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175 案件No.009_Treasure Hunt Tour(その13)
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結果として、ダーツは睦月の敗北で終わった。
(やっぱり、無言で過集中状態に入るのはまだ難しいか……最後の方なんて、壁にめり込んでたし)
「お前……本当に苦手じゃない、だけだったんだな」
「ほっとけ」
旅館から離れた路地裏。放置されたポリバケツの上に姫香から受け取ったチャップマンの自動拳銃を置くと、睦月は改めて火器取締局の二人に向き直った。
右手こそ姫香から受け取った自動拳銃に触れてはいるが、その銃把を握って抜く理由は、今はない。
「というか……本当に信じていいのか? 情報だけが目的だって」
「じゃなきゃ、炭鉱のカナリア役を無償で引き請けるわけないだろ」
かつて、鉱山での採掘を行う際には必ずと言っていい程、金糸雀が連れ込まれていた。縁起物としてではなく、埋蔵されている鉱物等によって発生する有毒ガスを逸早く察知する為の警鐘として。
つまり、睦月達が彼等よりも先んじて宝の隠し場所に向かうことを良しとする代わりに……危険物があれば、その死をもって知らせる役割を担うと、交渉材料として提示したのだ。
「……で、出てきた物がヤバければ、俺達に始末させようとしてんのか?」
「何なら、爆発物の類も全部、持ってってくれてもいいぞ? 暁連邦共和国よりは、アメリカ合衆国の方がまだマシだろ」
「そこは自分達の国を信じないのかよ?」
「不発弾程度なら、問題ないんだけどな……」
もし最悪の予想が当たっていれば、日本ではまず、処理は難しいだろう。事前に朔夜から、研究自体は戦前にも行われていたと聞かされてはいる。だが、その結果は歴史が示す通り、完成に至らないまま終結を迎えてしまった。
しかも戦後は、その研究自体が打ち切りとなっている。関わる手立てはもう、諸外国へ渡るか、個人で行うしかないだろう。もっとも……それ自体に率先して手を出したい人間がいれば、の話だが。
「……やっぱりここは、専門家に任せた方が早いだろ」
「まあ……それでいいなら良いが」
相方の婚約者と目くばせし、小声で軽く話し合ってから、チャップマンは結論を口にしてきた。
「道具を揃えるのに、どうしたって数日は掛かる。調べるなら、その間に終わらせてくれ。後……旅館は変えないか、連絡先を教えてくれ」
「火器取締局に準備した連絡先のメモなら、銃の下に置いといた。連絡先はともかく、銃の方はあまり国内で持ち歩かないでくれよ」
「…………お前等にだけは言われたくない」
ポリバケツの上に置かれた自動拳銃と睦月が走り書きした(使い捨ての)連絡先が書かれたメモを持つと、チャップマン達は夜の闇へと消えていった。少し待ち、本当に気配がなくなったのかを確認してから、姫香の手を引いて身を翻す。
「じゃあ、戻るか」
右腕にしがみ付いてくる姫香をそのままに、睦月は朔夜達が待つ旅館へと向けて歩き出した。
念の為、火器取締局以外からの尾行を確認しつつも、睦月と姫香はどうにか、旅館へと戻ってくることができた。室内に入り、座卓の上に近隣の地図や資料集を広げている朔夜とそれを手伝う由希奈に手振りで挨拶してから、その場へとすぐに腰掛けた。
「……姫香、そろそろ放せ」
(おそらくは由希奈に)挑発している為か、一向に放そうとしてこない姫香。
業を煮やした由希奈が姫香を引き剥がそうとするのを放置して、睦月は朔夜に調査結果を尋ねた。
「それで、話がついたのは良いんだが……目的の場所は分かってるのか?」
「もう目星は付けてある」
どこかで購入したのか、一枚の地図を広げた朔夜は、ある場所を指差して睦月に示した。
「細かい位置は探索次第だが……大体この辺りだ」
「……ちょっと待て。これ、山の中じゃないのか?」
睦月が漏らした通り、朔夜が指し示してきたのは、ある山間部の内側だった。しかも、地図に示されている等高線を見る限り、そこそこの高度がある場所に指が置かれている。
