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臨時のお仕事
ストーリー49
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「では皆さん今日もよろしくお願いします。水沢さんは社長室に挨拶に行きましょうか」
「は、はい」
私は勢いよく立ち上がった。そして高瀬さんと一緒にまたエレベーターに乗り、最上階にある社長室に向かう。
ーー コンコン
「失礼します。水沢 明日香さんをお連れしました」
社長室に入ると、進藤さんの香水の匂いがした。その香りが私の緊張を和らげてくれる。そして顔を上げると目の前には進藤さんが座っていた。
「高瀬、仕上がりは?」
「えぇ、今のところ順調です」
「そうか。水沢さん、社長秘書は出来そうですか?」
仕事モードの進藤さんが笑みを浮かべて真っ直ぐな目で私を見る。正直、まだ不安しかないけど……。
「出来ます。お任せ下さい」
「頼もしいな」
私は満面の笑みで答えた。不安は顔に出すな、いつでも自信たっぷりの顔を見せろ……高瀬さんの教えだ。
「社長、今日のスケジュールですが……」
一通りルーティンワークが終わると、高瀬さんが私の方を向く。
「朝はこんな感じだから流れを覚えて、明日は明日香ちゃんがやってね」
仕事スイッチを切ったのか社長室に張り詰めていた緊張感が消えた。
「ケイスケ、三十分だ。三十分だけ明日香ちゃんを残して俺は席を外す」
「気がきくじゃないか」
「間違っても勤務中にやらしい事するなよ、社長」
それだけ言い残して、高瀬さんは社長室を出た。社長室には私と進藤さんが二人きりになった。
「久しぶりだな、明日香。と言っても二日ぶりか」
進藤さんは社長椅子から立ち上がって、来客用ソファーに座る。そして隣に座れと無言でソファーの上をトントンと叩く。
私は無言で進藤さんの隣に座る。すると私の肩をグイッと引き寄せた。
「ナオトには……何もされてないな?」
「心配しないで下さい。真面目に勉強教えてくれてます」
「そうか」
進藤さんは私の言葉を聞くと抱いていた肩をパッと離す。そして社長椅子の方へ戻り、仕事を再開した。
期待していた訳じゃないけど、二人きりなんだし正直もう少し何か良い展開があってもいいんじゃない……と心の中で呟く。そして仕事に真面目な人だというのを再確認した。
ーー コンコン
三十分が経ち、高瀬さんが紅茶を持って社長室に戻ってきた。
「うわぁ、せっかく明日香ちゃんと二人きりにしたのに、まさかずっと仕事してたのか? あり得ね~」
仕事をしている進藤さんの前に紅茶を置きながら、高瀬さんが話しかける。
「勤務中に仕事をして何が悪いんだ?」
「真面目な奴。ねっ、明日香ちゃん」
「……あはは」
急に話を振られ、私は思わず苦笑してしまった。
「じゃあそろそろ俺らも秘書課に戻って真面目に仕事しようか」
私と高瀬さんは社長室を出て、秘書課に戻る。秘書課には鈴里さんだけが残り、PCに向かって仕事をしている。
仕事をしている鈴里さんの隣に座り、私は高瀬さんに仕事を教わった。その際また鈴里さんの視線を感じる。
何だかどこかで会った事あったかな、という気になってきた。
「……あっ」
しばらく仕事を教わっていると、突然隣の鈴里さんが何かを思い出したかのように声をあげた。
「……思い出した。水沢さんって、高瀬課長の彼女でしょ?」
思いがけない鈴里さんの言葉に私と高瀬さんは仕事の手を止め、驚いた表情で勢いよく鈴里さんの方を向く。
私が高瀬さんの彼女だなんて何で思ったのだろう?
