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第三話
15.
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懐かしい夢を見た、と感じるより、嫌なことを思い出してしまったと言う感覚が強かった。
「……何やってんだ、俺」
ぐしゃりと前髪を掻き交ぜて、視線をシーツに落とす。
視界に入った下腹部が無視できない反応を示していて、どうにもならない溜息を吐いた。言葉にするなら、軽い絶望。いくら生理現象だと言い聞かせてみたところで、先ほどまで見ていた夢がシャレにならない。
半ば義務のような心地で、熱を擡げている下半身に触れる。
夢精していなかったことに、少しだけ安堵した。覚えたての中学生じゃあるまいし、そんなことになってた日には立ち直れない。
――先輩も、俺の触って?
夢の続きのように、不意に耳の奥で折原の声がした。
一度だけした抜きあいは、男同士の悪ふざけの延長とは言い切れない色を含んでいたのだと、認めないわけにはいかなかった。
でも、こんなこと、もうずっと思い出してなんていなかったのに。それはずっと封印してきた記憶だった。
――先輩、
「―――っ……!」
また耳鳴りのように折原の声がしたと思ったのと、手の中で欲が吐き出されたのが同時だった。
底知れない脱力感に負けて、処理もそこそこに再びベッドに寝転がってしまった。
「最悪だろ、これ……」
漏れ出た声は、我ながらひどく頼りなかった。
たぶん俺は、あのときに言うべきだったんだ。
なにをやってるのだ、と。
俺はそんなものに興味はないと、そう口にするべきだったんだ。
俺が後悔しているとするのなら、そこなのだろうか。
**
そのまま不貞寝して得ていた惰眠の終わりは、チャイムの音と枕元に置いて居た携帯電話のけたたましい着信音によってもたらされた。
重い頭をなんとか持ち上げる。薄いカーテン越しに、容赦なく熱い光が差し込んできていて、あぁだいぶ寝過ごしたなと鳴り止まない携帯電話に手を伸ばす。チャイムの音は、どうせ勧誘だろう。
時刻は、とうに三時を過ぎていた。
「もしもし?」
「おい、佐野ー。おまえ、日曜だからっていつまで寝てんだよ、頭くさんぞー」
「なんで寝てったって決めつけてんだ」
いや、寝てたけども、だ。寝起きの頭に庄司の賑やかな声ががんがんと響いて、思わず通話口から耳を少し離してしまった。
何か約束でもしていたかなと記憶をたどっていると、ピンポンとタイミング良くまたチャイムが鳴った。
「庄司」
「んー、なんだよ」
「おまえ、今、どこにいる?」
「え、佐野の家の前だけど」
それが何かと言わんばかりの口調に、やはりかと俺は盛大にため息を吐き出した。聞こえているだろうけれど気にはしない。わざとだ。
「起きたんなら早く、中入れてー、佐野くん。地味にここ太陽直射で暑いんだけど」
「知るかそんなもん。分かったからちょっと待て。二分待て」
「えー別に汚くても全然いいけど。っつか今更じゃん」と笑うのに、「俺が構うんだよ」と言い返して、そのまま通話を打ち切った。
一度目の目覚めの際の罪悪感を感じている暇もなく、窓をがらりと開ける。そして放置していた残骸を適当に風呂場に突っ込んで、とりあえずとばかりに顔だけを冷水で洗う。
少しだけ、冴えたような気がする。
あんなの、もう二度と思い出すようなことになったら駄目だ。
そう言い聞かせる。洗面台に設置してある鏡に映る自分は、当たり前だけれど、あのころより大人びた顔をしていた。
「……何やってんだ、俺」
ぐしゃりと前髪を掻き交ぜて、視線をシーツに落とす。
視界に入った下腹部が無視できない反応を示していて、どうにもならない溜息を吐いた。言葉にするなら、軽い絶望。いくら生理現象だと言い聞かせてみたところで、先ほどまで見ていた夢がシャレにならない。
半ば義務のような心地で、熱を擡げている下半身に触れる。
夢精していなかったことに、少しだけ安堵した。覚えたての中学生じゃあるまいし、そんなことになってた日には立ち直れない。
――先輩も、俺の触って?
夢の続きのように、不意に耳の奥で折原の声がした。
一度だけした抜きあいは、男同士の悪ふざけの延長とは言い切れない色を含んでいたのだと、認めないわけにはいかなかった。
でも、こんなこと、もうずっと思い出してなんていなかったのに。それはずっと封印してきた記憶だった。
――先輩、
「―――っ……!」
また耳鳴りのように折原の声がしたと思ったのと、手の中で欲が吐き出されたのが同時だった。
底知れない脱力感に負けて、処理もそこそこに再びベッドに寝転がってしまった。
「最悪だろ、これ……」
漏れ出た声は、我ながらひどく頼りなかった。
たぶん俺は、あのときに言うべきだったんだ。
なにをやってるのだ、と。
俺はそんなものに興味はないと、そう口にするべきだったんだ。
俺が後悔しているとするのなら、そこなのだろうか。
**
そのまま不貞寝して得ていた惰眠の終わりは、チャイムの音と枕元に置いて居た携帯電話のけたたましい着信音によってもたらされた。
重い頭をなんとか持ち上げる。薄いカーテン越しに、容赦なく熱い光が差し込んできていて、あぁだいぶ寝過ごしたなと鳴り止まない携帯電話に手を伸ばす。チャイムの音は、どうせ勧誘だろう。
時刻は、とうに三時を過ぎていた。
「もしもし?」
「おい、佐野ー。おまえ、日曜だからっていつまで寝てんだよ、頭くさんぞー」
「なんで寝てったって決めつけてんだ」
いや、寝てたけども、だ。寝起きの頭に庄司の賑やかな声ががんがんと響いて、思わず通話口から耳を少し離してしまった。
何か約束でもしていたかなと記憶をたどっていると、ピンポンとタイミング良くまたチャイムが鳴った。
「庄司」
「んー、なんだよ」
「おまえ、今、どこにいる?」
「え、佐野の家の前だけど」
それが何かと言わんばかりの口調に、やはりかと俺は盛大にため息を吐き出した。聞こえているだろうけれど気にはしない。わざとだ。
「起きたんなら早く、中入れてー、佐野くん。地味にここ太陽直射で暑いんだけど」
「知るかそんなもん。分かったからちょっと待て。二分待て」
「えー別に汚くても全然いいけど。っつか今更じゃん」と笑うのに、「俺が構うんだよ」と言い返して、そのまま通話を打ち切った。
一度目の目覚めの際の罪悪感を感じている暇もなく、窓をがらりと開ける。そして放置していた残骸を適当に風呂場に突っ込んで、とりあえずとばかりに顔だけを冷水で洗う。
少しだけ、冴えたような気がする。
あんなの、もう二度と思い出すようなことになったら駄目だ。
そう言い聞かせる。洗面台に設置してある鏡に映る自分は、当たり前だけれど、あのころより大人びた顔をしていた。
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