ファントムガール ~白銀の守護女神~

草宗

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「第二話 魔人集結 ~魔性の両輪~」

20章

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 「ファントムガール?!! あなた、あの部屋から脱出できたというの?!!」
 
 水色の魔女・シヴァが驚嘆の叫びを挙げる。
 銀に輝くボディに、紫の模様。胸と下腹部に青く光る水晶体。金色がかった茶色の髪が背中にまで伸びるその巨大な女神は、まさしくファントムガールであった。
 
 スレンダーな女神は、魔女の言葉に耳を貸さず、脇の下に掌を上向けて置いた左手に、右手を引いて重ねる。ふたつの手に光が溢れた瞬間、力強く右手を振る。
 
 「ハンド・スラッシュ!!」
 
 無数の光の破片が飛び、呆気にとられる巨大ネズミの背にブスブスと突き刺さる。
 ナナのそれとは違うハンド・スラッシュは、正体の五十嵐里美が扱う手裏剣からイメージされたものだ。威力はないが、素早く、無数に放てる。
 
 「ぐえええッッッ!!」
 
 一声苦痛に鳴いて、ネズミの口から、青い獲物がこぼれおちる。
 大地に崩れ落ちる血まみれの少女戦士。闇に焼かれた全身から白煙が昇る。
 背を反らせながら、緩慢な動きでアルジャが振り返る。
 
 「ディサピアード・シャワー!!」
 
 振りかえった巨獣を待っていたのは、ファントムガール最大の必殺光線であった。両手の人差し指と親指で作った三角形の中に満ちた光のエネルギーが、聖なる雨となって巨大ネズミを撃つ!
 
 「ぐぎゃああああッッ―――ッッ!!!」
 
 光のシャワーが茶色の巨体を滅ぼしていく。叫びながら、黒煙をあげて崩壊していく巨大な魔獣。
 あと数秒もあれば、ファントムガールの必殺技の犠牲者に、アルジャの名が刻まれたことだろう。
 
 「きゃああッッ!!」
 
 だが、次に悲鳴を挙げたのは、ファントムガールの方だった。その左側面、肩口から腰骨にかけて、銀の皮膚が削ぎ取られ、ピンク色の生肉が痛々しく濡れ光っている。突然の、死角からの一撃によろめき、必殺光線はあと一歩のところで仕留める寸前に中断される。
 右手で左腕を押さえた聖少女が、攻撃の主を見る。
 
 「2対1では不公平だからね。私も参戦させてもらうわ。これで2対2、平等な闘いでしょ?」
 
 ファントムガールの皮膚を剥いだ、金色の鞭をしならせ、水色のミュータント、シヴァが微笑む。処刑の楽しみを邪魔した者への宣戦布告。受けるファントムガールが戦闘態勢を取る。さんざん蹂躙されたナナが大地に倒れたままの今、実質は1対2の闘いが始まろうとしていた。
 
 「あの部屋を抜け出したのは、褒めてあげるわ、ファントムガール。けれど、やっぱり無事には済まなかったようね」
 
 銀の守護天使は無言のまま。
 しかし、激しく上下する肩が、彼女の深刻なダメージを伝えてしまっていた。
 
 外見こそ普通だが、ファントムガールの正体である五十嵐里美はメフェレスこと久慈仁紀に、腹を日本刀で貫かれているのだ。
 他にも深くて広い裂傷を2箇所に負っており、相当の量の失血がある。
 ナナも“キメラ・ミュータント”のアルジャに嬲られ、鋭利な前歯で身体中に穴を開けられたが、トランス前と後とで受けたダメージは、全く違う。里美の怪我は死に繋がるほどの重傷なのだ。
 
 メフェレスから逃れた里美は、林に身を隠して、応急処置を行った。それが終わった途端、安堵感と、多量の出血、毒の効果、激しい疲労によって、死んだように眠り続けたのであった。
 彼女の身体を思えば、そのまま、眠り続けるべきだった。
 が、目覚めた里美の眼に飛びこんできたのは、ミュータントに蹂躙される青いファントムガールの姿。
 躊躇なく、少女はそのボロボロの身体を這いずり、死地へと向かったのだった。
 
