パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 6 ③

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「それでどうにかなるならな」

 そんなわけはないと知っていたので、おざなりに切り捨てる。何度も何度も試みて、そうして思い知ったことだった。
 だから、なにもするつもりはない、と決めていた。話を終わらせようと、それに、と向原は続けた。

「見てたらわかるだろ。頼まれてやったこと以外、なにもするつもりはない。これからも」

 昔のように過度に荒らすつもりもなければ、必要以上に調整するつもりもない。向こうからのリアクションがないうちは。

「いいのか、それで」
「もともと、そういう話じゃなかったか?」

 窺うようなそれを笑えば、茅野もまた苦笑いを浮かべた。
 なにひとつ折れなかったのは成瀬で、だから、妥協点を見つけてやったのだ。その場に立ち会っていたこの男が覚えていないわけがない。
 一方的な言い分に、こちらが切れるとでも思ったのか、らしくないはらはらとした顔を見せていたくらいだ。
 できる範囲の妥協をつけただけで、向原は、今もなにひとつ納得はしていない。

「まぁ、それは、そうなんだけどな。とは言え、あの場に同席した者の責任として、気にはなるというか。そういう意味で、多少は積極的に動いてやっているつもりなんだが」
「……」
「それに、なにも起こさせないと言っただろう」

 たしかに、そんなことを言っていたな、と思いつつ、「べつに」と半ばひとりごちるように呟く。
 べつに、どうでもいいと言えば、どうでもいいことだったからだ。意味のないことをするつもりもない。
 そういう意味で言えば、誰が誰を選挙に擁立しようと、そこにどんな思惑があろうと、どうでもいいと言えば、どうでもいいことではあった。


 ――面倒だけどな、ぜんぶ。

 半ばおざなりにそう判じて、眼下を見下ろす。
 篠原は篠原で、あれだけ好き放題に不義理を責めていたくせに、自分は自分で「今日はもう無理」の一言でさっさと帰っていくあたり、都合の良い性格をしている、とも思いながら。
 授業が終わってしばらく経つが、校舎から出てくる生徒の姿はまだそれなりに多かった。
 その中で、生徒会室のある棟に向かう後輩の姿があった。そのまま予想どおり建物に消えていくのを見送って、呆れ半分で向原は笑った。

「……律義なやつ」

 わざわざ挨拶しにいく義理はないと思うのだが。そういうものでもないのだろうか。そういった人間関係は面倒だとしか自分には思えなかった。
 また一本取り出した煙草を銜えるでもなく指先に挟んだまま、風紀委員のたまり場である建物の方角に目を向ける。そちらから出て向かってきたことは明らかだった。
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