288 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 11 ④
しおりを挟む
榛名に相談されたのかな、と思うことで自分を納得させる。「じゃあ、お願い」と最後に告げて、皓太は自分の部屋に鍵を差し込んだ。
「……榛名、おまえ、鍵開けっ放し」
「え? 嘘」
「嘘じゃないから」
ガチャリと音を立てたドアノブから手を離して、もう一度鍵をひねる。
「成瀬さんに会いたかったのか知らないけど、べつに逃げやしないんだし。気をつけたら、いいかげん」
「そういえば、榛名ちゃん四月早々に鍵なくてしたことあったもんね」
取り成す調子で荻原は笑っているが、鍵云々に関してだけは本当に気をつけてほしい。「よっちゃんに話してくるね」と言った荻原に「よろしく」ともう一度告げて、今度こそ皓太は部屋に入った。
続いて入ってきた榛名がドアを閉めるなり、バツの悪い顔で切り出してきた。
「その、ごめん。鍵は気をつける」
「べつにいいけど」
殊勝に謝られると、自分の言い方がきつかった気がしてきてしまう。悶々としていた自覚があるだけに、余計に。だから、意識して皓太は声音を和らげた。
榛名の机の上は、すべて片づけが中度半端なところで止まっている。窓から姿を見て、飛び出したのだろうという想像は易かった。
「話したいことでもあったの、成瀬さんに」
「話したいことっていうか……」
「言いたくないならいいよ、ぜんぜん」
世間話で聞いただけだから、と防衛線を張るように苦笑して、鞄を片づけ始める。扉に背を預けたまま考え込んでいた榛名が、そこでようやく口を開いた。
「さっき、成瀬さんに、あんまりひとりにならないほうがいいって言われた」
「え?」
「おまえも前に、あんまり遅くならないほうが言いって言ってただだろ。やっぱり、今もそう思う?」
問いかけられて、皓太は視線を上げた。
「俺がってこと?」
「そう。俺、ここがそんなふうになったって思いたくなくて。……ひとりで出歩けないなんておかしいだろって、そう思ってた。そんなふうに思うこと自体、成瀬さんたちに悪いような気もしてたし。でも、四谷も最近はちょっと怖いって言ってる」
なんでこうなったんだろうなって、とやるせなさそうに榛名が呟く。
榛名からすると、入学式の日、編入生の水城が自分はオメガだと宣言したことで急転直下に変質したように見えているのかもしれない。
「それで、おまえ、水城の相手は自分がするってこのあいだ言ってただろ」
「まぁ、言ったけど」
「だから、水城とやり合ったわけ?」
「あー……」
そういうわけでないことはなかったのだが、最終的には違っていた気がする。どうとも説明しがたく悩んでいると、榛名がずばりと切り込んできた。
「それで、これからもそうしてくの?」
「ええと」
じっと見つめてくる瞳に映る隠さない非難に、どうしようかなと悩んだものの、誤魔化すことを皓太は諦めた。
これはもしかすると、「自分も一緒にやる」と言ったことを完全に無視した思われているのだろうか。
「まず、その、最初に榛名が聞いたほうの、俺がどう思っていう話だけど」
「うん」
「いいことだとは思ってないよ。前にも言ったけど、俺は、あの人たちがつくったここが好きだしね。だから、もとに戻ればいいと思ってる」
そのもとの状態が榛名にとって安心できるものだったというのなら、余計にそうすべきだとも思う。
「うん、そうだよな。俺も、そうは思ってる」
「だろ? それで、もうひとつの話のほうだけど」
話しながらも、皓太は自分の中で答えをどうにか探そうとしていた。けれど、あれは、榛名の言ったような理性のある言動ではなかったとわかってもいた。
ただ、自分の勝手な感情だった。自分の中に、そんなふうなものがあるとは思っていなくて、驚いたけれど。
「その、榛名が昼休みのこと、どんなふうに聞いたのかわからないけど、暴力的なことをしようとかはさすがに思ってなくて」
むしろ、物理的な力で押さえ込もうなどというのは、一番駄目な手段だと思う。今の自分が言っても説得力はない気はするが、本当にそう思っているつもりだ。
「おまえがそういうことするとは思ってないけど」
「うん」
俺も思ってなかったのに、手が出そうになったんだよ、という事実は伏せたまま、伝えることのできる最大限を選ぶ。
「ごめん。正直俺もまだしっかり考えがまとまってなくて、でも、ちゃんと言えるって思ったら、そのときは絶対話すから」
そのときに聞いてくれたらうれしい、とその目をまっすぐに見つめたまま、告げる。非難は薄れたものの、まだ不信そうな顔をしている。その気持ちもわかったので、もうひとつ言葉を選んだ。
「……榛名、おまえ、鍵開けっ放し」
「え? 嘘」
「嘘じゃないから」
