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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 9 ②
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「さっき言ったのと同じことになっちゃうんだけど、僕には、ここが、あの人が自分に都合の良いようにつくり変えた学園に見えるんだ。それに、そう言ってるのは、僕だけじゃないよ」
「水城だけじゃない?」
「うん。僕がこの学園にやってきた覚えた、言葉にできない違和感の正体を教えてくれたのは、三年生の先輩たちだよ」
だからそれが正しいのだという、あっさりとした調子だった。
「あの人たちのしていることは、平等だって言えば、響きは良いかもしれないけど、アルファへの弾圧でしかないって」
「弾圧って」
「ごめんね。言葉が強すぎたかな。先輩たちがそう言ってたものだから、つい」
呆れの入った皓太の声に、水城が申し訳なさそうな顔をする。自分が選んだ言葉ではないという弁明ひとつで、でもね、と主張が再開される。
「それを聞いて、僕、納得したんだ。だって、アルファもベータもオメガも平等って、おかしいでしょう? アルファの人たちが上に立つことで、この世界は回ってるのに。平等なんてきれいごとで、その摂理を捻じ曲げてる。おかしいって思う人が出てくるのは、あたりまえなんじゃないのかな」
「ハルちゃん」
次に割って入ったのは、荻原だった。そのくらいでやめとこうよ、という制止は、けれど、水城は聞き入れなかった。笑顔のまま、主張を言い切る。
「もし今まで、そのあたりまえの声がなかったっていうのなら、それこそ生徒会の弾圧なんじゃないのかな。高藤くんは不満に思うかもしれないけど」
「不満というか、さすがに極論だと思うけど。そもそもとして、本当にあの人たちが弾圧してるって言うなら、水城の同好会も許可しなかったと思うよ」
「うん。そうかもしれないね」
にこ、とまた水城はほほえんだ。
「でも、逆に言えば、最低限、自分たちはルールを守ってるんですっていう意思表示だったのかもしれないよ。現に、僕は、許可はされたけど歓迎されているとは感じられなかった。部屋もなにも用意してもらえなかったしね」
「それは……」
「年度途中で部屋がなかったって、言い訳だと思うんだけど、違う? そういった部屋の調整も、生徒会がしてくれてもいいんじゃないかな。自分で部室も用意しろって、すごく上からだよね。……まぁ、ありがたいことに、本尾先輩が使っていいって言ってくれたから、僕は大丈夫だったけど」
僕じゃない人だったら、すごく困ったと思うんだよね、と続けた水城は、いかにも第三者の不利益を慮るような顔をしていた。
困ったように眉をひそめて、小さく息を吐く。
「高藤くんが申請した同好会だったら、ちゃんと手厚く生徒会が手配してくれたのかもしれないけど。そんなふうに思える現状がある時点で、やっぱりおかしいよね」
「おかしいもなにも」
感情的な主張に辟易としながらも、皓太は、できる限り穏やかな否定の言葉を選んだ。
「それ、ぜんぶ水城の主観だと思うんだけど」
意味のないたらればを含めて、すべてが極論だし、主観だと思う。
けれど、「そんなふうに思える」ということがわからなくはなくて、そのせいか、必要以上に苛々としてしまっている気がした。
「そうだと思うよ。でも、高藤くんが言っていることも、高藤くんの主観だよね。そんなこと言い出したら、ぜんぶ水掛け論になっちゃうような気がするんだけど」
困ったような笑みを持続させたまま、水城は「だから」と言葉を継いだ。
「どちらが正しいのかを証明するために、僕は署名を集めてるんだよ」
それはおかしなことなのかな、と水城が問う。皓太は答えなかった。
その主張だけをとれば、決しておかしいものではない、ということもわかっていたからだ。
自分の主張がすべて正しいなどとは思っていない。水城の考えを完全に否定したいと思っているわけでもない。いろいろな考え方があるという一言で流せたら、どれだけ平和だろうとも思う。
けれど、なぁなぁにしておくことをやめようと決めたのは自分だ。それに――。
「生徒会長だからって、学園全体を、自分の好きなように動かしていいわけがないよね。僕は、それは、やっぱり、すごく勝手で傲慢ことだとしか思えなくて――」
