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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 7 ③
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「……」
「あいつも、アルファだよな」
そんなことを言い出したら、それ以前にまず皓太がアルファだ。たしかに、アルファとふたりきりになるような真似はしないと言ったし、実際にそうしていた。半ば以上、あてつけだったが。
覚えた苛立ちを最低限だけ押し込んで、成瀬は笑った。
「なに。それで怒ってんの?」
向原のことを、やたらと機嫌が悪いだのなんだのとうるさく言っていたのは篠原だが、自分の機嫌ももうずっと良くはない。
どこかにあった罪悪感は、完全に流れ切っていた。
「警戒するような相手じゃないって判断してるだけなんだけど。なにか間違ってる?」
間違っていないと同じように判断したから、皓太もこれ幸いと席を外したのだろう。それを、この男にどうのこうのと口出しをされるいわれはない。そう思っていた。
「間違ってる?」
いやにゆっくりと言葉尻を繰り返して、向原が扉から背を離した。そのまま一歩こちらに足を踏み出した瞬間。言葉にならないぞわりとした感覚を覚えて、立ち上がる。
そうして、逃げ道を確保するように身体を机の横にずらしたところで我に返った。
――なんだ、逃げるって。
アルファには負けないと思うことで、どうにかここまでやってきた。その自分が、本能のような恐れを抱いているなんてこと、絶対に認めたくなかったのだ。
緊張しかけていた身体から力を抜いて、「なに?」と問いかける。なんでもない調子で。
「なに?」
呆れ切ったように笑って、また向原が一歩近づいてくる。
「前にも言ってやった気はするんだけどな、その馬鹿なプライドとっとと捨てろ。逃げたら死ぬとでも思ってんのか? ――まぁ、思ってそうだけどな、おまえの場合」
近づいてくる圧に、一歩足がうしろに下がったのは、ほとんど無意識だった。壁に背が当たる。顔に向かって伸びてきた指が、触れることなく拳に変わって、すぐ横の壁を殴った。その振動が直に響いた。
「おまえが考えてること、だいたいわかってるつもりだけど、言ってやろうか」
目を逸らさないでいると、壁に手をついたまま、向原がまた小さく笑った。吐き捨てるように。
「このあいだ馬鹿すぎるって言った話な。おまえ、なにも考えたくなかっただけだろ」
「……なにも考えたくなかった?」
ふつふつと再び湧き始めた苛立ちを自覚しながらも、静かに問い返す。アルファのおまえになにがわかるのかと言わなかっただけ、抑えたつもりではあったけれど。
知ったふうなことを言われることにも、本能のような部分で恐れを抱いてしまう自分にも、ひどく腹が立っていた。
「どう思ってくれてもいいけど、俺は、自分で始末をつけれないようなことをするつもりはないし、したいと思ったこともない」
「あいつも、アルファだよな」
そんなことを言い出したら、それ以前にまず皓太がアルファだ。たしかに、アルファとふたりきりになるような真似はしないと言ったし、実際にそうしていた。半ば以上、あてつけだったが。
覚えた苛立ちを最低限だけ押し込んで、成瀬は笑った。
「なに。それで怒ってんの?」
向原のことを、やたらと機嫌が悪いだのなんだのとうるさく言っていたのは篠原だが、自分の機嫌ももうずっと良くはない。
どこかにあった罪悪感は、完全に流れ切っていた。
「警戒するような相手じゃないって判断してるだけなんだけど。なにか間違ってる?」
間違っていないと同じように判断したから、皓太もこれ幸いと席を外したのだろう。それを、この男にどうのこうのと口出しをされるいわれはない。そう思っていた。
「間違ってる?」
いやにゆっくりと言葉尻を繰り返して、向原が扉から背を離した。そのまま一歩こちらに足を踏み出した瞬間。言葉にならないぞわりとした感覚を覚えて、立ち上がる。
そうして、逃げ道を確保するように身体を机の横にずらしたところで我に返った。
――なんだ、逃げるって。
アルファには負けないと思うことで、どうにかここまでやってきた。その自分が、本能のような恐れを抱いているなんてこと、絶対に認めたくなかったのだ。
緊張しかけていた身体から力を抜いて、「なに?」と問いかける。なんでもない調子で。
「なに?」
呆れ切ったように笑って、また向原が一歩近づいてくる。
「前にも言ってやった気はするんだけどな、その馬鹿なプライドとっとと捨てろ。逃げたら死ぬとでも思ってんのか? ――まぁ、思ってそうだけどな、おまえの場合」
近づいてくる圧に、一歩足がうしろに下がったのは、ほとんど無意識だった。壁に背が当たる。顔に向かって伸びてきた指が、触れることなく拳に変わって、すぐ横の壁を殴った。その振動が直に響いた。
「おまえが考えてること、だいたいわかってるつもりだけど、言ってやろうか」
目を逸らさないでいると、壁に手をついたまま、向原がまた小さく笑った。吐き捨てるように。
「このあいだ馬鹿すぎるって言った話な。おまえ、なにも考えたくなかっただけだろ」
「……なにも考えたくなかった?」
ふつふつと再び湧き始めた苛立ちを自覚しながらも、静かに問い返す。アルファのおまえになにがわかるのかと言わなかっただけ、抑えたつもりではあったけれど。
知ったふうなことを言われることにも、本能のような部分で恐れを抱いてしまう自分にも、ひどく腹が立っていた。
「どう思ってくれてもいいけど、俺は、自分で始末をつけれないようなことをするつもりはないし、したいと思ったこともない」
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