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183 案件No.009_Treasure Hunt Tour(その21)
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『貼山靠の真似事なんて、誰から教わったんだよ……ぅぅ』
今朝方、睦月は由希奈にそう言った。そう、言い切れた。
『説明は省くが、どっちも同じ意味で……どっちにしろ、今のだとただぶつかっただけだ。体当たりにすらなってねえよ』
何故なら……睦月はその技を、よく知っていたからだ。
(体当たりは第一段階……)
ただぶつかるだけであれば、咥え煙草やながらスマホで注意が散漫になっている馬鹿や、わざと周囲にいる弱者を傷付けてストレスの捌け口にしている迷惑な者達にもできる。そもそも、打撃系の技自体が身体の一部をぶつけている為、ある意味体当たりだ。
つまり……ぶつけ方次第で、ただの迷惑行為から武術の一つに昇華されるかが左右される。
(第二段階で身体の動かし方と狙いを定め……)
回り込み、カイツールと背中合わせになった睦月は間合いを把握し、動線を定めて身体の位置や部位を調整した。硬い部分で柔らかそうな場所を狙う。それだけでも、すでに体当たりとしては有効打足り得る。
けれども……睦月の攻撃は、それだけに留まらない。
(タイミングを合わせて第三段階…………身体を通して脚力をぶつけるっ!)
勁という、体内を巡る力の流れを表す言葉がある。
中国武術では、力は骨から生まれる有形だが、勁は筋肉から生まれる無形であるという考え方がある。
その考え方に対して、ただ身体をぶつけるのが力だとすれば、筋肉の動きで生み出したエネルギーを体外へ放出するのが勁だと、睦月は認識していた。
そして……勁は筋肉を介し、エネルギーを発生させた部位とは別の場所からも放出できることも。
自らをぶつける直前に持ち上げた片足。それを相手とは反対に向け、地面を踏みつけると同時にカイツールへと身体を押し込んでいく。その瞬間、鍛え抜かれた睦月の下半身が放つ震脚により生まれた運動エネルギーが大地から跳ね返され、やがて足や腰、そして背へと繋げて流れていく。
それは寸勁という勁の一種で、最小限の動きだけで強大な威力を生み出す手法の内の一つである。
幅跳びで立ったままよりも、走った状態からの勢いで跳ぶ方が距離や高さを稼げるように、寸前で生み出した運動エネルギーを身体の動きに合わせて上乗せし、威力を底上げさせるのだ。
「『全部振り切ってやる』っ!」
先程の、全体の二割解放に重ねて、過集中状態で脚力を部分的に強化する。本来であれば『全体解放』の『二速』が望ましいのかもしれないが、他にも敵がいる以上、無理はできない。
だから、自らの動きを制限されないギリギリ……その範囲での全力を、相手にぶつける。
――ゴッ、ッ……
カイツールに触れた瞬間、睦月は脚力から生み出したエネルギーを勁の流れに沿って背中へと伝えていき、体当たりに合わせて衝撃へと変えた。
「…………ぁああっ!」
――ドゴッ!
「ガファッ!?」
それこそが貼山靠――鉄山靠とも呼ばれる、回避困難な超近接距離から放つ、中国武術の体当たり技の一つだった。
(落ち着け、落ち着けっ! いや少しは焦ってもいい、だから順番に確認しろ……よし、まだ動けるっ!)
