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袖振り合うも他生の縁
15:南凛太朗 1月3日22時34分 ②
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「でも、あたし、ハルちゃんもだけど、凛太朗が酔ったところも見たことないな。ねぇ、凛太朗。ハルちゃんが酔うことある?」
「ないな」
「やっぱり。じゃあ、凛太朗は?」
「ねぇよ」
グラスに日本酒を注ぎながら、おざなりに否定する。「なぁんだ」とつまらない声を出した月子に、春風が口を挟んだ。
「いや、一回だけ見たことあるよ、俺」
「本当?」
「さすがの俺もびっくりしたけどね。このワクが酔い潰れるとか、どれだけ飲んだんだって話でしょ。おまけに、介抱してる俺に思いっきりゲロぶっかけるしさぁ」
「……悪かったな」
「いや、まぁ、それはいいんだけど。それだけ飲んでも泣けないんだもん。馬鹿だねぇって思ったら、逆にかわいく見えてきちゃって」
くすくすと春風は笑っている。
自分をかわいいと表現するのは、この男くらいのものである。やめろと言いたかったが、南は言葉を呑み込んだ。
悲しいかな、酒で記憶が飛ぶ性質ではないので、すべて覚えてしまっているのだ。その前提で、どう文句が言えようか。
「思わず俺の胸を貸しちゃったね。まぁ、ゲロまみれになっただけだったんだけど」
「さすが、ハルちゃん。優しい」
きゃっきゃっと楽しそうな月子の声を聞きながら、グラスに口をつける。春風がその話をするとは思わなかったな、と思いながら。
昨日まで元気だった人間が、あっさりといなくなることがある。いつまでもいると思い込んでいた人間が、忽然と消えることがある。そんなことを、思い知った夜だった。
だからというわけではないものの、あの夜を終えてからの南は、新しい対人関係が億劫になった。今ある人間関係だけで十分と思うようになった。
あの町にいれば、それで問題はなかった。昔から南を知る人間しかいない町で、穏やかで代わり映えのない、退屈ながらも幸せな日々が続いていく。
そのはずだったのに。いつのまにか南の日常に新しい顔が入り込んだ。そうして、距離感を誤りそうになった。
これ以上、亡くして怖い人間は要らない。
「そういえば、さ」
こちらに向いた声に、思考に蓋をして顔を上げる。ほほえむ月子の顔は華やかだった。出会った当初は、飛び抜けてかわいいわけでも美人なわけでもない「ふつうの女子大生」だったのに。カメラの前に立つようになり、どんどんときれいになった。魅惑的になった。
時東もそうだったのだろう。電話で話していたときにも思ったことだ。自分とはもう違う世界に立っている。
「あの子、誰にも個人的な連絡先教えないことで有名なんだよね。凛太朗、よく知ってたね」
その問いかけに、南は言葉を呑んだ。けれど、ほんの少しのことだった。酒を舐め、いつもと変わらない淡々とした調子で応じる。
「都合が良かったんだろ、ちょうど」
家を間借りしている人間として。あるいは、都合の良い避難先への連絡手段として。
「凛」
かげった春風の声に、仕方なく視線を合わせる。付き合いが長いと言ってしまえばそれまでだが、簡単に変化を読み取るから困るのだ。
「どうかした?」
「いや」
おそらく。強いて言うならば、今までがどうかしていたのだろう。それに気づくことができたから、だから、問題はなにもない。
「どうもしない」
自分が言い切ってしまえば、春風はそれ以上を問わないと知っていた。案の定、春風は「そう」と頷いただけだった。
残りを飲み切って、テーブルにグラスを置く。すべて、昔の話だ。
まだ大学生だったころ。両親も健在で、都会で好き勝手に遊んで暮らしていたころ。数多く会ったわけでもなかったのに、なぜか妙に自分に懐いた少年がいた。
「ないな」
「やっぱり。じゃあ、凛太朗は?」
「ねぇよ」
グラスに日本酒を注ぎながら、おざなりに否定する。「なぁんだ」とつまらない声を出した月子に、春風が口を挟んだ。
「いや、一回だけ見たことあるよ、俺」
「本当?」
「さすがの俺もびっくりしたけどね。このワクが酔い潰れるとか、どれだけ飲んだんだって話でしょ。おまけに、介抱してる俺に思いっきりゲロぶっかけるしさぁ」
「……悪かったな」
「いや、まぁ、それはいいんだけど。それだけ飲んでも泣けないんだもん。馬鹿だねぇって思ったら、逆にかわいく見えてきちゃって」
くすくすと春風は笑っている。
自分をかわいいと表現するのは、この男くらいのものである。やめろと言いたかったが、南は言葉を呑み込んだ。
悲しいかな、酒で記憶が飛ぶ性質ではないので、すべて覚えてしまっているのだ。その前提で、どう文句が言えようか。
「思わず俺の胸を貸しちゃったね。まぁ、ゲロまみれになっただけだったんだけど」
「さすが、ハルちゃん。優しい」
きゃっきゃっと楽しそうな月子の声を聞きながら、グラスに口をつける。春風がその話をするとは思わなかったな、と思いながら。
昨日まで元気だった人間が、あっさりといなくなることがある。いつまでもいると思い込んでいた人間が、忽然と消えることがある。そんなことを、思い知った夜だった。
だからというわけではないものの、あの夜を終えてからの南は、新しい対人関係が億劫になった。今ある人間関係だけで十分と思うようになった。
あの町にいれば、それで問題はなかった。昔から南を知る人間しかいない町で、穏やかで代わり映えのない、退屈ながらも幸せな日々が続いていく。
そのはずだったのに。いつのまにか南の日常に新しい顔が入り込んだ。そうして、距離感を誤りそうになった。
これ以上、亡くして怖い人間は要らない。
「そういえば、さ」
こちらに向いた声に、思考に蓋をして顔を上げる。ほほえむ月子の顔は華やかだった。出会った当初は、飛び抜けてかわいいわけでも美人なわけでもない「ふつうの女子大生」だったのに。カメラの前に立つようになり、どんどんときれいになった。魅惑的になった。
時東もそうだったのだろう。電話で話していたときにも思ったことだ。自分とはもう違う世界に立っている。
「あの子、誰にも個人的な連絡先教えないことで有名なんだよね。凛太朗、よく知ってたね」
その問いかけに、南は言葉を呑んだ。けれど、ほんの少しのことだった。酒を舐め、いつもと変わらない淡々とした調子で応じる。
「都合が良かったんだろ、ちょうど」
家を間借りしている人間として。あるいは、都合の良い避難先への連絡手段として。
「凛」
かげった春風の声に、仕方なく視線を合わせる。付き合いが長いと言ってしまえばそれまでだが、簡単に変化を読み取るから困るのだ。
「どうかした?」
「いや」
おそらく。強いて言うならば、今までがどうかしていたのだろう。それに気づくことができたから、だから、問題はなにもない。
「どうもしない」
自分が言い切ってしまえば、春風はそれ以上を問わないと知っていた。案の定、春風は「そう」と頷いただけだった。
残りを飲み切って、テーブルにグラスを置く。すべて、昔の話だ。
まだ大学生だったころ。両親も健在で、都会で好き勝手に遊んで暮らしていたころ。数多く会ったわけでもなかったのに、なぜか妙に自分に懐いた少年がいた。
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