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悠太編
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翌朝、厨房で湯を沸かしながら悠太は呆然と、顔から力が抜けたような表情を浮かべていた。
あんなにも求めて、幸せを感じたセックスは悠太にとっても久しぶりで、性欲処理や遊びのためのものとは違う特別さを感じていた。
眠ってしまった航平にキスをしてバスルームに行く時も、朝一緒に目が覚めた時も確かに満たされていて、昨日の朝とは全く違う爽やかな新年二日目を迎えるはずだった。
しかし、当の航平自身に記憶がなく、完全に酔った勢いでやっちまった、という反応なのが悠太にとって不満だった。
まあ元を正せばそういうセックスだったと、酒の勢いで身体を重ねただけといえばそうなのだが、悔しい気持ちもあって、少しは何かを思い出した航平をからかって出てきてしまった。
いよいよ自分のダメ男遍歴に「行きずり記憶喪失男」まで加わってしまったと、抑えきれないため息が悠太の口からそっと漏れていく。
朝は簡単に済ませて、それでもうお別れすればいい、と何品も用意する気力も削がれた。
とてもではないがミネストローネや味噌汁を一から作る気にもなれず、トーストと目玉焼き、それから粉末のコーンポタージュで終わりにした。
だが、そんなありふれたメニューにも航平は目を輝かせる。
昨夜と同様に子どものように頬張るものだから、悠太の恨みも朝日に溶けて消えていった。
歴代のダメ男たちはやれ朝食はしっかり摂らないとだの、朝はドリップコーヒーだけだのケチをつけるヤツも多かった。
けれど、料理にケチはつけないし、きちんと「いただきます」と言ってくれる航平の育ちの良さは、なんだかんだ憎めないと、悠太はそっと目を逸らす。
やがてお互い食べきると、悠太は無意識に航平の皿まで下げようと手を動かす。
すると、思いがけず航平の手も重なってきて、驚きのあまりに手が止まる。
「なあ、片付け手伝っていい?厨房入るなって言うなら、カウンター拭いたり、店の掃除手伝うけど……」
『え、手伝ってくれるの?』という純粋な驚きが先に立ってしまい、悠太は言葉を失った。
その沈黙をどう捉えたのか、航平は慌てたように金を払うだのと言い出して口元が緩んでしまう。
「……掃除も手伝ってくれるんだろ?カウンター拭いて、床軽く掃いといてよ。昨夜は航平しかいなかったからそれで十分」
だんだんと気分が上がってきて、そう言って台ふきんを投げてやれば、航平はその性格通り几帳面に掃除をしてくれた。
昨夜も酔った勢いではあったが、始終丁寧な男だったと思い出して咳払いをする。
それにしても、と洗い物をしながら悠太はもう一度航平の姿を目で追ってみた。
一生懸命に掃除をしてくれる様子が、朝日のせいか、昨夜の余韻のせいか眩しく見えて、胸が締め付けられる。
航平は確かにダメな男だ。好きでもない女に何度も付き合い気を持たせ、自分をすり減らしながら、それでも平和に解決できないかと考える辺り、悠太からみれば頭がお花畑以外の何物でもない。
だが、優しくて人の痛みにも敏感で、何より悠太の作ったものを美味しそうに食べてくれる。
悠太はおそらく自分はダメ男しか引き寄せられないと思っている。
同じダメ男なら浮気癖が抜けない男より、身勝手に蒸発する男より、航平がいいと思わずにはいられなかった。
だから、掃除が終わった航平の手を取って、わざと誘うように皮膚の薄い手首や手のひらをなぞった。
今は他人行儀に戻った航平が、少しでも自分をそういう対象として意識してくれるように。
「……俺、航平のこと気に入っちゃった。」
「は、い?」
「俺の恋人にしたい。昨夜咥えたんだし、男ダメってわけじゃないんだろ?」
昨日のおみくじでは恋愛は成就すると書かれていた。それに励まされるように悠太は航平に押しの姿勢で挑んでみた。
しかし、航平の目は泳ぐばかりで明らかに困惑していた。断り文句を探しての戸惑いなのか、あるいは受け入れる理由を探しての沈黙なのか測りかねたが、どちらにせよ、航平はこういう男なのだとため息が漏れる。
ここで答えをくれるような男ならば、ちさとの関係もとっくに清算しているはずなのだ。
それならば、自分は「我欲を捨て相手に寄り添う」しかないのだろう、と悠太も覚悟を決めた。
「いいよ。俺はお前の曖昧にしときたいズルさを許してあげる。昨夜みたいに一晩中二人きりで話も聞くし、デートもしてもいい」
昨日のような夜を生殺しのように何度も過ごしてやる、という気持ちはきっと航平には伝わらないのだろう。
そうやって甘やかすことが航平の癒しになるならそれでもいいように思えたが、甘やかすだけではダメ男列伝に名前が加わるだけである。
本当はもう一度……いやあと何回か航平と甘い夜を過ごしたい欲求を抑えて悠太は口を開いた。
「でも、セックスはしない。俺を抱きたかったらきちんとしろ。ちさちゃんのことも」
「は……はい……」
悠太の甘やかしに希望を見出した航平だが、セックスはしないと断言したところで明らかに表情が曇った。
これは脈がないわけではないのか、と想像を巡らせながら多少の強がりでニッと微笑んでみせる。
しばらくして航平は荷物をまとめて店を後にした。帰り際に向こうから「メッセージのID教えて」と言ってくれたときには、航平の成長を感じた。
しかし、航平が去った今、連絡先の入ったスマホを見つめては、悠太は柄にもなく座り込んでしまう。