武装していない状態で、手も足も使わずに相手を無力化する。
睦月が『運び屋』としての将来を定めた瞬間から、素手による自衛の手段で身に着けられるのは先の条件を満たしたものだけとなった。だからカポエイラやテコンドーといった足技主体の格闘技や、腕への負担が少ない合気道等の武術の中から、修得する技を選ばなければならなかった。
その修行の中で、父であり『運び屋』の師である秀吉から習ったのが、当人の得意技の一つである貼山靠だった。
『昔、お前の爺さんや仕事で取引してた中国人から習ったんだよ。結構便利だろ? 腕がどんな状態でも使えるし』
秀吉の言う通り、使い方さえ間違えなければ、ある意味強力な技だった。
腕に負担を掛けず、それどころか、動けさえすれば何かを抱えたままでも使える。その利便性から、師が秀吉から『殺し屋』に変わっていた期間も、技の練度を磨き続けるよう命じられていた。
むしろ、その師の方も『覚えたいから』と、実践運用での指導と相手役を買って出てくれた程だ。
「…………ふぅ」
最後に一呼吸吐き、全身に備わっている制御装置が元へと戻っていく感覚と共に息を整えてから、改めて地面に突っ伏しているカイツールへと振り返る。
「ぅ、ぁ……」
カイツールの呻き声が微かに、睦月の耳に届いてきた。
先程の睦月の貼山靠には、さすがに対応しきれなかったのだろう。握っていたナイフは遠くへと飛んでいき、身体を持ち上げようとする腕に力が入っていない。
(この男、もしかして……まあ、関係ないか)
それでも、睦月は無造作に突き進むことなくタクティカルペンを仕舞い、代わりに弾切れの自動拳銃を一丁抜いて弾倉を再装填した。
「……悪いな」
――ガシャッ……ダン、ダン、ダン、ダンッ!
「がっ!?」
銃口をカイツールの四肢、肩や膝の付け根等に向けた睦月は、情を挟むことなく引き金を四回引く。離れた場所で無力化してからようやく頭側の、手が届かないギリギリの位置に移動し、改めて声を落とした。
「ああ、疲れた……で、」
いざとなれば即座に撃ち抜けるよう、睦月は銃口を頭部に向けたまま、カイツールに疑問をぶつける。
「お前等……こんな廃鉱山で何してやがる?」
「…………」
ようやく首だけを動かし、視線を睦月の方に向けてきたカイツールは、再び顔を伏せてしまう。
「せめて、仰向けにしてくれるか? 身体に蹴りを叩き込んでも……ぐっ!?」
最後まで聞くことなく、睦月は少しだけ足を伸ばすと、カイツールの腹部に爪先蹴りを入れて仰向けに転がした。そして再び頭の先の方に移り、今度は銃口が見えるようにして脅しながら、話の続きを促す。
「これで話せるか?」
「…………ああ」
眼前に構えられた自動拳銃の銃口に、もう打つ手がないと観念したかのように、カイツールは諦観を込めた顔付きで睦月を見返してきた。
「仕事の一環で、狙撃手を育てていた。先に言っておくが、仕事の内容や目的までは、話すつもりはない」
「そんなの……適当な生き残りなり、お前達の荷物を探るなりすればいいだけだろうが。わざわざ幹部級から聞き出す必要なんてねぇよ」
それに、カイツール達が日本の領土で狙撃訓練をしている理由はすでに、ある程度の予想が付いている。
以前、別の仕事の中で持ち上がった『某国の大統領が訪日する』話で、睦月は暁連邦共和国が裏で手を引いて自爆テロを起こすと考えていた。そして、その間隙を突いて、狙撃等が行われる可能性があることも。
睦月の予想が正しければ、カイツール達の目的はおそらく、その狙撃役の下準備だろう。
某国の大統領が実際にどれ程の規模で襲撃されるかは不明だが、その手段に狙撃が含まれることはこれで確定した。たとえ予想が外れていたとしても、少なくともどこかで誰かが撃ち殺される心配はしなくて済む。
