TRANSPORTER-BETA(旧題:進学理由『地元が廃村になりました』)

桐生彩音

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148 案件No.008_商品輸送及び購入代行(個人取引含む)(その3)

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『今すぐ『運び屋・・・』と手を切れ…………最悪、死ぬだけじゃ済まないぞ』



「……という話をされる為に今、『傭兵』の彼は父親との予期せぬ再会を果たしているわけだよ。面白くないかい?」
「映画の脚本だったら、もう二捻り位欲しいところですね。じゃないとありきたり過ぎて、観る気が失せますよ」
「フッフッフ……残念ながら、これは現実のお話だ」
 注文品を確認しながらの雑談だが、内容は完全に暴露話ネタバレである。正直よくある・・・・話過ぎて、睦月の耳からは半分以上も抜け落ちてしまっていた。
「それだけ、かの『運び屋トライヘッド』……君のお父様は、酷い面倒事厄ネタに首を突っ込んでるんだよ」
「改めて聞くと……本当に厄介なことをしてくれてますね。あのクソ親父は」
 善悪や正誤等、もはや関係ない。どのような考えの下に動こうとも、個人が国相手に喧嘩を売ること自体、完全な愚行である。意思のある雪崩や津波に、自ら囚われに行くようなものだ。
 たとえ名の通った裏社会の住人犯罪者だろうと、結局は一人の人間でしかない。
 つまり……最初から勝ち目等、有って無いようなものだった。
「『職場環境を知りたい。だからまず一人、自分だけがお試しで雇われたい』とは言っていたが……本命は息子への警告こっちだろうね。まあ、私には関係のない話だ。働きたいなら雇い続けるし、有能な人材を紹介されれば囲い込む。それだけだよ」
「人類皆、あなたみたいに割り切った考えを持ってくれたら、楽な話なんですけどね……」
「それは発達障害ASD持ちだからかな? それとも……『運び屋』として、かな?」
 無言で一呼吸置いた後、睦月は頭を掻きながら答えた。
「……両方ですよ」
 その言葉を合図に、睦月は注文品の入ったケースを閉じ、自動で電子ロックが掛かるのを確認した。
「そもそも、あの親父が馬鹿やってる理由だって、元は暁連邦共和あの国が臆病風吹かせチキってお偉いさんじゃなく、適当な人間を拉致ったのが原因でしょう? 本当、傍迷惑な……」
「あれだって、結局は徴用工問題が原因だと思うけどね」
「……だとしたら、完全にお門違いでしょう。韓国人当事者としてなら、まだ百歩譲れますけど」
 それ以前に、と睦月は護衛を引き連れているレジの方を向き、特に銃器を抜く素振りを見せないまま、腕を組んで問い掛けた。

