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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 9 ④
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「でも、結果として、公表してよかったんじゃないのかな。中等部のときは可能だったのかもしれないけど、この年で隠し続けるなんて無理だよ」
荻原くんにはわからないかもしれないけど、隠そうとすることは、すごくしんどいことなんだよ、と水城は言う。
それは事実なのだろうと思うし、自分たちには本当の意味で理解することはできないのだろうとも思った。
自分が、同じ部屋でありながら、榛名の辛さをわかってやれなかったように。似た思いだったのか、返す荻原の声には戸惑いとそれ以上の配慮がにじんでいた。
「それは本当にハルちゃんの言うとおりだと思うよ。どれだけしんどいことなのか、なんて俺にはわからないし。でも、そのしんどい思いをしても隠したがってる子もいたんだってことは、わかってくれないかな」
「しんどい思いをしてでも?」
「そう。ハルちゃんなら、それがどれだけしんどいことなのかもわかるよね。それで、――それなのに、みんなで寄ってたかって暴こうとするのは、やっぱりよくないと思う」
滾々と言い諭す調子で、荻原は続けた。
「ぜんぶを知らないと仲良くできないなんてことはないよね。それなのに、高等部に入ってから、そんな噂ばっかりで。正直ちょっと息が詰まる」
「荻原くんは、いい人なんだね」
にこ、と水城がほほえんだ。
「高藤くんも一緒。本性は、結局そっち。表面だけじゃなくて、優しいんだね。すごく立派だと思うよ。いかにも模範的なアルファって感じ」
櫻寮ってそんな感じの人が多いよね。寮長が恣意的に選んでるのかな。試すように呟いた水城の目は、口元と違い、ひとつも笑ってはいない。
「でも、つまんないな」
らしくない物言いに、教室内に戸惑った空気が流れ始める。けれど、水城は気に留めるそぶりは見せなかった。水城と行動を共にしている取り巻きたちにも驚いたそぶりはない。まるで、こちらが「ハルちゃん」の本性だだと知っていたかのように。
「僕ね、人の本性を見るのが好きなんだ」
「本性?」
聞き返すと、水城は無邪気にほほえんだ。「そう、本性」
「普段穏やかな人が、実はすごく冷酷だったり、アルファだと思っていた人が、実はオメガだったり。そういうのって、知れば知るほどぞくぞくするし、すごく楽しい」
「楽しいか?」
まったく理解できなかった。それでもどうにか感情を抑えて問い直す。その皓太の態度に、「そう、それ」と水城が頷く。
「ちょうど今の高藤くんみたいな感じかな。僕との話の中で、どんどん苛々していっているのを見るのも、正直すごく楽しい。それが普段、自分だけはまともなんですって顔してる人だと、なおさら」
わからないかな、と水城が言う。わからないなら、わからないでいいんだけど、と。天使のほほえみを浮かべ直して嘯く。
「僕はね、求められたら天使にもなるし、悪魔にだってなれるんだよ」
しんと静まった教室に響いたのは、堪えきれなかったような失笑だった。取り巻きの中でも一番水城と親しいと評されているアルファのクラスメイト。
「よかったんだ、その性格ここでバラして。もう少し天使のままで行くって言ってたくせに」
「まぁ、もう少し天使の僕に夢見させてあげてもよかったんだけどね」
いいタイミングだったから、と水城が楽しそうに肩をすくめる。
「これもギャップって言うのかな。オメガらしく従順で、天使みたいな僕を好きだっていう人もいれば、こういう傲慢で女王様みたいな僕が好きな人もいるんだよ。おもしろいよねぇ、人の趣味って。でも、高藤くんもそうじゃない?」
「ハルちゃん、ちょっと……」
「オメガなのに、オメガじゃないって言い張ろうとする、強情な人間ばかりが好きじゃない。そっちばかりに肩入れする、それと一緒」
荻原の制止を無視して言い切ってから、水城が「そうだ」と首を傾げた。いかにも無邪気そうに。
「でも、僕、ひとつだけ不思議に思ってることがあったんだよね。せっかくだから、聞いてもいい?」
「……なに?」
うんざりとした感情を呑み込んで、そう問い返す。まったく理解できないが、水城が相手の感情を弄んで喜んでいることだけはよくわかった。
「オメガだからかなぁ、僕ね、すごく鼻がいいんだ。でも、やっぱり言わないほうがいいのかな」
