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第1章「異世界と狂戦士」
「聖騎士」
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私の名はジーン・オ・ウェイン。ミットレイア王国所属の国王直轄騎士団であるアシエル騎士団…通称近衛騎士団と呼ばれている組織において"聖騎士"を務めている。
世間では私の事を"次期聖騎士長の本命"や"若手のホープ"などと呼んでいるらしいが…まあ、私にとっては聖騎士長など通過点に過ぎない。
我が近衛騎士団では国王陛下の方針により、貴族や平民、それにエルフやドワーフなどの家柄や種族に関わらず個人の武勇によって地位が決められる。
要は騎士団内で一番力のある奴が騎士団のトップとなる訳だ。
それ自体は画期的なアイデアだと思わなくもないが…騎士団内では貴族出身者と平民出身者。それに人間と亜人の間では少なからず溝がある。しかし平民の下にこの私…ジーン・オ・ウェインが着くなどあってはならないし、とてもじゃないが我慢ならない。
名門貴族であるウェイン家出身の私は1日も早く聖騎士長から副団長へ…そしてあの"平民出身"のくせに偉そうであり、大変不快な男の就く近衛騎士団団長の地位に就かなくてはならない。
それが天からいくつもの才能を与えられたこの私…ジーン・オ・ウェインの使命であり、我がウェイン家の目標でもあるのだ。
しかし…それを成すには、悔しいが私自身がもう少し強くなる必要がある。
生まれながらに多くの特殊能力を持ち、多くの能力(スキル)、それに魔法を持つこの私ではあるが…。それでも冒険者の等級でいうところの第6級といったところだろうか。あの化け物のような強さを持つ団長には程遠い。
あの男、噂では第2級程の強さがあると言われているようだ。
第1級、それに第2級冒険者は現状ミットレイア王国の冒険者ギルドには存在していないと聞く。その点から鑑みても、奴は現在王国最強の男であると認めざるを得ないだろう。
しかし…だからと言って私にこの様な…本来なら雑兵がやるべき"警戒任務"をわざわざ指名して命じるとは………。必ずあの男に己の行いを後悔させてやる。
ウェインは不平不満を漏らしながら日が暮れつつある王国辺境にある街道を進む。
周囲にいる騎士の馬とは明らかに違う、一際大きな体躯の白馬に跨り、炎の様に真っ赤な髪を靡かせるウェイン。顔は全体的に整っているのだが…他者を見下すような鋭い目付きは蛇や狐に似ている。腰に刺す剣は王都の名のある職人が打った"魔剣"であるが、本人はあまり使いたがらないらしく、普段はセカンド武器のレイピアを用いる。
巡回は基本的に15名程の小隊で行う。内訳は聖騎士が3~4。"聖魔剣士"と呼ばれる聖騎士と同格の魔法をメインに戦う者が2~3。そしてそれぞれの一つ下の階級にあたる騎士と魔剣士がそれぞれ4~5ずつである。あとは従士と呼ばれる見習いが1~2といったところだろう。
今回はやや少なめの人数であるが、特に問題無いだろう。ここら辺の街道はスライムやゴブリンなどの雑魚がたまに出るくらいで、厄介なのは盗賊くらいだろうが…今回はこの私、ジーン・オ・ウェインがいるのだ。並みの盗賊では相手にならないだろう。
そして現在私の隊では本隊に先行して聖魔剣士の下級位である魔剣士が索敵魔法を展開しながら斥候としてやや先を進んでいる。
いくら下級位の魔剣士であっても、近衛騎士団の団員。ここらで奴に勝てるような存在などいないであろうと思い、気を抜いて進んでいたのだが…
「何だお前は?!おい!止まれ!!おいっ!………ぐわぁぁあ!!!!」
突然先行していた魔剣士の悲鳴が聞こえてきた。
「ん?何だ今の声は?」
「斥候役のニアンの声の様ですが…」
騎士の言葉通り、確かに斥候に出ていた男の声で間違いないと思われるが…
「いや、そういう事を聞いているのではない。何故悲鳴が聞こえているのかと聞いている」
「は、はい。すみません。聖魔剣士のルナ様に聞きに行って参りましょうか?」
「それはいい、まああの女が何とかするか。我々は野営の準備でも整えよう。私のテントは清潔に保つよう従士の奴にしっかりと…」
「あら?もうお休みになられるのですか?"お貴族"のお坊ちゃん様??」
「チッ…」
