パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

閑話「プロローグ」①

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[閑話]


「あのさ、おまえ、あいつになにしたの?」

 興味半分、怖いもの半分といった調子の問いかけに、成瀬は吸いさしを口から外した。顔を上げる。開けた視界に、青い空と派手に染められたオレンジが飛び込んでくる。
 中等部の一年生だった、初秋のころの話だ。

「いや、本当、変な意味じゃなくて。俺、あいつのこと、ここ入る前から知ってんだけど、人に興味持つタイプじゃなかったから。なんか、現状がすげぇ意外っていうか」
「それ、このあいだも聞かれた」
「え? 誰に」
「本尾」
「あー……、本尾。あいつも悪いやつじゃねぇんだけどな」

 自分の身内が迷惑をかけてますと言わんばかりの言い方に違和を覚えて、けれどすぐに得心する。そういえば、そうだった。

「そういや、三人とも同小なんだっけ」
「そう、そう。まぁ、昔からあんな感じっちゃ、あんな感じなんだけど。でも、なんつうのかな。悪ぶってるけど、あれで案外根は真面目というか、まともっつか」
「いいよ、ぜんぜん」

 まともなのは見てたらわかるし、と嫌味でなく成瀬は笑った。そうしてから、でも、と言葉を継ぐ。
 指で挟んだ煙草の先から、ぽとりと灰が落ちる。

「べつに、なにもしてないんだけどな、俺」

 誰になにをどう聞かれようとも、それが事実だった。
 本当になにをしたつもりもないし、そもそもとして、篠原や本尾の言うところの昔の向原を知らないから、「変わった」と言われても、どういう感慨を持てばいいのかよくわからない。

「人間、誰がなにをしなくても、変わるときは変わると思うけど。環境だってここに入ってがらっと変わったわけだし、ある意味、あたりまえなんじゃない?」
「いや、……まぁ、それはそうかもしんねぇけど」

 合点の行っていないのが伝わってきて、静かに繰り返す。

「本当に、俺がなにかしたわけじゃないよ。本尾にもそう言ったんだけどな」
「納得しなかっただろ」
「うん」

 そのときのやりとりを思い出して、成瀬は小さく笑った。

「とりあえず、あいつが本尾に好かれてて、心配されてるってことはよくわかったんだけど」
「言うなよ、それ」
「誰に?」
「どっちにも。……いや、まぁ、向原には言ってもいいけど、本尾には。おまえも変に目の敵にされたくないだろ。あいつ、まともだし悪いやつではないけど、すげぇしつこいから」
「まぁ、それはいいけど」

 本当にべつにどちらでもよかったので、苦笑ひとつでそう請け負う。
 言おうが言うまいが、その結果でなにが起ころうが、自分の今後に影響さえなければ、どうでもいいのだ。ただ。

「仲良くしたいなら、すればいいのにな。本尾、向原のこと好きなのに」
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