生徒会×幼馴染み=下克上!?

千日紅

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本編

おとこのこもいつも

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 隆嗣は、清羅を抱いたまま楽屋に戻ると、彼女を手近にあったパイプ椅子に座らせた。
 白茶けた蛍光灯が煌々と狭い室内を照らしている。
 清羅は無理矢理自分を連れてきた隆嗣に文句を言おうとして、隆嗣の視線の冷たさに口を噤んだ。

「……なぜ、ここに清羅がいるんです」

 隆嗣からブリザードが吹いてくるのを感じる。この尊大な態度は何なのだろう。
 こうやって、隆嗣は、清羅の知らないところで夜遊びをしていたくせに、と思うと、むかむかしてくる。

「……いいでしょ、別に」
「別にとは何ですか別にとは」
「別は別だし! あたしの自由です!」

 いきなり気勢づいた清羅に、隆嗣は長くため息を吐く。

「……清子さんの仕業ですか。その服も」
「服……? そ、そう……あの……結構、いい感じでしょ?」

 楽屋の鏡に映る清羅は、勝ち気そうに隆嗣を睨み付けて、唇を尖らせている。
 黒いストッキングはあまりにも薄くて、彼女のほっそりとした脚に蠱惑的な陰影を描く。
 スカートと太ももの作る三角形の影や、自分を守るように寄せた腕のせいで出来た仄かな胸の谷間。
 緩くカールした髪が、白い肌の上を這う。
 あどけない顔に浮かぶ無意識の媚態。
 こういうのをコケットリーな女性というのだ。
 穴が開きそうなほど見つめられて、清羅は目元を赤らめて、ネックレスについた石をいじくった。

(に、似合うって、言ってくれたりして)

 祖母は手放しで褒めてくれた。自分でもなかなかの出来映えではないかと思う。
 これを隆嗣は、忌々しげに、本当に忌々しげに舌打ちして、

「全く似合っていません」

と言い放った。

「……あっ、あのねー!? ちょっとそれひどくない!?」

 清羅はパイプ椅子を蹴倒して立ち上がる。
 隆嗣の襟元を掴んで、締め上げてやろうとしたが、圧倒的に身長が足りない。

「あっ、きゃっ!」
「せ、清羅」

 ついでに、先程失ったヒールの片方のせいで、バランスを崩した清羅は、隆嗣の胸にぶら下がるようにして、彼もろとも床に倒れ込んだ。
 ごちんっ! と大きな音を立てて、隆嗣の後頭部が床にぶつかる。
 床は打ちっ放しのコンクリートだ。

「いたっ……! きゃーっ! た、たかつぐ、大丈夫……」
「……を失いそうです」
「なに!? 気絶!? 気絶するの!? えっと、気絶した時は、顔を横にして……」
「……違います」

 清羅は床にのびた隆嗣の身体に、馬乗りになって、彼の顔を上から覗き込んでいた。
 いつもは柔らかな前髪で隠れた秀でた額が露わになっていて、清羅はどきりとする。

「ご、ごめ……お、重い……よね……」

 清羅は慌てて隆嗣の上からどこうとしたが、どこに手をついて立ち上がればいいかわからず、尻をもじつかせる。
 速やかに立ち上がろうとするのだが、これがなかなかうまくいかない。結果、清羅は男の下腹に自分の尻を押しつけて、真っ赤な顔でうんうん言ってるわけで。
 目元に光る微細なパール。触れるのを待ち侘びる頬。
 誘うようにはためく睫、美味しそうにふっくらした唇。
 吐息はオレンジの香り。

「……全く、君は……」

 隆嗣の手が、清羅の胴に添えられる。どくのを手伝ってくれるのかと思った清羅だったが、隆嗣の大きくて熱い手は、そのまま清羅の腰へと降りていく。

「んっ……た、かつぐ……! くすぐった……ぁんっ!」

 脇腹から腰のあたりは、清羅の特に弱い場所である。清羅は隆嗣の上で、身体をくねらせた。タイトな形のスカートが太ももの付け根あたりまでまくれ上がる。
 隆嗣は思いきり不機嫌な顔をして、清羅のスカートをたくし上げた。

「ひっ……! な、何してんのぉっ! やだっ!」
「……距離を置くのがばからしくなってきました」

 ストッキングに包まれた清羅の腰を、隆嗣の両手が包む。骨格自体が小さな清羅の骨盤を捉え、指がまろやかな尻の肉を揉みしだく。

「やっ……んっ!」

 ぎゅぎゅっと形良く盛り上がった尻を揉まれて、清羅は隆嗣の上で腰を跳ね上げる。それをぐいっと引き戻されて、隆嗣の腰に――腹ではなくて、腰の上に、押しつけられる。
 固く漲り始めたものがそこにはあり、清羅はそれが何だか、隆嗣にすでに教わっている。