暁連邦共和国あの拉致国家とも取引してるんでしょう? そのことで、うちの親父からは何も言われてないんですか?」

 目の前にいるのは、国際的に・・・・取引をしている『武器商人』――で、あればだ。相手がどこだろうと、商売をしていてもおかしくない。
 そう考えて発言した睦月の鎌掛けに、レジは肩を竦めつつも、どこか困ったように苦笑を浮かべ出した。
「何も言われてないけどね……暁連邦共和国あそことはもう、商売をしないことにしたよ」
「そうなんですか? 何で、また……」
「……強引な出兵による反動が、国家予算にまで響いてきたって言えば分かるかな?」
 要するに、暁連邦共和あの国は『取引相手に値しない』程に、支払い能力を落としてしまっているらしい。むしろ、交易や観光収入の類をほどんと得られない環境下の中でよく、出兵できるだけの予算を確保できたものだと、改めて感心してしまう。
「この前なんてとうとう、空手形を出してきたんだよ。私達が怒って取引を打ち切るのも、分かるよね?」
「それでうちの親父のように、暁連邦共和国あの拉致国家と敵対することにしたんですか?」
「こっちが手を下したのは、空手形の取引があった時だけだよ。商談に来た幹部と部下全員を皆殺しにして、死体を纏めて領空内にバラ撒いてやった」
 完全にやり過ぎてる、とは言いたいものの……同じ状況になれば大なり小なり、睦月も似たような行動を取るかと思うと、口を噤まざるを得なかった。
「まあ……外交的に忙しいからか、未だに報復の類はないけどね」
「忘れた頃に、何かやってきそうな気はしますけどね……」
 そんな情報を、タダ当然にくれる方がどうかしている。つまり、この『武器商人』は睦月から、別の情報ネタ等の対価を得ようとしているらしい。
「先に言っときますけど、むしろ、俺が知りたいことの方が多いですよ? 後は私見になりますが……『運び屋』や『傭兵英治』よりもあの『銃器職人ガンスミス』の方が、狙われそうな気がするくらいで」
「……ん? 彼女、そんなに腕が良いのかい?」
「ええ……気持ち悪い・・・・・程に・・
 以前、姫香から借りた自動拳銃ロータ・ガイストはあまりにも簡単に、銃弾を狙い通りの場所へと撃ち込めた。既製品とて、全てが性能スペック通りに売られているとは限らない。その中でさらなる良品を引き当てること等、ほぼ不可能に近かった。
 だからこそ、特注品カスタムメイド受注生産オーダーメイドでより完璧に近い物を得ようとするのだが……カリーナの腕は、おそらく指定した注文以上・・性能精度で生み出せてしまう。
「性能の良過ぎる商売道具は、持ち主に下手な麻薬レベルで依存させかねない。事前に準備できる仕事で必要な物だけ・・を依頼するならまだしも、それ以上を求め出したら……代用品でしくじるか、仕入れが止まった途端に廃業してしまうでしょうね」
 たしかに、予算の都合もあるが……睦月があえて仕事用の車の性能スペックを落としているのは、『仕事道具に縋る考えを、少しでも減らす為』でもある。
「その点を弁えてる一流ならまだしも、道具一つで腕と自信が揺らぐ二流以下は、確実に彼女を欲しがるでしょうね。まあ……『傭兵英治』が居るから、簡単にどうにかなるとは思えませんけど」
「なるほど……だからこそなおさら、『運び屋』とは縁を切るよう、警告しに来たというわけか」
 幸いなことに、カリーナの腕を知る者は本人含めて、英治と睦月達だけだ。単純に実績が少ないのが理由だが……それも、仕事を重ねていけば難しくなる。
 親としてか、それとも『銃器職人カリーナ』の実家のことを考えてかは関係ない。ただ……今後も、暁連邦共和国との敵対が濃厚な『運び屋』に関わらせたくない、と思っての判断だということくらいは分かる。
「そして……改めて思ったよ。『運び屋』の息子君」
 そこにも武器類商品が入っているはずなのに、その『武器商人』は気にすることなく、手近な箱に腰掛けて足を組んできた。
「実は、少し迷いが生まれていてね……今後も、君やあの『運び屋』と商売を続けるかどうか、正直悩んでいる」
「……そっちが本命ですか」
 つまり最初から、睦月が抱える情報等に興味はなかったのだ。
 レジの望みはただ一つ……『武器商人』として、今後も『運び屋』達と関わって利益を生み出せるのか。それとも、早々に切らなければ、余計なリスクを背負う羽目になるのではないのか。
 この場を設けたのはそれを判断する為だと、睦月はようやく悟った。
「ちなみに……あのクソ親父とは、今でも取引があるんですか?」
「本来なら顧客情報で機密だが……武器の売買だけ・・は続いているよ。もう仕事は依頼していない。無論、こちらに不利益が生じるようであれば、即座に切るつもりだけどね」
 あちらは完全に、『運び屋』として『武器商人レジ』と関わるつもりはないらしい。でなければ、武器の売買だけの付き合いにはならないはずだ。いや、だからこそ、息子である睦月の方はどうするべきなのかを、判断したいのだろう。
 何せ……その父親がすでに、国一つを敵に回しているのだ。共通の敵だろうと、敵の敵が味方になりえるかは、その時の状況による。
 ゆえに今、問い掛けられているのだ。

 果たして……荻野睦月お前はどうするのか、と。

「で? 君はどうする気かな?」
「…………」
 回答次第では、即座に撃ち抜かれても文句は言えない。いや、一言も漏らす間もなく、背後の護衛達に身体中、穴だらけにされることだろう。
「残念ですが……即答はできません」
 だが、それ以上に……睦月もまた、迷っていた。
「実は……暁連邦共和あの国に関しては、こちらも迷っています。今後、どうするべきなのかを」
「それじゃあ回答にならないな。はてさて、どうしたものか……」
 組んでいた腕を頬杖に変えたレジは、目を細めてにやけてくる。作り物の・・・・笑顔を張り付けるだけで、こちらに圧を与えてきていた。もし未熟な頃であれば、睦月は何も言えないまま、業を煮やした『武器商人』達に殺されていただろう。
 ……ただ、今は違う。すでに睦月は、この状況を覆せるほどに成長し、仕込まれて・・・・・いた。
「こちらは今のところ、敵対する気はありません。無論、喧嘩を売られたら買いますが……できれば、それ以外での関係を続けたいですね」
「実に明白な回答だ。ようやく、まともな考えを聞けたよ……で、こちらが君の意見を認めるメリットは?」
 そんなものはない。だが、そんなことを言ったところで、蜂の巣になるのがオチだ。
 だから代わりに、睦月は身に着けていたイヤホンマイクに指を置いてから、こう切り出した。
「代案になるかは分かりませんが……私の・・殺し方・・・を教えます。今は、それで勘弁して下さい」
 つまり、敵対してもすぐに鎮圧できる方法を伝えると、睦月は提案した。とはいえ、さすがのレジも、呆れて肩を竦めていたが。
「『最期の世代君達』の仕込み弱点どうこうの話だったら、もう・・知ってるよ・・・・・。言っておくけど、発達障害ASDやサヴァン症候群程度じゃ、何の弱点にも、」

