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148 案件No.008_商品輸送及び購入代行(個人取引含む)(その3)
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『今すぐ『運び屋』と手を切れ…………最悪、死ぬだけじゃ済まないぞ』
「……という話をされる為に今、『傭兵』の彼は父親との予期せぬ再会を果たしているわけだよ。面白くないかい?」
「映画の脚本だったら、もう二捻り位欲しいところですね。じゃないとありきたり過ぎて、観る気が失せますよ」
「フッフッフ……残念ながら、これは現実のお話だ」
注文品を確認しながらの雑談だが、内容は完全に暴露話である。正直よくある話過ぎて、睦月の耳からは半分以上も抜け落ちてしまっていた。
「それだけ、かの『運び屋』……君のお父様は、酷い面倒事に首を突っ込んでるんだよ」
「改めて聞くと……本当に厄介なことをしてくれてますね。あのクソ親父は」
善悪や正誤等、もはや関係ない。どのような考えの下に動こうとも、個人が国相手に喧嘩を売ること自体、完全な愚行である。意思のある雪崩や津波に、自ら囚われに行くようなものだ。
たとえ名の通った裏社会の住人だろうと、結局は一人の人間でしかない。
つまり……最初から勝ち目等、有って無いようなものだった。
「『職場環境を知りたい。だからまず一人、自分だけがお試しで雇われたい』とは言っていたが……本命は息子への警告だろうね。まあ、私には関係のない話だ。働きたいなら雇い続けるし、有能な人材を紹介されれば囲い込む。それだけだよ」
「人類皆、あなたみたいに割り切った考えを持ってくれたら、楽な話なんですけどね……」
「それは発達障害持ちだからかな? それとも……『運び屋』として、かな?」
無言で一呼吸置いた後、睦月は頭を掻きながら答えた。
「……両方ですよ」
その言葉を合図に、睦月は注文品の入ったケースを閉じ、自動で電子ロックが掛かるのを確認した。
「そもそも、あの親父が馬鹿やってる理由だって、元は暁連邦共和国が臆病風吹かせてお偉いさんじゃなく、適当な人間を拉致ったのが原因でしょう? 本当、傍迷惑な……」
「あれだって、結局は徴用工問題が原因だと思うけどね」
「……だとしたら、完全にお門違いでしょう。韓国人としてなら、まだ百歩譲れますけど」
それ以前に、と睦月は護衛を引き連れているレジの方を向き、特に銃器を抜く素振りを見せないまま、腕を組んで問い掛けた。
「暁連邦共和国とも取引してるんでしょう? そのことで、うちの親父からは何も言われてないんですか?」
目の前にいるのは、国際的に取引をしている『武器商人』――で、あればだ。相手がどこだろうと、商売をしていてもおかしくない。
そう考えて発言した睦月の鎌掛けに、レジは肩を竦めつつも、どこか困ったように苦笑を浮かべ出した。
「何も言われてないけどね……暁連邦共和国とはもう、商売をしないことにしたよ」
「そうなんですか? 何で、また……」
「……強引な出兵による反動が、国家予算にまで響いてきたって言えば分かるかな?」
要するに、暁連邦共和国は『取引相手に値しない』程に、支払い能力を落としてしまっているらしい。むしろ、交易や観光収入の類をほどんと得られない環境下の中でよく、出兵できるだけの予算を確保できたものだと、改めて感心してしまう。
「この前なんてとうとう、空手形を出してきたんだよ。私達が怒って取引を打ち切るのも、分かるよね?」
「それでうちの親父のように、暁連邦共和国と敵対することにしたんですか?」
「こっちが手を下したのは、空手形の取引があった時だけだよ。商談に来た幹部と部下全員を皆殺しにして、死体を纏めて領空内にバラ撒いてやった」
完全にやり過ぎてる、とは言いたいものの……同じ状況になれば大なり小なり、睦月も似たような行動を取るかと思うと、口を噤まざるを得なかった。
「まあ……外交的に忙しいからか、未だに報復の類はないけどね」
「忘れた頃に、何かやってきそうな気はしますけどね……」
そんな情報を、タダ当然にくれる方がどうかしている。つまり、この『武器商人』は睦月から、別の情報等の対価を得ようとしているらしい。