「ごめん」
延々と続きそうだった台詞を、皓太は遮った。わからなくはないし、説明しろと言ったのも自分だ。ただ、詭弁にしか聞こえないものを、もう聞きたくはなかった。
「ごめん、ちょっともう聞きたくない」
「水城だけじゃない?」
「うん。僕がこの学園にやってきた覚えた、言葉にできない違和感の正体を教えてくれたのは、三年生の先輩たちだよ」
だからそれが正しいのだという、あっさりとした調子だった。
「あの人たちのしていることは、平等だって言えば、響きは良いかもしれないけど、アルファへの弾圧でしかないって」
「弾圧って」
「ごめんね。言葉が強すぎたかな。先輩たちがそう言ってたものだから、つい」
呆れの入った皓太の声に、水城が申し訳なさそうな顔をする。自分が選んだ言葉ではないという弁明ひとつで、でもね、と主張が再開される。
「それを聞いて、僕、納得したんだ。だって、アルファもベータもオメガも平等って、おかしいでしょう? アルファの人たちが上に立つことで、この世界は回ってるのに。平等なんてきれいごとで、その摂理を捻じ曲げてる。おかしいって思う人が出てくるのは、あたりまえなんじゃないのかな」
「ハルちゃん」
次に割って入ったのは、荻原だった。そのくらいでやめとこうよ、という制止は、けれど、水城は聞き入れなかった。笑顔のまま、主張を言い切る。
「もし今まで、そのあたりまえの声がなかったっていうのなら、それこそ生徒会の弾圧なんじゃないのかな。高藤くんは不満に思うかもしれないけど」
「不満というか、さすがに極論だと思うけど。そもそもとして、本当にあの人たちが弾圧してるって言うなら、水城の同好会も許可しなかったと思うよ」
「うん。そうかもしれないね」
にこ、とまた水城はほほえんだ。
「でも、逆に言えば、最低限、自分たちはルールを守ってるんですっていう意思表示だったのかもしれないよ。現に、僕は、許可はされたけど歓迎されているとは感じられなかった。部屋もなにも用意してもらえなかったしね」
「それは……」
「年度途中で部屋がなかったって、言い訳だと思うんだけど、違う? そういった部屋の調整も、生徒会がしてくれてもいいんじゃないかな。自分で部室も用意しろって、すごく上からだよね。……まぁ、ありがたいことに、本尾先輩が使っていいって言ってくれたから、僕は大丈夫だったけど」
僕じゃない人だったら、すごく困ったと思うんだよね、と続けた水城は、いかにも第三者の不利益を慮るような顔をしていた。
困ったように眉をひそめて、小さく息を吐く。
「高藤くんが申請した同好会だったら、ちゃんと手厚く生徒会が手配してくれたのかもしれないけど。そんなふうに思える現状がある時点で、やっぱりおかしいよね」
「おかしいもなにも」
感情的な主張に辟易としながらも、皓太は、できる限り穏やかな否定の言葉を選んだ。
「それ、ぜんぶ水城の主観だと思うんだけど」
意味のないたらればを含めて、すべてが極論だし、主観だと思う。
けれど、「そんなふうに思える」ということがわからなくはなくて、そのせいか、必要以上に苛々としてしまっている気がした。
「そうだと思うよ。でも、高藤くんが言っていることも、高藤くんの主観だよね。そんなこと言い出したら、ぜんぶ水掛け論になっちゃうような気がするんだけど」
困ったような笑みを持続させたまま、水城は「だから」と言葉を継いだ。
「どちらが正しいのかを証明するために、僕は署名を集めてるんだよ」
それはおかしなことなのかな、と水城が問う。皓太は答えなかった。
その主張だけをとれば、決しておかしいものではない、ということもわかっていたからだ。
自分の主張がすべて正しいなどとは思っていない。水城の考えを完全に否定したいと思っているわけでもない。いろいろな考え方があるという一言で流せたら、どれだけ平和だろうとも思う。
けれど、なぁなぁにしておくことをやめようと決めたのは自分だ。それに――。
「生徒会長だからって、学園全体を、自分の好きなように動かしていいわけがないよね。僕は、それは、やっぱり、すごく勝手で傲慢ことだとしか思えなくて――」
「ごめん」
延々と続きそうだった台詞を、皓太は遮った。わからなくはないし、説明しろと言ったのも自分だ。ただ、詭弁にしか聞こえないものを、もう聞きたくはなかった。
「ごめん、ちょっともう聞きたくない」
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