「『それ自体が・・・・・出任せ・・・だった・・・』……と、言ったらどうします?」

 睦月の言葉に、レジは口を噤んだ。
「さすがに、買収だけ・・で済ませてません。本当はあの親父……単純な・・・挑発・・一つで、関係者全員を無理矢理黙らせたんですよ」
 それ以上は、睦月自身のアキレス腱ウィークポイントである。
 常に身近に居る姫香のように察していそうだったり、こっそり教えられている可能性のある人間もいるが……睦月が知る限り、はっきりと知っている者は秀吉を除けば、姉兄妹きょうだいである弥生と朔夜だけだ。
 無論、他の『最期の世代昔馴染み』達にすら教えていない。そんなことをすれば敵対した際、確実に消される恐れがあるからだ。
「なるほど……そして君もまた、私にその挑発・・をしようと言うのかな?」
 レジの瞳から、笑みが消えている。
 たとえ笑顔を浮かべていようとも、睦月の言葉次第では、即座に火蓋が切られるだろう。
「すでにお話しした通り……陳列棚に『喧嘩』が混ざらなければ、こちらはどちらでも構わないんですよ。『互いに依頼があれば、可能なら請けるし、無理なら断る』……その程度の関係を続けられれば、本当に十分なんです」
「しかし……私を挑発すれば、同じことではないかな?」
「そこは大丈夫ですよ。結局は言い方次第なんで」
 どんな言葉でも、使い方次第で相手に不快感を与えることはよくある。その為に一時期、睦月は異様に言葉遣いを気にしていたことがあった。
 味方を増やすのは難しいのに、敵は簡単に作れてしまう。おまけに睦月自身、相手の心情を忖度するのが苦手だった。
 事前に『これは挑発だ』と宣言しておき、ただ事実だけを伝えるよう気を付ける。それでもなお、正しく伝えられるかどうかで不安を覚えてしまう。
「なるべく、挑発にならないよう気を付けますが……それでも、聞きますか?」
「そうだね……」
 顎に細い指を当て、少し悩んでいたレジだったが、
「……良いだろう」
 結果は、『聞く』だった。
「とりあえず、聞かせてくれるかな? 君の本当の仕込み弱点を」
「じゃあ、電波に乗せるのも怖いですし……姫香、一度外すぞ」
 通話状態にしていたイヤホンマイクを外し、声が入らないようにてのひらで包み込む。同じく、護衛を下げたレジは自身のインカムを手で覆ってきた。
「さて……何が出るかな?」
 顔を近付ける二人。
 互いの息が当たりそうな程に距離を縮めてから、睦月は緊張しながらも……自身の弱点を告げた。

「実は――」

 少しだけ、だが内容の濃い話を言い終え、再び距離を開けた睦月。
 その全てを聞き終えたレジは、頭の中でその言葉を整理し、
「…………フ、」
 理解し、
「……フフッ」
 突然立ち上がると……

「ハーッ、ハッ、ハハ、ハハハ――……何だそれはっ!?」

 盛大に笑い出し、もっともな疑問・・を吐き出した。
「たしかに、それは弱点・・足り得る・・・・が……捉え方次第では最大の・・・長所・・じゃないか! いや、待て待て……そうか、そういうことかっ!」
 先程まで消えていた笑み・・を顔に戻したレジは、数度深呼吸をして、落ち着きを取り戻そうとしていた。
「なるほど……事前に『これは挑発だ』と聞いてて良かった。捉え方次第では、私も『運び屋トライヘッド』の術中に嵌まっていたかもしれないな、これは」
 そうひとち、レジは改めて、睦月に向き直った。
「分かった。良いだろう! どちらかが敵対しない限り、これまで通りの関係だ。どうせ日本に来る機会も少ない上に、次に来る前にあの『運び屋トライヘッド』が動きそうだしな」
 それに……とレジは、最後に付け加えてきた。



「『運び屋ノーボーダー』、君のその仕込み弱点であり最大の武器長所は……傲慢な人類どころか、下手な神すら殺しかねない。それなら、国一つ潰す方がまだ楽そうだ」
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