ファントムガール ~白銀の守護女神~

草宗

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「最終話 東京終末戦 ~幻影の聖少女~」

8章

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 開戦する前、工藤吼介と行動をともにしている間、ことあるごとに響子は今回の作戦を確認し続けた。
 『エデン』は感情や精神状態に、鋭く反応する。繰り返し繰り返し、作戦行動を吼介の脳裏に叩き込む作業は、きっとガオウに変身した後も影響すると考えたのだ。バーサーカー状態の、ガオウであっても。
 
 恐らく、理性を失ったとしても、与えられた任務を遂行しようとする動きが、多少なりともガオウには現れるはずであった。
 そうでなければ、生物兵器としての『エデン』は、あまりに非実用的といわざるを得ない。
 作戦命令を忠実にこなすからこその兵器であり、完全なる戦闘者・シュラなのだ。
 果たすべき任務を教え込めば、闘争本能に支配されようとも、着実に実現する。どんな怪物になろうとも、それができる素養が、シュラ・ガオウにはあるはずだった。
 
“期待したような動きは、残念ながらガオウはできていない・・・しかし、結果的にユリアを蘇生させる時間を稼いでくれれば、御の字よ”

 思うように事態が運ばない可能性は、当然シヴァは想定済みだった。
 事実、ギャンジョーという、あまりに闘志を駆り立てる敵が現れた。攻撃を受けたことによって、ガオウの意識は完全に疵面獣撃破に向かっている。
 今現在、赤銅の闘鬼が行なっている闘いは、シヴァの計画とはまるで外れたものだった。
 
「こんな時、こんなところに・・・ギャンジョーが現れるなんて、思ってもみなかったものね」

 思わず、愚痴がこぼれる。凶獣がいなければ、ファントムガール復活計画は、もっと順調に進んだはずだ。
 だだ、どんな事態に陥ろうと、最優先課題であるユリアの復活さえできれば「よし」と、シヴァは考えていた。
 その最低目標を、クリアするチャンスはやってきた。ならば、多少のガオウの暴走も、十分許容範囲だ。
 
 いや、むしろ。
 
 ここでガオウがギャンジョーを倒すことになれば・・・
 大局的に考えれば、決して悪いことではない。
 いや、ハッキリと、願ってもない事態と断言できる。
 
「ファントムガール・ユリア。あなたをこのシヴァが蘇らせるわッ・・・! これより、私たちの大逆襲は始まるのよッ!!」

 日本武道館の正面。
 開いた敷地に転がる、お下げ髪の守護天使。ファントムガール・ユリアの死体に、妖女シヴァは跨った。
 鮮血とザーメンをこびりつかせた聖少女の亡骸は、顔立ちが幼いゆえに無惨さが際立つ。
 胸中央、光の消えた水晶体に、シヴァは6つの掌を重ねて置いた。
 
「『エデン』は精神に強く感応するもの・・・私が心底からあなたを“生き返らせたい”と願えば、必ず『エデン』は応えてくれるはずッ!!」

 シヴァの叫びは、己に言い聞かせるかのようだった。
 本当に、成功するのか?
 頭の片隅に湧き上がる疑念を、首を振って掻き消す。信じろ。自分が信じないで、どうするの。
 確かに、ミュータントが光の守護少女を蘇らせるなど、前代未聞だ。常識では考えられない。しかし、シヴァの考えどおりならば、必ず成功するはずなのだ。
 
 信じるのよ。
 疑問は、エナジー・チャージの妨げとなる。強く信じることは、『エデン』によってそのまま力と変わる。
 
 ユリアを蘇らせたい。そう思う心にウソがなければ、必ず力を与えられる。
 
「蘇るのよ・・・ファントムガール・ユリアッッ!!」

 私の気持ちに・・・ウソはない。
 権謀術数、奸智術策。駆け引きを好み、擬装こそが常態となっていた妖女が、本心からの願いを叫ぶ。
 
「エナジー・チャージッ!!」

 ドオオオオオオンンンッッ!!!
 
 6本の腕から一斉に、エネルギーの奔流がユリアの胸中央に注がれる。
 エネルギーの色は傍目からも、漆黒ではなく白光に見えた。
 
「・・・くッ、まだよッッ!!」

 動かなかった。
 仰向けに転がる黄色の守護天使は、かすかな生命の息吹さえも、感じさせはしなかった。胸のエナジー・クリスタルは、点灯することなく沈黙している。
 すかさずシヴァは、再びありったけのエネルギーを放出して、ユリアの胸に送り込む。
 
「息を吹き返すまで、諦めないわッ・・・!!」

 二度目のチャージが行なわれ、反動で少女の死体がビクンと跳ねた。
 様子を見る。動かない。
 必死なシヴァを嘲笑うように、薄汚れたユリアは「モノ」のままだった。
 
 そんな。
 
 全身の血が引き、大脳に集結したかのようだった。
 寒気を覚える肉体とは裏腹に、思考だけが高速で駆け巡った。破滅。このままでは破滅。どこかで考え方を間違えたのか? いや、そんなはずはない。ユリアは生き返るはず。なのになぜ・・・
 
「ありったけの力を・・・あなたに捧げるッ!!」
 
 私では、勝てない。メフェレスにも、ゲドゥーにも、ギャンジョーにも。
 世界を悪魔の支配から救うためには、武道天使ファントムガール・ユリアの力は欠かせない――。
 
 これまでより、一層眩い光の奔流が、胸のクリスタルに注ぎ込まれた。
 
「・・・・・・ッッ!! ・・・ダメなの!?」

 大地に転がるユリアの亡骸は、冷たいままだった。
 眩暈がシヴァを襲う。大量のエネルギーを一度に消費した、だけが理由ではなさそうだった。
 だが、態勢を整える間もなく、凄まじい激突の轟音に、思わず背後を振り返る。
 