「先に言っときますけど、むしろ、俺が知りたいことの方が多いですよ? 後は私見になりますが……『運び屋』や『傭兵』よりもあの『銃器職人』の方が、狙われそうな気がするくらいで」
「……ん? 彼女、そんなに腕が良いのかい?」
「ええ……気持ち悪い程に」
以前、姫香から借りた自動拳銃はあまりにも簡単に、銃弾を狙い通りの場所へと撃ち込めた。既製品とて、全てが性能通りに売られているとは限らない。その中でさらなる良品を引き当てること等、ほぼ不可能に近かった。
だからこそ、特注品や受注生産でより完璧に近い物を得ようとするのだが……カリーナの腕は、おそらく指定した注文以上の性能で生み出せてしまう。
「性能の良過ぎる商売道具は、持ち主に下手な麻薬レベルで依存させかねない。事前に準備できる仕事で必要な物だけを依頼するならまだしも、それ以上を求め出したら……代用品でしくじるか、仕入れが止まった途端に廃業してしまうでしょうね」
たしかに、予算の都合もあるが……睦月があえて仕事用の車の性能を落としているのは、『仕事道具に縋る考えを、少しでも減らす為』でもある。
「その点を弁えてる一流ならまだしも、道具一つで腕と自信が揺らぐ二流以下は、確実に彼女を欲しがるでしょうね。まあ……『傭兵』が居るから、簡単にどうにかなるとは思えませんけど」
「なるほど……だからこそなおさら、『運び屋』とは縁を切るよう、警告しに来たというわけか」
幸いなことに、カリーナの腕を知る者は本人含めて、英治と睦月達だけだ。単純に実績が少ないのが理由だが……それも、仕事を重ねていけば難しくなる。
親としてか、それとも『銃器職人』の実家のことを考えてかは関係ない。ただ……今後も、暁連邦共和国との敵対が濃厚な『運び屋』に関わらせたくない、と思っての判断だということくらいは分かる。
「そして……改めて思ったよ。『運び屋』の息子君」
そこにも武器類が入っているはずなのに、その『武器商人』は気にすることなく、手近な箱に腰掛けて足を組んできた。
「実は、少し迷いが生まれていてね……今後も、君やあの『運び屋』と商売を続けるかどうか、正直悩んでいる」
「……そっちが本命ですか」
つまり最初から、睦月が抱える情報等に興味はなかったのだ。
レジの望みはただ一つ……『武器商人』として、今後も『運び屋』達と関わって利益を生み出せるのか。それとも、早々に切らなければ、余計なリスクを背負う羽目になるのではないのか。
この場を設けたのはそれを判断する為だと、睦月はようやく悟った。
「ちなみに……あのクソ親父とは、今でも取引があるんですか?」
「本来なら顧客情報で機密だが……武器の売買だけは続いているよ。もう仕事は依頼していない。無論、こちらに不利益が生じるようであれば、即座に切るつもりだけどね」
あちらは完全に、『運び屋』として『武器商人』と関わるつもりはないらしい。でなければ、武器の売買だけの付き合いにはならないはずだ。いや、だからこそ、息子である睦月の方はどうするべきなのかを、判断したいのだろう。
何せ……その父親がすでに、国一つを敵に回しているのだ。共通の敵だろうと、敵の敵が味方になりえるかは、その時の状況による。
ゆえに今、問い掛けられているのだ。
果たして……荻野睦月はどうするのか、と。
「で? 君はどうする気かな?」
「…………」
回答次第では、即座に撃ち抜かれても文句は言えない。いや、一言も漏らす間もなく、背後の護衛達に身体中、穴だらけにされることだろう。
「残念ですが……即答はできません」
だが、それ以上に……睦月もまた、迷っていた。
「実は……暁連邦共和国に関しては、こちらも迷っています。今後、どうするべきなのかを」
「それじゃあ回答にならないな。はてさて、どうしたものか……」
組んでいた腕を頬杖に変えたレジは、目を細めてにやけてくる。作り物の笑顔を張り付けるだけで、こちらに圧を与えてきていた。もし未熟な頃であれば、睦月は何も言えないまま、業を煮やした『武器商人』達に殺されていただろう。
……ただ、今は違う。すでに睦月は、この状況を覆せるほどに成長し、仕込まれていた。
