パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 7 ②

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「一応言っておくけど」

 隠し損ねた苛立ちがにじんだ瞳を見つめたまま、あくまで穏やかに応じる。

「つまらない集まりだと思ったことはないよ。むしろ、うちの学年と違って、妙な面倒ごとが起きない良い学年だと思ってる」

 お為ごかしではなく、事実だった。落ち着いた人間が集まっているほうがよほど良いだろうと思う。

 ――でも、ま、向原がその気にならなかったら、呉宮たちの学年も、ここまで落ち着いてなかったんだろうけどな。

 荒れていた最後の世代、なんていうふうに自分たちの学年が評されることがあるが、「最後」になったのは、向原が抑える側に回ることを選んだからだ。そのこともまた、事実として知っている。
 あたりまえだ。その過程をずっと隣で見ていたのだから。

「ありがとうございます。でも、出るとなったら、負けるつもりでは出ないですよ」
「それはもちろん」

 必要以上に余計な工作をするつもりはない。にこりとほほえんで頷くと、呉宮は、気の毒そうな、あるいは、どこか申し訳なさそうな顔で少し笑った。

「それにしても、先輩、本当、風紀に嫌われてますよね。さっきも言いましたけど、風紀委員も一丸になって推してくれるらしいですよ、俺のこと」



 ――まぁ、好かれてると思ったことはないけど。

 ひとりに戻った空間で、やりかけだった書類に視線を落とした。そうして、そっと苦笑をこぼす。
 立候補届を出しに行く前に、わざわざ顔を出してくれたというのだから、律義にできている。そこまでしっかりと筋を通してもらうほどのことをした覚えはないのだが。

「長峰はともかく、本尾は向原に構ってもらいたいだけだと思うけどな」

 昔から、変わらずそうなのだ。自分のことをよく思っていないことも事実だろうが、ついこのあいだ長峰を焚きつけていた理由も、せいぜいが「そのほうがおもしろい」くらいだろうと成瀬は踏んでいる。
 そういう意味で、あの男はまともなのだ。まともだから、一線を越えない。

 ――超えたほうが楽な気もするけどな。

 まともで在り続けようとすることのほうが、よほど面倒だと感じる瞬間は、少なからず自分にも存在している。
 やめようと思い切る気がないから、続けているというだけのことだ。
 向原は、きっとわからないだろうけれど。わからないから、好きなことを勝手にあっさりと言えるのだ。

 でも、と思ったところで、再びドアが開いた。皓太にしては少し早いなと訝しみながら顔を上げたところで、成瀬は軽く目を瞠った。

「……向原?」

 いつもどおりと言えば、いつもどおりの、感情の読み取りづらい冷めた顔をしている。けれど、違和感が大きかったのだ。入ってきておいて、扉の前から動こうとしないことも含めて。
 その顔を見つめたまま、にこりとほほえむ。

「どうかした?」
「来てただろ」
「え? あぁ、呉宮のこと?」

 あいかわらず耳が早いと言えばいいのか。苦笑まじりに成瀬は言葉を継いだ。もしかすると、皓太とすれ違ったのかもしれない。

「まぁ、来てくれたけど。選挙のことで。……皓太にでも聞いた?」
「聞いた」

 そこで、ようやく向原が表情を崩した。呆れたようにふっと失笑する。

「言ってたぞ、体よく追い払われたって」
「体よく追い払ったまでのつもりはなかったんだけど。でも、しかたないだろ。居合わせたままじゃ、皓太も気まずかったと思うし」

 そうして、呉宮も。両者に配慮した――尤もらしい理由のつもりでしかなかったはずなのに、向原はまた呆れ切ったふうに笑った。

「アルファでもか」
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