パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 11 ③

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「え、知ってんの? ……もう?」
「うん。知ってると思うけどな。向こうの棟でも噂になってたんじゃない? なにせ、相手がハルちゃんだったわけだし。そうでなくても、最近は、なんていうか、みんな噂に目がないからね」
「あー……、あいつ最近友達いるもんな」

 そこなんだ、と笑われてしまったが、大きなポイントだと皓太は思う。
 中等部にいたころの榛名は、良くも悪くも噂とは縁遠いところに立っていた。噂話を交わす友人がいなかったこともそうだろうが、自分が対象になっていることも多い噂を耳に入れたくなかったのだろう。
 おかげで、必要最低限の情報すら持っていない、ということが多かった。

「まぁ、でも、間違いなくよっちゃんの耳には入ってると思うから、そこから聞いてるんじゃないかな。あの子、本当に高藤の動向把握してるから。いや、愛だよねぇ」

 四谷に関してはネタに近いものがあると思っているので、軽く笑っただけで皓太は受け流した。いつものことだと思っていたからだ。
 なにか言いたそうなそぶりを見せたものの、結局、荻原も似た調子で笑う。

「報われないね、あの子も。――ま、恋愛なんてそんなもんか。あれ、噂をすれば、榛名ちゃんじゃない? 会長もいるけど」

 その声に、近づいてきた寮のほうに目を向ける。荻原の言ったとおり、玄関付近にはふたつの人影が見えた。
 背を向けている成瀬と違い、榛名の表情ははっきりとわかった。きっと自分たちには気がついていないのだろうな、ということも。

 ――あいつ、本当、祥くんの前でだけ顔違うよなぁ。

 性懲りもなくいまさらなことを考えていると、成瀬が振り返った。

「おかえり。ふたりとも」

 飾らない穏やかな笑顔に、ただいま、と応じてしまってから、あ、と皓太は頭を下げた。

「すみません、その生徒会」
「いいよ、気にしなくて」

 無断で休んだことは謝らないといけないと思ったのに、みじんも気にしていない調子で受け流されるに終わった。

「文句言うなら、向原にしとくから」
「いや、……あぁ、はい」

 やはりと言うべきなのか、完全にバレている。本当にいったいどこから情報を仕入れているのだろうか。そのことを追求する暇もなく、「じゃあね」と笑って成瀬が踵を返した。その足は門扉の外に向いている。

「中、入らないんですか?」
「うん、ちょっと忘れ物」

 本当かなという疑念が湧いたものの、止める道理もない。校舎に戻っていく後ろ姿を見送っていると、ぽつりと荻原が呟いた。

「あいかわらず自由な人だね、会長は。――榛名ちゃんは、もう会長との話はよかったの? もしかして、俺ら邪魔しちゃった?」
「いや、大丈夫」

 どこかぎこちなく頷いた榛名の視線は、荻原ではなくなぜか自分のほうを向いている。

「なに?」

 もしかしなくても、荻原の言うとおり、自分がやらかしたことを聞き及んでいるのかもしれない。

「べつに。四谷がめちゃくちゃ心配してたんだけど、ぜんぜん元気そうだなって」
「あー……、いや、うん」

 心配されているどころか、完全に嫌味だった。元気か元気でないかの二択で問われると、それはまぁ元気ではあるけれど。

「まぁ、まぁ。高藤も大変だったんだって。顔に出ないのはさ、ほら、いつものことだし。また部屋で話聞いてあげてよ」
「べつに、聞かないとは言ってないけど」
「だってさ、高藤。よかったね」

 笑いかけられて、半ば反射で頷いたものの、なんだかちょっと腑に落ちない。
 悶々としているあいだに、さっさと中に入られてしまって、溜息を呑み込んで、ふたりのあとに続く。階段を上りながら、ぽつぽつと言葉を交わしているふたりは、友人という感じだった。

 ――昔は、誰も喋りません、仲良くなんてしませんって顔してばっかりだったのにな。

 人間、なにかのきっかけがあれば、こうも急に変わるものかと驚いてしまう。いや、あるいは、同学年の人間とふつうに喋る榛名の姿に慣れていないだけなのかもしれない。
 中等部にいた三年間ずっとむっつりとしていたのに、高等部に上がってからのわずか数月でこうなったのだから、それもしかたないのかもしれないけれど。

 ……まぁ、でもよかったんだよな、これで。

 そもそも、少しくらい同級生と交流しろ、もめごとを起こすなと口を酸っぱくして言い続けていたのは、ほかならぬ自分なのだ。

「じゃあ、よっちゃんには俺が話しとくよ」

 自分たちの部屋がある階に着いたところで、振り返った荻原がそう提案を寄こしてきた。

「あ、……いや」
「あんまり突っ込まれるとちょっと困るけど、気を揉ませたままにしておくのは、かわいそうだしね」

 個別に説明するようなことではないから、と断ろうとしたのに、笑顔で押し切られる。
 面倒だって言ってたの、荻原じゃん、と思ったものの、その隣で榛名がほっとした顔を見せたから、なにも言えなくなってしまった。
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