パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ Φ ③

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 満喫することのできた有意義な夏季休暇を終え舞い戻った学園は、夏の始まりのころにあった不穏な空気が変わらず漂っていた。
 所属寮に流れる自分を腫れものとする空気も、それを擁護しようと躍起になっている空気も、もっと大きく学園全体に流れる、どこかギスギスとした空気も。
 この学園にいる「まっとうな人間」が、居心地が悪いと評するすべては、水城にとってはそこまで気の悪いものではなかった。
 自分を守りたがる取り巻きたちは心配顔を隠さないし、あまりに思い通りに事が進まないと苛立つときがあることは事実だが、それ以上に、自分が嫌いな人間がつくり上げたものが壊れていこうとするさまを傍観できる事実がなによりも面白い。
 もっと面白いショーになるように、お手伝いをしてあげないとなぁという悪戯心が出てしまうくらいには。
 鼻歌まじりに、水城はひとり外を歩いていた。まもなく夕暮れに近い時間である。
 ハルちゃんみたいな子がひとりで歩いてると危ないよと忠告してくる人間は馬鹿みたいにいるけれど、今のところやめるつもりはない。もちろん、考えあってのことだ。


「あ、長峰先輩」

 イメージしていたとおりの場所にイメージしていた人物を見つけて、水城はにこりとほほえむ。
 この先輩が好む「純粋無垢で、それゆえに言動を間違ってしまうこともあるかわいい後輩」の無邪気な声で呼びかけて手を振ると、自分を見とめた彼の目元が柔らかになる。
 あからさまな特別待遇は、昔から水城のお気に入りで、だから、この学園に入った当初、寮の中で自分の存在をお姫様として確立してくれた前寮長のことを気に入っていた。櫻や柊ではこうはいかなかっただろうから、そういう意味では、やはり自分は引きが良い。
 持っている人間、というやつだ。そういう運は、成り上がるために必要なもので、自分はそれを有している。そうしてそれを適切に使用していくことも、できる。
 非常階段の扉を開いて、そっと階段を上る。控えめに響くふうな足音を立てて、二階と三階の踊り場へ。ほんのわずかな距離を取って隣に並ぶと、自分にだけ与えられる優しい声音で彼が話しかけてきた。

「ひとり? あいつらは一緒じゃないの?」
「はい。――あ、もちろん、散歩したいなら付き合うよって言ってくれたんですけど」

 照れくさそうにはにかんで、目を伏せる。誰のことを指しているのかは、すぐにわかった。同じ寮で、同じクラス。入学した当初から、ずっと自分につき従っているアルファのことだ。

「なんだか、最近は少しひとりでいたいなぁって思うことが増えて。それで、つい。心配していただいて、ありがとうございます」
「ひとりでいたい、か。まぁ、わからなくはないかな」
「長峰先輩もですか?」

 意外だというふうに問い返してから、あの、と控えめに提案をする。

「僕でよかったら、お話聞きますよ」
「え?」
「あ、その……、僕が解決できるとかじゃないですけど。僕に話すことで、少しでも先輩が楽になったらなぁって」

 上目遣いに見上げて、そっと水城はほほえんだ。乾き始めた初秋の風が、柔らかな栗色の髪をふわりとなびかせていく。
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