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笑う門には福来る
23:時東悠 1月26日17時05分 ①
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「だから。本当にいいって。いいから、大丈夫」
玄関からこの台詞が聞こえるのは、たぶん、これで三度目だ。
回数を重ねるごとにうんざりとしていくさまがおもしろく、時東はそっと眦を下げた。聞き耳を立てるものではないとわかっていても、つい耳を澄ましてしまう。
まぁ、居間にいる以上、ある程度はしかたがないということにしておく。
少しでも役に立ちたいという健気な決心で、作業場を二階から移したはいいものの、来客対応を代わることは、いろんな意味で難しい。
そんなわけで、呼び鈴が鳴るたびに、結局、南が重い腰を上げているのだった。
春風が帰ってすぐに訪ねてきたのが、そもそもの原因だったらしい榊のおばあちゃんで、煮物の入った鍋を抱えてのご来訪だった。
ありがたいけど、帰るときに転ぶなよ、なんて。心配して外まで見送りに行く様子は、春風の言ではないけれど、本当に祖母と孫という感じだった。
そうしてふたり目が、「どうせ怪我するなら、凜ちゃんじゃなくて、うちのろくでなしならよかったのにねぇ」と笑いながら現れた春風の母親で。
増えたタッパーを抱えた南に「おまえがいてよかった」と言われたわけだが、どうせなら違う意味で聞きたかったな、と思う。
「そんなこと言ったって、その足、半分は春香のせいなんでしょ? それを聞いたらさすがに放っておくのも悪いじゃない」
それで今回の三人目が、件の少女の母親であるらしい。
姉弟のやりとりのようでほほえましいものの、遠慮ではなく本当に要らないと言っていることもわかるので、ほんの少し気の毒だ。
――なんていうか、南さんって押しに弱いんだよな。
なんだかんだと言ったところで、人が良くできているに違いない。
なにせ、さした交流のなかった人間を、家にぽんと何日も泊めるくらいだ。自分だったら絶対にできない。
「だから、本当に大丈夫だって。春香のせいじゃないし、ひとりで問題ないし。仮に問題が起きても春風呼んだらいいんだし」
「そんなこと言って。あんた、いざってときに誰も頼らないじゃない。いいから、ちょっと甘えておきなさい」
「だから、ひとり暮らしの男の家に入り込むな。おい、麻美!」
「なによ、昔は麻美お姉ちゃんって智春と一緒にあたしの後を付いて回ってたくせに……って、え?」
近づいてくる声の勢いのまま、がらりと居間の障子戸が開く。
あ、この人も春風さんと同類だ。こう、なんというか、躊躇なく人の家に入ってくるタイプ。そんなことを考えながら、時東はにこりとほほえんだ。笑う以外にどうするべきか、ちょっとわからなかったので。
「え? え? 時東はるか!?」
思いきり指を指されてしまったものの、愛想笑いのまま曖昧に首を傾げる。
追いついた南が時東よりもよほど頭の痛い顔をしていたが、これはもう南のせいだとか、そういう話ではないだろう。
むしろ、今まで誰にもバレなかったことが奇跡なのだ。そういったわけだったので、「べつになにも気にしていませんよ」を体現する調子で、時東は愛想の良い声を出した。
「あ、どうも。こんにちは」
それに、まぁ、南の知人と思えば、愛想を振ることくらい、まったくわけはなかったので。
にこりと向けた笑顔の奥。珍しく苦い顔で、南は溜息を吐いていた。
[23:時東悠 1月26日17時05分]
玄関からこの台詞が聞こえるのは、たぶん、これで三度目だ。
回数を重ねるごとにうんざりとしていくさまがおもしろく、時東はそっと眦を下げた。聞き耳を立てるものではないとわかっていても、つい耳を澄ましてしまう。
まぁ、居間にいる以上、ある程度はしかたがないということにしておく。
少しでも役に立ちたいという健気な決心で、作業場を二階から移したはいいものの、来客対応を代わることは、いろんな意味で難しい。
そんなわけで、呼び鈴が鳴るたびに、結局、南が重い腰を上げているのだった。
春風が帰ってすぐに訪ねてきたのが、そもそもの原因だったらしい榊のおばあちゃんで、煮物の入った鍋を抱えてのご来訪だった。
ありがたいけど、帰るときに転ぶなよ、なんて。心配して外まで見送りに行く様子は、春風の言ではないけれど、本当に祖母と孫という感じだった。
そうしてふたり目が、「どうせ怪我するなら、凜ちゃんじゃなくて、うちのろくでなしならよかったのにねぇ」と笑いながら現れた春風の母親で。
増えたタッパーを抱えた南に「おまえがいてよかった」と言われたわけだが、どうせなら違う意味で聞きたかったな、と思う。
「そんなこと言ったって、その足、半分は春香のせいなんでしょ? それを聞いたらさすがに放っておくのも悪いじゃない」
それで今回の三人目が、件の少女の母親であるらしい。
姉弟のやりとりのようでほほえましいものの、遠慮ではなく本当に要らないと言っていることもわかるので、ほんの少し気の毒だ。
――なんていうか、南さんって押しに弱いんだよな。
なんだかんだと言ったところで、人が良くできているに違いない。
なにせ、さした交流のなかった人間を、家にぽんと何日も泊めるくらいだ。自分だったら絶対にできない。
「だから、本当に大丈夫だって。春香のせいじゃないし、ひとりで問題ないし。仮に問題が起きても春風呼んだらいいんだし」
「そんなこと言って。あんた、いざってときに誰も頼らないじゃない。いいから、ちょっと甘えておきなさい」
「だから、ひとり暮らしの男の家に入り込むな。おい、麻美!」
「なによ、昔は麻美お姉ちゃんって智春と一緒にあたしの後を付いて回ってたくせに……って、え?」
近づいてくる声の勢いのまま、がらりと居間の障子戸が開く。
あ、この人も春風さんと同類だ。こう、なんというか、躊躇なく人の家に入ってくるタイプ。そんなことを考えながら、時東はにこりとほほえんだ。笑う以外にどうするべきか、ちょっとわからなかったので。
「え? え? 時東はるか!?」
思いきり指を指されてしまったものの、愛想笑いのまま曖昧に首を傾げる。
追いついた南が時東よりもよほど頭の痛い顔をしていたが、これはもう南のせいだとか、そういう話ではないだろう。
むしろ、今まで誰にもバレなかったことが奇跡なのだ。そういったわけだったので、「べつになにも気にしていませんよ」を体現する調子で、時東は愛想の良い声を出した。
「あ、どうも。こんにちは」
それに、まぁ、南の知人と思えば、愛想を振ることくらい、まったくわけはなかったので。
にこりと向けた笑顔の奥。珍しく苦い顔で、南は溜息を吐いていた。
[23:時東悠 1月26日17時05分]
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