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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 1 ⑤
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「……」
いや、まぁ、成瀬さんもああ見えて、べつに気が長いわけでもないしな。そう言い聞かせて、嫌な方向に逸れていきそうな思考に蓋をする。
だから、その成瀬と馬が合っている時点でそういうことなのだろう。気が長いわけではない云々も榛名は認めないだろうが、事実である。
榛名、と同室者に連想が飛んだところで、皓太はもう一度溜息を呑み込んだ。
昼休みの捨て台詞のとおり、放課後も生徒会室に顔を出していたものの、やっぱりどう見ても苛々としていたし――べつにいいのだけれど、感情を自制するだとか、誤魔化すだとかが、致命的に下手だと思う――、これは自分が部屋に戻ったタイミングで取り成さないといけないのだろうか。
――荻原にはああ言ったけど、正直、四谷のことにはあんまり口出したくないんだよなぁ。
自意識過剰ではなく、原因の一端が自分にあると理解しているので。堪え切れず溜息を吐いたところで、目前に迫っていた寮の扉が内側から開いた。
「茅野さん」
「なんだ、今日も遅いな」
タイミングの良さに驚いた皓太と正反対のいつもどおりの調子で扉を閉めて、茅野が石段を下りて近づいてくる。
「はじめはしかたがないと思うが。オーバーワークまで成瀬を真似るなよ」
慣れたつもりになったころに無理が出るぞ、と笑われて、皓太も苦笑を返した。
「それ、向原さんにも言われました」
「そうか」
らしいなという調子で頷いた茅野が、まぁ、と話を続ける。
「そういうことだ。あまり無理はしないようにな」
「はい。……あの」
「なんだ?」
早々に通り過ぎようとした茅野を呼び止めたのは、ほとんど反射だった。
「なにか聞きたいことでも?」
「いや」
あっさりとした、先ほどと変わらないいつもどりの笑顔。けれど、皓太は結局その先を呑み込んだ。
聞けば答えてくれるのかもしれないけれど、向こうから言わないものを、この段階であえて聞くことはないと思ったからだ。
「なんでもないです。すみません、引き留めて」
「ならいいが」
すんなりと納得したそぶりに、正解の反応だったらしいと悟る。再び歩き始める手前で、ふと思い出したという調子で茅野が言い足した。
「オーバーワークまで真似をするなとは言ったが、頼る相手は今のメンバーにしておけよ。そうじゃないと意味もないし、せっかく残ることを選んだ二年が気の毒だ」
「そうですよね。そうします」
「それに、……まぁ、おまえはわかっていると思うが、成瀬も成瀬で忙しいだろうからな。追い込み時くらい、受験に専念させてやれ」
軽い口調ながらも、ぐさりと釘を刺された気分だった。ただ、そのとおりだとわかってもいたので、「ですね」と頷く。
ちょうど寮に戻る道中で考えていたことでもあった。
そのまま茅野と別れて、寮の中に入る。部屋に向かう途中、談話室の前を通ったが、滞在している数人の同級生の輪に、四谷の姿はなかった。
自分と時間が合わなくなっただけだと考えていたかったのだが、たしかに最近はほとんどここで顔を見ていなかったかもしれない。
――ありがたいけど、荻原ばっかりに任せるのもよくないんだろうな、本当。
今までは、たぶん、本当に、三年生に手厚いくらいにフォローしてもらっていた。選挙に出るという話をしたとき、そういうこともできるようにならないといけない、ということを諭されはしたけれど、そのあとも、ずっと。
――でも、だから、脱却しないといけないんだよな、口先だけじゃなくて。
自分が今座っている場所が、彼らに用意され与えられたものであったとしても、座ることを決めた以上は、自分の力で自分の場所にしていかないといけない。
そう認めてもらうことができるように、していかないといけない。
……わかっていたつもりのことだけど、難しいな。