もったいぶった言い方を選んで、水城が笑みをこぼす。自信のある態度に、嫌な感じはどんどんと膨らみ始めていた。
悪いとは思うけれど、成瀬のことだったらまだいい。でも――。
荻原くんにはわからないかもしれないけど、隠そうとすることは、すごくしんどいことなんだよ、と水城は言う。
それは事実なのだろうと思うし、自分たちには本当の意味で理解することはできないのだろうとも思った。
自分が、同じ部屋でありながら、榛名の辛さをわかってやれなかったように。似た思いだったのか、返す荻原の声には戸惑いとそれ以上の配慮がにじんでいた。
「それは本当にハルちゃんの言うとおりだと思うよ。どれだけしんどいことなのか、なんて俺にはわからないし。でも、そのしんどい思いをしても隠したがってる子もいたんだってことは、わかってくれないかな」
「しんどい思いをしてでも?」
「そう。ハルちゃんなら、それがどれだけしんどいことなのかもわかるよね。それで、――それなのに、みんなで寄ってたかって暴こうとするのは、やっぱりよくないと思う」
滾々と言い諭す調子で、荻原は続けた。
「ぜんぶを知らないと仲良くできないなんてことはないよね。それなのに、高等部に入ってから、そんな噂ばっかりで。正直ちょっと息が詰まる」
「荻原くんは、いい人なんだね」
にこ、と水城がほほえんだ。
「高藤くんも一緒。本性は、結局そっち。表面だけじゃなくて、優しいんだね。すごく立派だと思うよ。いかにも模範的なアルファって感じ」
櫻寮ってそんな感じの人が多いよね。寮長が恣意的に選んでるのかな。試すように呟いた水城の目は、口元と違い、ひとつも笑ってはいない。
「でも、つまんないな」
らしくない物言いに、教室内に戸惑った空気が流れ始める。けれど、水城は気に留めるそぶりは見せなかった。水城と行動を共にしている取り巻きたちにも驚いたそぶりはない。まるで、こちらが「ハルちゃん」の本性だだと知っていたかのように。
「僕ね、人の本性を見るのが好きなんだ」
「本性?」
聞き返すと、水城は無邪気にほほえんだ。「そう、本性」
「普段穏やかな人が、実はすごく冷酷だったり、アルファだと思っていた人が、実はオメガだったり。そういうのって、知れば知るほどぞくぞくするし、すごく楽しい」
「楽しいか?」
まったく理解できなかった。それでもどうにか感情を抑えて問い直す。その皓太の態度に、「そう、それ」と水城が頷く。
「ちょうど今の高藤くんみたいな感じかな。僕との話の中で、どんどん苛々していっているのを見るのも、正直すごく楽しい。それが普段、自分だけはまともなんですって顔してる人だと、なおさら」
わからないかな、と水城が言う。わからないなら、わからないでいいんだけど、と。天使のほほえみを浮かべ直して嘯く。
「僕はね、求められたら天使にもなるし、悪魔にだってなれるんだよ」
しんと静まった教室に響いたのは、堪えきれなかったような失笑だった。取り巻きの中でも一番水城と親しいと評されているアルファのクラスメイト。
「よかったんだ、その性格ここでバラして。もう少し天使のままで行くって言ってたくせに」
「まぁ、もう少し天使の僕に夢見させてあげてもよかったんだけどね」
いいタイミングだったから、と水城が楽しそうに肩をすくめる。
「これもギャップって言うのかな。オメガらしく従順で、天使みたいな僕を好きだっていう人もいれば、こういう傲慢で女王様みたいな僕が好きな人もいるんだよ。おもしろいよねぇ、人の趣味って。でも、高藤くんもそうじゃない?」
「ハルちゃん、ちょっと……」
「オメガなのに、オメガじゃないって言い張ろうとする、強情な人間ばかりが好きじゃない。そっちばかりに肩入れする、それと一緒」
荻原の制止を無視して言い切ってから、水城が「そうだ」と首を傾げた。いかにも無邪気そうに。
「でも、僕、ひとつだけ不思議に思ってることがあったんだよね。せっかくだから、聞いてもいい?」
「……なに?」
うんざりとした感情を呑み込んで、そう問い返す。まったく理解できないが、水城が相手の感情を弄んで喜んでいることだけはよくわかった。
「オメガだからかなぁ、僕ね、すごく鼻がいいんだ。でも、やっぱり言わないほうがいいのかな」
もったいぶった言い方を選んで、水城が笑みをこぼす。自信のある態度に、嫌な感じはどんどんと膨らみ始めていた。
悪いとは思うけれど、成瀬のことだったらまだいい。でも――。
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