運命じゃないエンドロール

木原あざみ

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光の聖女編

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 この人を幸せに導くことが、自分の使命なのだと十八年信じていた。

 美しい銀色の髪が帳になり、世界を塞ぐ。冷たく自分を見下ろす蒼玉に、サイラスは吐息を震わせた。
 彼がこれほどまでの怒りを抱く理由がわからない。彼。ハロルド・ブライアント皇太子殿下。ブライアント王国の第一王位継承者で、唯一と決めた自身の主。
 その彼の指がシャツをめくり、火照った肌を辿ったところで、サイラスはようやく我に返った。

「殿下」

 ふたりきりの場面で許される愛称ではなく敬称を選び、力の入らない腕を持ち上げる。そっと触れた彼の胸板は、最後に触れた当時より随分と厚くなっていた。

「子どものころのようなお戯れは」

 精巧な彫刻のような美貌からわずかに視線を外し、サイラスは諭す調子で言い募った。乳兄弟でもある彼に、幼いころに幾度となく言ったことだ。

「あなたは光の聖女と」
「また未来視か」

 光の精霊の祝福を受ける彼と、我が国に数十年ぶりに現れた精霊と意思疎通を行う光の聖女。彼女と出逢い、幸福になるという祝福。だが、ハロルドはいかにも不快そうに切り捨てた。

「おまえの未来視に興味はない」
「……ですが」

 おのれの主に一蹴されてなお、決死の思いで食い下がる。それが正しいと信じていたからだ。
 もう、半年は前になるのだろうか。田舎の男爵令嬢であった光の聖女が、王族や上流貴族の息男息女が在籍する王立高等学園に入学を特別に許可されたとき。サイラスは、物心ついたころからうっすらとあった記憶が本物だったと知った。
 前世の記憶とはっきり言い切ることができるほど、鮮明に覚えていたわけではない。だが、明瞭なことはふたつあったのだ。
 この世界はかつて自分が生きた世界にあった娯楽――乙女ゲームの世界に酷似しているということ。もうひとつが、光の聖女たるヒロインが王子を選ぶルートが王道のハッピーエンドだということ。
 だから、サイラスは、彼女が間違いなく彼を選ぶよう、尽力したつもりだ。

「彼女は」
「彼女はなんだ」

 苛立った瞳に押し負けず、サイラスは今度こそまっすぐに彼を見上げた。幼いころからずっとそばにあった、唯一無二の宝玉。この国の宝なる人。

「あなたの運命です」

 闇の精霊の加護しか持たず、王家に逆らう勢力を排除することでしか支えることのできない自分とは違う、誰からも愛される光の聖女。
 その彼女と幸せになってほしいと望んだ。願った自分の望みのなにが間違いだったのか、なにが彼の逆鱗に触れたのか。この期に及んで、サイラスには皆目見当がつかなかった。
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