アンビバレントな狂戦士

山崎トシムネ

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第1章「異世界と狂戦士」

「粘液の王」

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キングスライム…そう聞くと日本出身の俺としては否応なしに頭に王冠を乗っけた可愛らしい奴を想像するのだが、どうやらこの世界ではそんな生易しいものでは無いらしく、ただの気持ちの悪いドロドロした粘液の集合体らしい。

しかし討伐推奨が第7等級に指定されている通り、物理攻撃は殆ど通らず魔法も弱点である炎系以外は殆ど効果がないとのこと。

この前の昇級試験で見せた通り、遂に俺も技能(スキル)を習得したのだが…俺の覚えた斬撃(スラッシュ)なんかは斬撃系の攻撃なので、スライムに対して相性的には最悪である。ただのスライムならどうとでもなるが、キングスライムには全くダメージを与えられない可能性が高い。なのでこのクエスト、実は結構やばいのだ。なんか俺が頼りの綱みたいな感じになっているけど…実は俺が一番役に立たない可能性が高い。


「キングスライムって言ってたわよね?酸攻撃で服を溶かすって有名だけど…溶かされちゃったらどうしよう…?」

彼女はマイ。他の2人からおばさんおばさんと呼ばれていた冒険者だ。まだ24歳なのにおばさん呼ばわりされるのかと思うが、俺の世界の常識がこの世界の常識になるとは限らないし、そういうものなのかと思うしかない。しかしこの世界は見る人見る人みんな可愛い人ような気がする。俺のハードルが低いのか、この世界の人が可愛いのか…客観的に見ても後者である可能性の方が高いと思う。

マイさんも普通に美人だし、なんと言っても胸がでかい。いや、でか過ぎる。話していても目線が段々下がっていくのは俺のせいじゃない。そんな立派なものをこしらえている方が悪いのだ。それに盗賊とかいう役割を担っているらしく、格好が凄くエロい。

「アピールですか?そのでかい胸を振り回して?…はしたないです」

常に敬語を使って話す眼鏡系女子の彼女はローラ。一見すると静かでおしとやかそうに見えるが意外と口が悪いというか…直ぐに毒を吐く。マイの事をよくおばさん呼ばわりすることからも分かると思うが、それ以外にもちょくちょく過激な発言をしている所を目にする。魔法が得意らしく、大きめのローブにクリクリの瞳。常に片手には大きな杖を持っていて、もう片方の手に魔導書を持っている。ザ魔法使いみたいな子だ。ちなみ15歳で俺と同い年らしい。

「ぐぬぬ…そう言うローラもおっぱい大きいじゃない!私なんか…私なんか…」

自らの胸を見て落ち込んでいる彼女はサラ。ショートカットがよく似合う女の子で、見た目通り活発で豪快な性格らしい。ボーイッシュで可愛らしい子だ。俺やローラと同い年である。ちなみに本人の言う通り、マイやローラと比べるとやや貧相に見えてしまう部分を本人も気にしてるらしい。そして彼女は剣で戦うオーソドックスな冒険者だ。


「み、みなさん落ち着いてくださいっ」

「あら?イッセイ君は胸が大きい子と小さい子…どっちが好きなのかしら?」

「お、大きい方が好きなんでしょうか?」

「うぅ…そうなの?バンドウさん」


いや、大事なのは大きさじゃない。童貞の俺が言うのもなんだが、おっぱいは…

「大きさとかじゃなくて…か、形が綺麗なのが好きです…なんて」

冷静に考えるとニヤニヤしながら凄く気持ちの悪い事を言ってしまったと思い、言った直後に後悔するも…

「そうなのねバンドウさん!流石だわ!!見る目があるというか…私にもチャンスがあるのね!!」

「わ…私は大きくて形も良いですよ?」

「私だってそうよ!!なんなら触ってみる??」

マイがメロン並みの大きさを持つ二つの爆弾を俺の目の前で乱暴に揺さぶる。

俺がイケメンだからこんな気持ち悪い事を言っているのに誰も気にしないのか?それに触ってみるだと?!…イケメンっていいな、楽な人生で。なんか複雑な気持ちだ…。

「ちょっとおばさん!!そういうとこよ!貴女が周りの女性冒険者から嫌われているのって」

「そうです…はしたないですし同じ女として情けないです」

「うるさいわねっ!女の武器を使って何が悪いの?!それに盗賊なんだから色気も武器にして当然だと思うけど?」

「ローラ…貴女さっき何て言って…」

「お、おばさんがやるとなんかいやらしいんです!私がやる分には崇高な行為のように…」

「貴女それ自分で言う?!」


アルデアの街を発ってから約半日。ずっとこの調子で言い争いをする三人娘。すれ違う商人や冒険者から奇異の目で見られながらも、やっと目的地に到着したようだ。

「み、みなさん!目的地に着いたみたいですよ?街道沿いの廃墟となった砦。あそこにキングスライムがいるらしいです」

壱成はリリアから聞いた廃砦の特徴と合致する建物を見つけたので、言い争いを遮るように三人娘に大きな声で話しかける。

「ついたみたいね…」

「大きいです…」

「なんか湿気が多い気がするわね…」

「それじゃあ早速行きましょうか?前衛は僕、真ん中にマイさんとサラ。そして後衛にローラで大丈夫ですか?」

「流石ねバンドウさん。私はそれでいいと思う」

「はい…大丈夫です」

「良いわよ、それでスライム以外はどんなのが出るのかしら?」

「うーん…リリアさんは普通のスライムとかゴブリンが住み着いているかもしれないって言ってましたね」

「なんだ…雑魚ですね」

ローラさん。雑魚って…言い方。

「大丈夫そうね。それでは行きましょうか」

「おっけー」


こうして壱成たちハーレムパーティは廃墟となった砦の中へと入っていく。



砦の中は薄暗くジメジメとしていて気味が悪かったが、俺はそんなことよりも暗闇に乗じていつ彼女たちが身体に触れてこようとしないかを警戒していた。

「暗いわね…きゃあ!助けてイッセイ君っ!!」

「危なっ!」

わざとらしく転んだマイを華麗に避ける壱成。

そしてマイは地面に倒れ込む。

「………」

「だ、大丈夫ですかマイさん?」

「なんかぬちゃぬちゃした物が手に…ってきゃあ!!」

マイは突然大きな声で叫ぶ。

「ちょっと!?どうしたのおばさん?!」

「偉大なる火の精サラマンダーよ。我に堅忍と太白(たいはく)の魔を授け給え…炎柱(ファイヤーポール)」

ローラが魔法を唱え、小さな炎の柱が辺りの暗闇を照らし出す。

すると…

「おおおぉ!!」


思わず歓喜の声をあげた壱成の目に入ったのは、ドロドロの液体によって全身ヌルヌルになっていたマイの姿であった。
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