「待ち人、早すぎませんかね。神様」
もう恋愛はこりごりだと思っていた自分がまさかこんなにすぐ、しかもこれまでの誰よりも手に入れたいとか考えるなんて……。と悠太は耳まで赤くして、頭を抱えた。
あんなにも求めて、幸せを感じたセックスは悠太にとっても久しぶりで、性欲処理や遊びのためのものとは違う特別さを感じていた。
眠ってしまった航平にキスをしてバスルームに行く時も、朝一緒に目が覚めた時も確かに満たされていて、昨日の朝とは全く違う爽やかな新年二日目を迎えるはずだった。
しかし、当の航平自身に記憶がなく、完全に酔った勢いでやっちまった、という反応なのが悠太にとって不満だった。
まあ元を正せばそういうセックスだったと、酒の勢いで身体を重ねただけといえばそうなのだが、悔しい気持ちもあって、少しは何かを思い出した航平をからかって出てきてしまった。
いよいよ自分のダメ男遍歴に「行きずり記憶喪失男」まで加わってしまったと、抑えきれないため息が悠太の口からそっと漏れていく。
朝は簡単に済ませて、それでもうお別れすればいい、と何品も用意する気力も削がれた。
とてもではないがミネストローネや味噌汁を一から作る気にもなれず、トーストと目玉焼き、それから粉末のコーンポタージュで終わりにした。
だが、そんなありふれたメニューにも航平は目を輝かせる。
昨夜と同様に子どものように頬張るものだから、悠太の恨みも朝日に溶けて消えていった。
歴代のダメ男たちはやれ朝食はしっかり摂らないとだの、朝はドリップコーヒーだけだのケチをつけるヤツも多かった。
けれど、料理にケチはつけないし、きちんと「いただきます」と言ってくれる航平の育ちの良さは、なんだかんだ憎めないと、悠太はそっと目を逸らす。
やがてお互い食べきると、悠太は無意識に航平の皿まで下げようと手を動かす。
すると、思いがけず航平の手も重なってきて、驚きのあまりに手が止まる。
「なあ、片付け手伝っていい?厨房入るなって言うなら、カウンター拭いたり、店の掃除手伝うけど……」
『え、手伝ってくれるの?』という純粋な驚きが先に立ってしまい、悠太は言葉を失った。
その沈黙をどう捉えたのか、航平は慌てたように金を払うだのと言い出して口元が緩んでしまう。
「……掃除も手伝ってくれるんだろ?カウンター拭いて、床軽く掃いといてよ。昨夜は航平しかいなかったからそれで十分」
だんだんと気分が上がってきて、そう言って台ふきんを投げてやれば、航平はその性格通り几帳面に掃除をしてくれた。
昨夜も酔った勢いではあったが、始終丁寧な男だったと思い出して咳払いをする。
それにしても、と洗い物をしながら悠太はもう一度航平の姿を目で追ってみた。
一生懸命に掃除をしてくれる様子が、朝日のせいか、昨夜の余韻のせいか眩しく見えて、胸が締め付けられる。
航平は確かにダメな男だ。好きでもない女に何度も付き合い気を持たせ、自分をすり減らしながら、それでも平和に解決できないかと考える辺り、悠太からみれば頭がお花畑以外の何物でもない。
だが、優しくて人の痛みにも敏感で、何より悠太の作ったものを美味しそうに食べてくれる。
悠太はおそらく自分はダメ男しか引き寄せられないと思っている。
同じダメ男なら浮気癖が抜けない男より、身勝手に蒸発する男より、航平がいいと思わずにはいられなかった。
だから、掃除が終わった航平の手を取って、わざと誘うように皮膚の薄い手首や手のひらをなぞった。
今は他人行儀に戻った航平が、少しでも自分をそういう対象として意識してくれるように。
「……俺、航平のこと気に入っちゃった。」
「は、い?」
「俺の恋人にしたい。昨夜咥えたんだし、男ダメってわけじゃないんだろ?」
昨日のおみくじでは恋愛は成就すると書かれていた。それに励まされるように悠太は航平に押しの姿勢で挑んでみた。
しかし、航平の目は泳ぐばかりで明らかに困惑していた。断り文句を探しての戸惑いなのか、あるいは受け入れる理由を探しての沈黙なのか測りかねたが、どちらにせよ、航平はこういう男なのだとため息が漏れる。
ここで答えをくれるような男ならば、ちさとの関係もとっくに清算しているはずなのだ。
それならば、自分は「我欲を捨て相手に寄り添う」しかないのだろう、と悠太も覚悟を決めた。
「いいよ。俺はお前の曖昧にしときたいズルさを許してあげる。昨夜みたいに一晩中二人きりで話も聞くし、デートもしてもいい」
昨日のような夜を生殺しのように何度も過ごしてやる、という気持ちはきっと航平には伝わらないのだろう。
そうやって甘やかすことが航平の癒しになるならそれでもいいように思えたが、甘やかすだけではダメ男列伝に名前が加わるだけである。
本当はもう一度……いやあと何回か航平と甘い夜を過ごしたい欲求を抑えて悠太は口を開いた。
「でも、セックスはしない。俺を抱きたかったらきちんとしろ。ちさちゃんのことも」
「は……はい……」
悠太の甘やかしに希望を見出した航平だが、セックスはしないと断言したところで明らかに表情が曇った。
これは脈がないわけではないのか、と想像を巡らせながら多少の強がりでニッと微笑んでみせる。
しばらくして航平は荷物をまとめて店を後にした。帰り際に向こうから「メッセージのID教えて」と言ってくれたときには、航平の成長を感じた。
しかし、航平が去った今、連絡先の入ったスマホを見つめては、悠太は柄にもなく座り込んでしまう。
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