恋をするなら相手はあなたがいいです

春野いろ

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公認デート

ストーリー35

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「ただいま」

 呉服屋の仕事を終え帰宅すると、リビングで父と奏多さんが晩酌していた。私の帰りに気づいた奏多さんがこっちを見てニコッとする。

「桜さんおかえりなさい。お邪魔してます」

「奏多さんこんばんは。父に無理やり付き合わされてるんじゃないですか?」

「そんな事ないよな、奏多」

 私と奏多さんの会話に父が割り込んできた。奏多さんも笑いながら『はい』と返事をする。

「良かったら桜さんもご一緒にどうですか?」

「いえ私は……」

「そうだな。たまには晩酌に付き合ってくれてもいいんじゃないか?」

 父と奏多さんに言われ、何だか断れないような雰囲気になっている。そして母も笑いながら私の分のグラスとお酒の追加を持ってきた。

「桜、観念して今日は晩酌に付き合いなさい」

 晩酌に付き合う事になった私は、奏多さんの隣に座る。そしてどうぞと言いながら奏多さんは私のグラスにビールを注いでくれた。

「頂きます」

 奏多さんの隣で緊張しながらビールを一口飲む。

「それでさっきの話だけどな」

 父が陽気に話を始める。さっきの話って言われても途中参加の私にはさっぱり話についていけない。

 とりあえず話を聞くふりしてビールとおつまみを頂く。

「今度オープン予定のフラワーパークは知ってるか?」

「はい。今から楽しみにしてますよ」

「奏多は花が好きだからなぁ。そうそう、実は知り合いからそのフラワーパークのプレオープンのペア招待券をもらったんだが、良かったら一緒に行くか?」

 そう言って父は招待券を見せる。それはさておき、奏多さんって花が好きだったんだ。奏多さんの事を一つ知れて私は嬉しくなった。

「ばかねぇ。奏多君がおっさんと一緒にフラワーパークに行っても楽しくないでしょう?」

 少し離れた所から会話を聞いていた母が、呆れたように父に注意する。

「まぁ確かにそうだな。じゃあこの招待券は奏多にやるから、誰か他の人を誘って一緒に行けばいい」

 父も納得し、招待券を奏多さんにプレゼントした。

「すみません家元、ありがたく頂きます。でも僕、一緒に行ってくれる人がいないんですよ。あっ、良ければ桜さん一緒にフラワーパークに行ってくれませんか?」

 奏多さんはニコッと微笑んで私の方を見る。

「わ、私ですか!?」

 突然の誘い、しかも父と母の前でそんな事言われても……私は動揺を隠せずあたふたとしてしまう。

「あら、桜も花が好きだしちょうどいいじゃない。奏多君と一緒にフラワーパーク行って来たら?」

 母も私の方を見てニッコリする。父も『それがいい』と言って、私は奏多さんと一緒にフラワーパークに行く事になった。

 父との晩酌も終わり、奏多さんは父と母に挨拶をして玄関に向かう。

「奏多さん」

 私が声をかけると、奏多さんはちょうど靴を履き終えてクルッと私の方を向き笑みを見せた。

「今日は楽しかったわ。桜とも一緒に居れたし」

「私もです。あの、外まで見送りします」

 急いで靴を履き、奏多さんと一緒に玄関を出た。

「フラワーパーク楽しみやな。まさか家元公認で桜とデート出来るとは思わんかった」

「奏多さん、花が好きなんですね」

「いい歳した男が花好きって言うのも恥ずかしいけどな。花にもそれぞれ個性があって綺麗やし、なんか見てて癒される」

 照れながら話をする奏多さんが何だか可愛くて、思わずふふっと笑ってしまった。

「綺麗で癒されるって言ったら、桜と一緒やな」

 そう言って奏多さんはさり気なくキスをしてきた。

「デートの詳細はまた連絡するわ。じゃあおやすみ」

 唇が離れた後、私の耳元でそう言うと奏多さんは手を振って帰っていった。

 もう油断も隙もないんだから……と思いながらも私の表情は緩んでいた。
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