TRANSPORTER-BETA(旧題:進学理由『地元が廃村になりました』)

桐生彩音

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174 案件No.009_Treasure Hunt Tour(その12)

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「……せめて、ダーツかビリヤードにしてくれ」

 アメリカでの卓球普及率は、そこまで高い方ではない。その為か、複合レジャー施設に連れてきたのまでは良かったが、睦月の提案は却下されしまった。
「空いてて人の目に付かなそうなのは……ダーツだな」
「それにしよう」
 そう答えた火器取締局ATFの職員ことジョン・チャップマンは、睦月と共に大人しくダーツのスペースへと入った。施設内の監視カメラは朔夜が掌握済み、背後には姫香が控えている。
 睦月とチャップマンの銃器は全て姫香に預けたので、互いに丸腰の状態だ。質や量に過不足なく、対等な状態でなければ交渉は成り立たない。圧倒的な火力差による威嚇や、同調圧力による集団心理でおこなえるのは話し合いではなく、一方的な意見の押し付けである。争いをける為には、もっとも注意しなければならなかった。
 無論、有事の際は姫香が銃を抜くことにはなるが……それは相手も同じだ。
「そちらの相棒も来たみたいだな……結構美人じゃないか」
「手を出すなよ。俺の婚約者フィアンセだ」
「……人質が嫌なら、別の奴にしとけよ。現場慣れしてないのか?」
 そう軽口を叩く睦月だが、内心ではむしろ、警戒心の方が高まっていた。姫香の目には、隣に立った婚約者フィアンセの方がチャップマンよりも有能・・だと見えているらしい。
 少なくとも……彼女が近付いてきた途端に、取り出したスマホを仕舞う位には。
「ダーツはやり慣れてないから、複雑なルールは苦手なんだ。単純な『COUNTカウント-UPアップ』で良いか?」
「『CRICKETクリケット』の方が好きなんだが……仕方ないな」
 獲得した得点の差で勝敗を決める『COUNTカウント-UPアップ』に決めた二人は、それぞれダーツを手に取る。

「じゃあ……始めるか」

 チャップマンの宣誓と共に、投げられたダーツが真っ直ぐにボードへと向かっていく。得られたのは8点だが、その先端が命中したのは中心の外側アウターブルのすぐ傍だった。
「良い腕してるな……」
アメリカ向こうじゃ、普段からやってるからな」
 今おこなっている『COUNTカウント-UPアップ』はダーツを三本投げて交代し、それを8回繰り返すルールのゲームだ。勝敗は全ての巡回ラウンドが終わった後の合計で決まるが、チャップマンの方はそこそこ幸先が良く、ボード中心ブル近くで手堅く点数を稼いでいる。
「そう言うお前はどうなんだ?」
「どちらかと言えば、昔馴染みの方が得意な奴は多いんだけどな……」
 別格であるガキ大将を除けば、一番は『傭兵英治』で、二番が『医者有里』といった具合だろうか。他にも得意そうな者は居たが……全員が・・・手の内を晒しているわけではない。中には地元を出るまでの間、手を抜いて誤魔化している者が居ても不思議ではなかった。

 ――タンッ!

「……まあ、投げる・・・のも・・別に、苦手じゃない」
 それに、その後の人生の中で成長し、腕を磨いた場合もある。今の睦月が、まさにその手合いだった。
(まさか……『走り屋』時代の気晴らしが、こんなところで役に立つとはな)
 根城にしていたビルの一室には、ダーツの台も設置されていた。仲間内でよく賭けをして巻き上げられていたこともあり、一人女々しく練習していた過去がある。普段から慣れ親しんでいる相手程ではないが……

「20点の3倍トリプル……いきなり抜かれたか」

 ……腕はまだ、落ちていなかった。



 不安定だが一発の得点が大きい睦月に、低くても中心ブルを狙って堅実に稼いでいるチャップマン。そこそこ良い勝負になりながら3巡目ラウンドに入ったところで、相手の方からようやく口を開いてきた。
「そう言えば聞いてなかったな。お前……葉月朔夜サクヤ・ハヅキとはどういう関係だ?」
朔夜あいつの弟分だよ。まあ、あんた等には……荻野秀吉ヒデヨシ・オギノの息子、って言った方が早いか?」
「……ああ、早いな」
 チャップマンの声が少し低くなるものの、ダーツの狙いは未だにれることはない。その程度で揺れるような相手ではないと理解しつつも、睦月は気にすることなく、冷静に投擲した。
「ということは……例のお宝が何かは知っているんだな?」
「いや全然」
 即答する睦月が最後のダーツを投げる中、チャップマンはガクンと肩を落としていた。
「俺が知っているのは宝の地図の存在と、それを親父達が調べようとする前に問題トラブルが起きて、話が流れたことだけだ。ただ……」
 姫香達が見守る中、立ち位置を変える際に睦月は、チャップマンに告げる。

