325 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 2 ②
しおりを挟む
「休み明けてからおまえずっと機嫌悪いから。いっそ家が原因だって思いたかった。なんなんだよ、本当。休みのあいだもおまえらなんかやりとりしてたわけ? それとも新学期始まってからの十日ほどのあいだで、またなんかやったわけ?」
「そもそも、どこぞの馬鹿じゃあるまいし、いくら兄弟だからって、同性の身内にそこまで過干渉に口出すか?」
まるきり後半を無視して問い返せば、苦虫を噛んだ顔になった。論点をずらされたこともだろうが、現在進行形で過干渉に世話を焼いている人間に対して、思うところがないわけではないらしい。
本人がどこまで自覚しているのかは知らないが、あれだけあからさまであれば、あたりまえの話だろうと思う。
「まぁ、……それは、そうかもな」
「そうだろうが」
「いや、苦手なもんで、つい」
ずらした論点に合わせて、そう苦笑した篠原は、今のこの時点で聞き出すことは諦めた様子だった。そのあたりの引き際の良さはあいかわらずと言えばあいかわらずで、楽ではあった。
「最近会ってないけど、ますますパワーアップしてそうで、想像するだけで嫌っつうか。あの人、おまえより格段に性質悪いのに、ぱっと見穏やかそうなのがまた嫌なんだよな。基本、おまえと同じ顔なのに」
「ほっとけ」
「そのあたり、ちょっと成瀬と通じるもんがある気もするけど……って、あぁ、なるほど」
「なんだよ、今度は」
「いや、俺がはじめ成瀬のこと苦手だった理由それだわ、って五年越しに納得しただけ。あの似非くさい穏やかな笑顔に既視感があったからだ。……言うなよ、これ」
成瀬じゃなくて、和晃さんのほうな、と慌てたふうに念を押されて、言わねぇよ、とゆるく首を振る。
そもそもとして、そんなどうでもいいような話をする間柄でもないのだが。
「マジそうして。本当、俺、あの人無理。人の兄貴に悪いとは思うんだけど。そういえば、成瀬って、おまえの兄貴に会ったことあったっけ?」
その問いかけに、向原は顔を上げた。篠原は、なんの他意もなさそうな顔をしている。実際、ただ思いついたことを口にしただけなのだろう。その顔を一瞥して、呆れたふうに笑う。
「逆に、なんでおまえは、そこまで自分が苦手だって思ってる人間に、わざわざ会わせようとするんだよ」
「いや、ちょっとおもしろいかなって」
「いいお友達だな」
会わせる気はいっさいないという事実を伏せたまま、そう言ってやれば、いや、まぁ、そうだけど、ときまり悪く呟いてから、扉のほうを見やった。
「でも、まぁ、さっきの過干渉の話だけど」
「過干渉?」
「そう。成瀬のあれ。前まではけっこう、皓太が嫌がってただろ。それであいつも一線引き直してるところがあったっつうか。バランス取れてた気がするんだけど。なんか、最近はどうせ卒業するまでって割り切ったのか、諦めたのか、皓太がわりと成瀬の好き勝手許してるだろ」
そうなったら、そりゃ、こうなるわなって、続いた台詞に、そうかもな、と向原は頷いてみせた。そうしてから、また視線を手元へと戻す。
「どうしたんだろうな。いや、べつに、使えるもんは使うって割り切る気になったっていうなら、それはそれでぜんぜんいいんだけど。実際、そっちのほうがいいと思うし」
「まぁ、選挙に出る気があるなら、そのほうがいいかもな」
「……おまえさぁ」
「なんだよ」
「わりと選挙合戦協力してやってるよな。正直ちょっと意外だった」
「ほかに通したいやつでもいたのか?」
事務処理を淡々と進めながら、顔も上げないままそう問い返す。返ってきたのは、どこか煮え切らないものだった。
「そういうわけじゃねぇけど。なんというか、成瀬ほどとまでは言わなくても、俺も、一応、皓太が小学生のころから知ってるし。まぁ、俺も春ごろに発破かけたはかけたんだけどな。あいつ、我が強くないから、と思って、ちょっと」
「根に持ってたぞ、成瀬」
「もう十分すぎるほど嫌味言われたっての」
悪かったとは思ってるんだよ、と弁明するのに、春先のことを思い出して、少しだけ向原は笑った。みささぎ祭が終わったころのことだ。篠原も茅野も好き勝手に焚きつける、と珍しく愚痴をこぼしていたから、思うところはそれなり以上にあったのだろう。
それはさておいても、過保護だとは思うが。
「そもそも、どこぞの馬鹿じゃあるまいし、いくら兄弟だからって、同性の身内にそこまで過干渉に口出すか?」