「手持ちの情報を精査した結果だ。一応、何回か検算してみたんだが……ここでまず、間違いない」
「本気かよ……」
姦しく右腕を引っ張り合う少女二人が力を入れ出す前に、睦月はその手を引き抜いた。
そして胡坐を掻いた足の上に腕を置くと、代わりに持ち上げた左手に顎を載せながら、広げられた地図を一瞥する。
「まあ……廃鉱山なら、人の目から隠すにはうってつけか」
かつては『黄金の国』と呼ばれていた通り、日本にはいくつもの鉱物資源が存在した。ただし、それは所詮、張りぼてに過ぎなかった。たとえ種類が豊富だとしても、その量は世界と比較すれば、微々たるものでしかない。だから現在では、その大半を輸入に頼らざるを得なくなっている。
朔夜が示した廃鉱山も、かつては銀や亜鉛が採れていたようだが、閉山している以上、もう残ってはいないだろう。少なくとも、採算が取れる程の埋蔵量は期待できないはずだ。
「となると問題は、人目を避けての入山か……登山とか言って誤魔化すか?」
「いや……どうやら、その心配はなさそうだ」
(未だにじゃれ合っている)姫香達に気を遣ってか、煙草に火を点けないまま咥えているだけの朔夜は、愛用のノートPCを近くに手繰り寄せると画面を点け、事前に準備していたらしきWEBブラウザを広げてくる。
「姫香見習って、周辺を調べてみたんだけどな……どうも、妙な噂が流れているせいか、元から人が寄り付いてないらしい」
「妙な噂? ……ちょっと待て」
睦月は一度立ち上がると、未だにじゃれ合ってる姫香と由希奈を(半ば強引に)引き剥がしてから、また朔夜の前に腰掛けた。
「……で、妙な噂が何だって?」
「ネットの情報じゃ、あまり当てにならないが……所謂、『神隠し』だとさ」
古来より、人が突然姿を消したり、行方を晦ましてしまう時は、神仏や妖怪等が連れ去ったと考えられてきた。ゆえに、『神の仕業』だと言われてきたわけだが……その実、理由の大半は人為的なものである。
ただ迷子になって見つからなかった結果もあれば、自分から姿を消す場合もあり、中には事故や事件に巻き込まれてしまい、そのまま行方不明となることもある。酷い時等、口減らしとして殺されていたこともある位だ。無論、暁連邦共和国が過去に行った、理不尽な拉致行為もその一つに当てはまるだろう。
実際に超常現象の類が起きているのかについては、今考えても仕方がない。確証がなくて証明できないことは専門家に任せ、素人の自分達は手持ちの情報だけで、現状を把握することに努めるべきだ。
「その山に入った人間は、一人残らず帰って来なかったらしい。ここ最近でも、度胸試しに入り込んだ大学生グループが丸ごと消えてる」
「未だに遭難している可能性は?」
「そのことで一つ……ちょっと、面倒臭そうな話が出てきた」
そう言うと、朔夜はノートPCを操作し、一つのネット記事を睦月に見せてきた。
「……山の中へと消えたはずの人間の遺留品が、離れた海岸で発見された?」
「実際は山に登ってなくて、本当は海に行って事故っていたから、遺留品が見つかった。データベースの記録を見る限り、警察はそう判断している」
現に、廃鉱山近隣はすでに過疎化が進んでいる。目撃情報もなく、周囲の人間が出発前の彼等にそう聞いていたからこそ、最初は山の中へ向かったと思われていたらしい。
普通に考えれば警察と同様に、途中で気紛れに目的地を変えた結果、その先で事故に遭ったと見るべきだろう。
「で……お前はどう思う?」
ただしそれは、荒事に慣れていない一般人の視点での話だ。ここで、睦月達のような『裏社会の住人』が見れば、また違う考えが生まれることもある。
「山で誰かに消されて……捜索隊が入る前に海で処分された、ってところか」
そう推測を立てる睦月に、背中越しに地図を見下ろしながらか、由希奈の声が頭上から降ってくる。
「どうして……そう思うんですか?」
「これも、憶測の域を出ないんだけどな……」
すでに記録されている選択肢以外で、『神隠し』のような状況をもし、自分が作るとしたらどうするか?
