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ヴァレンティア
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最低な初夜だった。
青ざめた顔をした彼は、冷たい瞳で私を見下ろして、わたしの手を取り、寝台へ向かった。
彼の瞳を見つめて、キスを待つ。
彼は、私から少しだけ目をそらし、その瞳を閉じて、キスをした。
何の熱もこもらない、義務的なものだった。
私を求めるでもなく、淡々と夜着を脱がされ、身体に触れて、教本どうりの愛撫を繰り返す。
夢中になっているのは私だけ…
そして、彼は「申し訳ありません。」
唐突に頭を下げてそのままガウンを羽織り部屋を出て行ってしまった。
寝室に1人取り残された私は「何よ!これ!」
そばにあった枕を壁に力まかせに投げる。
怒りで、頭の中が真っ赤に染まるような気がした。
それからも、毎夜 彼は寝室にはやって来る。
でも いつも キス、愛撫以上には
進めなかった。
あの女のせいだ!
国から追い出し、他の男のものになっても、まだ私の邪魔をする!
忌々しいあの女。
やっぱり殺して置けば良かった。
国から追い出すだけでは足りなかった。
どうすれば、彼は 私のものになるのかしら?
いつになったら私を見てくれるの?
私は彼に薬を飲ませる事にした。
侍女に命じて、魔女の作る媚薬を手に入れた。
これを彼に飲ませれば、今夜こそきっと上手く行くはず…
その夜、私は彼に媚薬入りの紅茶を飲ませた。
結果だけを見れば、それは上手くいった。
でも、私の耳元で、うわ言のように繰り返す「レミィ…レミィ…愛してる」と 何度も、何度も。
あの女の名を呼びながら 私を抱く彼。
地獄のような一夜を過ごした。
それでも、私は、彼が欲しいのだ。
彼に恋い焦がれ、他の女の名を呼びながら、私の中に欲を吐き出す。
そんな彼に抱かれて、喜んでいる私も確かに存在しているのだ。
あの女の名を繰り返す彼に耐えられず、次に私は魔女に惚れ薬を作るよう依頼した。
他の人間を深く愛する人に使う事は、とても危険だと魔女は言う。
相手の気持ちを 無理遣り自分に向ける事になるので、抵抗がひどければ、ひどいほど、精神を蝕み、悪くすれば、狂ってしまう。そう言われた。
それでもかまわない。
私を愛してくれるなら。
彼の心が、病んでもかまわない。
私は、魔女の惚れ薬を手に入れ、早速 彼に飲ませた。
幸せだった。
彼が、私を甘く見つめる。
優しく「ヴィー」と私の名を呼んでくれる。
優しく抱き寄せ、とろけるようなキスをしてくれる。
私は 有頂天になっていた。
薬を飲ませて1ヶ月。
彼の行動におかしな所が見られるようになって来た。
ぼーっとしていたかと思うと、急に奇声を上げ、大声で笑い出す。
時に、頭を狂人のように掻きむしり、頭が痛いと訴える。
ある時は、見えない誰かを相手にニコニコとずっと話をしていた。
寝台の上で、「ヴィー」と優しく呼びながら、「私を愛してる?何をされても構わない?」そう言って私の首を締めながら、私を抱き潰す日もあった。
怖い…このままでは、いつか、私は彼に殺されてしまうかもしれない。
ある日、私は気絶するまで彼に襲われ、彼の狂気じみた行いに、彼の瞳の中に揺らめく殺意に、心臓が冷たく凍り付くような恐ろしさを感じて、彼を地下牢に閉じ込めた。
2度と彼に会いたいとは思わなかった。
彼が怖かった。
そして、彼を監禁して2ヶ月が過ぎた頃、彼が、自殺したと報告を受けた。
「レオ様が死んだ?」
私は怖くて、彼の遺体を確認することが出来なかった。
報告を受けたその日、彼は、朝から とても 穏やかに過ごしていたそうだ。
「手紙を書きたい。」そう言って 紙とペンを求めた。
牢番が渡したペンを取り、便箋に何かを書きつけると、そのまま、そのペンで 自分の首を刺したと言う。
血の溢れる苦しい息の中、彼が見ていたのは、レミィの面影だった。
「レミィ 愛してる。」
したためられた最後の言葉。
最後まで、彼はあの女のものだった。
悔しかった。
ただの一欠片も私に愛をくれなかった男。
私を苦しめ続けた男。
彼の死は、病死として処理された。
葬儀の時、私は棺に縋りついて泣いた。
愛されていた妻を演じた。
虚しかった。
公爵と、彼の兄の視線が怖い。
きっと彼等は、私が彼に何をしたか、本当の事を知っているだろう。
父である王は、彼等の報復を恐れている。
私はこれからどうすればいいのだろう。
彼を狂わせたことに今更、恐怖する。
私はどうなるのだろう。
怖い。
もう、何も考えたくない。
助けてお父様…
青ざめた顔をした彼は、冷たい瞳で私を見下ろして、わたしの手を取り、寝台へ向かった。
彼の瞳を見つめて、キスを待つ。
彼は、私から少しだけ目をそらし、その瞳を閉じて、キスをした。
何の熱もこもらない、義務的なものだった。
私を求めるでもなく、淡々と夜着を脱がされ、身体に触れて、教本どうりの愛撫を繰り返す。
夢中になっているのは私だけ…
そして、彼は「申し訳ありません。」
唐突に頭を下げてそのままガウンを羽織り部屋を出て行ってしまった。
寝室に1人取り残された私は「何よ!これ!」
そばにあった枕を壁に力まかせに投げる。
怒りで、頭の中が真っ赤に染まるような気がした。
それからも、毎夜 彼は寝室にはやって来る。
でも いつも キス、愛撫以上には
進めなかった。
あの女のせいだ!
国から追い出し、他の男のものになっても、まだ私の邪魔をする!
忌々しいあの女。
やっぱり殺して置けば良かった。
国から追い出すだけでは足りなかった。
どうすれば、彼は 私のものになるのかしら?
いつになったら私を見てくれるの?
私は彼に薬を飲ませる事にした。
侍女に命じて、魔女の作る媚薬を手に入れた。
これを彼に飲ませれば、今夜こそきっと上手く行くはず…
その夜、私は彼に媚薬入りの紅茶を飲ませた。
結果だけを見れば、それは上手くいった。
でも、私の耳元で、うわ言のように繰り返す「レミィ…レミィ…愛してる」と 何度も、何度も。
あの女の名を呼びながら 私を抱く彼。
地獄のような一夜を過ごした。
それでも、私は、彼が欲しいのだ。
彼に恋い焦がれ、他の女の名を呼びながら、私の中に欲を吐き出す。
そんな彼に抱かれて、喜んでいる私も確かに存在しているのだ。
あの女の名を繰り返す彼に耐えられず、次に私は魔女に惚れ薬を作るよう依頼した。
他の人間を深く愛する人に使う事は、とても危険だと魔女は言う。
相手の気持ちを 無理遣り自分に向ける事になるので、抵抗がひどければ、ひどいほど、精神を蝕み、悪くすれば、狂ってしまう。そう言われた。
それでもかまわない。
私を愛してくれるなら。
彼の心が、病んでもかまわない。
私は、魔女の惚れ薬を手に入れ、早速 彼に飲ませた。
幸せだった。
彼が、私を甘く見つめる。
優しく「ヴィー」と私の名を呼んでくれる。
優しく抱き寄せ、とろけるようなキスをしてくれる。
私は 有頂天になっていた。
薬を飲ませて1ヶ月。
彼の行動におかしな所が見られるようになって来た。
ぼーっとしていたかと思うと、急に奇声を上げ、大声で笑い出す。
時に、頭を狂人のように掻きむしり、頭が痛いと訴える。
ある時は、見えない誰かを相手にニコニコとずっと話をしていた。
寝台の上で、「ヴィー」と優しく呼びながら、「私を愛してる?何をされても構わない?」そう言って私の首を締めながら、私を抱き潰す日もあった。
怖い…このままでは、いつか、私は彼に殺されてしまうかもしれない。
ある日、私は気絶するまで彼に襲われ、彼の狂気じみた行いに、彼の瞳の中に揺らめく殺意に、心臓が冷たく凍り付くような恐ろしさを感じて、彼を地下牢に閉じ込めた。
2度と彼に会いたいとは思わなかった。
彼が怖かった。
そして、彼を監禁して2ヶ月が過ぎた頃、彼が、自殺したと報告を受けた。
「レオ様が死んだ?」
私は怖くて、彼の遺体を確認することが出来なかった。
報告を受けたその日、彼は、朝から とても 穏やかに過ごしていたそうだ。
「手紙を書きたい。」そう言って 紙とペンを求めた。
牢番が渡したペンを取り、便箋に何かを書きつけると、そのまま、そのペンで 自分の首を刺したと言う。
血の溢れる苦しい息の中、彼が見ていたのは、レミィの面影だった。
「レミィ 愛してる。」
したためられた最後の言葉。
最後まで、彼はあの女のものだった。
悔しかった。
ただの一欠片も私に愛をくれなかった男。
私を苦しめ続けた男。
彼の死は、病死として処理された。
葬儀の時、私は棺に縋りついて泣いた。
愛されていた妻を演じた。
虚しかった。
公爵と、彼の兄の視線が怖い。
きっと彼等は、私が彼に何をしたか、本当の事を知っているだろう。
父である王は、彼等の報復を恐れている。
私はこれからどうすればいいのだろう。
彼を狂わせたことに今更、恐怖する。
私はどうなるのだろう。
怖い。
もう、何も考えたくない。
助けてお父様…
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