「その宝の正体が……俺の予想・・・・と外れていることを、願ってはいるけどな」

 そこでようやく、睦月達の方から接触してきた理由を察したのだろう。
火器取締局あんた等が調べ出したのも、それ・・が理由なんだろ?」
 チャップマンは投擲位置に立ったまま、ダーツを持っても構えようとはしなかった。
「…………もう、」
 特に制限時間は設けていないので、ボードであるダーツマシンは何も反応しない。意図的な遅延行為だが、睦月の方は特にとがめることなく、チャップマンからの言葉を待った。
「もう半世紀、いやそれ以上に長い時が流れている。いまさらだと、俺も婚約者あいつも思ってはいるんだ。だから、ここに来たのは上からの命令と、経費を使った旅行みたいなもんだと割り切っている……つもりだったんだけどな」
 もし銃を取り上げていなければ、迷わず構えていただろう。今でこそ、ダーツの矛先がボードから自分に向けられやしないかと、睦月は内心警戒している。
 けれども……それは杞憂だった。
「お前、もしかして……」
 むしろチャップマンは、別の可能性があるのではと睦月に対し、懐疑かいぎ的な眼差しを向けてきた。
自分の予想・・・・・が外れていると、思える何かがあるのか?」
「……大した話じゃない。ほとんどが憶測以下の、希望的観測だ」
 終戦間際、九州北西部、兵器の類で、さらに鹵獲した・・・・可能性も考えれば……宝の正体で思い付くのは一つしかない。だが睦月は、馬鹿馬鹿しいとばかりに肩を竦めてみせた。
「一応、従いはするかもしれないな。だけど……『運び屋うち』の先祖が大日本帝国かつての国家に、まともな忠誠心を抱いていたとはどうしても思えないんだよ。おまけに、もし予想通りだとしても……そもそもの話、あんなものを一体誰が買うんだ?」
「……戦争を始めたがる馬鹿か屑だな」
「『運び屋うち』の先祖ならむしろ、そういう・・・・連中・・から金を持ち逃げするよ。多分、俺だって同じことをする。まともに相手してやる方が一番の馬鹿だ」
 チャップマンの意見に肯定するものの、そんな連中・・・・・と同類ではないと、睦月は馬鹿馬鹿し気に否定した。

 国益や領土、民や文明の尊厳を守る手段の一つとして決断した結果ならまだしも……私欲を満たす為に戦争を始めようと考える者は、正真正銘の馬鹿か屑だと相場が決まっている。

 目先の利益しか見えていない馬鹿はもちろんのこと、自分だけ・・が得をすれば良く、未来の可能性すら絞り出して私腹を肥やそうとする屑等に、一体誰が従うのか。
 精々、周囲が流されてしまうようなご立派なお題目を掲げているか……眼が眩む程の大金を積み上げるかしなければ、ついて行こうと考える人間等皆無に等しい。
 憤怒や傲慢の下に闘争心を持つのが人間であるならば、ただ周りに流されて楽に、怠惰に生きたいと思うこともまた人間なのだ。わざわざ自分から、周囲を巻き込んで戦争しようなんて面倒な考えを持つこと自体、珍しさを通り越した愚行に過ぎない。
 人類がそこまで愚かなのであれば、それ以前に社会そのものが成立していないはずだ。『平和』という言葉どころか概念そのものが、生まれなかったことだろう。
「だから、それにかこつけた別のお宝じゃないかと俺達は睨んでる。もしくは、何らかの偶然で本当に手に入れていたかもしれないが……とっくに先祖が売り払ったか、『邪魔だから』って捨てちまってたとしても、まったく不思議じゃない」
「……すでに・・・空っぽ・・・の可能性もあると言いたいのか?」
「親父達ならむしろ、旅行感覚で探そうとしていてもおかしくないしな。見つけるのはそれこそ、二の次で」
 そもそも、宝の存在自体が眉唾ものなのだ。祖父や曾祖父、もしくは他の親戚がすでに持ち去っている可能性もある以上、『あればラッキー』程度にしか考えていなかっただろう。
 現に、睦月も朔夜から話を持ち込まれるまでは、その存在すら知らなかった程だ。
「じゃあ……お前たちは何故、九州ここへ来た?」
 至極真っ当な疑問が、放たれたダーツと共に投げられてきた。
 ダーツの先端はボード中心ブルからギリギリ逸れているものの、チャップマンの言葉の芯は睦月へと、正確に突き刺さっている。
「仕事の依頼、って言えば早いんだろうけど……請けた理由は他にもある」
 再び交代し、ダーツを構えた睦月はボードを見据えたまま、若干の気紛れも込めてか、正直に吐露した。