睦月はそう考え……そして、一つの仮説に至った。
「気紛れに目的地を変えていない、という前提で何かが起きたとすれば、山の中か麓だろ? けど、遺留品は海で……全然違う場所で見つかった。それがどういうことか、分かるか?」
少し間を置いてから、由希奈は睦月からの問い掛けに答えてくる。
「山に、目を向けられたくなくて……それで海の方に、気を引きたかったから?」
「正解」
少なくとも、たとえ遺留品が見つかったのが山中ではなく麓だけだとしても……行方不明者の数次第では、捜索隊の派遣が行われてもおかしくない。
もし、山の中に見られたくない何か、不都合なものがあるとすれば……周囲の目から完全に意識を逸らす必要がある。
幸か不幸か、日本は島国だ。よほどの山奥でない限り、少し遠出をしただけで海岸へとすぐに辿り着ける。それを活かさない手はなかった。
「海難事故なんてこの国じゃ、しょっちゅう起きてるからな。不確実な情報だけで廃鉱山を調べるよりも、遺留品という確証のある海を捜索しようと考えるのが、一番の定石だ。おまけに過疎化が進んでいて、人口密度が低いということは……それだけ、目撃者も少なくなる」
睦月からの説明を聞き、由希奈もまた同じ考えに至ったらしい。
「誰かが山に入り込んでいて……人の目がないのを良いことに、何かをしている可能性がある、ってことですか?」
「……まあ、あくまで可能性だけどな」
それもまた、確証があるわけではない。その上、もし行方不明者が見つからない等の理由で捜索範囲が広がれば否が応でも、廃鉱山もその中に含まれてくる。睦月の憶測とて、結局は都合良く遺留品が見つかった場所が山ではなく海だったことを訝しみ、試しに穿った見方をしてみた結果に過ぎなかった。
「瞬間移動みたいな超常現象が起きてないなら、考えられるのは自分から海に行ったか、誰かに運ばれたかのどちらかだ。土砂崩れとかに巻き込まれてそのまま海に、ってのも考えてみたけど……」
ネット記事に書かれていた場所と廃鉱山へと繋がる道を、地図上に指を這わせて辿ってみるも……見えない地下とかに都合の良い水脈が流れていなければ不可能な場所で、遺留品が発見されている。自然現象の可能性は、この時点でほぼ潰えたと見ていいだろう。
「……見た限り、不可能に近い。真相はどうあれ、人為的なのはまず間違いないな」
ただ、睦月は『神隠し』よりも……むしろ、このタイミングで誰かが山の中に居る可能性が出てきたことの方が、気に掛かっていた。
「遺留品には、何があった?」
「よくある手荷物だけだよ。自作のパラシュートで突風に流されました、なんて笑い話は期待できないぞ?」
「あ~……面倒臭い」
ただでさえ少ない可能性がさらに減り、より危険な選択肢が上位になってしまう。
「ちなみに記録上だと、スマホの類は全部、都合良く水没してたみたいだな」
「もう、ほとんど黒じゃねぇかよ。絶対誰かが山ん中で何かやってるって、それ」
完全に目撃情報を遮断し、スマホをはじめとした記憶媒体を破壊した上で、山から海に注意を逸らしている誰かが潜んでいる。証拠の一つでも出てこない限り、捜索隊の派遣自体が面倒だとお偉いさんが考えている内は、その重い腰が上がることはないだろう。それどころか、鼻薬を嗅がされている可能性だってあった。
「……どうする? それでも続けるのか?」
睦月がそう問い掛けるのも、致し方なかった。いくら自分とは無関係ではないとはいえ、これ以上は別の事件に巻き込まれる可能性もある。そうなる位なら、もう『情報屋』に全部話して、そちらからどうにか話を聞き出す方がまだ安全だろう。
そもそも、今回の宝探し自体、過去に秀吉達が『やろう』と言っておきながらお蔵入りした話である。無理に続ける理由の方が薄かった。
「いや……山には登る。最低でも一回はな」
……だが、朔夜は未だに、宝探しを続ける意思を示してきた。
「理由は?」
「婆さんに話すのは賛成。ただ……現状が分からないまま、憶測で物事を語りたくはない」
それに……と、朔夜は続ける理由を付け足してくる。
「例の指名手配犯、一方は九州に来てるんだろ? 宝はともかく……山の方とは何か、関係があるんじゃないか?」
「と、いうことは……」
何かが起きていて、決断を急がなければならない場面が待ち構えている。
いくら睦月達が『正義の味方』ではなく、『裏社会の住人』だとしても……悪事を未然に防いではならない決まりはない。何より、自分達にも害が及ぶ可能性もある以上、見過ごすわけにはいかなかった。
「一先ず明日、状況を探る為に山に入る。何かが出てくればそれで良し。なければそのまま宝探しを続行する。それが私の結論だ。異論は?」
「……分かった。それでいこう」
睦月にももう、異論はなかった。
(今回、銃は使わないつもりだったんだけどな……)
今のところ、威嚇以外で活躍していないどころか、一発も発砲していない自動拳銃から弾倉を抜いた睦月は、残弾を確認してから再度銃床に叩き込んだ。
――ガシャッ!
