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メイストームのあとは飛行機雲
19《直人視点》
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「ねー、なおちん。こーちゃんは?」
昴希の雛鳥こと翼は、親鳥の不在をいち早く嗅ぎつけた。
初日の朝イチ、翼はまだカバンを下ろしてもいなかった。
「風邪。熱あったから休ませた。」
「えー。じゃあお見舞い行こう。なおちん部屋入れて。」
「ダメに決まってるだろ。」
当の昴希は部屋にいないのだから連れていけるわけがない。
そうでなくても翼みたいなのが発熱中に見舞いに来たら、悪夢を見そうだと直人は思ってしまう。
断られた翼は露骨に不満そうに口を尖らせる。
仲良くなってからずいぶんと感情表現がわかりやすくなったと、直人は最初の頃の翼を思い出す。
そして関わっていく中で、おそらく直人以外の友人たちも翼の幼い心に気がついていた。
「昴希ママは具合悪くて寝てるんだから、そっとしとけって。」
「そーそー。身体強くないから時々寝込むし。」
「早く治るように、ちゃんと寝かせてやらないと。」
比較的扱いに慣れたクラスメイトに畳み掛けられると、渋々翼は自分の席に戻っていった。
直人は露骨に安心することも出来ず、心の中だけで胸を撫で下ろした。
これで諦めてくれれば楽なんだが、と淡い期待をしつつ、やはり目を離さないようにしなければと緊張の一週間を迎えた。
昴希の不在は今日で三日目。
日増しに翼のいら立ちが募っているのを、直人だけでなく他のクラスメイトも感じていた。
ついに今日はいつかのように教科書を出さなくなってしまったため、「江夏っ。風見がいないときもちゃんとしろッ。」と担任から喝を食らっていた。
ずいぶん昴希が弱っているらしい。パートナーから聞いていた直人は、もしかしたらこのまま一週間を過ぎても登校できないかもしれないと危機感を募らせていた。
もちろん心配ではあるが、こういうときアルファである直人は何もできない。できるのは黙って待つことだけだ。
「なあ、直人。」
よく一緒にいるクラスメイトがこっそり話しかけてきた。
「昴希が戻るのと教室なくなるの、どっちが先だと思う?」
それが冗談にならなそうな状況の中、直人も今回ばかりは昴希に早く戻ってきてほしいと願わずにはいられなかった。
だが、翼はその日のうちに行動を起こした。
最後の授業を迎える前、直人は耐えきれずにトイレに行った。そこから戻るとクラスメイト数人が集まってくる。
「直人スマン。ちょっと目を離したら翼いなくなってた。」
「すぐ廊下出たんだけどもういなくて。」
行き先は誰しもが分かっていた。当然鍵がかかった部屋に入ることはできないが、今の翼なら扉ごと壊してしまいそうな雰囲気さえある。
どうするべきか悩んだクラスメイトたちは、もう一人の部屋の主が現れるのを待っていた。
その報告に心臓激しく音を立てた。冷や汗が流れるのも無視して、スマホだけを片手に教室を飛び出す。
途中すれ違う教師にどこに行くのかと問われたが、答える時間さえ惜しい直人の代わりに「アイツうんこです。」「めっちゃ長いうんこっ。」と友人たちが下手な嘘をついてくれた。
直人はすぐさま智に電話をかける。繋がるかどうかは賭けだった。
『直人……?』
チャイムがなる直前ではあったが出てくれた。直人は安堵の息をつき用件を手短に伝える。
「悪い。翼が逃げた。……智、すぐ部屋に行けるか?」
『うん。……行く、大丈夫。』
それだけで電話を切れば直人は全力で寮に向かった。何事も起こらなければと、人生で一番と言うほど強く願っていた。
昴希の雛鳥こと翼は、親鳥の不在をいち早く嗅ぎつけた。
初日の朝イチ、翼はまだカバンを下ろしてもいなかった。
「風邪。熱あったから休ませた。」
「えー。じゃあお見舞い行こう。なおちん部屋入れて。」
「ダメに決まってるだろ。」
当の昴希は部屋にいないのだから連れていけるわけがない。
そうでなくても翼みたいなのが発熱中に見舞いに来たら、悪夢を見そうだと直人は思ってしまう。
断られた翼は露骨に不満そうに口を尖らせる。
仲良くなってからずいぶんと感情表現がわかりやすくなったと、直人は最初の頃の翼を思い出す。
そして関わっていく中で、おそらく直人以外の友人たちも翼の幼い心に気がついていた。
「昴希ママは具合悪くて寝てるんだから、そっとしとけって。」
「そーそー。身体強くないから時々寝込むし。」
「早く治るように、ちゃんと寝かせてやらないと。」
比較的扱いに慣れたクラスメイトに畳み掛けられると、渋々翼は自分の席に戻っていった。
直人は露骨に安心することも出来ず、心の中だけで胸を撫で下ろした。
これで諦めてくれれば楽なんだが、と淡い期待をしつつ、やはり目を離さないようにしなければと緊張の一週間を迎えた。
昴希の不在は今日で三日目。
日増しに翼のいら立ちが募っているのを、直人だけでなく他のクラスメイトも感じていた。
ついに今日はいつかのように教科書を出さなくなってしまったため、「江夏っ。風見がいないときもちゃんとしろッ。」と担任から喝を食らっていた。
ずいぶん昴希が弱っているらしい。パートナーから聞いていた直人は、もしかしたらこのまま一週間を過ぎても登校できないかもしれないと危機感を募らせていた。
もちろん心配ではあるが、こういうときアルファである直人は何もできない。できるのは黙って待つことだけだ。
「なあ、直人。」
よく一緒にいるクラスメイトがこっそり話しかけてきた。
「昴希が戻るのと教室なくなるの、どっちが先だと思う?」
それが冗談にならなそうな状況の中、直人も今回ばかりは昴希に早く戻ってきてほしいと願わずにはいられなかった。
だが、翼はその日のうちに行動を起こした。
最後の授業を迎える前、直人は耐えきれずにトイレに行った。そこから戻るとクラスメイト数人が集まってくる。
「直人スマン。ちょっと目を離したら翼いなくなってた。」
「すぐ廊下出たんだけどもういなくて。」
行き先は誰しもが分かっていた。当然鍵がかかった部屋に入ることはできないが、今の翼なら扉ごと壊してしまいそうな雰囲気さえある。
どうするべきか悩んだクラスメイトたちは、もう一人の部屋の主が現れるのを待っていた。
その報告に心臓激しく音を立てた。冷や汗が流れるのも無視して、スマホだけを片手に教室を飛び出す。
途中すれ違う教師にどこに行くのかと問われたが、答える時間さえ惜しい直人の代わりに「アイツうんこです。」「めっちゃ長いうんこっ。」と友人たちが下手な嘘をついてくれた。
直人はすぐさま智に電話をかける。繋がるかどうかは賭けだった。
『直人……?』
チャイムがなる直前ではあったが出てくれた。直人は安堵の息をつき用件を手短に伝える。
「悪い。翼が逃げた。……智、すぐ部屋に行けるか?」
『うん。……行く、大丈夫。』
それだけで電話を切れば直人は全力で寮に向かった。何事も起こらなければと、人生で一番と言うほど強く願っていた。
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