それに……その辺りはそれこそ、別の人間の仕事だ。睦月達が無理に関わらなけれならない理由はない。
「……俺が知りたいのは、別の話だ」
だからこそ、別の疑問には目を背けなかった。
念の為、もう一丁にも新しい弾倉を差し込んでおけば良かったかと思いつつ、睦月はカイツールに対して本題を口にした。
「お前達はなんで……日本のこの山を訓練場に選んだんだ?」
偶然にしては、本当に出来過ぎていた。
「この山はたしかに人気のない廃鉱山だが……そんなもん、日本のどこにだってある。どうしてここを選んで占拠した。理由は?」
睦月達が星来の話を聞き、この廃鉱山に辿り着いたのはあくまで偶然だ。だからこそ、『犯罪組織』が先に占領して狙撃訓練までしている等、誰が予想できるというのか。
「この山を、選んだ理由……?」
睦月の問い掛けに、カイツールは不思議そうに見返してくる。
「昔、この山にある物が隠されている話を聞いて入り、そのまま占拠しただけだが?」
「ある、物? まさか……おい、その話の出所はどこだ?」
「出所も何も……」
本来であれば、秀吉達が探そうとしていた兵器については、睦月が生まれるよりも前の話だ。その時点で情報が漏れていたとも考えられるが……その正体によっては、それ以前の問題を孕んでいる。
変えられない過去という……もっと、分かりやすい根拠があるからだ。
「……ここはかつて、二個目の原子爆弾が投下された場所の近くだぞ。そこで少しでも不審な話があれば、真っ先に疑うのはそれしかない。違うか?」
睦月は思わず、顔を背けようとする。けれども、どうにか堪えることに成功した。
(最悪の予想が、当たったな……)
かつての秀吉達が何故、この場所を訪れようとしていたのかまでは分からない。だが……カイツールの話から、完全に確信できた。
それが多量の放射能に曝された被爆物か、何らかの偶然で残されていた核分裂性の物質か……それとも本当に、原子爆弾の部品そのものが燃え残っていたのか。
いずれにせよ、もし隠されている兵器に名前を付けるとするならば、これこそが相応しいだろう。
――……『原爆の欠片』、という名前が。
(うちの先祖も、余計な物抱え込みやがって……)
大方、原子爆弾に関する何かを手に入れた睦月の先祖かその関係者、いずれにせよ、その宝の地図を描いた人間は分解して解析を目論んでいたのだろう。しかし、戦争の終結と研究の中止が重なった為、一先ずはこの廃鉱山に封印したが、そのまま放置されていたようだ。
詳細は調べてみなければ分からないが、昔、弥生から『亜鉛と鉛は別物だけど、同じ鉱山から採れることもある』という話を聞いたことがある。どこで入手したかは不明だが、カイツールの話がたしかなら、この山中か近隣で見つけたのは間違いない。
その結果、放射線の遮蔽が可能な資源の調達を兼ねて山に入り、隠した当人はそのまま戻らなかった、といったところだろう。
「…………で、見つけたのか?」
自分でも、顔が固くなっている感触があるのは実感している。けれども、今はカイツールから、眼前の敵から眼を背けてはならないと、睦月はどうにか堪えた。
「見て分かるだろう……『この山を占拠した』、それが答えだ」
意外にも、カイツールは素直に答えてくれた。こちらの内心を見透かして、適当に返してきているのかもしれないが……少なくとも、本当のことだろうと睦月は判断した。
……この廃鉱山にはもう、『原爆の欠片』は残されていない。
前身である『犯罪組織』か、『運び屋』の関係者か、それとも未だ見ぬ第三勢力か。いずれにせよ、この山にあったはずの『原爆の欠片』は持ち去られたか処分されたと見ていいだろう。
少なくとも、カイツール達が入山するはるか前には、山中に漂う放射能が駐屯に影響のない値まで減少する程の、長い期間が経ってしまっているのは間違いない。