 颯爽と現れたファントムガールだが、その凛々しいファンティングポーズとは裏腹に、内面は壊れかけているのだ、
 しかも、里美を苦しめるのは、傷だけではない。
 彼女はメフェレスと長く闘いすぎた。いくらくノ一で、毒への耐久性があるとはいえ、神経毒を吸いすぎた。意識は混濁し、指一本満足に動かせないのが現実なのだ。
 すでに、ファントムガールは瀕死の状態にあった。
 
 それをなんとか隠して闘いたかったのだが。
 鞭の一撃を浴びた聖少女は、思わず腹部をかばってしまった。
 そして、それを見逃すような、甘い相手ではなかった。
 
 「フフフ。どうやらお腹が痛いようね、生徒会長さん。刀にでも刺されたのかしら? ・・・アルジャ、腹を狙うわよ」
 
 咆哮する茶色の魔獣。光の散弾を食らった箇所から血が流れ、あらゆる所に穴が開いている。それこそがディサピアード・シャワーの威力であったが、怒りの炎に油を注いだとも言えた。
 巨大ネズミが四つん這いになる。全力疾走の前兆。
 マッハ2以上で飛行するF-15を捕えた超速度を、この闘いで見せるというのか。
 
 だが、それよりも先にファントムガールを襲ったのは、金色の、触れるもの皆裂いてしまう、魔女の鞭。
 シヴァの髪が螺旋状に絡まってできた鞭を、トンボを切ってかわす銀の聖少女。
 空振りした鞭が、アスファルトの地面を叩く。亀裂。砕けた道路が舞う。鞭の形そのままのクレバスが完成する。
 鞭の攻撃には第二陣があった。
 地面を抉った瞬間、鞭が本来の姿に戻る。バラけた金色の髪がカメレオンの舌みたく伸び、守護天使の四肢を捕えようとする。
 
 「ファントム・リングッ!!」
 
 鈴のような声で叫ぶファントムガール。両手で大きく円を描くや、白く輝く光の輪が現れる。その大きさは、リングというより新体操のフープ。
 素早くフープに右手を通し、手首を軸にして高速回転させる銀の戦士。まるでセスナのプロペラだ。白い残像が光の盾となる。ファントムガールに向かって伸びた髪が、フープのプロペラに弾かれ、切られていく。
 
 「こしゃくな! では、横からの攻めはどうかわすかしら?」
 
 鋭い爪を持った両手を、女教師が正体の魔女・シヴァが左右に大きく広げる。
 かろうじて目視可能な細さの糸がまとまって、水色の魔女の両サイドに飛ぶ。そこには敵はいない。あるのは高層ビルの群れだけだ。
 糸はビルを越えると急カーブし、今度は銀の戦士に向かって飛んでいく。左右両側から挟み撃ちされる格好のファントムガール。ビルはいわば支柱代わりだったのだ。
 
 大地に倒れ伏したまま、全身を纏う激痛と格闘していたナナが、なぜシヴァがこの繁華街を闘いの場に決めたのか、理由に気付く。大量虐殺が目的ではなかったのだ。シヴァが欲しかったのは、この高層ビル群。自らの武器である糸を、有効に使うために、この場所を選んだのだ。
 
 目論見通り、前方だけでなく、上下左右、立体的な攻撃で糸がファントムガールを襲う。
 バックステップで糸を鉢合わせにする銀の美少女。白銀のリングを右手に持ち、四肢を絡めんとする妖糸を断ち切る。重傷とは思えぬ体捌きで、次々にうねりくる蛇を、見事に切り伏せていく。
 
 ゴオウウッッッ・・・・
 
 風が吼える。
 距離を置いていたはずの巨大ネズミが、一瞬でファントムガールの懐に飛び込む。巨体に似合わぬ圧倒的スピード!!
 決してもう一匹、敵がいるのを忘れたわけではないが、アルジャの瞬発力は、ファントムガールの想像を遥かに上回っていた。
 キメラ・ミュータント・・・2種類の動物、ネズミの敏捷性と武志という大男のパワー・知力を兼ね持った化け物。その身体能力が、瀕死の少女を飲みこもうとしている。
 
 ギロチンの刃のような巨大な前歯が剥き出され、スレンダーな肢体を串刺しにかかる。
 毒で麻痺した銀の身体は、それでも間一髪、巨獣型ミサイルをくびれた腰を捻って避けていた。
 黄色く高熱を宿した前歯が、艶やかに輝く少女の腹を掠る。
 瞬間―――
 
