パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 2 ②

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「休み明けてからおまえずっと機嫌悪いから。いっそ家が原因だって思いたかった。なんなんだよ、本当。休みのあいだもおまえらなんかやりとりしてたわけ? それとも新学期始まってからの十日ほどのあいだで、またなんかやったわけ?」
「そもそも、どこぞの馬鹿じゃあるまいし、いくら兄弟だからって、同性の身内にそこまで過干渉に口出すか?」

 まるきり後半を無視して問い返せば、苦虫を噛んだ顔になった。論点をずらされたこともだろうが、現在進行形で過干渉に世話を焼いている人間に対して、思うところがないわけではないらしい。
 本人がどこまで自覚しているのかは知らないが、あれだけあからさまであれば、あたりまえの話だろうと思う。

「まぁ、……それは、そうかもな」
「そうだろうが」
「いや、苦手なもんで、つい」

 ずらした論点に合わせて、そう苦笑した篠原は、今のこの時点で聞き出すことは諦めた様子だった。そのあたりの引き際の良さはあいかわらずと言えばあいかわらずで、楽ではあった。

「最近会ってないけど、ますますパワーアップしてそうで、想像するだけで嫌っつうか。あの人、おまえより格段に性質悪いのに、ぱっと見穏やかそうなのがまた嫌なんだよな。基本、おまえと同じ顔なのに」
「ほっとけ」
「そのあたり、ちょっと成瀬と通じるもんがある気もするけど……って、あぁ、なるほど」
「なんだよ、今度は」
「いや、俺がはじめ成瀬のこと苦手だった理由それだわ、って五年越しに納得しただけ。あの似非くさい穏やかな笑顔に既視感があったからだ。……言うなよ、これ」

 成瀬じゃなくて、和晃さんのほうな、と慌てたふうに念を押されて、言わねぇよ、とゆるく首を振る。
 そもそもとして、そんなどうでもいいような話をする間柄でもないのだが。

「マジそうして。本当、俺、あの人無理。人の兄貴に悪いとは思うんだけど。そういえば、成瀬って、おまえの兄貴に会ったことあったっけ?」

 その問いかけに、向原は顔を上げた。篠原は、なんの他意もなさそうな顔をしている。実際、ただ思いついたことを口にしただけなのだろう。その顔を一瞥して、呆れたふうに笑う。

「逆に、なんでおまえは、そこまで自分が苦手だって思ってる人間に、わざわざ会わせようとするんだよ」
「いや、ちょっとおもしろいかなって」
「いいお友達だな」

 会わせる気はいっさいないという事実を伏せたまま、そう言ってやれば、いや、まぁ、そうだけど、ときまり悪く呟いてから、扉のほうを見やった。

「でも、まぁ、さっきの過干渉の話だけど」
「過干渉?」
「そう。成瀬のあれ。前まではけっこう、皓太が嫌がってただろ。それであいつも一線引き直してるところがあったっつうか。バランス取れてた気がするんだけど。なんか、最近はどうせ卒業するまでって割り切ったのか、諦めたのか、皓太がわりと成瀬の好き勝手許してるだろ」

 そうなったら、そりゃ、こうなるわなって、続いた台詞に、そうかもな、と向原は頷いてみせた。そうしてから、また視線を手元へと戻す。

「どうしたんだろうな。いや、べつに、使えるもんは使うって割り切る気になったっていうなら、それはそれでぜんぜんいいんだけど。実際、そっちのほうがいいと思うし」
「まぁ、選挙に出る気があるなら、そのほうがいいかもな」
「……おまえさぁ」
「なんだよ」
「わりと選挙合戦協力してやってるよな。正直ちょっと意外だった」
「ほかに通したいやつでもいたのか?」

 事務処理を淡々と進めながら、顔も上げないままそう問い返す。返ってきたのは、どこか煮え切らないものだった。

「そういうわけじゃねぇけど。なんというか、成瀬ほどとまでは言わなくても、俺も、一応、皓太が小学生のころから知ってるし。まぁ、俺も春ごろに発破かけたはかけたんだけどな。あいつ、我が強くないから、と思って、ちょっと」
「根に持ってたぞ、成瀬」
「もう十分すぎるほど嫌味言われたっての」

 悪かったとは思ってるんだよ、と弁明するのに、春先のことを思い出して、少しだけ向原は笑った。みささぎ祭が終わったころのことだ。篠原も茅野も好き勝手に焚きつける、と珍しく愚痴をこぼしていたから、思うところはそれなり以上にあったのだろう。
 それはさておいても、過保護だとは思うが。
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