パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 2 ①

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[2]


 じゃあ、ちょっと出てきますね、という断りを置いて、先に出ていた成瀬を追って皓太が生徒会室の扉を閉めた、次の瞬間。キャスター付きの椅子に座ったまま近づいてきた篠原が、ふたりしかいないにも関わらず声まで潜めて話しかけてきた。

「あのさぁ」

 おまけに、らしくもなくおもねるような言い方をする。

「自分でもすげぇ馬鹿みたいなこと聞いてんなってわかってんだけど、なんか、おまえ、めちゃくちゃ怒ってない?」

 その調子で「めちゃくちゃ怒ってない?」とまで言われて、向原はしかたなく目を通していた紙面から顔を上げた。

「どこが?」
「どこがってわかってるだろ。成瀬みたいなこと言うなよ、おまえ」

 勘弁してくれと言わんばかりに、篠原の声音のトーンが下がる。

「たしかに、ピリピリした雰囲気も、苛々した雰囲気も一切にじんではないけど。むしろ、どっちかっていうと機嫌良さそうな顔してるけど」
「機嫌良さそうに見えてるなら、それでいいだろ。皓太は安心した顔してたけどな」

 ついでに言うと、その幼馴染みの様子に、成瀬も安心したような表情を見せていたが。本当にそういうところばかりが視野が狭い。
 おざなりにそう告げれば、皓太はそうかもしれねぇけど、とこれまた辟易とした溜息が返ってきた。

「こっちは、なんだかんだ十年おまえのこと知ってんの。ぜんぶはわからなくても、顔見りゃなんとなくはわかるんだって。……好きでわかりたいわけでもなんでもねぇんだけど、いや、本当」
「だったら、口出さなきゃいいだけの話だろうが。気づいてませんって顔しとけよ」

 堂々巡りの気配に辟易とさせられたのは、こちらも同じだ。面倒になってきて、手元に視線を戻す。
 自分の席に戻るなり、部屋を出るなりすればいいものを、すぐ近くに留まったまま、篠原がまたひとつ大きな溜息をこぼした。

「俺までそれしたら、誰が収束させるんだよ、これ。あいつはあいかわらずなにも知りませんって態度だし」
「……」
「それに、俺、おまえの、そのめちゃくちゃ静かに切れてるときの顔、苦手なんだって。だから、できればすぐにでもやめてほしいっつか」

 だから、べつに、誰も怒ってるともなんとも言っていないだろうが。そう言ってやりたいのを呑み込んで、ちらりと視線だけを向ける。

「わかった。家でなんか言われたんだろ」
「なんでだよ」

 見当違いな指摘に失笑すると、その眉間に悩むように皺が寄った。

「えー……、じゃあ和晃さん。俺、あの人苦手なんだよな。おまえのその顔見てたら思い出した」

 勝手に人の兄の名前を出しておいて、ひどい言いようだ。「だから、言われてねぇって」と重ねて否定をする。事実だ。べつに、家でなにかがあったというわけでもない。

「家じゃないなら、結局あいつか」

 おまえのその顔の原因、と心底嫌そうに呻いていたが、向原は否定も肯定もしなかった。その態度に、篠原が三度目の溜息を吐く。
 窓からは、場違いなほどの眩い夏の光が降り注いでいた。
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