 ブッシャアアアアッッッ!!・・・・・・
 
 ファントムガールの腹が裂け、大量の血が噴火する!
 片膝をつく守護天使。腹を押さえた両手の指の間から、スポンジを絞るように真っ赤な血がドボドボと溢れていく。
 原理はナナの左足と同じ。元々穴の開いている腹部は、わずかな衝撃でその本来の姿を晒してしまったのだ。
 
 「やはり、ね。思ったよりも重傷のようね」
 
 シヴァの言葉には、嗜虐の悦びが含まれている。その茶色の体毛に覆われた腕を振る。縛糸が四方八方からファントムガールに迫る。
 緩やかな動きで迎撃しようとしたリングをせせら笑うように、妖糸が右腕を絡め取る。左足を捕える。右足を、左腕を、首を、腰を、太股を・・・・・・糸の洪水がファントムガールを飲みこみ、そのスラリと伸びた手足、芸術的な曲線のボディをがんじがらめにする。その姿は蜘蛛の巣にかかった美しき蝶を思わせた。
 
 「う・・・・・ああ・・・・・・うぅぅ・・・・・・」
 
 緊縛による圧迫か、貫かれた腹の痛みか。
 銀色の美少女の艶やかな唇からは、切なげな喘ぎが洩れる。
 
 「うふふ・・・死にぞこないは、大人しくしてればいいのに・・・愚かなのね、生徒会長さん。あなたはもっとクールだと評価してたんだけど。」
 
 「・・・く・・・・・ううぅ・・・・・・あ・・・・・」
 
 「アルジャ、さっきの光の技は効いたでしょう? お返しをしてやりなさい。ここよ、ここ。お腹のここを串刺しにするのよ、いい?」
 
 無数の糸に縛られ、大の字に磔られたファントムガールにツカツカと歩み寄り、血で濡れた腹部の一箇所を指差すシヴァ。的確にメフェレス・久慈仁紀が貫いた穴を示す。
 咆哮する巨獣が四つん這いになる。赤い小さな瞳が復讐にたぎっている。前歯が突き上がる。四肢に力が込められていく。
 呼応するように、シヴァが右手を握る。
 キリキリキリ・・・・・・
 と、磔の少女戦士が突っ張っていく。負傷箇所を誇張するように反りあがる。
 
 ドンッッッ!!!
 
 巨獣の弾丸が放たれる。
 たっぷりの助走を駆け、生贄の戦士に突進する!
 
 「きゃあああああァァァ―――――ッッッ!!!」
 
 肉を破る音が、夜の繁華街に響く。
 宣言通り、巨獣の前歯は銀の肢体を串刺し、その切っ先が、背中から覗いていた。
 ペットボトルを矢で貫いた様子に似ていた。開いた孔から赤い液体がとめどなく溢れる。
 ネズミの耳まで裂けた口が、残忍に笑う。
 水色の魔女は蔑んだ眼を獲物に向ける。
 腹を貫かれたファントムガールの口の端から、スウッと朱線が落ちる。
 何も変わらないはずなのに、美しい銀のマスクが確かに翳る。
 
 「今までで、一番キレイな姿だわ、ファントムガール」
 
 刃が抜かれ、縛糸が解かれる。
 下半身を真っ赤に染めた守護天使が、そのまま膝から崩れ落ちる。全身を脱力させたファントムガールが、自らの血の海にしゃがみこむ。長い髪がサーッッと流れて、戦士の表情を隠す。ダラリと垂れた腕が、聖なる少女の敗北を示す。
 
 「さ・・・里美・・・・・・・・さん・・・・・・・」
 
 ナナの声が震える。
 里美が、ファントムガールがやられそうになっているのを目の前にして、何もできなかった己が許せなかった。
 現れた時から、里美が普通の状態でないことは動きでわかった。無理をして自分を救いに来たのだと。里美さんがああなったのは、私のせいだ。なのに、私は里美さんのピンチに何も出来ず、ただ地面に寝てるだけ・・・・・・・
 
 しかし、少女に悲しんでいる暇はなかった。
 
 「では、トドメの時間にしましょうか。アルジャ、あなたはナナに遊んでもらいなさい。私はこちらのファントムガールをぐちゃぐちゃにするわ。人類が絶望するよう、思いっきりむごたらしく、殺すのよ」
 
 血の海に沈むふたりのファントムガールに、処刑宣告が下される。
 
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