悪役令嬢は我が道を進みます

春野いろ

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お嬢様は暇つぶしを求めます

ストーリー4

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「お気に召したようで良かったです。しかしながら国王の御子息とお見合いするにあたりいくつか問題がありまして……」

「問題? 何よ、言ってみなさい」

「まず、国王の御子息はお嬢様宛に届いた見合い写真から選んだのではありません。見合い写真に一通り目を通しましたが、あの中にお嬢様に相応しいお相手はいませんでした。そこでお嬢様の好みそうな男性を私が独断で探してまいりました」

「ふーん、まぁさすが執事ね。わたくしの好みをちゃんと把握しているなんて」

 お嬢様が顔はともかく『地位』と『権力』を重視している事は執事の中では常識なのだろう。

「そこで問題といいますのが、国王の御子息と結婚するにはこちら側からお見合いを申し込まなくてはいけません」

「わたくしがお願いする立場ですって? 冗談じゃないわ」

「では、この話はなかった事にしてよろしいですか?」

「ぐぬぬ」

 チエリーは椅子の手すりをガシッと力強く掴み、悔しそうな表情を見せる。自分で選ぶ立場から選ばれる立場になったのが屈辱的らしい。

「……そう簡単に地位と権力は手に入らないってことね。まぁいいでしょう、話を進めなさい」

「分かりました。ではまず見合い用の写真をお作りしましょう。こちらに着替えていただいてもよろしいでしょうか?」

 執事は衣装を着せた二体のマネキンをチエリーの前に差し出す。

「……何これ?」

「地の世界に合わせた衣装を二着準備致しました。好きな方をお選び下さい」

 チエリーは椅子から立ち上がり、執事の用意した二着の衣装をマジマジと見て眉間にしわを寄せる。

 一つ目のマネキンが着ている衣装は魔界には絶対ない真っ白のドレス、二つ目のマネキンが着ている衣装も魔界にはない赤い服に大きな花をあしらえた着物と呼ばれる衣装だった。

「どっちもセンスない服ね。こんなの着れるわけないでしょう。今着ている黒ドレスでいいわ」

 チエリーは執事に言葉を投げ捨ててまた椅子に座る。

「いえ駄目です。今のままでは写真を見て見合いを断られてしまいます」

「何でよ?そんなの分からないじゃない」

「私が調べたところ、国王の御子息は『おしとやか』で『清楚』な女性を好むようです。ですから見合いにあたり魔界色を消して頂かなくてはなりません」

「おしとやか? 清楚? 何それ、美味しいの?」

 チエリーは聞き慣れない言葉ワードにキョトンとしている。

「つまり、今のお嬢様とは真逆の『聖女』を演じれば良いのです。まぁこの辺は私が演技指導致しましょう」

 チエリーは執事の言う事が理解できず、ますますキョトンとなった。

「よく分からないけど、このどっちかの服を着れば見合いが上手くいくのね? じゃあ百歩譲ってこの血の色をした衣装にするわ。これで見合いが失敗したら許さないわよ」

 チエリーは赤い着物を選び、お見合い作戦が始まった。
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