パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
336 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 3 ⑤

しおりを挟む
「そんなに言うほど? さっきも、皓太はちょっと安心してたみたいだったけどな。思ったよりふつうだって」
「マジか」

 おざなりに流したつもりもなく、正直に感じたままを答えただけだったのに、珍獣を見るような顔をする。

「おまえ、やっぱりすごいな。図太い」
「図太いって。皓太がそう言ってたっていう話だったんだけど」
「いや、皓太はべつにそれでいいんだけど。……なんでおまえが気づかないかな」

 呆れ切った言い方のせいか妙にカチンときてしまった。

 ――だいぶ落ち着いたつもりだったんだけどな。

 感情のコントロールくらいは、なんなくできるようになっていたつもりだったのに、気をつけないといけない。
 そもそもとして、そこまで苛立つ必要のあることではなかったはずなのに。
 そう意識し直して、なんでもないように言い放つ。数年前ならいざ知らず、今の自分にそれを言われても手に余るというのが、正直なところでもあった。

「おまえが気づいたんなら、おまえが責任もってどうにかしたらいいだけだろ」
「したし、もう言ったわ。言って無理だったから、ここで愚痴ってんの。まぁ、あいつが俺の言うこと聞くとは思ってなかったけど」

 だから、おまえにどうにかしてもらおうと思って、と続けた篠原の口ぶりは、原因の一端はおまえにあるのだろうと言わんばかりだ。

「ねぇの、心当たり」
「心当たりって、なんで俺に原因がある前提なんだよ」

 心当たりなんて、ありすぎてわからないくらいだ、と言う気には、さすがになれなかった。
 そもそも、篠原から見て「そう」だったとしても、自分にはあの態度なのだ。妙な心配をするなと茅野は言っていたが、怒る気にもなれないくらい呆れていると解釈するほうが、やはり正しいように思える。

「なんでもなにも、おまえ以外に思い当たらないから言ってんの。なんとかしてくれ、マジで。頼むから」
「なんとかしてくれって言われても。べつに、いいんじゃない? 少なくとも、俺も皓太も当たられてないし。迷惑でもなんでもないっていうか。篠原が困るなら、篠原がなんとかすればいいだけだと思うし。俺なんかより、ずっと付き合い長いだろ」
「そりゃ、付き合いは長いけど」

 なんとも言えない顔で息を吐いた篠原が、前髪をうしろにかきやる。
 律義に見つけるまで探すつもりなのか、それともていよく追い出されたとわかっていて時間を潰しているのか。どちらかは知れないが、皓太が戻ってくる気配はないままだった。

「でも、それとこれとは話が別だろ」

 なにがどう別なのかという話を聞きたくはなくて、そうかな、と適当に受け流す。
 自分でもよくわかっていないことを、外からどうのこうのと言われたくなかったのだ。

「まぁ、俺にできるなら努力はするけど。確約はしてやれないかも。あいつがなに考えてるのか、よくわからないし」
「よくわからないって……、成瀬、おまえな。投げんなよ」
「だから。それこそ篠原にはわかるっていうなら、篠原が話聞くなりなんなりしたらいいと思うんだけど」

 応じながら、あまりの堂々巡りぶりに苦笑いになってしまった。本当に、なんでこんな話をしなければならないのか。

「……まぁ、いいか」

 面倒だと思うことさえ嫌で、つくり慣れた笑みを成瀬は浮かべ直した。

「さっきの皓太のことやってやってる、のほうの話に戻っていい?」
「あ?」
「ガラ悪いな」

 もう一度そう苦笑してから、はっきりと明言する。これ以上、余計な勘ぐりを入れさせないための、ただの牽制だ。

「最低限ちゃんと引き継ごうと思ってるし、教えてやれることはぜんぶ教えてやろうと思ってる。皓太を通したいから協力してくれって頼んだとおりで、通してやろうと決めて、俺が俺の意志でやってる。それで、皓太はそれに応えてくれてる」
「……」
「それだけ」

 にこ、とほほえめば、まぁな、と嫌そうに頷く。納得していないとしても、言っても無駄だとわかってくれたら、とりあえずはそれでいい。
 だから、不納得な雰囲気に言及はしなかった。

「そういうことでもいいけど。でも、その前に、おまえも、向原も、もうちょっとくらい、俺の胃を気遣ってもいいと思うわ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...