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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 11 ⑤
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「手伝ってくれるんだろ。ちゃんと覚えてるし、ひとりで思い悩んだりしないから、大丈夫」
「べつに、……そういう心配してるわけじゃないけど。俺も、おまえのことすぐひとりでなんでもやれるって思うとこあるからよくないなって思って」
それだけ、と照れ隠しのようなぶっきらぼうさで榛名が吐き捨てる。今の口ぶりからすると、成瀬というよりも、四谷あたりになにか言われたのかもしれないと見当がついた。でも。
「まぁ、そうだよな」
「そうだよなって、なにが」
無意識にこぼれたひとりごとを拾われてしまって、なんでもない、と皓太は苦笑いで首を振った。
ただ、そうだよな、と思っただけだ。自分の知らないうちにすべてを済まされてしまうことは、気分の良いものではない。
小さかったころは、ただ純粋に、なんでもひとりでできて、愚痴のひとつも言わない成瀬の姿勢をかっこいいと思っていたけれど。
なにも関与させてもらえないことで生じるやるせなさを覚える年になって、良いことばかりではないのだと知った。
心配のひとつもさせてもらえないというのは、たぶん正しくない。
――おまえがぜんぶコントロールする側に回れば解決する話だろ。
あの人は、それが当然だという顔をしていた。どうするべきなのか、と屋上で尋ねたときのことだ。
いかにも向原らしい思考だと思ったが、広義で捉えれば成瀬のしていることと同じなのだろうなとも思った。
――あの人たち、似てないようで似てるし、似てるようで似てないからなぁ。
それが、陵学園に入る前から、両者のことを知っている自分としての現時点での結論だ。似ているようで似ていないし、相容れるようでいて相容れない。
相容れてしまえば、万事うまく行くような気もするが、相容れてしまえば最後、手が付けられないところに行ってしまいそうな気もしてしまう。なんの根拠もない、ただの予感のようなもので、想像の域を超えてもいないもの。
だから皓太は、よほどのことがない限り、口は出さないと決めている。聞いたことはないが、たぶん、篠原や茅野もそう考えているのではないかと思う。
「ぜんぶコントロールしたらいいって、そんな身も蓋もない」
らしいと言ってしまえば響きは良いのかもしれないが、さすがにちょっと乱暴すぎる。鬱屈とした感情を抱いたまま、とりあえず皓太はそう訴えた。
「それに、仮に一時期うまく行ったとしても、ずっとは無理でしょ」
あるいは向原ならできてしまうのかもしれないが、それが良いことだとは思えなかったのだ。
ついでに言うと、向原と成瀬が抱えている齟齬のひとつは、そのあたりに原因があると思う。指摘はできなかったが。
「悠長なこと考えてるうちに後悔するタイプだな、おまえも」
妙にしみじみと呟かれてしまって、皓太は脱力した。その「も」が誰にかかっているのかなんて、問うまでもない。
――本当、変わんないなぁ。
良くも悪くも、出会ったころから。必要以上に怖がっている節のある同室者に「そんなに怖い人じゃないよ」と折を見て繰り返しているのは自分だが、本心でそう思っている。
怖い人でも、嫌な人でも、なんでもないのだ。物事の判断基準が偏っているというだけで。ただ。
「じゃあ、向原さんはなにも後悔してないんですか」
それでもそう問い返してしまったのは、高等部に上がってからの、目まぐるしかった――隠さず言うなら、精神的になかなか厳しいものがあった場面が脳裏に浮かんだからだった。
この人が本気で「すべてをコントロールする」気でいたのだったら、絶対に、こんなことにはなっていなかったはずだ。
「さぁ、どうだろうな」
「どうだろうなって」
罪悪感のかけらもない調子で受け流されて、思わずそうぼやく。答える気がないと線を引かれてしまえば、それ以上は問い詰めようがなかった。
成瀬もそうだが、向原にも勝てる気が一向にしないままだ。面倒を見てもらったという感覚が抜けないからなのだろうか。
幼馴染みの成瀬はともかく、向原は、成瀬が連れてきた子どもだったから、かわいがろうという気になってくれたのだろうけれど。
「向原さんって、本当……」
成瀬さん以外に興味ないですよね。悶々としたまま、続けようとした後半は、やはり言わないほうがいいような気がして、皓太は呑み込んだ。
べつに、それが駄目なわけではないとは思うけれど。
――ゼロか百かみたいなところがあるから怖い、か。
なにを考えているのか読めない横顔から視線を外して、眼下を見下ろす。
以前、茅野に言ったことだ。そのとき茅野は「言い得て妙だ」と笑っていた。ちゃんと、そのあとに「安心しろ」とも言ってもらえたけれど。
そのとき思っていたことと同じだ。信用していないわけじゃない。目を覆いたくなるようなひどいことになるとも思っていない。ちょっと精神的にくるものはあったけれど、でも、その程度で済んでいる。
「べつに、……そういう心配してるわけじゃないけど。俺も、おまえのことすぐひとりでなんでもやれるって思うとこあるからよくないなって思って」
それだけ、と照れ隠しのようなぶっきらぼうさで榛名が吐き捨てる。今の口ぶりからすると、成瀬というよりも、四谷あたりになにか言われたのかもしれないと見当がついた。でも。
「まぁ、そうだよな」
「そうだよなって、なにが」
無意識にこぼれたひとりごとを拾われてしまって、なんでもない、と皓太は苦笑いで首を振った。
ただ、そうだよな、と思っただけだ。自分の知らないうちにすべてを済まされてしまうことは、気分の良いものではない。
小さかったころは、ただ純粋に、なんでもひとりでできて、愚痴のひとつも言わない成瀬の姿勢をかっこいいと思っていたけれど。
なにも関与させてもらえないことで生じるやるせなさを覚える年になって、良いことばかりではないのだと知った。
心配のひとつもさせてもらえないというのは、たぶん正しくない。
――おまえがぜんぶコントロールする側に回れば解決する話だろ。
あの人は、それが当然だという顔をしていた。どうするべきなのか、と屋上で尋ねたときのことだ。
いかにも向原らしい思考だと思ったが、広義で捉えれば成瀬のしていることと同じなのだろうなとも思った。
――あの人たち、似てないようで似てるし、似てるようで似てないからなぁ。
それが、陵学園に入る前から、両者のことを知っている自分としての現時点での結論だ。似ているようで似ていないし、相容れるようでいて相容れない。
相容れてしまえば、万事うまく行くような気もするが、相容れてしまえば最後、手が付けられないところに行ってしまいそうな気もしてしまう。なんの根拠もない、ただの予感のようなもので、想像の域を超えてもいないもの。
だから皓太は、よほどのことがない限り、口は出さないと決めている。聞いたことはないが、たぶん、篠原や茅野もそう考えているのではないかと思う。
「ぜんぶコントロールしたらいいって、そんな身も蓋もない」
らしいと言ってしまえば響きは良いのかもしれないが、さすがにちょっと乱暴すぎる。鬱屈とした感情を抱いたまま、とりあえず皓太はそう訴えた。
「それに、仮に一時期うまく行ったとしても、ずっとは無理でしょ」
あるいは向原ならできてしまうのかもしれないが、それが良いことだとは思えなかったのだ。
ついでに言うと、向原と成瀬が抱えている齟齬のひとつは、そのあたりに原因があると思う。指摘はできなかったが。
「悠長なこと考えてるうちに後悔するタイプだな、おまえも」
妙にしみじみと呟かれてしまって、皓太は脱力した。その「も」が誰にかかっているのかなんて、問うまでもない。
――本当、変わんないなぁ。
良くも悪くも、出会ったころから。必要以上に怖がっている節のある同室者に「そんなに怖い人じゃないよ」と折を見て繰り返しているのは自分だが、本心でそう思っている。
怖い人でも、嫌な人でも、なんでもないのだ。物事の判断基準が偏っているというだけで。ただ。
「じゃあ、向原さんはなにも後悔してないんですか」
それでもそう問い返してしまったのは、高等部に上がってからの、目まぐるしかった――隠さず言うなら、精神的になかなか厳しいものがあった場面が脳裏に浮かんだからだった。
この人が本気で「すべてをコントロールする」気でいたのだったら、絶対に、こんなことにはなっていなかったはずだ。
「さぁ、どうだろうな」
「どうだろうなって」
罪悪感のかけらもない調子で受け流されて、思わずそうぼやく。答える気がないと線を引かれてしまえば、それ以上は問い詰めようがなかった。
成瀬もそうだが、向原にも勝てる気が一向にしないままだ。面倒を見てもらったという感覚が抜けないからなのだろうか。
幼馴染みの成瀬はともかく、向原は、成瀬が連れてきた子どもだったから、かわいがろうという気になってくれたのだろうけれど。
「向原さんって、本当……」
成瀬さん以外に興味ないですよね。悶々としたまま、続けようとした後半は、やはり言わないほうがいいような気がして、皓太は呑み込んだ。
べつに、それが駄目なわけではないとは思うけれど。
――ゼロか百かみたいなところがあるから怖い、か。
なにを考えているのか読めない横顔から視線を外して、眼下を見下ろす。
以前、茅野に言ったことだ。そのとき茅野は「言い得て妙だ」と笑っていた。ちゃんと、そのあとに「安心しろ」とも言ってもらえたけれど。
そのとき思っていたことと同じだ。信用していないわけじゃない。目を覆いたくなるようなひどいことになるとも思っていない。ちょっと精神的にくるものはあったけれど、でも、その程度で済んでいる。
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