「きゃっ……ぁん……っ、た、たかつ」

 ぐり、と芯を持ったものをこすりつけられる。同時に尻を揉まれる。
 ストッキングの弾性のせいで、シームが清羅の敏感な場所にきゅっと食い込んで、清羅はびくびくと背中を震わせた。
『線が出るのはみっともない』と清子が清羅に寄越したのは、大胆なカットのTバック。フロントはレースが使われ、最小限の面積以外はシースルー、透け透けである。そこにストッキングのシームがウエストから縦に入っている。サポートタイプのストッキングで、ウエストは編み方が変わって、濃い色の帯になる。その下に、可憐なへそが透ける。

「……いやらしい下着ですね」
「ばっ! ばか……! 見、ないでぇっ……んっ!」

 隆嗣の肩に手を置いて、止めようとする。けれど力が入らない。

「んっ……んっ……んふっ……ぁっやぁんっ!」

 隆嗣の指が後ろから清羅の脚の間に忍び入る。指は、忠実にストッキングのシームをなぞり、柔らかく膨らんだ場所に辿り着いた。

「……清羅、感じてる? 湿ってる……」
「やっぁあんっ! そんなとこっ、さ、さわっちゃだめぇっ!」
「清羅、あんまり騒ぐと人が」
「やっ!? やだぁっ! も、はなしてぇっ」
「静かに……」
「ん、ぅむ」

 隆嗣が伸び上がって、清羅の唇を塞ぐ。ぬるりと舌が入ってきて、そこで清羅の抵抗の意志は完全に挫けた。
 感じやすい部分を隆嗣の、美しいメロディを奏でていたあの指がこすり上げる。ストッキングの編み目のざらつき、もどかしい刺激に、清羅はどんどん熱を持ち、とろけていく。

「ぁふっ……んぅ……」

 キスは深く、息をするのもままならない。びっと何かが破れるような感触が伝わってきて、隆嗣の指がストッキングの内側に入ってきた。

「あ」

 清羅の身体は大きく仰け反り、キスが終わる。シームを破いて入ってきた指は、隆嗣がいやらしいと言った下着の中に滑り込む。

「や、あ、ぁん」

 隆嗣の指がそこに触れて、初めて清羅は理解した。熱く解けて、そこは濡れている。柔らかくふやけている。指は滑りを確かめるように、するりと下から上へ撫でた。

「ひっ……ん……!」

 ガクガクと清羅は全身を震わせる。指が清羅の奥まった場所の、秘密の入口を擽り、入って――。

「やっ……そこは……だ、め……」

 ――こわい。

 清羅の視界がぐるんと回る。隆嗣が起き上がり――清羅と違って、彼は腹筋だけで身体を起こすことができた――、自分の膝に向かい合わせに清羅を座らせた。
 清羅の肘を隆嗣の両手が押さえている。侵略者であった指。隆嗣の手。

「…………ぁ、う……」

 心臓が口から飛び出て宇宙旅行に行ってしまった。隆嗣の息は心なしか上がっていた。清羅の胸はふいごのように上下しているけど、ろくに空気は入ってこないし、苦しくてたまらない。
 隆嗣はやはり不機嫌そうな顔で、清羅の唇に残ったグロスを拭った。

「……そんなに僕の理性の限界を試して楽しいですか」

 間近にあるキャラメル色の瞳。隆嗣の顔は怒っていて、険のあるまなざしが自分に真っ直ぐに向かっているので。
 隆嗣が、こちらを見てくれるので。

「た、たかつぐの……いじわるぅ……!」
「……清羅」

 大人びた化粧を施した顔を、くしゃくしゃにして、清羅は泣き出した。
 はーっと、隆嗣が大きなため息をついて、清羅を抱きしめる。
 清羅も躊躇わすに、ドレスシャツの背中に手を回した。

「たっ……たかつぐが……、いけないんだもん……。か、勝手に、ひとりで大人になる、からぁっ……」

 大きくなった隆嗣の背中。清羅が抱きしめても、抱きしめきれない。
 反対に、清羅をすっぽりと包んでしまう、男の身体。

「……たかつぐが、せーらを、おいてくからぁっ……」

 泣き顔を埋めた胸はいつかの夜のように、清羅の知らない匂いがした。
 清羅の知らない隆嗣。物憂げに鍵盤を弾く隆嗣の指、誰かと快楽を分け合った指。
 清羅にキスをした唇。

「……大人じゃありませんよ。清羅ほど子供じゃないだけで」
「……じゃあ、大人にして……」
「清羅」
「せんせーにしたみたいに、清羅にもして……」

 彼はぐっと奥歯を噛んで、清羅の身体をそろそろと離した。
 ガラスの薄い器か、繊細な飴細工にでもするように、優しく清羅の涙を拭った。
 それから、清羅を立ち上がらせて、「帰りましょう」と短く告げた。

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