ウェインに声をかけたのは紫色の長い髪を一本に縛った大人の雰囲気を醸し出す女であった。目のやり場に困る程の露出の多い服からは、まさに"わがままボディ"と呼ぶのが相応しい身体が顔を覗かせていた。
セクシーな声はその綺麗な大人っぽい顔と相まって、彼女からは淫魔として有名なサキュバスの様な淫靡な雰囲気が感じられる。
この太々しい態度の女の名はルナ。平民出身のくせに世間から次期聖魔剣士長筆頭などと呼ばれて図に乗っている女だ。
剣術よりも魔法の才が選考の基準となる魔剣士は平民出身者が多い。魔法の才は単純に確立によって左右されるため、単純に数の多い平民出身の者が多くなるのだ。
しかしこの女…ルナは何かにつけては俺を目の敵にする。そこそこの実力はあるが、こんな平民出の奴が俺を詰るなど到底許されることでは無い。
「教範では斥候に何かあった場合、現場の"責任者"たる者が判断するとあったけれど…貴方がこの場においては責任者じゃない?同格の聖騎士にすら敬語を使わせているのだから」
ルナは皮肉交じりの言葉を使う。
「チッ…魔剣士は貴様たちの部下だろう?自分の部下の面倒くらい自分でみれんのか?」
「あら?じゃあニアンに何か起きていた場合貴方はどうするつもりかしら?規範通りの行動を取っていた部下を見捨てるなんて、とてもじゃないけど…」
「嫌な女だ…わかった。私が行こう」
「じゃあよろしくね~」
ルナは小馬鹿にするように手を振ると、自らのテントへと戻っていく。
あの女はいつもそうだ。私の出世に響くような事で私を半ば脅迫のような形でこき使うのだ。まあ、そんな事ができるのも今のうちだ。いつか自分の行いを後悔させてやる。
ルナの挑発にまんまと乗ってしまったウェインは、2人の騎士を率いて悲鳴の聞こえてきた方へ向かう。
しばらく進むと、斥候に出ていた男…確かニアンといったか?そいつが血まみれで倒れていた。
「おい、回復魔法をかけてやれ」
「はっ!………!!!!!!」
治療の為に倒れている男に近づいた騎士であったが、突然近くの茂みから飛び出してきた影に押し倒される。
「ぐわぁぁああ!!!」
騎士は腹部を切り裂かれたようで、悲痛な叫びを上げる。
「な、何だ?!今のは………!!こいつは…」
ウェインともう1人の騎士の前に現れたのは…
「獣?!…いや、獣のような人間か?」
真っ赤に染まった瞳でウェインを睨みつける獣のような男であった。
世間では私の事を"次期聖騎士長の本命"や"若手のホープ"などと呼んでいるらしいが…まあ、私にとっては聖騎士長など通過点に過ぎない。
我が近衛騎士団では国王陛下の方針により、貴族や平民、それにエルフやドワーフなどの家柄や種族に関わらず個人の武勇によって地位が決められる。
要は騎士団内で一番力のある奴が騎士団のトップとなる訳だ。
それ自体は画期的なアイデアだと思わなくもないが…騎士団内では貴族出身者と平民出身者。それに人間と亜人の間では少なからず溝がある。しかし平民の下にこの私…ジーン・オ・ウェインが着くなどあってはならないし、とてもじゃないが我慢ならない。
名門貴族であるウェイン家出身の私は1日も早く聖騎士長から副団長へ…そしてあの"平民出身"のくせに偉そうであり、大変不快な男の就く近衛騎士団団長の地位に就かなくてはならない。
それが天からいくつもの才能を与えられたこの私…ジーン・オ・ウェインの使命であり、我がウェイン家の目標でもあるのだ。
しかし…それを成すには、悔しいが私自身がもう少し強くなる必要がある。
生まれながらに多くの特殊能力を持ち、多くの能力(スキル)、それに魔法を持つこの私ではあるが…。それでも冒険者の等級でいうところの第6級といったところだろうか。あの化け物のような強さを持つ団長には程遠い。
あの男、噂では第2級程の強さがあると言われているようだ。
第1級、それに第2級冒険者は現状ミットレイア王国の冒険者ギルドには存在していないと聞く。その点から鑑みても、奴は現在王国最強の男であると認めざるを得ないだろう。
しかし…だからと言って私にこの様な…本来なら雑兵がやるべき"警戒任務"をわざわざ指名して命じるとは………。必ずあの男に己の行いを後悔させてやる。
ウェインは不平不満を漏らしながら日が暮れつつある王国辺境にある街道を進む。
