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第二シリーズ

002 まとめ

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「ええとつまり、まとめると……カオルさんは痴漢されたワタシに脅された形で家の場所を話し、そこで徹底的に調教して欲しいと」
「そう、男はなしで!」
「……いや、ワタシ女」
 M男や童貞とも仕事したことのあるリナだが、流石にここまでの要望はなかった。精々が言葉攻めした上で、上位に立って性交しただけのこと。ここまでやったことはない。
 自分を差した指でそのまま頬を掻き、どうしたものかとリナは悩まし気に唸った。
「う~ん……それは別にいいんですけど、ワタシ言葉攻めしかしたことないんですよね~」
「別にいいわよ。加減なしでしてくれても。むしろ歓迎するわ」
「あ、あはは……」
 もはや、リナの口からは苦笑いしか漏れなかった。客の家で身体は売ったこともあるが、流石にそんな要望で行ったことはない。
 しかも痴漢なんて、どこで受けろっていうんだおい。
 内心毒づくも、リナにとってカオルは大事なお客、しかもお金ならいくらでも出すというのだ。だったら少し吹っかけてでも、要望通りに働いて稼いだ方がいいかもしれない。
(そういえば、クロって着たきりだった気がするな~)
 家で大人しく待っているペットの青年の服装を思い出すくらいには、リナは冷静になれた。なら後は、仕事あるのみ。
(……よし、今日のお金でクロに服を買ってあげよう)
「分かりました。痴漢する場所はどうします?」
「電車、と言いたいけれど最近は警察もうるさいから別の場所にしましょう。車を止めてあるから、その近くでいいかしら?」
「……まあ、いいですよ」
 これは仕事、これは仕事、と心の中で繰り返し、リナはカオルと連れ立ってファミレスを後にした。
「何なら私が通りがかったあなたに襲い掛かるシチュエーションでもいいわ。存分に愉しみましょう」
(……いざとなったら銃を抜こう)
 これ、本当に大丈夫か、とリナは不安になったが、零れたミルクは戻らない。もうどうしようもないのであった。
「……ところで家って近くなんですか?」
「二駅隣よ。線路も近いから、駅の場所もすぐわかるから安心して」
(いやできないから)
 いざとなれば仕事相手から逃げ出してきたリナだからこそ分かる。
 駅の場所が分かりやすいということは、そこに逃げ込めと教えているようなものだ。むしろ駅から離れて流れのタクシーを拾った方が逃げ切れる可能性が高い。
「ほら、早くいきましょ」
「は~い……あ、そういえば」
 ふと浮かんだ疑問を、リナは口にした。



「痴漢の漢って、『男』って意味ですよね。女の痴漢って、なんていうんでしょうね?」
「さぁ……昔、電車で痴女が出たって聞いたことはあるけれど、それだと女版の変質者と変わらないし……『痴姦』とか?」
「いや、漢字分からないですから……」
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