3 / 40
ハズレお見合い
ストーリー3
しおりを挟む
この華月家は代々引き継がれている茶道の名家で、裏千家華月流と言えば茶道界ではトップクラスだ。
私はそんな華月家の一人娘で、小さな頃から身近で茶道を嗜んできた。だから日本伝統の良さを、そして華月の名を引き継がなければいけないと思っている。
ただ華月家は考えがまだ古く、今は女性の家元も増えてはいるが、やっぱり華月流の家元は男が良いということで、一人娘の私の夫となる方が次の華月流家元となる予定だ。
もちろん私と結婚したからといって簡単に家元になれる訳ではない。早めに結婚して夫となる方は家元の修行に入らなくてはいけない。だから期限を決めて条件に合う男性とお見合いを続けていた。
一年以内に次期家元候補……つまり華月の名を継いでくれる婿養子を探す事。それが華月流家元の一人娘の私に課せられた課題である。
有り難いのかは分からないが、お見合いの話は次から次へと舞い込んでくる。今度こそとお見合いをし続けるが中々『当たり』はない。全て私からお断りをしている。
期限の一年なんてあっという間……だから贅沢なんて言ってられないけど、せめて私が好きになれそうな人と結婚したい……ギリギリまで運命的な出会いを信じたい、そう思っていた。
ただタイムリミットの一年を過ぎた場合、私は父の連れてくる相手と問答無用で結婚する……という約束になっている。
まぁそうなったらそうなったで、運命として受け入れるけどね。
「失礼します」
父と話をしている最中、障子の向こうから聞き慣れた男性の声がした。彼は父の許可を得てゆっくりと障子を開ける。
「……蒼志、来てたの?」
紺の袷着物を着て部屋に入ってきた彼の名は『柊木 蒼志』。昔から付き合いのある華月家ご贔屓の老舗呉服屋の若旦那だ。
ちなみに袷というのは一般的に十月から五月の気温の低い時期に着る裏地のある和服の事で、私もよく着ている。
彼は老舗呉服屋の跡継ぎとは思えない明るい茶色に髪を染め、整った顔立ちにモデルの様なスラっとしたスタイルで、見た目はチャラい。そんな彼は私と同じ歳の幼なじみだ。
「あぁ茶道体験教室を見学させてもらったんだ」
「あっそう」
部屋に入ると蒼志は私の隣に座る。すると父は蒼志に話しかけた。
「どうだった? 奏多の茶道体験教室は」
「奏多さんの茶道体験教室は若い女性が多くて華やかですね」
「ははは、奏多は人気があるからな。まぁ若い人に日本の伝統文化を伝える事ができて良いけどな。」
「いやでも奏多さんでも家元にはまだまだ叶わないですよ。」
父と蒼志は茶菓子を口にしながら談笑する。もうお見合いの話は終了でいいかなと、私はスッと立ち上がって部屋を出ようとした。
「そういや桜のその格好、今日も見合いだったのか?」
蒼志は座ったまま私を見上げてニィッと笑う。私は上から目線で返事をした。
「だったら何?」
「その様子じゃ今回も駄目みたいだな。これで見合い失敗は20回突破だな」
「うるさいわね、まだ19回よ。じゃあ私は茶道体験教室の後片付けを手伝ってきます」
そう言って私は部屋を出て、茶道体験教室が行われた離れの茶室へと歩く。それにしても蒼志のやつ、少しくらい私の着物姿を褒めてくれてもいいのに。
口を開けば憎まれ口を叩く蒼志とは、会うとどうしても喧嘩腰になってしまう。学生時代からそうだ。
本当はもっと素直になりたいんだけど……
そんな事を考えているうちに離れに到着した。
「失礼します」
そっと障子を開けると中には抹茶色の袷着物を着た男性が正座している。私の姿を見ると、ニッコリと甘いフェイスで微笑み私を迎え入れた。
一ノ瀬 奏多、華月流家元の内弟子で主に裏方で華月流を支えてくれている。最近では家元のGOサインももらって、時々華月家の離れにあるこの茶室で茶道体験教室も開いている。