でなければ、占拠していたカイツール達まで被爆してしまうおそれがあるのだ。自殺願望でもない限り、何の利益もなく危険を冒そうと考える者はまず居ない。
「目的の物は入手できなかったが、この近辺は原子爆弾による被害が原因で一気に過疎化していた。だから我々で有効活用していたんだ……何か、文句でもあるのか?」
「その辺りは、国にでも聞いてくれ……」
当事者でない上に、物心付く頃から九州と関わる機会が皆無だった為か。特に愛郷心は持ち合わせていなかったので、睦月の心が揺れることはほとんどなかった。
むしろ……背後から飛ばされてくる殺気の方が、今は気になって仕方がない程だ。
「それにしても……お前の相棒、まだ撃ってこないな」
「……何だ。気付いていたのか」
わざわざこちらの話に付き合う義理は、カイツールの方にはない。だから感情を押し殺しつつ、周囲に意識を向けていた。結果、転げ落ちてきた斜面の上の方から、銃を操作する際に発せられる微かな金属音を、辛うじて聞き取れたのだ。
「さっきまで狙撃手を相手にしていたんだぞ? 狙撃に警戒するのは当然だろうが」
「それもそうだな。だが……それならもう、分かっているはずだ」
いくら来ると分かっていても、狙撃を回避することは容易ではない。ましてや、斜面の上からという半端な位置から狙われているのだ。並の拳銃弾とは違い、銃声を置いて放たれる速度の鉛弾を回避できなければ、睦月の人生はそこで終わる。
……接敵しているはずの朔夜がカイツールの相棒、おそらくは弟子に勝たない限りは。
「最初の銃声から、一切の戦闘音が聞こえてこない。反対側から鳴り響く爆発音にかき消されたとかでなければ……お前の仲間は、すでに事切れているはずだ」
「まあ、そう考えても不思議じゃないか……普通なら」
もし聞こえてきたのが、最初に睦月達を狙ってきた狙撃銃の弾の発砲音であれば、カイツールが挙げた可能性も考えていただろう。けれども、聞こえてきたのは9mm口径の拳銃弾のものだ。今は廃村となった故郷で、同じ訓練を受けていた朔夜が躱せない道理はない。
それに……カイツールがまだ知らない事実を、睦月は知っている。
「大方、隙を作る為にわざと撃たれたんだろうな。で、狙撃しようと準備してたところに不意打ちかまして大逆転、ってところか。あの姉貴も、もう少し捻ればいいのに……」
そして、次いで聞こえてきた.45口径の拳銃弾の銃声で、睦月は朔夜の勝利を確信した。その後ゆっくりと、しかしわずかにだけ、視界の端が斜面の方を映すように首を動かす。
銃声から数秒と経たず……カイツールと共に居た、おそらくは弟子だろう青年は斜面を転がり落ちてきた。
今朝方、睦月は由希奈にそう言った。そう、言い切れた。
『説明は省くが、どっちも同じ意味で……どっちにしろ、今のだとただぶつかっただけだ。体当たりにすらなってねえよ』
何故なら……睦月はその技を、よく知っていたからだ。
(体当たりは第一段階……)
ただぶつかるだけであれば、咥え煙草やながらスマホで注意が散漫になっている馬鹿や、わざと周囲にいる弱者を傷付けてストレスの捌け口にしている迷惑な者達にもできる。そもそも、打撃系の技自体が身体の一部をぶつけている為、ある意味体当たりだ。
つまり……ぶつけ方次第で、ただの迷惑行為から武術の一つに昇華されるかが左右される。
(第二段階で身体の動かし方と狙いを定め……)
回り込み、カイツールと背中合わせになった睦月は間合いを把握し、動線を定めて身体の位置や部位を調整した。硬い部分で柔らかそうな場所を狙う。それだけでも、すでに体当たりとしては有効打足り得る。
けれども……睦月の攻撃は、それだけに留まらない。
(タイミングを合わせて第三段階…………身体を通して脚力をぶつけるっ!)