「こちらは今のところ、敵対する気はありません。無論、喧嘩を売られたら買いますが……できれば、それ以外での関係を続けたいですね」
「実に明白な回答だ。ようやく、まともな考えを聞けたよ……で、こちらが君の意見を認めるメリットは?」
そんなものはない。だが、そんなことを言ったところで、蜂の巣になるのがオチだ。
だから代わりに、睦月は身に着けていたイヤホンマイクに指を置いてから、こう切り出した。
「代案になるかは分かりませんが……私の殺し方を教えます。今は、それで勘弁して下さい」
つまり、敵対してもすぐに鎮圧できる方法を伝えると、睦月は提案した。とはいえ、さすがのレジも、呆れて肩を竦めていたが。
「『最期の世代』の仕込みどうこうの話だったら、もう知ってるよ。言っておくけど、発達障害やサヴァン症候群程度じゃ、何の弱点にも、」
「『それ自体が出任せだった』……と、言ったらどうします?」
睦月の言葉に、レジは口を噤んだ。
「さすがに、買収だけで済ませてません。本当はあの親父……単純な挑発一つで、関係者全員を無理矢理黙らせたんですよ」
それ以上は、睦月自身のアキレス腱である。
常に身近に居る姫香のように察していそうだったり、こっそり教えられている可能性のある人間もいるが……睦月が知る限り、はっきりと知っている者は秀吉を除けば、姉兄妹である弥生と朔夜だけだ。
無論、他の『最期の世代』達にすら教えていない。そんなことをすれば敵対した際、確実に消される恐れがあるからだ。
「なるほど……そして君もまた、私にその挑発をしようと言うのかな?」
レジの瞳から、笑みが消えている。
たとえ笑顔を浮かべていようとも、睦月の言葉次第では、即座に火蓋が切られるだろう。
「すでにお話しした通り……陳列棚に『喧嘩』が混ざらなければ、こちらはどちらでも構わないんですよ。『互いに依頼があれば、可能なら請けるし、無理なら断る』……その程度の関係を続けられれば、本当に十分なんです」
「しかし……私を挑発すれば、同じことではないかな?」
「そこは大丈夫ですよ。結局は言い方次第なんで」
どんな言葉でも、使い方次第で相手に不快感を与えることはよくある。その為に一時期、睦月は異様に言葉遣いを気にしていたことがあった。
味方を増やすのは難しいのに、敵は簡単に作れてしまう。おまけに睦月自身、相手の心情を忖度するのが苦手だった。
事前に『これは挑発だ』と宣言しておき、ただ事実だけを伝えるよう気を付ける。それでもなお、正しく伝えられるかどうかで不安を覚えてしまう。
「なるべく、挑発にならないよう気を付けますが……それでも、聞きますか?」
「そうだね……」
顎に細い指を当て、少し悩んでいたレジだったが、
「……良いだろう」
結果は、『聞く』だった。
「とりあえず、聞かせてくれるかな? 君の本当の仕込みを」
「じゃあ、電波に乗せるのも怖いですし……姫香、一度外すぞ」
通話状態にしていたイヤホンマイクを外し、声が入らないように掌で包み込む。同じく、護衛を下げたレジは自身のインカムを手で覆ってきた。
「さて……何が出るかな?」
顔を近付ける二人。
互いの息が当たりそうな程に距離を縮めてから、睦月は緊張しながらも……自身の弱点を告げた。
「実は――」
少しだけ、だが内容の濃い話を言い終え、再び距離を開けた睦月。
その全てを聞き終えたレジは、頭の中でその言葉を整理し、
「…………フ、」
理解し、
「……フフッ」
突然立ち上がると……
「ハーッ、ハッ、ハハ、ハハハ――……何だそれはっ!?」
盛大に笑い出し、もっともな疑問を吐き出した。
「たしかに、それは弱点足り得るが……捉え方次第では最大の長所じゃないか! いや、待て待て……そうか、そういうことかっ!」
先程まで消えていた笑みを顔に戻したレジは、数度深呼吸をして、落ち着きを取り戻そうとしていた。
「なるほど……事前に『これは挑発だ』と聞いてて良かった。捉え方次第では、私も『運び屋』の術中に嵌まっていたかもしれないな、これは」
そう独り言ち、レジは改めて、睦月に向き直った。
「分かった。良いだろう! どちらかが敵対しない限り、これまで通りの関係だ。どうせ日本に来る機会も少ない上に、次に来る前にあの『運び屋』が動きそうだしな」
それに……とレジは、最後に付け加えてきた。
