パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 17 ③

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 立会演説会が終わったあとの講堂は、ひどく静かだった。二階のギャラリーから無人のステージを見下ろしたまま、成瀬はふっと静かな笑みを浮かべた。

 ――余計な手を出す必要なんて、最初からなかったのかもな。

 手伝ってほしいと言われたということもあったし、教えてやることは残っていると思ったから、この二ヶ月、いろいろと手も口も出してきたけれど。
 そんなことをしなくても、皓太であれば、なにも問題はなかったのかもしれない。

「よかったな」
「茅野」

 さすがに学内で気配を察知し損ねるほど、気を抜いてはいない。隣に並ぶことを迎え入れるように、視線を向けてほほえむ。

「無事に終わったことはよかったと思ってるけど、まだ結果は出てないだろ」
「まぁ、それはそうだが」

 出たようなものだろう、といった調子に、成瀬は笑った。たしかに、講堂にそういった空気は流れていた。そうして、なによりも、皓太自身が納得した顔をしていた。
 無理を強いた自覚があっただけに、その事実にほっと安堵はしていた。大きくなったな、とも思った。

「ちょっと話、変わるんだけど」
「なんだ?」
「茅野、一年の子に余計なこと言った?」
「余計なことを言ったつもりはいっさいないが」
「本当に?」

 そう念を押せば、茅野が苦笑をこぼした。

「寮長としても、それ以上に、寮生委員会の会長としても、認めがたいことではあるが、最近はどうも物騒なことがあるからな」

 なにがなんでも黙っておく、というほどのつもりもなかったのだろう。想定どおりの前置きに、成瀬も苦笑を返した。
 まったくもってそのとおりで、そうして、そうさせた原因の半分くらいは自分にあると承知している。

「だから、まぁ、できる限り、寮生で固まって行き来しろ、と言ったは言ったな」
「それだけ?」
「それだけだ。個人の交友関係にまで口を挟むつもりは、俺にはないからな。その忠告も、朝夕の寮と校舎の行き来だけを指したつもりだったんだが。必要以上の気遣いをした寮生がいたかもしれない」

 そうなるだろうと読んでいたくせに、よく言うよ。自分に言えるわけもない糾弾を呑み込んで、そっか、と頷く。

「まぁ、集団で動いてるほうが安全なことは事実だよな」

 事実、似たようなことは自分も行人に言っている。ひとりで対処できることばかりだとは限らないからだ。

「そういうことだな。なにごとも予防しておいて損はないだろう」
「でも、行き来のあいだだけの問題なら、わざわざ念押しして言う必要なかっただろ。行きも帰りもクラスの子より、皓太とのほうが時間が合う」

 朝は基本的に一緒に行っているのは知っているし、帰りも――とくに行人が生徒会を手伝うようになってからは、基本的には合わせてやるようにしていたつもりだ。

「べつに、責めてるわけじゃないけど」

 困らせるつもりもなかったので、冗談めかせて成瀬は笑った。

「俺にはもうちょっと考えてやれって言ってなかった?」
「身の安全か心の葛藤か。どちらかを選べと言われると難しい話だな」

 管理する側の人間としては前者を取らざるを得ない、という結論に着地するにちがいない。「だから、べつにいいって」となんでもないふうに繰り返す。

「ちょっと確認したかっただけ。俺も同じことしたと思うし」

 おまえと同じくくりにするな、と言いたげな顔で黙っていた茅野が、小さく溜息を吐いた。

「もめごとの種をつくったのだとすれば、そこは悪かったと素直に認めるが。……だが、少し腑に落ちないな」
「腑に落ちない?」
「反応が過剰すぎないか。俺の知らないところでの諸々が募った結果だと言われたら、見極めが甘かったとしか言いようがないんだが。その前の向原との一件しかり、どうもな」
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