(やっぱり、無言で過集中状態に入るのはまだ難しいか……最後の方なんて、壁にめり込んでたし)
「お前……本当に苦手じゃない、だけだったんだな」
「ほっとけ」
旅館から離れた路地裏。放置されたポリバケツの上に姫香から受け取ったチャップマンの自動拳銃を置くと、睦月は改めて火器取締局の二人に向き直った。
右手こそ姫香から受け取った自動拳銃に触れてはいるが、その銃把を握って抜く理由は、今はない。
「というか……本当に信じていいのか? 情報だけが目的だって」
「じゃなきゃ、炭鉱のカナリア役を無償で引き請けるわけないだろ」
かつて、鉱山での採掘を行う際には必ずと言っていい程、金糸雀が連れ込まれていた。縁起物としてではなく、埋蔵されている鉱物等によって発生する有毒ガスを逸早く察知する為の警鐘として。
つまり、睦月達が彼等よりも先んじて宝の隠し場所に向かうことを良しとする代わりに……危険物があれば、その死をもって知らせる役割を担うと、交渉材料として提示したのだ。
「……で、出てきた物がヤバければ、俺達に始末させようとしてんのか?」
「何なら、爆発物の類も全部、持ってってくれてもいいぞ? 暁連邦共和国よりは、アメリカ合衆国の方がまだマシだろ」
「そこは自分達の国を信じないのかよ?」
「不発弾程度なら、問題ないんだけどな……」
もし最悪の予想が当たっていれば、日本ではまず、処理は難しいだろう。事前に朔夜から、研究自体は戦前にも行われていたと聞かされてはいる。だが、その結果は歴史が示す通り、完成に至らないまま終結を迎えてしまった。
しかも戦後は、その研究自体が打ち切りとなっている。関わる手立てはもう、諸外国へ渡るか、個人で行うしかないだろう。もっとも……それ自体に率先して手を出したい人間がいれば、の話だが。
「……やっぱりここは、専門家に任せた方が早いだろ」
「まあ……それでいいなら良いが」
相方の婚約者と目くばせし、小声で軽く話し合ってから、チャップマンは結論を口にしてきた。
「道具を揃えるのに、どうしたって数日は掛かる。調べるなら、その間に終わらせてくれ。後……旅館は変えないか、連絡先を教えてくれ」
「火器取締局に準備した連絡先のメモなら、銃の下に置いといた。連絡先はともかく、銃の方はあまり国内で持ち歩かないでくれよ」
「…………お前等にだけは言われたくない」
ポリバケツの上に置かれた自動拳銃と睦月が走り書きした(使い捨ての)連絡先が書かれたメモを持つと、チャップマン達は夜の闇へと消えていった。少し待ち、本当に気配がなくなったのかを確認してから、姫香の手を引いて身を翻す。
「じゃあ、戻るか」
右腕にしがみ付いてくる姫香をそのままに、睦月は朔夜達が待つ旅館へと向けて歩き出した。
念の為、火器取締局以外からの尾行を確認しつつも、睦月と姫香はどうにか、旅館へと戻ってくることができた。室内に入り、座卓の上に近隣の地図や資料集を広げている朔夜とそれを手伝う由希奈に手振りで挨拶してから、その場へとすぐに腰掛けた。
「……姫香、そろそろ放せ」
(おそらくは由希奈に)挑発している為か、一向に放そうとしてこない姫香。
業を煮やした由希奈が姫香を引き剥がそうとするのを放置して、睦月は朔夜に調査結果を尋ねた。
「それで、話がついたのは良いんだが……目的の場所は分かってるのか?」
「もう目星は付けてある」
どこかで購入したのか、一枚の地図を広げた朔夜は、ある場所を指差して睦月に示した。
「細かい位置は探索次第だが……大体この辺りだ」
「……ちょっと待て。これ、山の中じゃないのか?」
睦月が漏らした通り、朔夜が指し示してきたのは、ある山間部の内側だった。しかも、地図に示されている等高線を見る限り、そこそこの高度がある場所に指が置かれている。
「手持ちの情報を精査した結果だ。一応、何回か検算してみたんだが……ここでまず、間違いない」
「本気かよ……」
