パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 3 ④

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「……なら、いいんだけど。あの、成瀬さんさ」
「ん?」
「休暇中、向原さんと連絡取ったりしてた?」
「してたら、皓太に話してると思うけど」

 あれだけうちに出入りしてたんだから、話題のひとつとして出すだろう、と匂わせれば、いや、まぁ、それもそうなんだけど、となんとも言い難い顔になる。
 行人になにか言われたのかもしれないと予想がついて、そっと苦笑する。
 まぁ、この幼馴染みからすれば、遊びに来たくて来ていたわけではなかっただろうから、言いがかり以外のなにものでもなかっただろうが。

「行人になんか言われた?」
「言われた」

 ものすごく渋々と認めた皓太が、そこでまた溜息を吐いた。

「というか、なんで、そういうこと榛名に話すの」
「良いきっかけになるかなと思って」
「きっかけって……。本当、どうなってんの、成瀬さんのそのあたりの感性」
「どうもなにも」

 持て余していることがありありと伝わってきて、小さくほほえむ。

「皓太と行人がいいようになればいいと思ってるだけだよ」
「だから、そういうとこが――って、なんだ。今度は篠原さんか」
「今度は俺かって、なに嫌そうな声出してんだ、皓太」

 その言いようにか、入ってきた篠原が鼻白んだ顔をした。そのまま室内をぐるりと見渡して首をひねる。

「っつか、今度はってことは、向原来てたのか? 探してたんだけど、俺」
「すれ違いませんでした? 五分ほど前にちょっと顔出して、またすぐ出て行かれたんですけど」
「なんですれ違ってないんだ、ふつうに来たのに」
「すれ違わなかったんなら、風紀のほうに行ったんじゃない?」
「あり得る」

 そう同意してから、「どうすっかな」とひとりごちる調子で篠原が呟いた。

「頼みたいことあったんだけどな、向原に」
「なら、呼んできますよ、俺。今日もう戻らないって向原さん言ってたから」
「べつに、そこまでは――って思ったけど、頼んでもいい? 見つからなかったら適当に戻ってきてくれていいから」
「わかりました」

 こちらの作業は一段落したところで止まっていたから、ちょうどいいと判断したのだろう。行ってきますね、と告げて立ち上がる。本当に、今日は出入りが慌ただしい。

「篠原」

 その背中を見送ってから、成瀬は軽く篠原を睨んだ。そうなるとわかっていて、なにがどうするかな、だ。フットワークが軽いのは後輩としては美点だろうが、それをていよく利用してやるな、としか言いようがない。

「おまえが行けよ」
「誰が無理に行かせたよ。やりとり見ててそれか。おまえ、なんか本当に過保護に拍車かかってない?」
「そういう問題じゃないから」

 茅野のようなことを言われて辟易としつつも、苦言を呈する。

「あの言い方されたら、そう言うしかなくなるだろ。皓太なんだから」
「はい、はい。悪かった、悪かった。それにしても、おまえらはおまえらで最近べったりだな。いくら教えることがあるからって」
「その言い方は皓太が嫌がりそうだな」
「見たまんま言ってんだよ」
「まぁ、小さかったころはね。このくらいよく一緒にいてくれたけど。どっちにしろ、あと半年だし」

 もう小さくはなくなるのだから、こんなふうに過ごすことができるのも、この時間が最後だろう。苦笑いで受け流して、「それで?」と成瀬は問い返した。

「皓太追い出して、なにが言いたかったの」
「向原に用事があったのは嘘じゃねぇし。おまえはおまえで人聞き悪いな」

 皓太が使っていた机の縁に浅く腰かけた篠原が、広げていた書類を一瞥してから、小さく溜息を吐いた。なにがあったのかは知らないが、やけに疲れたふうでもある。

「おまえさぁ、皓太のことやってやってんのはいいけど、あいつのほうはどうする気だよ」
「あいつ?」
「向原に決まってんだろうが。あの機嫌の悪さ、どうにかしてくれ。マジで胃に来る」
「胃に来るとまで言われても。べつにそこまで問題ないと思うんだけど。気にしすぎじゃない?」

 つい先ほど、「ふつう」だという話を皓太としたばかりだ。

「気にしすぎじゃないって、見りゃわかるだろ。あのクソみたいな機嫌の悪さ。俺が知る限り、めったにないレベルで最悪に悪い」
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