「『運び屋』、君のその仕込みであり最大の武器は……傲慢な人類どころか、下手な神すら殺しかねない。それなら、国一つ潰す方がまだ楽そうだ」
「……という話をされる為に今、『傭兵』の彼は父親との予期せぬ再会を果たしているわけだよ。面白くないかい?」
「映画の脚本だったら、もう二捻り位欲しいところですね。じゃないとありきたり過ぎて、観る気が失せますよ」
「フッフッフ……残念ながら、これは現実のお話だ」
注文品を確認しながらの雑談だが、内容は完全に暴露話である。正直よくある話過ぎて、睦月の耳からは半分以上も抜け落ちてしまっていた。
「それだけ、かの『運び屋』……君のお父様は、酷い面倒事に首を突っ込んでるんだよ」
「改めて聞くと……本当に厄介なことをしてくれてますね。あのクソ親父は」
善悪や正誤等、もはや関係ない。どのような考えの下に動こうとも、個人が国相手に喧嘩を売ること自体、完全な愚行である。意思のある雪崩や津波に、自ら囚われに行くようなものだ。
たとえ名の通った裏社会の住人だろうと、結局は一人の人間でしかない。
つまり……最初から勝ち目等、有って無いようなものだった。
「『職場環境を知りたい。だからまず一人、自分だけがお試しで雇われたい』とは言っていたが……本命は息子への警告だろうね。まあ、私には関係のない話だ。働きたいなら雇い続けるし、有能な人材を紹介されれば囲い込む。それだけだよ」
「人類皆、あなたみたいに割り切った考えを持ってくれたら、楽な話なんですけどね……」
「それは発達障害持ちだからかな? それとも……『運び屋』として、かな?」
無言で一呼吸置いた後、睦月は頭を掻きながら答えた。
「……両方ですよ」
その言葉を合図に、睦月は注文品の入ったケースを閉じ、自動で電子ロックが掛かるのを確認した。
「そもそも、あの親父が馬鹿やってる理由だって、元は暁連邦共和国が臆病風吹かせてお偉いさんじゃなく、適当な人間を拉致ったのが原因でしょう? 本当、傍迷惑な……」
「あれだって、結局は徴用工問題が原因だと思うけどね」
「……だとしたら、完全にお門違いでしょう。韓国人としてなら、まだ百歩譲れますけど」
それ以前に、と睦月は護衛を引き連れているレジの方を向き、特に銃器を抜く素振りを見せないまま、腕を組んで問い掛けた。
「暁連邦共和国とも取引してるんでしょう? そのことで、うちの親父からは何も言われてないんですか?」
目の前にいるのは、国際的に取引をしている『武器商人』――で、あればだ。相手がどこだろうと、商売をしていてもおかしくない。
そう考えて発言した睦月の鎌掛けに、レジは肩を竦めつつも、どこか困ったように苦笑を浮かべ出した。
「何も言われてないけどね……暁連邦共和国とはもう、商売をしないことにしたよ」
「そうなんですか? 何で、また……」
「……強引な出兵による反動が、国家予算にまで響いてきたって言えば分かるかな?」
要するに、暁連邦共和国は『取引相手に値しない』程に、支払い能力を落としてしまっているらしい。むしろ、交易や観光収入の類をほどんと得られない環境下の中でよく、出兵できるだけの予算を確保できたものだと、改めて感心してしまう。
「この前なんてとうとう、空手形を出してきたんだよ。私達が怒って取引を打ち切るのも、分かるよね?」
「それでうちの親父のように、暁連邦共和国と敵対することにしたんですか?」
「こっちが手を下したのは、空手形の取引があった時だけだよ。商談に来た幹部と部下全員を皆殺しにして、死体を纏めて領空内にバラ撒いてやった」
完全にやり過ぎてる、とは言いたいものの……同じ状況になれば大なり小なり、睦月も似たような行動を取るかと思うと、口を噤まざるを得なかった。
「まあ……外交的に忙しいからか、未だに報復の類はないけどね」
「忘れた頃に、何かやってきそうな気はしますけどね……」
そんな情報を、タダ当然にくれる方がどうかしている。つまり、この『武器商人』は睦月から、別の情報等の対価を得ようとしているらしい。
「先に言っときますけど、むしろ、俺が知りたいことの方が多いですよ? 後は私見になりますが……『運び屋』や『傭兵』よりもあの『銃器職人』の方が、狙われそうな気がするくらいで」