勁という、体内を巡る力の流れを表す言葉がある。
中国武術では、力は骨から生まれる有形だが、勁は筋肉から生まれる無形であるという考え方がある。
その考え方に対して、ただ身体をぶつけるのが力だとすれば、筋肉の動きで生み出したエネルギーを体外へ放出するのが勁だと、睦月は認識していた。
そして……勁は筋肉を介し、エネルギーを発生させた部位とは別の場所からも放出できることも。
自らをぶつける直前に持ち上げた片足。それを相手とは反対に向け、地面を踏みつけると同時にカイツールへと身体を押し込んでいく。その瞬間、鍛え抜かれた睦月の下半身が放つ震脚により生まれた運動エネルギーが大地から跳ね返され、やがて足や腰、そして背へと繋げて流れていく。
それは寸勁という勁の一種で、最小限の動きだけで強大な威力を生み出す手法の内の一つである。
幅跳びで立ったままよりも、走った状態からの勢いで跳ぶ方が距離や高さを稼げるように、寸前で生み出した運動エネルギーを身体の動きに合わせて上乗せし、威力を底上げさせるのだ。
「『全部振り切ってやる』っ!」
先程の、全体の二割解放に重ねて、過集中状態で脚力を部分的に強化する。本来であれば『全体解放』の『二速』が望ましいのかもしれないが、他にも敵がいる以上、無理はできない。
だから、自らの動きを制限されないギリギリ……その範囲での全力を、相手にぶつける。
――ゴッ、ッ……
カイツールに触れた瞬間、睦月は脚力から生み出したエネルギーを勁の流れに沿って背中へと伝えていき、体当たりに合わせて衝撃へと変えた。
「…………ぁああっ!」
――ドゴッ!
「ガファッ!?」
それこそが貼山靠――鉄山靠とも呼ばれる、回避困難な超近接距離から放つ、中国武術の体当たり技の一つだった。
(落ち着け、落ち着けっ! いや少しは焦ってもいい、だから順番に確認しろ……よし、まだ動けるっ!)
武装していない状態で、手も足も使わずに相手を無力化する。
睦月が『運び屋』としての将来を定めた瞬間から、素手による自衛の手段で身に着けられるのは先の条件を満たしたものだけとなった。だからカポエイラやテコンドーといった足技主体の格闘技や、腕への負担が少ない合気道等の武術の中から、修得する技を選ばなければならなかった。
その修行の中で、父であり『運び屋』の師である秀吉から習ったのが、当人の得意技の一つである貼山靠だった。
『昔、お前の爺さんや仕事で取引してた中国人から習ったんだよ。結構便利だろ? 腕がどんな状態でも使えるし』
秀吉の言う通り、使い方さえ間違えなければ、ある意味強力な技だった。
腕に負担を掛けず、それどころか、動けさえすれば何かを抱えたままでも使える。その利便性から、師が秀吉から『殺し屋』に変わっていた期間も、技の練度を磨き続けるよう命じられていた。
むしろ、その師の方も『覚えたいから』と、実践運用での指導と相手役を買って出てくれた程だ。
「…………ふぅ」
最後に一呼吸吐き、全身に備わっている制御装置が元へと戻っていく感覚と共に息を整えてから、改めて地面に突っ伏しているカイツールへと振り返る。
「ぅ、ぁ……」
カイツールの呻き声が微かに、睦月の耳に届いてきた。
先程の睦月の貼山靠には、さすがに対応しきれなかったのだろう。握っていたナイフは遠くへと飛んでいき、身体を持ち上げようとする腕に力が入っていない。
(この男、もしかして……まあ、関係ないか)
それでも、睦月は無造作に突き進むことなくタクティカルペンを仕舞い、代わりに弾切れの自動拳銃を一丁抜いて弾倉を再装填した。
「……悪いな」
――ガシャッ……ダン、ダン、ダン、ダンッ!
