パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 2 ①

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[2]


 ――なんで、俺、なんでもない顔のひとつくらい維持できないんだろ。

 数日前の生徒会室での失態を思い出して、行人は深い深い溜息を吐き出した。
 あの場に二年生の先輩たちがいなかったことは不幸中の幸いかもしれないが、高藤は呆れ切った顔をしていた気がするし、居合わせた荻原も生温かい表情を隠さなかった。
 次々と連想されていく映像に、どんどんと視線が下を向いていく。今日も今日とて昼休みに生徒会室に向かおうとしているのだから、なおのことだ。
 ついでに言っていいのであれば、あれほど呆れた顔をしていたくせに、決定的なことは最後まで口にされなかったことも、気を遣われていることが丸わかりで。だから、どうしたって居た堪れない。

 ――なにが、べつに来たかったら、本当にぜんぜん来ていいんだけど、だよ。

 寮の部屋で改めて告げられた台詞を内心で繰り返して、ぐっと眉間に力を入れる。うつむいていた顔を上げて、教室のあるフロアの廊下を曲がろうとした、その瞬間。自分を呼ぶ声が聞こえて、行人はびくりと立ち止まった。

「ごめん、榛名。ちょっと待って」
「……岡」

 四谷も一緒にいるのではないかと構えていた行人は、振り返った先にその姿がなかったことにひとまずほっと息を吐いた。

「今日も生徒会なんだよね。やっぱり忙しいんだ?」
「あ、……うん。その、まだ変わったばっかりだし」

 そんなつもりはないとわかっていても、逃げていると責められている気がして、つい受け答えがしどろもどろになる。その反応に、岡が素直に困った表情で笑った。

「そんなに構えなくても。本当、ただの世間話」
「あ、……うん」
「追いかけてまですることかって感じかもだけど。ほら、最近、寮でも、教室でもぜんぜん喋ってなかったから」
「……いや、うん。そうだよな」
「そう、そう。生徒会は高藤もいるし、あ、荻原もちょいちょい顔出してるんだっけ? 楽しいと思うけど、また教室でも喋ったりしようよ」

 申し訳ないくらい気を遣われているなぁと思いつつも、うん、と頷く。
岡に対しては、気を遣うなと腹が立つことはないので、あの感情は高藤限定なのかもしれないとも疑いながら。

「四谷も、そう思ってるみたいだし」

 努めてなんでもないふうに続いた台詞に、一拍置いて行人はもう一度頷いた。

「ありがと。時間できたら、そうする」
「うん」

 じゃあ、また。がんばってね。人当たりの良い笑顔に、ぎこちなく手を振り返して、踵を返す。
 けれど、生徒会室にそのまま向かう気にはどうにもなれなかった。角を曲がり、岡から見えなくなっただろうあたりで進む方向を変える。
 そうは言っても、遊びに訪れることのできる友人のいる教室もないし、よく知らない場所をひとりでふらふらとする気力もない。

 ……図書室で適当に時間潰そうかな。

 昼休みに生徒会室に顔を出さなければ、高藤もそれはそれでほっとするのかもしれないし。
 と、ごく自然と考えたところで、行人は自分の自虐的な思考に呆れた。自虐的というか、これでは、なんだか、勝手に悲劇の主人公ぶっているみたいで、そういう人間が、自分は一番嫌いなはずだった。
 静かに溜息を呑み込んで、図書室に向かって足を速める。

 自分は恵まれているのだ、と思う。アルファではないけれど、家族はみんな優しかった。
 過剰に心配されることが嫌だったというだけで、オメガだからと蔑まれことはないし、アルファの兄に対するものと同じだけの愛情をもらって成長したと思っている。
 この学園に入ったことも、――それは、まぁ、アルファの兄に負けたくないという意地も大きかったけれど、でも、最終的には自分の意志で決めたことで、それで、縁を大事にしたいと思うことのできる人たちに、会うことができた。
 誰になんと言われようともそれは、自分が自分の努力で掴んだ財産だ。
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