「……ん? 彼女、そんなに腕が良いのかい?」
「ええ……気持ち悪い程に」
以前、姫香から借りた自動拳銃はあまりにも簡単に、銃弾を狙い通りの場所へと撃ち込めた。既製品とて、全てが性能通りに売られているとは限らない。その中でさらなる良品を引き当てること等、ほぼ不可能に近かった。
だからこそ、特注品や受注生産でより完璧に近い物を得ようとするのだが……カリーナの腕は、おそらく指定した注文以上の性能で生み出せてしまう。
「性能の良過ぎる商売道具は、持ち主に下手な麻薬レベルで依存させかねない。事前に準備できる仕事で必要な物だけを依頼するならまだしも、それ以上を求め出したら……代用品でしくじるか、仕入れが止まった途端に廃業してしまうでしょうね」
たしかに、予算の都合もあるが……睦月があえて仕事用の車の性能を落としているのは、『仕事道具に縋る考えを、少しでも減らす為』でもある。
「その点を弁えてる一流ならまだしも、道具一つで腕と自信が揺らぐ二流以下は、確実に彼女を欲しがるでしょうね。まあ……『傭兵』が居るから、簡単にどうにかなるとは思えませんけど」
「なるほど……だからこそなおさら、『運び屋』とは縁を切るよう、警告しに来たというわけか」
幸いなことに、カリーナの腕を知る者は本人含めて、英治と睦月達だけだ。単純に実績が少ないのが理由だが……それも、仕事を重ねていけば難しくなる。
親としてか、それとも『銃器職人』の実家のことを考えてかは関係ない。ただ……今後も、暁連邦共和国との敵対が濃厚な『運び屋』に関わらせたくない、と思っての判断だということくらいは分かる。
「そして……改めて思ったよ。『運び屋』の息子君」
そこにも武器類が入っているはずなのに、その『武器商人』は気にすることなく、手近な箱に腰掛けて足を組んできた。
「実は、少し迷いが生まれていてね……今後も、君やあの『運び屋』と商売を続けるかどうか、正直悩んでいる」
「……そっちが本命ですか」
つまり最初から、睦月が抱える情報等に興味はなかったのだ。
レジの望みはただ一つ……『武器商人』として、今後も『運び屋』達と関わって利益を生み出せるのか。それとも、早々に切らなければ、余計なリスクを背負う羽目になるのではないのか。
この場を設けたのはそれを判断する為だと、睦月はようやく悟った。
「ちなみに……あのクソ親父とは、今でも取引があるんですか?」
「本来なら顧客情報で機密だが……武器の売買だけは続いているよ。もう仕事は依頼していない。無論、こちらに不利益が生じるようであれば、即座に切るつもりだけどね」
あちらは完全に、『運び屋』として『武器商人』と関わるつもりはないらしい。でなければ、武器の売買だけの付き合いにはならないはずだ。いや、だからこそ、息子である睦月の方はどうするべきなのかを、判断したいのだろう。
何せ……その父親がすでに、国一つを敵に回しているのだ。共通の敵だろうと、敵の敵が味方になりえるかは、その時の状況による。
ゆえに今、問い掛けられているのだ。
果たして……荻野睦月はどうするのか、と。
「で? 君はどうする気かな?」
「…………」
回答次第では、即座に撃ち抜かれても文句は言えない。いや、一言も漏らす間もなく、背後の護衛達に身体中、穴だらけにされることだろう。
「残念ですが……即答はできません」
だが、それ以上に……睦月もまた、迷っていた。
「実は……暁連邦共和国に関しては、こちらも迷っています。今後、どうするべきなのかを」
「それじゃあ回答にならないな。はてさて、どうしたものか……」
組んでいた腕を頬杖に変えたレジは、目を細めてにやけてくる。作り物の笑顔を張り付けるだけで、こちらに圧を与えてきていた。もし未熟な頃であれば、睦月は何も言えないまま、業を煮やした『武器商人』達に殺されていただろう。
……ただ、今は違う。すでに睦月は、この状況を覆せるほどに成長し、仕込まれていた。
「こちらは今のところ、敵対する気はありません。無論、喧嘩を売られたら買いますが……できれば、それ以外での関係を続けたいですね」
「実に明白な回答だ。ようやく、まともな考えを聞けたよ……で、こちらが君の意見を認めるメリットは?」
そんなものはない。だが、そんなことを言ったところで、蜂の巣になるのがオチだ。