姦しく右腕を引っ張り合う少女二人が力を入れ出す前に、睦月はその手を引き抜いた。
そして胡坐を掻いた足の上に腕を置くと、代わりに持ち上げた左手に顎を載せながら、広げられた地図を一瞥する。
「まあ……廃鉱山なら、人の目から隠すにはうってつけか」
かつては『黄金の国』と呼ばれていた通り、日本にはいくつもの鉱物資源が存在した。ただし、それは所詮、張りぼてに過ぎなかった。たとえ種類が豊富だとしても、その量は世界と比較すれば、微々たるものでしかない。だから現在では、その大半を輸入に頼らざるを得なくなっている。
朔夜が示した廃鉱山も、かつては銀や亜鉛が採れていたようだが、閉山している以上、もう残ってはいないだろう。少なくとも、採算が取れる程の埋蔵量は期待できないはずだ。
「となると問題は、人目を避けての入山か……登山とか言って誤魔化すか?」
「いや……どうやら、その心配はなさそうだ」
(未だにじゃれ合っている)姫香達に気を遣ってか、煙草に火を点けないまま咥えているだけの朔夜は、愛用のノートPCを近くに手繰り寄せると画面を点け、事前に準備していたらしきWEBブラウザを広げてくる。
「姫香見習って、周辺を調べてみたんだけどな……どうも、妙な噂が流れているせいか、元から人が寄り付いてないらしい」
「妙な噂? ……ちょっと待て」
睦月は一度立ち上がると、未だにじゃれ合ってる姫香と由希奈を(半ば強引に)引き剥がしてから、また朔夜の前に腰掛けた。
「……で、妙な噂が何だって?」
「ネットの情報じゃ、あまり当てにならないが……所謂、『神隠し』だとさ」
古来より、人が突然姿を消したり、行方を晦ましてしまう時は、神仏や妖怪等が連れ去ったと考えられてきた。ゆえに、『神の仕業』だと言われてきたわけだが……その実、理由の大半は人為的なものである。
ただ迷子になって見つからなかった結果もあれば、自分から姿を消す場合もあり、中には事故や事件に巻き込まれてしまい、そのまま行方不明となることもある。酷い時等、口減らしとして殺されていたこともある位だ。無論、暁連邦共和国が過去に行った、理不尽な拉致行為もその一つに当てはまるだろう。
実際に超常現象の類が起きているのかについては、今考えても仕方がない。確証がなくて証明できないことは専門家に任せ、素人の自分達は手持ちの情報だけで、現状を把握することに努めるべきだ。
「その山に入った人間は、一人残らず帰って来なかったらしい。ここ最近でも、度胸試しに入り込んだ大学生グループが丸ごと消えてる」
「未だに遭難している可能性は?」
「そのことで一つ……ちょっと、面倒臭そうな話が出てきた」
そう言うと、朔夜はノートPCを操作し、一つのネット記事を睦月に見せてきた。
「……山の中へと消えたはずの人間の遺留品が、離れた海岸で発見された?」
「実際は山に登ってなくて、本当は海に行って事故っていたから、遺留品が見つかった。データベースの記録を見る限り、警察はそう判断している」
現に、廃鉱山近隣はすでに過疎化が進んでいる。目撃情報もなく、周囲の人間が出発前の彼等にそう聞いていたからこそ、最初は山の中へ向かったと思われていたらしい。
普通に考えれば警察と同様に、途中で気紛れに目的地を変えた結果、その先で事故に遭ったと見るべきだろう。
「で……お前はどう思う?」
ただしそれは、荒事に慣れていない一般人の視点での話だ。ここで、睦月達のような『裏社会の住人』が見れば、また違う考えが生まれることもある。
「山で誰かに消されて……捜索隊が入る前に海で処分された、ってところか」
そう推測を立てる睦月に、背中越しに地図を見下ろしながらか、由希奈の声が頭上から降ってくる。
「どうして……そう思うんですか?」
「これも、憶測の域を出ないんだけどな……」
すでに記録されている選択肢以外で、『神隠し』のような状況をもし、自分が作るとしたらどうするか?