経験も年齢も違うと言ってしまえばそれまでではあるけれど、今の自分が、あの人たちとまったく同じことをできるとは、皓太には到底思うことができなかった。
いや、まぁ、成瀬さんもああ見えて、べつに気が長いわけでもないしな。そう言い聞かせて、嫌な方向に逸れていきそうな思考に蓋をする。
だから、その成瀬と馬が合っている時点でそういうことなのだろう。気が長いわけではない云々も榛名は認めないだろうが、事実である。
榛名、と同室者に連想が飛んだところで、皓太はもう一度溜息を呑み込んだ。
昼休みの捨て台詞のとおり、放課後も生徒会室に顔を出していたものの、やっぱりどう見ても苛々としていたし――べつにいいのだけれど、感情を自制するだとか、誤魔化すだとかが、致命的に下手だと思う――、これは自分が部屋に戻ったタイミングで取り成さないといけないのだろうか。
――荻原にはああ言ったけど、正直、四谷のことにはあんまり口出したくないんだよなぁ。
自意識過剰ではなく、原因の一端が自分にあると理解しているので。堪え切れず溜息を吐いたところで、目前に迫っていた寮の扉が内側から開いた。
「茅野さん」
「なんだ、今日も遅いな」
タイミングの良さに驚いた皓太と正反対のいつもどおりの調子で扉を閉めて、茅野が石段を下りて近づいてくる。
「はじめはしかたがないと思うが。オーバーワークまで成瀬を真似るなよ」
慣れたつもりになったころに無理が出るぞ、と笑われて、皓太も苦笑を返した。
「それ、向原さんにも言われました」
「そうか」
らしいなという調子で頷いた茅野が、まぁ、と話を続ける。
「そういうことだ。あまり無理はしないようにな」
「はい。……あの」
「なんだ?」
早々に通り過ぎようとした茅野を呼び止めたのは、ほとんど反射だった。
「なにか聞きたいことでも?」
「いや」
あっさりとした、先ほどと変わらないいつもどりの笑顔。けれど、皓太は結局その先を呑み込んだ。
聞けば答えてくれるのかもしれないけれど、向こうから言わないものを、この段階であえて聞くことはないと思ったからだ。
「なんでもないです。すみません、引き留めて」
「ならいいが」
すんなりと納得したそぶりに、正解の反応だったらしいと悟る。再び歩き始める手前で、ふと思い出したという調子で茅野が言い足した。
「オーバーワークまで真似をするなとは言ったが、頼る相手は今のメンバーにしておけよ。そうじゃないと意味もないし、せっかく残ることを選んだ二年が気の毒だ」
「そうですよね。そうします」
「それに、……まぁ、おまえはわかっていると思うが、成瀬も成瀬で忙しいだろうからな。追い込み時くらい、受験に専念させてやれ」
軽い口調ながらも、ぐさりと釘を刺された気分だった。ただ、そのとおりだとわかってもいたので、「ですね」と頷く。
ちょうど寮に戻る道中で考えていたことでもあった。
そのまま茅野と別れて、寮の中に入る。部屋に向かう途中、談話室の前を通ったが、滞在している数人の同級生の輪に、四谷の姿はなかった。
自分と時間が合わなくなっただけだと考えていたかったのだが、たしかに最近はほとんどここで顔を見ていなかったかもしれない。
――ありがたいけど、荻原ばっかりに任せるのもよくないんだろうな、本当。
今までは、たぶん、本当に、三年生に手厚いくらいにフォローしてもらっていた。選挙に出るという話をしたとき、そういうこともできるようにならないといけない、ということを諭されはしたけれど、そのあとも、ずっと。
――でも、だから、脱却しないといけないんだよな、口先だけじゃなくて。
自分が今座っている場所が、彼らに用意され与えられたものであったとしても、座ることを決めた以上は、自分の力で自分の場所にしていかないといけない。
そう認めてもらうことができるように、していかないといけない。
……わかっていたつもりのことだけど、難しいな。
経験も年齢も違うと言ってしまえばそれまでではあるけれど、今の自分が、あの人たちとまったく同じことをできるとは、皓太には到底思うことができなかった。
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