だから代わりに、睦月は身に着けていたイヤホンマイクに指を置いてから、こう切り出した。
「代案になるかは分かりませんが……私の殺し方を教えます。今は、それで勘弁して下さい」
つまり、敵対してもすぐに鎮圧できる方法を伝えると、睦月は提案した。とはいえ、さすがのレジも、呆れて肩を竦めていたが。
「『最期の世代』の仕込みどうこうの話だったら、もう知ってるよ。言っておくけど、発達障害やサヴァン症候群程度じゃ、何の弱点にも、」
「『それ自体が出任せだった』……と、言ったらどうします?」
睦月の言葉に、レジは口を噤んだ。
「さすがに、買収だけで済ませてません。本当はあの親父……単純な挑発一つで、関係者全員を無理矢理黙らせたんですよ」
それ以上は、睦月自身のアキレス腱である。
常に身近に居る姫香のように察していそうだったり、こっそり教えられている可能性のある人間もいるが……睦月が知る限り、はっきりと知っている者は秀吉を除けば、姉兄妹である弥生と朔夜だけだ。
無論、他の『最期の世代』達にすら教えていない。そんなことをすれば敵対した際、確実に消される恐れがあるからだ。
「なるほど……そして君もまた、私にその挑発をしようと言うのかな?」
レジの瞳から、笑みが消えている。
たとえ笑顔を浮かべていようとも、睦月の言葉次第では、即座に火蓋が切られるだろう。
「すでにお話しした通り……陳列棚に『喧嘩』が混ざらなければ、こちらはどちらでも構わないんですよ。『互いに依頼があれば、可能なら請けるし、無理なら断る』……その程度の関係を続けられれば、本当に十分なんです」
「しかし……私を挑発すれば、同じことではないかな?」
「そこは大丈夫ですよ。結局は言い方次第なんで」
どんな言葉でも、使い方次第で相手に不快感を与えることはよくある。その為に一時期、睦月は異様に言葉遣いを気にしていたことがあった。
味方を増やすのは難しいのに、敵は簡単に作れてしまう。おまけに睦月自身、相手の心情を忖度するのが苦手だった。
事前に『これは挑発だ』と宣言しておき、ただ事実だけを伝えるよう気を付ける。それでもなお、正しく伝えられるかどうかで不安を覚えてしまう。
「なるべく、挑発にならないよう気を付けますが……それでも、聞きますか?」
「そうだね……」
顎に細い指を当て、少し悩んでいたレジだったが、
「……良いだろう」
結果は、『聞く』だった。
「とりあえず、聞かせてくれるかな? 君の本当の仕込みを」
「じゃあ、電波に乗せるのも怖いですし……姫香、一度外すぞ」
通話状態にしていたイヤホンマイクを外し、声が入らないように掌で包み込む。同じく、護衛を下げたレジは自身のインカムを手で覆ってきた。
「さて……何が出るかな?」
顔を近付ける二人。
互いの息が当たりそうな程に距離を縮めてから、睦月は緊張しながらも……自身の弱点を告げた。
「実は――」
少しだけ、だが内容の濃い話を言い終え、再び距離を開けた睦月。
その全てを聞き終えたレジは、頭の中でその言葉を整理し、
「…………フ、」
理解し、
「……フフッ」
突然立ち上がると……
「ハーッ、ハッ、ハハ、ハハハ――……何だそれはっ!?」
盛大に笑い出し、もっともな疑問を吐き出した。
「たしかに、それは弱点足り得るが……捉え方次第では最大の長所じゃないか! いや、待て待て……そうか、そういうことかっ!」
先程まで消えていた笑みを顔に戻したレジは、数度深呼吸をして、落ち着きを取り戻そうとしていた。
「なるほど……事前に『これは挑発だ』と聞いてて良かった。捉え方次第では、私も『運び屋』の術中に嵌まっていたかもしれないな、これは」
そう独り言ち、レジは改めて、睦月に向き直った。
「分かった。良いだろう! どちらかが敵対しない限り、これまで通りの関係だ。どうせ日本に来る機会も少ない上に、次に来る前にあの『運び屋』が動きそうだしな」
それに……とレジは、最後に付け加えてきた。
「『運び屋』、君のその仕込みであり最大の武器は……傲慢な人類どころか、下手な神すら殺しかねない。それなら、国一つ潰す方がまだ楽そうだ」
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