睦月はそう考え……そして、一つの仮説に至った。
「気紛れに目的地を変えていない、という前提で何かが起きたとすれば、山の中か麓だろ? けど、遺留品は海で……全然違う場所で見つかった。それがどういうことか、分かるか?」
少し間を置いてから、由希奈は睦月からの問い掛けに答えてくる。
「山に、目を向けられたくなくて……それで海の方に、気を引きたかったから?」
「正解」
少なくとも、たとえ遺留品が見つかったのが山中ではなく麓だけだとしても……行方不明者の数次第では、捜索隊の派遣が行われてもおかしくない。
もし、山の中に見られたくない何か、不都合なものがあるとすれば……周囲の目から完全に意識を逸らす必要がある。
幸か不幸か、日本は島国だ。よほどの山奥でない限り、少し遠出をしただけで海岸へとすぐに辿り着ける。それを活かさない手はなかった。
「海難事故なんてこの国じゃ、しょっちゅう起きてるからな。不確実な情報だけで廃鉱山を調べるよりも、遺留品という確証のある海を捜索しようと考えるのが、一番の定石だ。おまけに過疎化が進んでいて、人口密度が低いということは……それだけ、目撃者も少なくなる」
睦月からの説明を聞き、由希奈もまた同じ考えに至ったらしい。
「誰かが山に入り込んでいて……人の目がないのを良いことに、何かをしている可能性がある、ってことですか?」
「……まあ、あくまで可能性だけどな」
それもまた、確証があるわけではない。その上、もし行方不明者が見つからない等の理由で捜索範囲が広がれば否が応でも、廃鉱山もその中に含まれてくる。睦月の憶測とて、結局は都合良く遺留品が見つかった場所が山ではなく海だったことを訝しみ、試しに穿った見方をしてみた結果に過ぎなかった。
「瞬間移動みたいな超常現象が起きてないなら、考えられるのは自分から海に行ったか、誰かに運ばれたかのどちらかだ。土砂崩れとかに巻き込まれてそのまま海に、ってのも考えてみたけど……」
ネット記事に書かれていた場所と廃鉱山へと繋がる道を、地図上に指を這わせて辿ってみるも……見えない地下とかに都合の良い水脈が流れていなければ不可能な場所で、遺留品が発見されている。自然現象の可能性は、この時点でほぼ潰えたと見ていいだろう。
「……見た限り、不可能に近い。真相はどうあれ、人為的なのはまず間違いないな」
ただ、睦月は『神隠し』よりも……むしろ、このタイミングで誰かが山の中に居る可能性が出てきたことの方が、気に掛かっていた。
「遺留品には、何があった?」
「よくある手荷物だけだよ。自作のパラシュートで突風に流されました、なんて笑い話は期待できないぞ?」
「あ~……面倒臭い」
ただでさえ少ない可能性がさらに減り、より危険な選択肢が上位になってしまう。
「ちなみに記録上だと、スマホの類は全部、都合良く水没してたみたいだな」
「もう、ほとんど黒じゃねぇかよ。絶対誰かが山ん中で何かやってるって、それ」
完全に目撃情報を遮断し、スマホをはじめとした記憶媒体を破壊した上で、山から海に注意を逸らしている誰かが潜んでいる。証拠の一つでも出てこない限り、捜索隊の派遣自体が面倒だとお偉いさんが考えている内は、その重い腰が上がることはないだろう。それどころか、鼻薬を嗅がされている可能性だってあった。
「……どうする? それでも続けるのか?」
睦月がそう問い掛けるのも、致し方なかった。いくら自分とは無関係ではないとはいえ、これ以上は別の事件に巻き込まれる可能性もある。そうなる位なら、もう『情報屋』に全部話して、そちらからどうにか話を聞き出す方がまだ安全だろう。
そもそも、今回の宝探し自体、過去に秀吉達が『やろう』と言っておきながらお蔵入りした話である。無理に続ける理由の方が薄かった。
「いや……山には登る。最低でも一回はな」
……だが、朔夜は未だに、宝探しを続ける意思を示してきた。
「理由は?」
「婆さんに話すのは賛成。ただ……現状が分からないまま、憶測で物事を語りたくはない」
それに……と、朔夜は続ける理由を付け足してくる。
「例の指名手配犯、一方は九州に来てるんだろ? 宝はともかく……山の方とは何か、関係があるんじゃないか?」
「と、いうことは……」
何かが起きていて、決断を急がなければならない場面が待ち構えている。
いくら睦月達が『正義の味方』ではなく、『裏社会の住人』だとしても……悪事を未然に防いではならない決まりはない。何より、自分達にも害が及ぶ可能性もある以上、見過ごすわけにはいかなかった。
「一先ず明日、状況を探る為に山に入る。何かが出てくればそれで良し。なければそのまま宝探しを続行する。それが私の結論だ。異論は?」
「……分かった。それでいこう」
睦月にももう、異論はなかった。
(今回、銃は使わないつもりだったんだけどな……)
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