まるきり後半を無視して問い返せば、苦虫を噛んだ顔になった。論点をずらされたこともだろうが、現在進行形で過干渉に世話を焼いている人間に対して、思うところがないわけではないらしい。
本人がどこまで自覚しているのかは知らないが、あれだけあからさまであれば、あたりまえの話だろうと思う。
「まぁ、……それは、そうかもな」
「そうだろうが」
「いや、苦手なもんで、つい」
ずらした論点に合わせて、そう苦笑した篠原は、今のこの時点で聞き出すことは諦めた様子だった。そのあたりの引き際の良さはあいかわらずと言えばあいかわらずで、楽ではあった。
「最近会ってないけど、ますますパワーアップしてそうで、想像するだけで嫌っつうか。あの人、おまえより格段に性質悪いのに、ぱっと見穏やかそうなのがまた嫌なんだよな。基本、おまえと同じ顔なのに」
「ほっとけ」
「そのあたり、ちょっと成瀬と通じるもんがある気もするけど……って、あぁ、なるほど」
「なんだよ、今度は」
「いや、俺がはじめ成瀬のこと苦手だった理由それだわ、って五年越しに納得しただけ。あの似非くさい穏やかな笑顔に既視感があったからだ。……言うなよ、これ」
成瀬じゃなくて、和晃さんのほうな、と慌てたふうに念を押されて、言わねぇよ、とゆるく首を振る。
そもそもとして、そんなどうでもいいような話をする間柄でもないのだが。
「マジそうして。本当、俺、あの人無理。人の兄貴に悪いとは思うんだけど。そういえば、成瀬って、おまえの兄貴に会ったことあったっけ?」
その問いかけに、向原は顔を上げた。篠原は、なんの他意もなさそうな顔をしている。実際、ただ思いついたことを口にしただけなのだろう。その顔を一瞥して、呆れたふうに笑う。
「逆に、なんでおまえは、そこまで自分が苦手だって思ってる人間に、わざわざ会わせようとするんだよ」
「いや、ちょっとおもしろいかなって」
「いいお友達だな」
会わせる気はいっさいないという事実を伏せたまま、そう言ってやれば、いや、まぁ、そうだけど、ときまり悪く呟いてから、扉のほうを見やった。
「でも、まぁ、さっきの過干渉の話だけど」
「過干渉?」
「そう。成瀬のあれ。前まではけっこう、皓太が嫌がってただろ。それであいつも一線引き直してるところがあったっつうか。バランス取れてた気がするんだけど。なんか、最近はどうせ卒業するまでって割り切ったのか、諦めたのか、皓太がわりと成瀬の好き勝手許してるだろ」
そうなったら、そりゃ、こうなるわなって、続いた台詞に、そうかもな、と向原は頷いてみせた。そうしてから、また視線を手元へと戻す。
「どうしたんだろうな。いや、べつに、使えるもんは使うって割り切る気になったっていうなら、それはそれでぜんぜんいいんだけど。実際、そっちのほうがいいと思うし」
「まぁ、選挙に出る気があるなら、そのほうがいいかもな」
「……おまえさぁ」
「なんだよ」
「わりと選挙合戦協力してやってるよな。正直ちょっと意外だった」
「ほかに通したいやつでもいたのか?」
事務処理を淡々と進めながら、顔も上げないままそう問い返す。返ってきたのは、どこか煮え切らないものだった。
「そういうわけじゃねぇけど。なんというか、成瀬ほどとまでは言わなくても、俺も、一応、皓太が小学生のころから知ってるし。まぁ、俺も春ごろに発破かけたはかけたんだけどな。あいつ、我が強くないから、と思って、ちょっと」
「根に持ってたぞ、成瀬」
「もう十分すぎるほど嫌味言われたっての」
悪かったとは思ってるんだよ、と弁明するのに、春先のことを思い出して、少しだけ向原は笑った。みささぎ祭が終わったころのことだ。篠原も茅野も好き勝手に焚きつける、と珍しく愚痴をこぼしていたから、思うところはそれなり以上にあったのだろう。
それはさておいても、過保護だとは思うが。
11
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
普通のβだった俺は
りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話
凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。
書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる