夢の続きの話をしよう

木原あざみ

文字の大きさ
72 / 98
第十二話

70.

しおりを挟む
 自宅マンションの集合ポストに入っていた封筒を手に取って、あぁ、もうそんな時期になっていたかと思い出した。結婚式の招待状。庄司と栞。結局、大学を卒業する少し前から付き合いだした二人だったが、とうとう結婚を決めたと聞いたのは去年の冬に会った時だった。招待状を送るからよろしくねと言う連絡もそう言えば春先に貰っていた。

「結婚、か」

 たぶん、大学時代の男の友人の中では庄司が一番乗りだ。ゼミが同じだった女の子の二次会には就職してすぐに一度行った記憶がある。
 働き始めて、二年目。付き合っている彼女がいれば、そうなるのは自然なことなのかもしれない。

 ――まぁ、今の時代、絶対にしないといけないと言うこともないんだろうけど。

 早いうちに返しておかないとな、と出席に丸を付けて、玄関の脇に置く。パソコンから離れたところに置いたのは、半分は無意識だった。
 おまえがいくら勝手に望んだところで、折原は結婚なんてしないだろう。そう言ったのは、富原だったし、言われてみればそうだなとは思った。
 俺がいたから結婚しないのだろうと考えるのは、さすがにおこがましい。次いで言うなら、それが世間一般で言うところの普通だと押し付ける考えがおかしいのだとも、一応分かっている。
 分かっているのに、それが良いと思ってしまうエゴとしか言いようのないそれが、富原の言うところの「子離れできない過保護な母親」の立ち位置なのだろうと言うことも。

 ――こういった節目にぶつかるたびに、こんなことを考えてたら、どうしようもないな。

 それも一応、分かっているつもりだ。変わっていかなければならない。願望と言うよりかは、そうであれ、と呪文のように唱えている。
 置きっぱなしになっていた携帯電話が目に付いて、そう言えば確認していなかったなと画面を開く。メッセージが一つ届いていた。差出人の名前に微かに目元が緩む。最近では、懐かしくない名前だ。けれど、いや、だからこそ、なのかもしれないが、どこか面映い。
 添付されていたのは、自分は知らない遠い異国の朝焼けの写真だった。折原は昔から、案外とメールは静かだ。必要なことを淡々と書いて送ってくるだけ。
 きれいだったから、先輩にも見て欲しくて。今度、一度、遊びに来てくださいね。
 その文面をそっと指先でなぞる。きれいなもの。感動したもの。美味しいと思ったもの。そう言ったことを感じた瞬間に、共有したいと思い描いた人が大切な相手なのだと言っていたのは、誰だっただろう。
 不意に、遠いところにいると思った。
 世界は、機械一つで繋がっている。その気さえあれば、いつだって逢いに行けるし、声も聞ける。顔を見ることもできる。
 けれど、こんなにも今、遠い。
 逢わないどころか、声も聞かない期間はもっとずっとあった。あの年月の方が、ずっと長かったはずだ。それなのに、今になってこんなことを思う。
 これが、寂しいと言う感情なのだろうか。

 ――贅沢だ、と思った。

 一つを手に入れれば、いつかそれを持っていることが当たり前になって、さらに次へと手が伸びる。そうなった場合、最後に行きつくところはどこなのだろうと思うことがある。
 結婚ができるわけでもなく、子どもを産めるわけでもない。この先も一緒にいたいと言う、その「先」の終わりはどこにあるのか。明確なゴールがないと言うことは、自由で、そして、恐ろしい。

 ――ろくなことを考えないな、俺は。

 けれど、それも昔からなのかもしれない。昔から、一人で物事を考えて、楽しい方向に転がしたことがない。
 そうでなくするために、誰かの手助けが必要だと言うならば。
 逢いたい、と思った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿
BL
夢を追い求める三男坊×無気力なひとりっ子 孤独な幼少期を過ごしていたルイ。虫や花だけが友だちで、同年代とは縁がない。王国の一人っ子として立派になろうと努力を続けた、そんな彼が隣国への「嫁入り」を言いつけられる。理不尽な運命を受けたせいで胸にぽっかりと穴を空けたまま、失意のうちに18歳で故郷を離れることになる。 行き着いた隣国で待っていたのは、まさかの10歳の夫となる王子だった、、、、 8歳差。※性描写は成長してから(およそ35、36話目から)となります

黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~

ひなた翠
BL
小野寺真弥31歳。 転職して三か月。恋人と同じ職場で中途採用の新人枠で働くことに……。 朝から晩まで必死に働く自分と、真逆に事務所のトップ2として悠々自適に仕事をこなす恋人の小林豊28歳。 生活のリズムも合わず……年下ワンコ攻め小林に毎晩のように求められてーー。 どうしたらいいのかと迷走する真弥をよそに、熱すぎる想いをぶつけてくる小林を拒めなくて……。 忙しい大人の甘いオフィスラブ。 フジョッシーさんの、オフィスラブのコンテスト参加作品です。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...