パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 17 ②

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 だから、自分でどうともできないのなら、さっさと諦めて茅野を頼ればいいと言ったのだ。
 そうすれば、向原は納得するだろう、と。
 既に一度頼っていて、すげなく断られたあとなのだと言えば、どんな反応をすることやら。

 ――でも、いまさらだな、それも。

 納得するもしないも、自分がこのままなにもしなければ、この状態のまま卒業を迎えて、二度と関わることのない過去になる。
 それで、きっと、それは、向原だけはなく、篠原もそうだ。

 ――行人も、そうか。

 だから、適切な距離を示し直そうとしている。

「まぁ、さっき、おまえも言ってたけど。一年のことは一年に任せて、放っとけ」

 図らずも考えていたことと似たようなことを言われて、そうだな、と成瀬は請け負った。自分自身に言い聞かせる調子で繰り返す。

「そのほうがいいんだろうな」
「そら、そうだろ。まぁ、なんというか、榛名も不器用というか、……いや、あれは、今まで人間関係から逃げてきたツケか」

 そう判じたくせに、言いすぎたとでも思ったのか、篠原が苦笑を浮かべた。それは、まぁ、人付き合いのうまい篠原からすれば、行人は不器用だろうし、未熟だっただろうと思う。
 あいつ、もう少し他人に興味持ったほうがいいんじゃないか、とは、行人が生徒会の手伝いを始めてすぐのころに、気づかわしげに篠原が言っていたことだ。

「でも、まぁ、なんだ。良い機会だと思わないとしょうがないだろ。逃げるのやめて関わるようになったからこそ、揉めてるわけで。だったら、そのうち、嫌でも成長していくだろ。今なら皓太がいるから、完全にひとりになるわけでもなし」

 良い機会だろ、と篠原が繰り返す。反論をするつもりもなかったので、そうだな、と成瀬もまた同じ相槌を選んで繰り返した。
 わかっているつもりだ。その人生を最後まで見てやることができないのなら、過剰に庇護下に置いて成長の種を奪ってやるべきではない。
 そのはずだったのに、うまく一線を引いてやることができなかった。けれど、幸いなことに、あの子の近くには、篠原が言うように皓太がいる。
 たぶん、この不条理な世界で、唯一と言っていいほどに、自分が信頼しているアルファ。

「大丈夫」

 もう誰もいない窓の外を見やって、ひとりごちる調子で成瀬は呟いた。

「わかってるから」

 オメガはひとりでは生きられない、なんてことはないと思う。そう行人に言ったとおりで、その考えは今も変わっていない。
 ひとりで生きていくことは、可能だ。そうできるように努めて、生きてきたからだ。

 ――でも、信頼できるアルファがいるなら。ずっと一緒にいたいって行人が思えるアルファがいるなら。つがいになったほうが、きっとずっと生きやすい。

 ――幸せになれる。

 ――逃げたわけでも、負けたわけでもない。運命だったって、だけだ。

 諭すように、そうも自分は言った。それも、嘘ではなかったつもりだ。信頼できるアルファがいるなら。好きなアルファがいるのなら、つがいになればいい。
 そうやって、愛し愛されて、幸せになってほしい。自分にはできないことだけれど、行人は、はじめて大切に思うことができたオメガだったから。
 なにもできない代わりに、せめて、と。どこか祈るような気持ちだった。
 自分がそんな感情を持つことができるなんて思ってもいなかったのに、いつのまにか、そんなふうになっていた。
 自分には取ることのできない選択を選ぶことのできる相手を羨もうと思ったことはないつもりだ。
 けれど、もしかすると、自分はどこかで、自分には選ぶことのできない未来を、勝手に重ねて願っていたのかもしれない。
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