「がっ!?」
銃口をカイツールの四肢、肩や膝の付け根等に向けた睦月は、情を挟むことなく引き金を四回引く。離れた場所で無力化してからようやく頭側の、手が届かないギリギリの位置に移動し、改めて声を落とした。
「ああ、疲れた……で、」
いざとなれば即座に撃ち抜けるよう、睦月は銃口を頭部に向けたまま、カイツールに疑問をぶつける。
「お前等……こんな廃鉱山で何してやがる?」
「…………」
ようやく首だけを動かし、視線を睦月の方に向けてきたカイツールは、再び顔を伏せてしまう。
「せめて、仰向けにしてくれるか? 身体に蹴りを叩き込んでも……ぐっ!?」
最後まで聞くことなく、睦月は少しだけ足を伸ばすと、カイツールの腹部に爪先蹴りを入れて仰向けに転がした。そして再び頭の先の方に移り、今度は銃口が見えるようにして脅しながら、話の続きを促す。
「これで話せるか?」
「…………ああ」
眼前に構えられた自動拳銃の銃口に、もう打つ手がないと観念したかのように、カイツールは諦観を込めた顔付きで睦月を見返してきた。
「仕事の一環で、狙撃手を育てていた。先に言っておくが、仕事の内容や目的までは、話すつもりはない」
「そんなの……適当な生き残りなり、お前達の荷物を探るなりすればいいだけだろうが。わざわざ幹部級から聞き出す必要なんてねぇよ」
それに、カイツール達が日本の領土で狙撃訓練をしている理由はすでに、ある程度の予想が付いている。
以前、別の仕事の中で持ち上がった『某国の大統領が訪日する』話で、睦月は暁連邦共和国が裏で手を引いて自爆テロを起こすと考えていた。そして、その間隙を突いて、狙撃等が行われる可能性があることも。
睦月の予想が正しければ、カイツール達の目的はおそらく、その狙撃役の下準備だろう。
某国の大統領が実際にどれ程の規模で襲撃されるかは不明だが、その手段に狙撃が含まれることはこれで確定した。たとえ予想が外れていたとしても、少なくともどこかで誰かが撃ち殺される心配はしなくて済む。
それに……その辺りはそれこそ、別の人間の仕事だ。睦月達が無理に関わらなけれならない理由はない。
「……俺が知りたいのは、別の話だ」
だからこそ、別の疑問には目を背けなかった。
念の為、もう一丁にも新しい弾倉を差し込んでおけば良かったかと思いつつ、睦月はカイツールに対して本題を口にした。
「お前達はなんで……日本のこの山を訓練場に選んだんだ?」
偶然にしては、本当に出来過ぎていた。
「この山はたしかに人気のない廃鉱山だが……そんなもん、日本のどこにだってある。どうしてここを選んで占拠した。理由は?」
睦月達が星来の話を聞き、この廃鉱山に辿り着いたのはあくまで偶然だ。だからこそ、『犯罪組織』が先に占領して狙撃訓練までしている等、誰が予想できるというのか。
「この山を、選んだ理由……?」
睦月の問い掛けに、カイツールは不思議そうに見返してくる。
「昔、この山にある物が隠されている話を聞いて入り、そのまま占拠しただけだが?」
「ある、物? まさか……おい、その話の出所はどこだ?」
「出所も何も……」
本来であれば、秀吉達が探そうとしていた兵器については、睦月が生まれるよりも前の話だ。その時点で情報が漏れていたとも考えられるが……その正体によっては、それ以前の問題を孕んでいる。
変えられない過去という……もっと、分かりやすい根拠があるからだ。
「……ここはかつて、二個目の原子爆弾が投下された場所の近くだぞ。そこで少しでも不審な話があれば、真っ先に疑うのはそれしかない。違うか?」
睦月は思わず、顔を背けようとする。けれども、どうにか堪えることに成功した。
(最悪の予想が、当たったな……)
かつての秀吉達が何故、この場所を訪れようとしていたのかまでは分からない。だが……カイツールの話から、完全に確信できた。
それが多量の放射能に曝された被爆物か、何らかの偶然で残されていた核分裂性の物質か……それとも本当に、原子爆弾の部品そのものが燃え残っていたのか。
いずれにせよ、もし隠されている兵器に名前を付けるとするならば、これこそが相応しいだろう。
――……『原爆の欠片』、という名前が。
(うちの先祖も、余計な物抱え込みやがって……)
大方、原子爆弾に関する何かを手に入れた睦月の先祖かその関係者、いずれにせよ、その宝の地図を描いた人間は分解して解析を目論んでいたのだろう。しかし、戦争の終結と研究の中止が重なった為、一先ずはこの廃鉱山に封印したが、そのまま放置されていたようだ。