ガチャリと音を立てたドアノブから手を離して、もう一度鍵をひねる。
「成瀬さんに会いたかったのか知らないけど、べつに逃げやしないんだし。気をつけたら、いいかげん」
「そういえば、榛名ちゃん四月早々に鍵なくてしたことあったもんね」
取り成す調子で荻原は笑っているが、鍵云々に関してだけは本当に気をつけてほしい。「よっちゃんに話してくるね」と言った荻原に「よろしく」ともう一度告げて、今度こそ皓太は部屋に入った。
続いて入ってきた榛名がドアを閉めるなり、バツの悪い顔で切り出してきた。
「その、ごめん。鍵は気をつける」
「べつにいいけど」
殊勝に謝られると、自分の言い方がきつかった気がしてきてしまう。悶々としていた自覚があるだけに、余計に。だから、意識して皓太は声音を和らげた。
榛名の机の上は、すべて片づけが中度半端なところで止まっている。窓から姿を見て、飛び出したのだろうという想像は易かった。
「話したいことでもあったの、成瀬さんに」
「話したいことっていうか……」
「言いたくないならいいよ、ぜんぜん」
世間話で聞いただけだから、と防衛線を張るように苦笑して、鞄を片づけ始める。扉に背を預けたまま考え込んでいた榛名が、そこでようやく口を開いた。
「さっき、成瀬さんに、あんまりひとりにならないほうがいいって言われた」
「え?」
「おまえも前に、あんまり遅くならないほうが言いって言ってただだろ。やっぱり、今もそう思う?」
問いかけられて、皓太は視線を上げた。
「俺がってこと?」
「そう。俺、ここがそんなふうになったって思いたくなくて。……ひとりで出歩けないなんておかしいだろって、そう思ってた。そんなふうに思うこと自体、成瀬さんたちに悪いような気もしてたし。でも、四谷も最近はちょっと怖いって言ってる」
なんでこうなったんだろうなって、とやるせなさそうに榛名が呟く。
榛名からすると、入学式の日、編入生の水城が自分はオメガだと宣言したことで急転直下に変質したように見えているのかもしれない。
「それで、おまえ、水城の相手は自分がするってこのあいだ言ってただろ」
「まぁ、言ったけど」
「だから、水城とやり合ったわけ?」
「あー……」
そういうわけでないことはなかったのだが、最終的には違っていた気がする。どうとも説明しがたく悩んでいると、榛名がずばりと切り込んできた。
「それで、これからもそうしてくの?」
「ええと」
じっと見つめてくる瞳に映る隠さない非難に、どうしようかなと悩んだものの、誤魔化すことを皓太は諦めた。
これはもしかすると、「自分も一緒にやる」と言ったことを完全に無視した思われているのだろうか。
「まず、その、最初に榛名が聞いたほうの、俺がどう思っていう話だけど」
「うん」
「いいことだとは思ってないよ。前にも言ったけど、俺は、あの人たちがつくったここが好きだしね。だから、もとに戻ればいいと思ってる」
そのもとの状態が榛名にとって安心できるものだったというのなら、余計にそうすべきだとも思う。
「うん、そうだよな。俺も、そうは思ってる」
「だろ? それで、もうひとつの話のほうだけど」
話しながらも、皓太は自分の中で答えをどうにか探そうとしていた。けれど、あれは、榛名の言ったような理性のある言動ではなかったとわかってもいた。
ただ、自分の勝手な感情だった。自分の中に、そんなふうなものがあるとは思っていなくて、驚いたけれど。
「その、榛名が昼休みのこと、どんなふうに聞いたのかわからないけど、暴力的なことをしようとかはさすがに思ってなくて」
むしろ、物理的な力で押さえ込もうなどというのは、一番駄目な手段だと思う。今の自分が言っても説得力はない気はするが、本当にそう思っているつもりだ。
「おまえがそういうことするとは思ってないけど」
「うん」
俺も思ってなかったのに、手が出そうになったんだよ、という事実は伏せたまま、伝えることのできる最大限を選ぶ。
「ごめん。正直俺もまだしっかり考えがまとまってなくて、でも、ちゃんと言えるって思ったら、そのときは絶対話すから」
そのときに聞いてくれたらうれしい、とその目をまっすぐに見つめたまま、告げる。非難は薄れたものの、まだ不信そうな顔をしている。その気持ちもわかったので、もうひとつ言葉を選んだ。
13
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
普通のβだった俺は
りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話
凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。
書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる