間違ったこと言ったつもりもないけど。ただ、生徒会長として言うべきことを選んだだけで」
「もっとまともな選び方しろって話に決まってんだろうが。そういうの得意だろ」
篠原の言わんとするところは、皓太にはよくわかった。
成瀬はたしかに相手の気を良くしたまま丸め込むことがうまい。逆に言えば、相手の逆鱗にどうやったら触れるか、ということを熟知しているということでもある。つまり、煽ることもまた抜群にうまいのだ。今も完全に、聞き流す態勢に入っている。
「うん、まぁ、それはそうかもな」
「わかってんなら、まともな対処しろって言ってんの。どうすんだ、おまえ。無意味に恨み買って闇討ちされたら」
「闇討ち」
笑って繰り返した成瀬の視線は、書類から一度も上がらないままだ。繰り返すが、急ぎのものではいっさいない。
「まぁ、そうだな。無抵抗なのにやられましたっていう、良い証拠ができるんじゃない?」
「おまえのそういうとこ、どうかと思うわ、本当」
たしかに。と、心の中で思い切りよく同意する。根気よく正論をぶつけ続けてる篠原さんは人間できてるよなぁ、とも。
にもかかわらず、幼馴染みは「そう?」と言っただけだった。あいかわらず視線のひとつも上がらない。
黙ったままの向原が気になってきて、そっと視線を動かす。向原は我関せずの態度でファイルを捲っているだけだ。
――これも、無駄だって思ってんのかな、つまり。
言っても、なにも意味はない、と。
そう割り切りたくなる気持ちもわからなくはないけれど。こっそり溜息を呑み込んだところで、篠原の追撃が飛び込んできた。声の質が格段に苛立っている。
「っつか、おまえ、会長としてどうのこうのって言ってたけど、茅野に庇われてるみたいな言い方されたのが気に食わなかったんだろ」
「まさか」
幼馴染みはさらりと否定していたし、現場を見たわけでもなんでもないのだが、なんとなく、あぁそうなんだろうな、と察してしまった。
篠原という人は、本当によく人を見ているのだ。口に出す、出さないの境界線をしっかり見極めているだけで。
「それに、俺と茅野が揃ってたら結託してるっていう認識がどうかと思うんだけど。風紀とだって、目的さえ合致したら歩調を合わせる気はあるのに」
「合わせたこと一回でもあったか? 中等部のとき含めて」
「ないけど、俺のせいじゃない。向こうの問題だ」
「向こうだけかよ」
「そうだろ。あいつが嫌がらせみたいな反対意見しか言わないのが悪い。だから合わせようがないんだ」
呆れたようにそう言って、篠原が会長席のほうに歩み寄った。机に手をついて、言い聞かせるように距離を詰める。けれど、成瀬は目を合わせようともしなかった。そこまで急ぎでもないはずの書類の確認を黙々と続けている。
その態度に、皓太は気配を殺して、止まっていた手の動きを再開させた。できるだけ関わらないほうがいいと思ったのだ。耳は会話を拾おうと篠原たちのほうに集中してしまっていたけれど。
「さっきも言ったし、わかってると思うけど。おまえ、最近いろんなところで無駄に敵つくりすぎ」
「べつにつくってないと思うし、間違ったこと言ったつもりもないけど。ただ、生徒会長として言うべきことを選んだだけで」
「もっとまともな選び方しろって話に決まってんだろうが。そういうの得意だろ」
篠原の言わんとするところは、皓太にはよくわかった。
成瀬はたしかに相手の気を良くしたまま丸め込むことがうまい。逆に言えば、相手の逆鱗にどうやったら触れるか、ということを熟知しているということでもある。つまり、煽ることもまた抜群にうまいのだ。今も完全に、聞き流す態勢に入っている。
「うん、まぁ、それはそうかもな」
「わかってんなら、まともな対処しろって言ってんの。どうすんだ、おまえ。無意味に恨み買って闇討ちされたら」
「闇討ち」
笑って繰り返した成瀬の視線は、書類から一度も上がらないままだ。繰り返すが、急ぎのものではいっさいない。
「まぁ、そうだな。無抵抗なのにやられましたっていう、良い証拠ができるんじゃない?」
「おまえのそういうとこ、どうかと思うわ、本当」
たしかに。と、心の中で思い切りよく同意する。根気よく正論をぶつけ続けてる篠原さんは人間できてるよなぁ、とも。
にもかかわらず、幼馴染みは「そう?」と言っただけだった。あいかわらず視線のひとつも上がらない。
黙ったままの向原が気になってきて、そっと視線を動かす。向原は我関せずの態度でファイルを捲っているだけだ。
――これも、無駄だって思ってんのかな、つまり。
言っても、なにも意味はない、と。
そう割り切りたくなる気持ちもわからなくはないけれど。こっそり溜息を呑み込んだところで、篠原の追撃が飛び込んできた。声の質が格段に苛立っている。
「っつか、おまえ、会長としてどうのこうのって言ってたけど、茅野に庇われてるみたいな言い方されたのが気に食わなかったんだろ」
「まさか」
幼馴染みはさらりと否定していたし、現場を見たわけでもなんでもないのだが、なんとなく、あぁそうなんだろうな、と察してしまった。
篠原という人は、本当によく人を見ているのだ。口に出す、出さないの境界線をしっかり見極めているだけで。
「それに、俺と茅野が揃ってたら結託してるっていう認識がどうかと思うんだけど。風紀とだって、目的さえ合致したら歩調を合わせる気はあるのに」
「合わせたこと一回でもあったか? 中等部のとき含めて」
「ないけど、俺のせいじゃない。向こうの問題だ」
「向こうだけかよ」
「そうだろ。あいつが嫌がらせみたいな反対意見しか言わないのが悪い。だから合わせようがないんだ」
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