詳細は調べてみなければ分からないが、昔、弥生から『亜鉛と鉛は別物だけど、同じ鉱山から採れることもある』という話を聞いたことがある。どこで入手したかは不明だが、カイツールの話がたしかなら、この山中か近隣で見つけたのは間違いない。
その結果、放射線の遮蔽が可能な資源の調達を兼ねて山に入り、隠した当人はそのまま戻らなかった、といったところだろう。
「…………で、見つけたのか?」
自分でも、顔が固くなっている感触があるのは実感している。けれども、今はカイツールから、眼前の敵から眼を背けてはならないと、睦月はどうにか堪えた。
「見て分かるだろう……『この山を占拠した』、それが答えだ」
意外にも、カイツールは素直に答えてくれた。こちらの内心を見透かして、適当に返してきているのかもしれないが……少なくとも、本当のことだろうと睦月は判断した。
……この廃鉱山にはもう、『原爆の欠片』は残されていない。
前身である『犯罪組織』か、『運び屋』の関係者か、それとも未だ見ぬ第三勢力か。いずれにせよ、この山にあったはずの『原爆の欠片』は持ち去られたか処分されたと見ていいだろう。
少なくとも、カイツール達が入山するはるか前には、山中に漂う放射能が駐屯に影響のない値まで減少する程の、長い期間が経ってしまっているのは間違いない。
でなければ、占拠していたカイツール達まで被爆してしまうおそれがあるのだ。自殺願望でもない限り、何の利益もなく危険を冒そうと考える者はまず居ない。
「目的の物は入手できなかったが、この近辺は原子爆弾による被害が原因で一気に過疎化していた。だから我々で有効活用していたんだ……何か、文句でもあるのか?」
「その辺りは、国にでも聞いてくれ……」
当事者でない上に、物心付く頃から九州と関わる機会が皆無だった為か。特に愛郷心は持ち合わせていなかったので、睦月の心が揺れることはほとんどなかった。
むしろ……背後から飛ばされてくる殺気の方が、今は気になって仕方がない程だ。
「それにしても……お前の相棒、まだ撃ってこないな」
「……何だ。気付いていたのか」
わざわざこちらの話に付き合う義理は、カイツールの方にはない。だから感情を押し殺しつつ、周囲に意識を向けていた。結果、転げ落ちてきた斜面の上の方から、銃を操作する際に発せられる微かな金属音を、辛うじて聞き取れたのだ。
「さっきまで狙撃手を相手にしていたんだぞ? 狙撃に警戒するのは当然だろうが」
「それもそうだな。だが……それならもう、分かっているはずだ」
いくら来ると分かっていても、狙撃を回避することは容易ではない。ましてや、斜面の上からという半端な位置から狙われているのだ。並の拳銃弾とは違い、銃声を置いて放たれる速度の鉛弾を回避できなければ、睦月の人生はそこで終わる。
……接敵しているはずの朔夜がカイツールの相棒、おそらくは弟子に勝たない限りは。
「最初の銃声から、一切の戦闘音が聞こえてこない。反対側から鳴り響く爆発音にかき消されたとかでなければ……お前の仲間は、すでに事切れているはずだ」
「まあ、そう考えても不思議じゃないか……普通なら」
もし聞こえてきたのが、最初に睦月達を狙ってきた狙撃銃の弾の発砲音であれば、カイツールが挙げた可能性も考えていただろう。けれども、聞こえてきたのは9mm口径の拳銃弾のものだ。今は廃村となった故郷で、同じ訓練を受けていた朔夜が躱せない道理はない。
それに……カイツールがまだ知らない事実を、睦月は知っている。
「大方、隙を作る為にわざと撃たれたんだろうな。で、狙撃しようと準備してたところに不意打ちかまして大逆転、ってところか。あの姉貴も、もう少し捻ればいいのに……」
そして、次いで聞こえてきた.45口径の拳銃弾の銃声で、睦月は朔夜の勝利を確信した。その後ゆっくりと、しかしわずかにだけ、視界の端が斜面の方を映すように首を動かす。
銃声から数秒と経たず……カイツールと共に居た、おそらくは弟子だろう青年は斜面を転がり落ちてきた。
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石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
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