恋をするなら相手はあなたがいいです

春野いろ

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ハズレお見合い

ストーリー3

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 この華月家は代々引き継がれている茶道の名家で、裏千家華月流と言えば茶道界ではトップクラスだ。

 私はそんな華月家の一人娘で、小さな頃から身近で茶道をたしなんできた。だから日本伝統の良さを、そして華月の名を引き継がなければいけないと思っている。

 ただ華月家は考えがまだ古く、今は女性の家元も増えてはいるが、やっぱり華月流の家元は男が良いということで、一人娘の私の夫となる方が次の華月流家元となる予定だ。

 もちろん私と結婚したからといって簡単に家元になれる訳ではない。早めに結婚して夫となる方は家元の修行に入らなくてはいけない。だから期限を決めて条件に合う男性とお見合いを続けていた。

 一年以内に次期家元候補……つまり華月の名を継いでくれる婿養子を探す事。それが華月流家元の一人娘の私に課せられた課題である。

 有り難いのかは分からないが、お見合いの話は次から次へと舞い込んでくる。今度こそとお見合いをし続けるが中々『当たり』はない。全て私からお断りをしている。

 期限の一年なんてあっという間……だから贅沢なんて言ってられないけど、せめて私が好きになれそうな人と結婚したい……ギリギリまで運命的な出会いを信じたい、そう思っていた。

 ただタイムリミットの一年を過ぎた場合、私は父の連れてくる相手と問答無用で結婚する……という約束になっている。

 まぁそうなったらそうなったで、運命として受け入れるけどね。

「失礼します」

 父と話をしている最中、障子の向こうから聞き慣れた男性の声がした。彼は父の許可を得てゆっくりと障子を開ける。

「……蒼志、来てたの?」

 紺のあわせ着物を着て部屋に入ってきた彼の名は『柊木ひいらぎ 蒼志そうし』。昔から付き合いのある華月家ご贔屓ひいきの老舗呉服屋の若旦那だ。

 ちなみにあわせというのは一般的に十月から五月の気温の低い時期に着る裏地のある和服の事で、私もよく着ている。

 彼は老舗呉服屋の跡継ぎとは思えない明るい茶色に髪を染め、整った顔立ちにモデルの様なスラっとしたスタイルで、見た目はチャラい。そんな彼は私と同じ歳の幼なじみだ。

「あぁ茶道体験教室を見学させてもらったんだ」

「あっそう」

 部屋に入ると蒼志は私の隣に座る。すると父は蒼志に話しかけた。

「どうだった? 奏多の茶道体験教室は」

「奏多さんの茶道体験教室は若い女性が多くて華やかですね」

「ははは、奏多は人気があるからな。まぁ若い人に日本の伝統文化を伝える事ができて良いけどな。」

「いやでも奏多さんでも家元にはまだまだ叶わないですよ。」

 父と蒼志は茶菓子を口にしながら談笑する。もうお見合いの話は終了でいいかなと、私はスッと立ち上がって部屋を出ようとした。

「そういや桜のその格好、今日も見合いだったのか?」

 蒼志は座ったまま私を見上げてニィッと笑う。私は上から目線で返事をした。

「だったら何?」

「その様子じゃ今回も駄目みたいだな。これで見合い失敗は20回突破だな」

「うるさいわね、まだ19回よ。じゃあ私は茶道体験教室の後片付けを手伝ってきます」

 そう言って私は部屋を出て、茶道体験教室が行われた離れの茶室へと歩く。それにしても蒼志のやつ、少しくらい私の着物姿を褒めてくれてもいいのに。

 口を開けば憎まれ口を叩く蒼志とは、会うとどうしても喧嘩腰になってしまう。学生時代からそうだ。

 本当はもっと素直になりたいんだけど……

 そんな事を考えているうちに離れに到着した。

「失礼します」

 そっと障子を開けると中には抹茶色のあわせ着物を着た男性が正座している。私の姿を見ると、ニッコリと甘いフェイスで微笑み私を迎え入れた。

 一ノ瀬いちのせ 奏多かなた、華月流家元の内弟子で主に裏方で華月流を支えてくれている。最近では家元のGOサインももらって、時々華月家の離れにあるこの茶室で茶道体験教室も開いている。
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