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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 9 ③
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「どうしたの? 高藤くん」
そう告げると、水城が不思議そうに首を傾げた。自分が非難されるとは夢にも思っていなさそうな顔を見つめたまま、もう一度はっきりと告げる。
「水城がどう思おうと勝手だけど、俺にとって、あの人たちは大事なんだ」
計算でもなんでもなく、本音だった。
子どものころから知っていて、子どものころから打算なしにかわいがってくれていた人。それだけが自分にとっての事実だった。
「どうして?」
大きな瞳を先ほどと同じように水城は瞬かせた。
「それって――、気に障る言い方だったらごめんね。あの人がオメガだから? 高藤くんより下の人間だから、憐れんで守ってあげなきゃって、そう思ってるの?」
「昔から知ってるからだよ」
立ち上がった拍子に、机がガタンと大きな音をを立てて揺れる。制止しようとする荻原を振り切って、皓太は続けた。けれど、必要以上に声を荒げたつもりはない。
「俺は、水城よりずっと長いあいだ、あの人たちのことを見てる。知ってる。信用する理由って、それ以外にいる?」
ほかにも言いたいことはたくさんある。でも、たぶん、それが一番の理由だった。そうして、もうひとつ。
「それに、少なくとも、あの人は、こんなふうに誰かのことを悪くは言わない」
こんなふうに、本人のいないところで印象を操作することは、絶対に。その確信があったから、はっきりと言い切ることができた。
「あの人は、そういう人だ」
水城はなにも言わなかった。人形のような顔を見据えたまま、それに、と言い募る。
「榛名も、そうだ。自分をよく見せるためだけに他人を落としたりなんて、絶対にしない。だから俺は、あの人たちを信頼してる。でも、悪いけど、水城に対しては、そうは思えない」
笑顔でやんわりと、あるいは、他人を使って、違う誰かを貶める発言をさせる。そういった雰囲気に持ち込もうとする。四月に会ってから、水城はずっとそうだ。自分が一番で、周囲にちやほやとされることもあたりまえだと思っている。それが、皓太の思う水城のすべてだった。
ひどいと泣いて、様子を窺っているクラスメイトを味方に引き入れるのか。それとも、成瀬に食ってかかってみせたときのように牙をむくのか。
いつもならすぐに庇いに出てくるのはずの取り巻きも、不思議と動かない。事前になにか取り決めでもしていたのだろうか。じっと佇む水城と睨み合うようにしていると、「あのさ」と荻原が口を挟んできた。
いつもと同じ、場にそぐわないほどの穏やかな調子で。
「この流れでこんなこと言うのはかっこ悪い気もするんだけど。そもそもとして、会長、まちがいなくアルファだよ」
「え?」
そこでようやく、水城が反応を示した。驚いたように荻原に視線を向ける。
「どういうこと? 荻原くん」
「みささぎ祭のときに、貴重品預かる係してたんだけどね。そのときふつうにIDも預かったけど、アルファだったよ。あたりまえに」
だから、と窘めるように荻原は続ける。
「思い込みで、そういうこと言わないほうがいいと思うよ。誰にでも間違いはあるけど、でも、一度広がっちゃうと、間違った噂でもなかなか消えないから。高藤が怒ってもしかたないんじゃないかな」
「でも……」
「これは俺の考えだけど。バース性ってそんなに大事かな」
踏み込んだ発言に、荻原を見やる。そんなことを言うとは思っていなかったのだ。代弁してもらえたからなのか、自分の中の苛立ちも少しずつしぼみ始めている。
そのことにほっとして、皓太は口をつぐんだ。
「絶対に隠さないといけないものではないと思うよ。でも、絶対に公表しなきゃいけないものでもないよね。だったら、公表してない人のものをわざわざ噂したり、探ったりしなくていいんじゃないかな」
「僕は、自分の性を恥ずかしいなんて思わないから、隠さなかっただけなんだけどな。みんなもそうじゃないの? それともみんなは恥ずかしい?」
「みんながどうかまでは、俺にはわからないけど。でも、みんながみんな、ハルちゃんと同じ考えっていうわけじゃないと思う。……第二の性を公表したくなかったって考えてた子のことも、俺は知ってるし」
「あぁ」
なんだ、というふうに水城は頷いた。「それって、榛名くんのことだよね」
そう告げると、水城が不思議そうに首を傾げた。自分が非難されるとは夢にも思っていなさそうな顔を見つめたまま、もう一度はっきりと告げる。
「水城がどう思おうと勝手だけど、俺にとって、あの人たちは大事なんだ」
計算でもなんでもなく、本音だった。
子どものころから知っていて、子どものころから打算なしにかわいがってくれていた人。それだけが自分にとっての事実だった。
「どうして?」
大きな瞳を先ほどと同じように水城は瞬かせた。
「それって――、気に障る言い方だったらごめんね。あの人がオメガだから? 高藤くんより下の人間だから、憐れんで守ってあげなきゃって、そう思ってるの?」
「昔から知ってるからだよ」
立ち上がった拍子に、机がガタンと大きな音をを立てて揺れる。制止しようとする荻原を振り切って、皓太は続けた。けれど、必要以上に声を荒げたつもりはない。
「俺は、水城よりずっと長いあいだ、あの人たちのことを見てる。知ってる。信用する理由って、それ以外にいる?」
ほかにも言いたいことはたくさんある。でも、たぶん、それが一番の理由だった。そうして、もうひとつ。
「それに、少なくとも、あの人は、こんなふうに誰かのことを悪くは言わない」
こんなふうに、本人のいないところで印象を操作することは、絶対に。その確信があったから、はっきりと言い切ることができた。
「あの人は、そういう人だ」
水城はなにも言わなかった。人形のような顔を見据えたまま、それに、と言い募る。
「榛名も、そうだ。自分をよく見せるためだけに他人を落としたりなんて、絶対にしない。だから俺は、あの人たちを信頼してる。でも、悪いけど、水城に対しては、そうは思えない」
笑顔でやんわりと、あるいは、他人を使って、違う誰かを貶める発言をさせる。そういった雰囲気に持ち込もうとする。四月に会ってから、水城はずっとそうだ。自分が一番で、周囲にちやほやとされることもあたりまえだと思っている。それが、皓太の思う水城のすべてだった。
ひどいと泣いて、様子を窺っているクラスメイトを味方に引き入れるのか。それとも、成瀬に食ってかかってみせたときのように牙をむくのか。
いつもならすぐに庇いに出てくるのはずの取り巻きも、不思議と動かない。事前になにか取り決めでもしていたのだろうか。じっと佇む水城と睨み合うようにしていると、「あのさ」と荻原が口を挟んできた。
いつもと同じ、場にそぐわないほどの穏やかな調子で。
「この流れでこんなこと言うのはかっこ悪い気もするんだけど。そもそもとして、会長、まちがいなくアルファだよ」
「え?」
そこでようやく、水城が反応を示した。驚いたように荻原に視線を向ける。
「どういうこと? 荻原くん」
「みささぎ祭のときに、貴重品預かる係してたんだけどね。そのときふつうにIDも預かったけど、アルファだったよ。あたりまえに」
だから、と窘めるように荻原は続ける。
「思い込みで、そういうこと言わないほうがいいと思うよ。誰にでも間違いはあるけど、でも、一度広がっちゃうと、間違った噂でもなかなか消えないから。高藤が怒ってもしかたないんじゃないかな」
「でも……」
「これは俺の考えだけど。バース性ってそんなに大事かな」
踏み込んだ発言に、荻原を見やる。そんなことを言うとは思っていなかったのだ。代弁してもらえたからなのか、自分の中の苛立ちも少しずつしぼみ始めている。
そのことにほっとして、皓太は口をつぐんだ。
「絶対に隠さないといけないものではないと思うよ。でも、絶対に公表しなきゃいけないものでもないよね。だったら、公表してない人のものをわざわざ噂したり、探ったりしなくていいんじゃないかな」
「僕は、自分の性を恥ずかしいなんて思わないから、隠さなかっただけなんだけどな。みんなもそうじゃないの? それともみんなは恥ずかしい?」
「みんながどうかまでは、俺にはわからないけど。でも、みんながみんな、ハルちゃんと同じ考えっていうわけじゃないと思う。……第二の性を公表したくなかったって考えてた子のことも、俺は知ってるし」
「あぁ」
なんだ、というふうに水城は頷いた。「それって、榛名くんのことだよね」
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