 ガオウの拳と、ギャンジョーの槍腕。
 相手の肉体に突き刺しながら、両者が睨み合っている。
 
「ぐうッ・・・ううゥッ!!」

 見ているシヴァの咽喉元から、呻きが洩れていた。
 どれほどの激闘が繰り広げられたのか。シヴァ“ごとき”では、もはや見当もつかない。
 赤鬼と疵面獣。二体の怪物の全身は、鮮血で真っ赤に染まっている。己が流したものなのか、敵の返り血なのか、それすらハッキリとわからない。
 
 パワー、スピード、タフネス。並の巨大生物を、遥か凌駕する二体。
 だが、ガオウとギャンジョーを比べれば、いずれもわずかながら、赤銅の闘鬼が上回るというのが、シヴァの見立てであった。正面からぶつかりあえば、ガオウに分はある。
 ただし、それは互いに素手の場合だ。
 ギャンジョーの両腕は、兇器を持っている。ヤクザの必携アイテム、匕首が持つ殺傷力は極めて高い。
 素手の格闘獣と、兇器持ちの暗殺鬼。勝敗の予想は、困難極まりなかった。
 
 二匹が激しい応酬をしてきたのは、シヴァにもわかる。
 しかし、どちらが優勢なのか。
 互いのダメージがどれほどなのか。ひと目見ただけでは、蜘蛛妖女にも判別できない。
 
「ガハアアアッッ!!」

 大量の血を吐いたのは、疵面獣の方だった。
 ドス以上の威力が、闘鬼の拳に宿っていたというのか。驚愕するシヴァ。だが続く光景に、さらに眼が見開かれる。
 真っ赤な口腔を開いたギャンジョーは、ガオウの首元に噛み付いていた。
 鋭い牙が、赤銅の皮膚に埋まっていく。闘鬼の肉に埋まる牙など、この凶獣以外に持ちあわせていまい。
 
「グロロロロオオオオッッ――ッ!!」

 吼えると同時に、ガオウのショートアッパーが疵面の顎を跳ね上げた。
 
 ブチブチブチイッッ!!!
 
 肉の一部と一緒に、ギャンジョーの上半身が反りあがりながら宙に浮く。
 それでも凶獣は、突き刺した右腕を抜かなかった。意識も飛ばさなかった。
 地上に着地し、ベッ! と肉片を吐き捨てる。「効かねえな」虚勢を張るかのごとく、ニヤリと疵面を歪ませる。
 
 神々、いや、鬼と悪魔の闘いに、シヴァは魂を抜き取られたようだった。
 
 怪物二体の激突に、決着がつくことはあるのか? 途方もない想いに駆られたその時、変化は急速に訪れた。
 
「・・・カルルッ・・・ッ・・・・・・―――」

 変わった。
 ガオウの内部で燃えたぎったマグマが、鎮まっていく。
 獣に理性が芽生えた、とも見えた。赤銅の肌はそのままに、纏う闘気のみが青色になる。
 
「ザケんなッッ、ゴラ゛ア゛アアアッッ―――ッッ!!!」

 ガオウの変化を、ギャンジョーは「引いた」と受け取った。
 逃げる者にはカサにかかって襲うのが、暗殺鬼の本能。
 パカリと開いた口腔の奥で、漆黒が渦を巻く。必殺の闇弾。“弩轟”。この至近距離から放てば、さすがの闘鬼の首も吹っ飛ぶ。
 
 わずかに、ガオウの両肩がブレた。
 
 高く澄んだ打撃の音色が、満月の天空に消えていく。
 
「ッッ!!! ・・・空手・・・ハイキック・・・」

 呆然と呟くシヴァの声が、白目を剥いたギャンジョーに届くはずもなかった。
 密着した姿勢のまま放ったガオウの右脚は、疵面獣の背中から回って後頭部に吸い込まれていた。
 正面に立った敵の脚が、背後から襲ってくるなど、思いも寄らぬだろう。完全な死角からの一撃に、ギャンジョーの意識は吹っ飛んだ。
 
 ドオオオオオオオッッ・・・!!!
 
 電池が切れた茶褐色の巨体は、地響きを立てて大地に沈んだ。
 うつ伏せに倒れたギャンジョーの口から、大量の泡とともに舌がだらりと伸びて出た。
 
 シヴァにはわかった。
 ガオウが“技”を使ったのだ、と。
 闘争本能に衝き動かされ、真正面から殴りあった格闘獣は、ギャンジョーの強大さ故に“技”を駆使したのだ。
 同時にそれは、闘鬼の脳裏に「工藤吼介」が一部蘇ったことも意味する。
 
「ウオオオオオオッッ―――ンンンンッッッ!!!!」

 吼えた。ガオウが。高く、遠く。
 対ギャンジョー、の勝ち鬨では、恐らくない。
 赤銅の闘鬼は、天空に蒼々と浮かぶ、満月に向かって吼えていた。
 
「オオオオォォッ・・・オオオオオオォォッ―――ンンンッッ!!! オオオオッッ・・・」

 啼いているのね、工藤くん。
 月に重なる、あのひとを思い出して。
 そう、彼女を救うことこそ、あなたの本来の役目よ。
 
 大地を鳴らして、赤鬼は一歩を踏み出す。
 ゆっくりとした、重い足取りだった。
 それでいて、確信に満ちた一歩だった。
 
 間違いない。我が進む道は、こちらだ――。
 
 沈めた凶獣を振り返ることなく、厳かにガオウは動き始めた。
 満月の光に照らし出された、東京タワーに向かって。
 
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