パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
275 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 9 ③

しおりを挟む
「どうしたの? 高藤くん」

 そう告げると、水城が不思議そうに首を傾げた。自分が非難されるとは夢にも思っていなさそうな顔を見つめたまま、もう一度はっきりと告げる。

「水城がどう思おうと勝手だけど、俺にとって、あの人たちは大事なんだ」

 計算でもなんでもなく、本音だった。
 子どものころから知っていて、子どものころから打算なしにかわいがってくれていた人。それだけが自分にとっての事実だった。

「どうして?」

 大きな瞳を先ほどと同じように水城は瞬かせた。

「それって――、気に障る言い方だったらごめんね。あの人がオメガだから? 高藤くんより下の人間だから、憐れんで守ってあげなきゃって、そう思ってるの?」
「昔から知ってるからだよ」

 立ち上がった拍子に、机がガタンと大きな音をを立てて揺れる。制止しようとする荻原を振り切って、皓太は続けた。けれど、必要以上に声を荒げたつもりはない。

「俺は、水城よりずっと長いあいだ、あの人たちのことを見てる。知ってる。信用する理由って、それ以外にいる?」

 ほかにも言いたいことはたくさんある。でも、たぶん、それが一番の理由だった。そうして、もうひとつ。

「それに、少なくとも、あの人は、こんなふうに誰かのことを悪くは言わない」

 こんなふうに、本人のいないところで印象を操作することは、絶対に。その確信があったから、はっきりと言い切ることができた。

「あの人は、そういう人だ」

 水城はなにも言わなかった。人形のような顔を見据えたまま、それに、と言い募る。

「榛名も、そうだ。自分をよく見せるためだけに他人を落としたりなんて、絶対にしない。だから俺は、あの人たちを信頼してる。でも、悪いけど、水城に対しては、そうは思えない」

 笑顔でやんわりと、あるいは、他人を使って、違う誰かを貶める発言をさせる。そういった雰囲気に持ち込もうとする。四月に会ってから、水城はずっとそうだ。自分が一番で、周囲にちやほやとされることもあたりまえだと思っている。それが、皓太の思う水城のすべてだった。
 ひどいと泣いて、様子を窺っているクラスメイトを味方に引き入れるのか。それとも、成瀬に食ってかかってみせたときのように牙をむくのか。
 いつもならすぐに庇いに出てくるのはずの取り巻きも、不思議と動かない。事前になにか取り決めでもしていたのだろうか。じっと佇む水城と睨み合うようにしていると、「あのさ」と荻原が口を挟んできた。
 いつもと同じ、場にそぐわないほどの穏やかな調子で。

「この流れでこんなこと言うのはかっこ悪い気もするんだけど。そもそもとして、会長、まちがいなくアルファだよ」
「え?」

 そこでようやく、水城が反応を示した。驚いたように荻原に視線を向ける。

「どういうこと? 荻原くん」
「みささぎ祭のときに、貴重品預かる係してたんだけどね。そのときふつうにIDも預かったけど、アルファだったよ。あたりまえに」

 だから、と窘めるように荻原は続ける。

「思い込みで、そういうこと言わないほうがいいと思うよ。誰にでも間違いはあるけど、でも、一度広がっちゃうと、間違った噂でもなかなか消えないから。高藤が怒ってもしかたないんじゃないかな」
「でも……」
「これは俺の考えだけど。バース性ってそんなに大事かな」

 踏み込んだ発言に、荻原を見やる。そんなことを言うとは思っていなかったのだ。代弁してもらえたからなのか、自分の中の苛立ちも少しずつしぼみ始めている。
 そのことにほっとして、皓太は口をつぐんだ。

「絶対に隠さないといけないものではないと思うよ。でも、絶対に公表しなきゃいけないものでもないよね。だったら、公表してない人のものをわざわざ噂したり、探ったりしなくていいんじゃないかな」
「僕は、自分の性を恥ずかしいなんて思わないから、隠さなかっただけなんだけどな。みんなもそうじゃないの? それともみんなは恥ずかしい?」
「みんながどうかまでは、俺にはわからないけど。でも、みんながみんな、ハルちゃんと同じ考えっていうわけじゃないと思う。……第二の性を公表したくなかったって考えてた子のことも、俺は知ってるし」
「あぁ」

 なんだ、というふうに水城は頷いた。「それって、榛名くんのことだよね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...