周囲にいる騎士の馬とは明らかに違う、一際大きな体躯の白馬に跨り、炎の様に真っ赤な髪を靡かせるウェイン。顔は全体的に整っているのだが…他者を見下すような鋭い目付きは蛇や狐に似ている。腰に刺す剣は王都の名のある職人が打った"魔剣"であるが、本人はあまり使いたがらないらしく、普段はセカンド武器のレイピアを用いる。
巡回は基本的に15名程の小隊で行う。内訳は聖騎士が3~4。"聖魔剣士"と呼ばれる聖騎士と同格の魔法をメインに戦う者が2~3。そしてそれぞれの一つ下の階級にあたる騎士と魔剣士がそれぞれ4~5ずつである。あとは従士と呼ばれる見習いが1~2といったところだろう。
今回はやや少なめの人数であるが、特に問題無いだろう。ここら辺の街道はスライムやゴブリンなどの雑魚がたまに出るくらいで、厄介なのは盗賊くらいだろうが…今回はこの私、ジーン・オ・ウェインがいるのだ。並みの盗賊では相手にならないだろう。
そして現在私の隊では本隊に先行して聖魔剣士の下級位である魔剣士が索敵魔法を展開しながら斥候としてやや先を進んでいる。
いくら下級位の魔剣士であっても、近衛騎士団の団員。ここらで奴に勝てるような存在などいないであろうと思い、気を抜いて進んでいたのだが…
「何だお前は?!おい!止まれ!!おいっ!………ぐわぁぁあ!!!!」
突然先行していた魔剣士の悲鳴が聞こえてきた。
「ん?何だ今の声は?」
「斥候役のニアンの声の様ですが…」
騎士の言葉通り、確かに斥候に出ていた男の声で間違いないと思われるが…
「いや、そういう事を聞いているのではない。何故悲鳴が聞こえているのかと聞いている」
「は、はい。すみません。聖魔剣士のルナ様に聞きに行って参りましょうか?」
「それはいい、まああの女が何とかするか。我々は野営の準備でも整えよう。私のテントは清潔に保つよう従士の奴にしっかりと…」
「あら?もうお休みになられるのですか?"お貴族"のお坊ちゃん様??」
「チッ…」
ウェインに声をかけたのは紫色の長い髪を一本に縛った大人の雰囲気を醸し出す女であった。目のやり場に困る程の露出の多い服からは、まさに"わがままボディ"と呼ぶのが相応しい身体が顔を覗かせていた。
セクシーな声はその綺麗な大人っぽい顔と相まって、彼女からは淫魔として有名なサキュバスの様な淫靡な雰囲気が感じられる。
この太々しい態度の女の名はルナ。平民出身のくせに世間から次期聖魔剣士長筆頭などと呼ばれて図に乗っている女だ。
剣術よりも魔法の才が選考の基準となる魔剣士は平民出身者が多い。魔法の才は単純に確立によって左右されるため、単純に数の多い平民出身の者が多くなるのだ。
しかしこの女…ルナは何かにつけては俺を目の敵にする。そこそこの実力はあるが、こんな平民出の奴が俺を詰るなど到底許されることでは無い。
「教範では斥候に何かあった場合、現場の"責任者"たる者が判断するとあったけれど…貴方がこの場においては責任者じゃない?同格の聖騎士にすら敬語を使わせているのだから」
ルナは皮肉交じりの言葉を使う。
「チッ…魔剣士は貴様たちの部下だろう?自分の部下の面倒くらい自分でみれんのか?」
「あら?じゃあニアンに何か起きていた場合貴方はどうするつもりかしら?規範通りの行動を取っていた部下を見捨てるなんて、とてもじゃないけど…」
「嫌な女だ…わかった。私が行こう」
「じゃあよろしくね~」
ルナは小馬鹿にするように手を振ると、自らのテントへと戻っていく。
あの女はいつもそうだ。私の出世に響くような事で私を半ば脅迫のような形でこき使うのだ。まあ、そんな事ができるのも今のうちだ。いつか自分の行いを後悔させてやる。
ルナの挑発にまんまと乗ってしまったウェインは、2人の騎士を率いて悲鳴の聞こえてきた方へ向かう。
しばらく進むと、斥候に出ていた男…確かニアンといったか?そいつが血まみれで倒れていた。
「おい、回復魔法をかけてやれ」
「はっ!………!!!!!!」
治療の為に倒れている男に近づいた騎士であったが、突然近くの茂みから飛び出してきた影に押し倒される。
「ぐわぁぁああ!!!」
騎士は腹部を切り裂かれたようで、悲痛な叫びを上げる。
「な、何だ?!今のは………!!こいつは…」
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真っ赤に染まった瞳でウェインを睨みつける獣のような男であった。
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