「ち、違います。私は高瀬……課長の彼女ではありません」
私は首を横に振り思いっきり否定した。
「いや、そんな全力で否定しなくても……確かに水沢さんは僕の彼女ではないですが、どうしてそう思うのですか? 鈴里さん」
高瀬さんは笑顔で鈴里さんに尋ねる。私もドキドキしながら鈴里さんの返答を待つ。
「お二人を見かけた事がありまして。確か美術館が新しくオープンした時だったかしら。美術館の入り口付近で進藤社長とお話されてませんでした?」
美術館……美玲さんと初めてあったあの時か。確かに彼女の振りはしたけど、見られていたんだ。
それにしても鈴里さんって記憶力がいいんだ。私の顔を覚えているなんて……。
「あ~あの時か。鈴里さんも居たなら声をかけてくれたら良かったのに」
「いえ、課長のデートを邪魔しちゃいけないと思いまして」
笑顔で会話をしているが、二人とも思いっきりビジネススマイルだ。何だか見ている私がハラハラしてしまう。
「そうだ。鈴里さん、仕事終わりに三人で飲みに行きませんか? 奢りますよ」
「今日は予定がありますのでお断りします。心配しなくても私は誰にもお二人の関係を話したりしませんよ」
「あはは、一応口止め料払わして下さい。いつならOKですか?」
「課長って意外と強引なんですね。金曜日の夜なら空いてますけど?」
「じゃあ金曜日の夜、仕事が終わってから三人で飲みに行きましょう」
鈴里さんと約束をして、私と高瀬さんの関係を誤解されたまま話は終わった。
「は、はい」
私は勢いよく立ち上がった。そして高瀬さんと一緒にまたエレベーターに乗り、最上階にある社長室に向かう。
ーー コンコン
「失礼します。水沢 明日香さんをお連れしました」
社長室に入ると、進藤さんの香水の匂いがした。その香りが私の緊張を和らげてくれる。そして顔を上げると目の前には進藤さんが座っていた。
「高瀬、仕上がりは?」
「えぇ、今のところ順調です」
「そうか。水沢さん、社長秘書は出来そうですか?」
仕事モードの進藤さんが笑みを浮かべて真っ直ぐな目で私を見る。正直、まだ不安しかないけど……。
「出来ます。お任せ下さい」
「頼もしいな」
私は満面の笑みで答えた。不安は顔に出すな、いつでも自信たっぷりの顔を見せろ……高瀬さんの教えだ。
「社長、今日のスケジュールですが……」
一通りルーティンワークが終わると、高瀬さんが私の方を向く。
「朝はこんな感じだから流れを覚えて、明日は明日香ちゃんがやってね」
仕事スイッチを切ったのか社長室に張り詰めていた緊張感が消えた。
「ケイスケ、三十分だ。三十分だけ明日香ちゃんを残して俺は席を外す」
「気がきくじゃないか」
「間違っても勤務中にやらしい事するなよ、社長」
それだけ言い残して、高瀬さんは社長室を出た。社長室には私と進藤さんが二人きりになった。
「久しぶりだな、明日香。と言っても二日ぶりか」
進藤さんは社長椅子から立ち上がって、来客用ソファーに座る。そして隣に座れと無言でソファーの上をトントンと叩く。
私は無言で進藤さんの隣に座る。すると私の肩をグイッと引き寄せた。
「ナオトには……何もされてないな?」
「心配しないで下さい。真面目に勉強教えてくれてます」
「そうか」
進藤さんは私の言葉を聞くと抱いていた肩をパッと離す。そして社長椅子の方へ戻り、仕事を再開した。
期待していた訳じゃないけど、二人きりなんだし正直もう少し何か良い展開があってもいいんじゃない……と心の中で呟く。そして仕事に真面目な人だというのを再確認した。
ーー コンコン
三十分が経ち、高瀬さんが紅茶を持って社長室に戻ってきた。
「うわぁ、せっかく明日香ちゃんと二人きりにしたのに、まさかずっと仕事してたのか? あり得ね~」
仕事をしている進藤さんの前に紅茶を置きながら、高瀬さんが話しかける。
「勤務中に仕事をして何が悪いんだ?」
「真面目な奴。ねっ、明日香ちゃん」
「……あはは」
急に話を振られ、私は思わず苦笑してしまった。
「じゃあそろそろ俺らも秘書課に戻って真面目に仕事しようか」
私と高瀬さんは社長室を出て、秘書課に戻る。秘書課には鈴里さんだけが残り、PCに向かって仕事をしている。
仕事をしている鈴里さんの隣に座り、私は高瀬さんに仕事を教わった。その際また鈴里さんの視線を感じる。
何だかどこかで会った事あったかな、という気になってきた。
「……あっ」
しばらく仕事を教わっていると、突然隣の鈴里さんが何かを思い出したかのように声をあげた。
「……思い出した。水沢さんって、高瀬課長の彼女でしょ?」
思いがけない鈴里さんの言葉に私と高瀬さんは仕事の手を止め、驚いた表情で勢いよく鈴里さんの方を向く。
私が高瀬さんの彼女だなんて何で思ったのだろう?
「ち、違います。私は高瀬……課長の彼女ではありません」
私は首を横に振り思いっきり否定した。
「いや、そんな全力で否定しなくても……確かに水沢さんは僕の彼女ではないですが、どうしてそう思うのですか? 鈴里さん」
高瀬さんは笑顔で鈴里さんに尋ねる。私もドキドキしながら鈴里さんの返答を待つ。
「お二人を見かけた事がありまして。確か美術館が新しくオープンした時だったかしら。美術館の入り口付近で進藤社長とお話されてませんでした?」
美術館……美玲さんと初めてあったあの時か。確かに彼女の振りはしたけど、見られていたんだ。
それにしても鈴里さんって記憶力がいいんだ。私の顔を覚えているなんて……。
「あ~あの時か。鈴里さんも居たなら声をかけてくれたら良かったのに」
「いえ、課長のデートを邪魔しちゃいけないと思いまして」
笑顔で会話をしているが、二人とも思いっきりビジネススマイルだ。何だか見ている私がハラハラしてしまう。
「そうだ。鈴里さん、仕事終わりに三人で飲みに行きませんか? 奢りますよ」
「今日は予定がありますのでお断りします。心配しなくても私は誰にもお二人の関係を話したりしませんよ」
「あはは、一応口止め料払わして下さい。いつならOKですか?」
「課長って意外と強引なんですね。金曜日の夜なら空いてますけど?」
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