「親父が今やろうとしていること……そのきっかけの手掛かりが、その宝の地図の場所にあるかもしれない。だから乗ったんだよ」

 一本目は少し力が入り過ぎた為か、真下の3点枠内にギリギリ突き刺さる。
 狙いが完全にれた、というよりは単に加減が半端だったらしく、2倍ダブルの枠より上に的中していた。
「……どういう意味だ?」
「どこから話せばいいのか……」
 二本目のダーツは睦月の気持ちに、というよりも説明の仕方に悩んだ為か、狙いが横にれてしまっている。2点の枠で、ボード中心ブル3倍トリプルの丁度中間に的中していた。
 今のところ、外れてはいないものの……このままでは、チャップマンとの差は広がるだけだった。
「ある女について調べている。俺の母親かもしれない人間で、名前はおそらく『スミレ』。そして……ある国の拉致行為に巻き込まれて、死んだらしい」
「……暁連邦共和国か」
「そう。日本に・・・来ている・・・・国際手配犯……『犯罪組織クリフォト』の連中とも関係の・・・ある・・、な」
 元々、暁連邦共和国と『犯罪組織クリフォト』との繋がりについて疑ってはいた。それも今回、『武器商人レジ』から購入した情報で、すでに確定している。
『商談に来た幹部・・と部下全員を皆殺しにして、死体を纏めて領空内にバラ撒いてやった』
 その時は気付かなかったが、よくよく考えてみれば……『武器商人』との取引の際に矢面に立つとすれば、日本でいうところの防衛装備庁のような、専門部署の人間のはずだ。少なくとも、国の中枢とも呼べる幹部クラスが軽々しく、前へ出てくるような話ではない。取引相手が表社会でも名が通っているのであればまだ分かるが、本来出張るとすればそれこそ、将来の幹部候補が精々だろう。
 ということは、その幹部は人手不足で仕方なく駆り出されたか……国家とは別組織の人間だと考えるのが自然である。そして今回、レジから購入した情報の中にも『犯罪組織クリフォト=暁連邦共和国の非公開機関』だと明記されていた。現に奴等は、韓国と暁連邦共和国でしか使用されていない韓国語を、主に用いている。
 そもそもの話、どの国が組織の背後にいるかは考えるまでもなかったのだ。これまで睦月が断定しなかったのも、単に証拠がなかったからに過ぎない。
「一部の諜報機関じゃ、公然の秘密らしいな。主要言語以外に表沙汰にできる確証がないだけで、本当は掴んでたんだろ?」
「……少なくとも、火器取締局うちが知ったのは『犯罪組織クリフォト』に変わった頃だ」
 睦月が得た情報に、チャップマンは静かに首肯した。
「アメリカにも拉致被害者は居る。だから火器取締局うち以外の組織が未だに調べているし……今回の国際手配犯連中の来日に対しても過敏になっている。結果、幸か不幸か、この件は俺達が専任となって受け持つことになっちまった」
「それも政治、ってやつか……おたく等も大変だな」
 三投目は未だ投げられず、睦月の手元でくすぶっている。代わりに、ようやく本題を口にした。
「俺も葉月朔夜依頼人も、宝自体に興味はない。欲しいのは情報だけだ。もし兵器が残っているのなら、あんた等に全部任せても良い」
「……見返りは?」
 美味い話には大抵、裏がある。そう簡単に信じて貰えないとは思っていたものの、睦月達としてはむしろ、保険・・的な意味で押し付けたいと考えていた。

「もし、想像通りの宝が残っていたなら……確実に・・・処分してくれ。少なくとも、暁連邦共和国どこぞの拉致国家や『犯罪組織馬鹿共』の手に渡るのだけは、絶対に阻止して欲しい」

 そこでチャップマンは、睦月達の要求について理解した。
「つまり……いざという時は『廃棄物処理貧乏くじ押し付けたい引け』って言いたいのか?」
公的機関組織なんてものは、個人じゃどうにもならない問題トラブルを解決する為に存在してるんだろ? そういうのは専門家に任せる……さっ!」
 変則的かつ不意を突くような速さで、三本目のダーツが放たれる。睦月が投げたそれは、的のど真ん中インナーブルへと音を立てて突き刺さった。
「お前……最初から・・・・手を抜いてたのか?」
「まさか」
 こっそりと過集中状態ゾーンに入ったことをおくびにも出さず、睦月は顔を背けてすっとぼけた。

最後に・・・ちょっと・・・・、本気を出しただけだよ。いざとなれば……炭鉱の・・・カナリア・・・・程度には役に立つ、って証明する為にな」

 まだ巡回ラウンドは残っているはずだが、姫香の横に居るチャップマンの婚約者フィアンセはもう、諦めたように肩を竦めてきた。
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