パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 6 ②

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 ――根本的なところがなにも変わらないからな。

 なにをしたところで意味がないとまで切り捨てるつもりはないが、なにかを働きかけることがほとほとに面倒になったことは事実だった。
 見ていないから気づかないのだと言ってみせたが、結局そういうことでしかないと向原は思っている。
 もっとはっきりと言ってもいいのなら、思考が停止していると評してもいいくらいだ。だから、よりいっそう視野を狭くしているし、本来考えるべきことから目を逸らしてもいる。
 そんな人間に、なにを言っても無駄だろう。だから、なにも言うつもりはなかったのだが。あまりにもあまりだったので、余計なことを言ってしまった。
 短くなった吸いさしをもみ消して、新しいものを取り出す。隣からは、自分のものとは違う煙草の匂いが漂い始めていた。
 嫌味ではなく、純粋に。視野狭窄に陥った人間の衝動性というものは、恐ろしいと思う。それが自分は問題ないと盲信している人間の場合は特に。


 おまえは怒らないんだな、と茅野が言ったのは、必要以上に溜め込むなよ、と篠原のようなことを言ってみせたあとのことだった。

「意外かと言われると、そうでもないような気もするが。……なんというか、おまえにはなにかしら言われてもしかたがないと思っていたんだが」
「言われたかったのか?」
「言われたかったわけではないが。あまりにもなにも言われないのも気にはなる」

 苦笑まじりのそれに、べつに、とゆるく頭を振る。べつに、としか言いようがない、ということでもあったし、茅野に対して思うところはなにもない、ということでもあった。

「なにも思ってないからな、それも」

 むしろ、倫理的にすこぶるまともな判断だっただろうと思っているくらいだ。他意もなにもないことが伝わったらしい。おまえのそういうところは、なんというか、まともだな、と茅野が笑う。
 あたりまえだろうと呆れつつも、向原は続けた。

「そもそも、こっちが口出す話でもないだろ。……そういう意味で、腹立てる話でもないしな」

 それがある程度理に適い、本人が納得して選んだものだとすれば。そこになにを言うつもりもない、というのは、本心だった。
 だから、夏の一件のほうを知ったときは、心底呆れたし、腹が立った。タイミングが揃えば、いかにもやりそうだと納得してしまったことを含めて。

「まともだな、ものすごく」

 安堵と揶揄が混ざった調子だった。

「まぁ、おまえは基本的に抑制が効いているから、たまには感情をぶつけてみてもいいとは思うが」


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