私はそんな華月家の一人娘で、小さな頃から身近で茶道を嗜んできた。だから日本伝統の良さを、そして華月の名を引き継がなければいけないと思っている。
ただ華月家は考えがまだ古く、今は女性の家元も増えてはいるが、やっぱり華月流の家元は男が良いということで、一人娘の私の夫となる方が次の華月流家元となる予定だ。
もちろん私と結婚したからといって簡単に家元になれる訳ではない。早めに結婚して夫となる方は家元の修行に入らなくてはいけない。だから期限を決めて条件に合う男性とお見合いを続けていた。
一年以内に次期家元候補……つまり華月の名を継いでくれる婿養子を探す事。それが華月流家元の一人娘の私に課せられた課題である。
有り難いのかは分からないが、お見合いの話は次から次へと舞い込んでくる。今度こそとお見合いをし続けるが中々『当たり』はない。全て私からお断りをしている。
期限の一年なんてあっという間……だから贅沢なんて言ってられないけど、せめて私が好きになれそうな人と結婚したい……ギリギリまで運命的な出会いを信じたい、そう思っていた。
ただタイムリミットの一年を過ぎた場合、私は父の連れてくる相手と問答無用で結婚する……という約束になっている。
まぁそうなったらそうなったで、運命として受け入れるけどね。
「失礼します」
父と話をしている最中、障子の向こうから聞き慣れた男性の声がした。彼は父の許可を得てゆっくりと障子を開ける。
「……蒼志、来てたの?」
紺の袷着物を着て部屋に入ってきた彼の名は『柊木 蒼志』。昔から付き合いのある華月家ご贔屓の老舗呉服屋の若旦那だ。
ちなみに袷というのは一般的に十月から五月の気温の低い時期に着る裏地のある和服の事で、私もよく着ている。
彼は老舗呉服屋の跡継ぎとは思えない明るい茶色に髪を染め、整った顔立ちにモデルの様なスラっとしたスタイルで、見た目はチャラい。そんな彼は私と同じ歳の幼なじみだ。
「あぁ茶道体験教室を見学させてもらったんだ」
「あっそう」
部屋に入ると蒼志は私の隣に座る。すると父は蒼志に話しかけた。
「どうだった? 奏多の茶道体験教室は」
「奏多さんの茶道体験教室は若い女性が多くて華やかですね」
「ははは、奏多は人気があるからな。まぁ若い人に日本の伝統文化を伝える事ができて良いけどな。」
「いやでも奏多さんでも家元にはまだまだ叶わないですよ。」
父と蒼志は茶菓子を口にしながら談笑する。もうお見合いの話は終了でいいかなと、私はスッと立ち上がって部屋を出ようとした。
「そういや桜のその格好、今日も見合いだったのか?」
蒼志は座ったまま私を見上げてニィッと笑う。私は上から目線で返事をした。
「だったら何?」
「その様子じゃ今回も駄目みたいだな。これで見合い失敗は20回突破だな」
「うるさいわね、まだ19回よ。じゃあ私は茶道体験教室の後片付けを手伝ってきます」
そう言って私は部屋を出て、茶道体験教室が行われた離れの茶室へと歩く。それにしても蒼志のやつ、少しくらい私の着物姿を褒めてくれてもいいのに。
口を開けば憎まれ口を叩く蒼志とは、会うとどうしても喧嘩腰になってしまう。学生時代からそうだ。
本当はもっと素直になりたいんだけど……
そんな事を考えているうちに離れに到着した。
「失礼します」
そっと障子を開けると中には抹茶色の袷着物を着た男性が正座している。私の姿を見ると、ニッコリと甘いフェイスで微笑み私を迎え入れた。
一ノ瀬 奏多、華月流家元の内弟子で主に裏方で華月流を支えてくれている。最近では家元のGOサインももらって、時々華月家の離れにあるこの茶室で茶道体験教室も開いている。
0
あなたにおすすめの小説
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる