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152 案件No.008_商品輸送及び購入代行(個人取引含む)(その7)
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「ようやく、あと少しか……」
「ほとんどが置き配だったけどな」
「とか言いつつ、ちゃんと裏に隠れてたのは気付いてただろ? さて……」
弥生の分を除けば、積荷で残っているのは『運び屋』と『傭兵』の購入物と、これから届けに行く場所の物だけである。
「まあ、『情報屋』の婆さんとこだけどな。英治達の荷物も、そこで一緒に降ろしていって大丈夫か?」
「まあ、近いしな……なんなら、ついでに届けとこうか?」
「……仕事だ。気にしなくていい」
そもそも、と睦月はクラッチ操作で手放した左手をハンドルに戻す前に、英治に向けて親指を立てて、4Tトラックの荷台の方を指した。
「あの婆さんの注文したやつ、軽く30kg超えてるのも混じってるんだが……お前、そんな荷物持てるのか?」
「……取り消す。普通にしんどい」
部隊にもよるだろうが、軍人の装備は、総重量が40kgを超えることもある。
近年では装備の軽量化も行われているとはいえ、それでも25kgを目安にしていることが多い。
英治もまた、『傭兵』として育てられていたので、重量自体は許容範囲内である。だが、それはあくまで、身体に身に付けられる装備としての話だ。ただの箱とかであれば、補助具がなければ持ち辛く、余計に体力を消耗してしまう。
自分達の荷物があることも考えれば、手伝う位はしても、下手に手を出さない方がいい。そう気付いた英治はあっさりと、掌を返してきたというわけだ。
「というか……あの婆さん、一体何注文したんだよ?」
「それこそ本人に聞いてくれ。一応、守秘義務があるんでな」
(とは、いえ……)
と、英治に答えた睦月だったが……和音の注文に対して、内心訝しんでいた。
(一体、何に使う気だ? 機関銃なんて……)
名称こそ『ミニガン』とはなっているが、実際は戦闘機等に搭載している機関銃を小型化した武器を指している。人によっては担いで運べる大きさにしたとはいえ、本来であれば、車両や地面の上に設置して使用することを前提とした代物だ。
映画の中でこそ、屈強な人間であれば担いで発砲できる印象を持ってしまいがちだが、それはあくまで空想上の産物の話である。
実際に抱えて発砲するなんて離れ業をできる者等、世界に数人居れば良い方だろう。そもそもの話、そこまで鍛える前に、別の武器等を使った方が手っ取り早いことの方が多い。
だからこそ、戦争でしか使わなさそうな武器を注文した『情報屋』の意図が、睦月には分からなかった。
(他にも注文があったし、機関銃は単なる仲介か? それにしては、銃弾の数がえげつないけど……)
旧知の仲とはいえ、これ以上は仕事の範囲外だ。下手に関わらない方がいいと考えた睦月は、届け終えた後はすぐに忘れることにした。
4Tトラックと姫香の駆るスポーツカーが縦に並んで、人気のない道を疾走していたが、徐々に速度を落としていく。目的地である商店街に、近付いてきたからだ。
「着いたな。とりあえず、またフォークリフト借りてくるから……」
そう言いながら駐車し、英治と共に4Tトラックから降りた直後だった。
……ものすごく見覚えのある斧槍を構えた、覆面の女に襲撃されたのは。
「なっ!?」
不意打ちに弱いとはいえ、その自覚がある分、常に備えはしている。
高速道路に乗り上げた際、英治と同様に仕舞ってはいたが、降りた直後に再び装備した自動拳銃を抜いた睦月は、トラックから引き離そうと、襲撃者に対して銃口を向ける。
しかし、覆面の女……佳奈の目的は、それこそ睦月を、トラックから引き離すことだったらしい。
「ちょっと英治! 邪魔しないでよっ!?」
「いや、俺達の荷物もあるんだけどっ!?」
(あいつ、自分の正体隠す気あるのか……)
今度はものすごく聞き覚えのある声が、睦月の耳に届いてきた。
次いで、佳奈の背後の方で同じく覆面を着けた弥生らしき小柄な女が、運転席を目指そうとしては英治の回転式拳銃から放たれた.38口径低威力の銃弾で牽制されていた。
「……で、どういうことだよ? あと意味のない覆面、さっさと取れよ馬鹿」
「え~……強盗って言えば、覆面じゃん」
「だったら、得物位変えろよ。せめて銃とかさ……」
呆れつつも自動拳銃の銃身を引いた睦月だったが、同時に、覆面を剥いだ佳奈に斧槍の切っ先を向けられてしまう。
「まあ聞いて。これ結構、重大な理由があるんだよ」
「そりゃ、人様の仕事を邪魔してきたんだからな……相応の理由がなくてもタダじゃおかねえ」
「そこはあるならタダで置いとくとこじゃんっ!?」
備えていたとはいえ、自身の武器はトラックの運転席と姫香達のスポーツカーの方に分散させてある。手元にあるのはタクティカルペンと自動拳銃が一丁のみ。
それに対して、相手は以前、複数の装備を駆使してようやく押し留められた腕前を持つ『殺し屋』である。睦月一人では完全に、勝算が薄かった。
同行していた『傭兵』に頼る手もあるが、現在は『技術屋』――『爆弾魔』を相手にしているので、期待はできない。唯一の救いは、爆発物を使ってこないことだろうか。
(……いや、逆だな。これは)
そこでようやく、訳知り顔で話そうとした佳奈を制した睦月は……盛大に、溜息を吐いた。
「要するに…………弥生の奴、また金がないんだろ?」
弥生の金銭管理が雑なのは、付き合いの長さからよく理解していた。大方、今回も爆薬を買う金がない為、いっそのこと強奪しようと、睦月達を襲撃してきたのだろう。そう考えれば、全ての説明が付く。
ちなみに……弥生の支払いはいつも、全額代金引換である。
「それで先に、爆薬だけ奪って……どっかで資金調達しようとしてた、ってところか?」
「……なんで分かったの?」
「お前よりも、弥生との付き合いが長いからな……というかお前、これで何回目だよっ!?」
思わず一度、弥生の方を向いて叫ぶ睦月。
付き合いの長さ、というよりも前例があった為に、すぐ理解できただけなのだが……そこで、佳奈が出てくる理由も推測できた。
「で、お前の方はそれに便乗してきた、ってところか。まさか……他にもいないだろうな?」
「まあ、理沙ちゃんにも声掛けたんだけどさ……『誠に遺憾ながら、その時間は本業だ』って断られちゃった。あ、でもこの後の麻薬組織狩りには参加するって」
「飲み会かっ! これだから裏社会の住人共は……いかれてる奴しかいないのかよ」
盛大に自分のことを棚に上げる睦月だが、そう言ったところで、佳奈に対する勝率が変わるわけではない。
「じゃあ……そろそろ、始めよっか」
そう言い、静かに斧槍を構えだす佳奈だったが、睦月は自動拳銃の銃口を向けるだけで、他に何かをしようとはしなかった。
手も足も出ない……わけではなく、単に、睦月自身が何かをする必要はなかったからだ。
「そうだな…………姫香、撃て」
――ドゴォッ!
「ばごっ!?」
未だに付けていたイヤホンマイク越しに、睦月が陥っている状況は姫香の耳にも届いていた。その後、擲弾発射器を構えた状態で気配を消しつつ、佳奈の死角に回り込もうとしているのが見えていた。
なので、適当に話を続けながら気を逸らしつつ、最後に暴徒鎮圧用のゴムスタン弾の発砲を指示したのだ。
「まったく……お前といい弥生といい、何で学習しないんだよ?」
ついでとばかりに、佳奈の顎を軽く蹴り上げて脳震盪を起こさせてから、睦月は姫香に指だけで、擲弾発射器の再装填を指示した。
「俺がまともに取り合わないのは、散々思い知ってるだろうが……英治、そっちはまだ終わらないのか?」
「それが、弥生の奴……っ!?」
何を手間取ってるのかと見てみれば、英治は回転式拳銃を発砲しながら、銃身を縦横無尽に振り回していた。その理由は、弥生が『傭兵』を翻弄するかのように、手袋から射出したワイヤーを駆使して立体駆動しながら、銃弾を回避していたからである。
「あれ、完成してたんだな……」
佳奈と出会った頃から開発していたと考えれば、短期間でよく、あそこまで実用化できたものだと思わず感心してしまう睦月……の背中に蹴りを叩き込む姫香。
「あぎゃっ!?」
「ざ、ざまぁ……」
まだ立ち上がれないながらも、視力と声帯はどうにか動かせたらしく、睦月の失態を見て悪態を吐いてくる佳奈……の臀部に、姫香がつま先で蹴りを入れていた。
「ばぼっ!?」
「……お前等こそ、肝心なことを忘れてないか?」
佳奈と違い、脳震盪が起きていないのですぐに立ち上がれた睦月は、空いている方の手をこれからの目的地……商店街へと向けた。
「俺達が誰に、荷物を届けようとしていたのかを」
「…………あ」
そこでようやく、佳奈は襲撃場所の選択を間違えたことに気付いたらしい。
「この…………馬鹿孫がっ!」
「げっ、婆ちゃん!?」
年齢に似合わない和音の大音声が耳に飛び込むや、弥生はワイヤーの操作を誤ってしまい、そのまま空から降ってきた。
「げふっ!?」
受け身は綺麗に取れていたので、特に大きな怪我はしていないだろうと睦月は気にせず、英治の方へと歩いていく。
「お前……『技術屋』相手に、何手こずってんだよ?」
「いや、思いの他すばしっこくて……」
少なくとも、『傭兵』相手に手こずらせる程度には、戦闘の幅が広がったらしい。
「んぎゃっ!?」
「まったく……やるなら私の注文が片付いてからにしな」
「届ける前でも、こっちとしては止めて欲しいんだけどな……というか、盗もうとする位なら買うなっ!」
空中から落ちた直後、見かけによらない身体捌きで駆け寄ってきた和音に踏み付けられた弥生は起き上がれず、タイヤか何かで轢かれた蛙のように潰されていた。
「ぐぇ……」
「さて、どうしたものか……」
「とりあえず、荷物だけ運んどくれ」
一先ず落ち着こうと、睦月は和音の指示に素直に従い、荷物を運ぶ為に動き出した。
「ヒィ…………」
「ハァ…………」
馬鹿二人は姫香に擲弾発射器の銃口を突き付けられながら、和音の注文した荷物を必死になって押し出していた。
「もう、夜が明けるぞ……一番大きな荷物だけフォークリフトで運ぶけど、良いよな?」
「十分だよ。残りは弥生の爆薬ごと、二人に運ばせるからね」
『おに~……っ』
約一名、脳震盪が残っているにも関わらず……やらかした弥生と佳奈を擁護する者は、誰も居なかった。
「さて、と……」
和音の営む輸入雑貨店にて、睦月達は下着に引ん剥いて逃げられないようにした二人の荷物を漁ってみたが……ものの見事に、金目の物がなかった。
いっそ、弥生の手袋や佳奈の斧槍を質に入れてやろうかとも考えたが、あまりにも特定の分野に特化し過ぎたので、よくて二束三文でしか売れないだろうと、早々に見切りをつけてしまう。
「睦月さんは、麻薬組織狩りに参加しないんですか?」
「商談とはいえ、やばい組織ばかり相手にしてきたんだ。これ以上はさすがにきついって……」
智春にそう答えた睦月は、眼前の床上で土下座している女二人をどう扱うか悩みつつ、腰掛けた椅子に深くもたれかかった。
ほとんど身内の犯行の為、英治とカリーナの二人は、もうすでに帰らせている。用事も済んでいるので、特に残す理由がなかったからだ。
「まあ、当たって欲しくはなかったが……ある程度は予想できてたんだよな」
そう言うと、睦月は懐から取り出した小さめの袋型の容器を、弥生の目の前に投げ捨てた。
「鉄の粉だ。それとアルミ缶で、焼夷弾でも自作すりゃいいだろ」
「それ……遠回しに『死ね』、って言ってない?」
テルミット反応と呼ばれる、酸化鉄やアルミニウムを掛け合わせて多量の高熱を発生させる科学現象がある。焼夷手榴弾の中には、それを基に周囲を焼き払う物も存在していた。
材料自体は簡単に手に入る為、多少の科学知識があれば誰でも自作できるものの……なまじ作りやすい分、事故も起きやすいのだ。失敗すると、下手をすれば人体が容易に溶けてしまう。
「別に、失敗してもいいだろ……自分が巻き込まれなければいいんだし」
「……それもそっか」
「軽くない? 弥生ちゃん」
とはいえ、他に解決手段はない。同じく予想していたのか、和音もまた、弥生の爆薬代を姫香に手渡していた。
「立て替えた代金は、麻薬組織狩りの成果から回収するからね。しっかり稼いできな」
『は~い……』
服と荷物を返された二人は、いそいそと纏い出すのであった。
「そういえば……荻野君、凄い落ち着いてない? 女の子の下着姿見て興奮しないって……勃起不全?」
「なわけねえだろ。そもそも、弥生のは見慣れている上に……」
そう言うと、睦月は佳奈の臀部に描かれたアニメプリントを一瞥し、直後に軽い頭痛を覚えた。
「……お前いくつだよ? せめて無地ならまだ、っぶ!?」
「え? これが普通じゃないの?」
「年齢一桁台位なら、普通だと思うけど……」
まだ興奮しそうな下着について語ろうとした睦月が姫香にシバかれている中、智春は佳奈に、そう答えた上で問い掛けていた。
「そもそも何で、そういう下着履いてるの?」
「いや……これまで特に、誰からもツッコまれなかったから」
その瞬間、この場に居る佳奈以外の全員が思った。
(こいつ…………絶対未経験だ)
と。
――Case No.008 has completed.
「ほとんどが置き配だったけどな」
「とか言いつつ、ちゃんと裏に隠れてたのは気付いてただろ? さて……」
弥生の分を除けば、積荷で残っているのは『運び屋』と『傭兵』の購入物と、これから届けに行く場所の物だけである。
「まあ、『情報屋』の婆さんとこだけどな。英治達の荷物も、そこで一緒に降ろしていって大丈夫か?」
「まあ、近いしな……なんなら、ついでに届けとこうか?」
「……仕事だ。気にしなくていい」
そもそも、と睦月はクラッチ操作で手放した左手をハンドルに戻す前に、英治に向けて親指を立てて、4Tトラックの荷台の方を指した。
「あの婆さんの注文したやつ、軽く30kg超えてるのも混じってるんだが……お前、そんな荷物持てるのか?」
「……取り消す。普通にしんどい」
部隊にもよるだろうが、軍人の装備は、総重量が40kgを超えることもある。
近年では装備の軽量化も行われているとはいえ、それでも25kgを目安にしていることが多い。
英治もまた、『傭兵』として育てられていたので、重量自体は許容範囲内である。だが、それはあくまで、身体に身に付けられる装備としての話だ。ただの箱とかであれば、補助具がなければ持ち辛く、余計に体力を消耗してしまう。
自分達の荷物があることも考えれば、手伝う位はしても、下手に手を出さない方がいい。そう気付いた英治はあっさりと、掌を返してきたというわけだ。
「というか……あの婆さん、一体何注文したんだよ?」
「それこそ本人に聞いてくれ。一応、守秘義務があるんでな」
(とは、いえ……)
と、英治に答えた睦月だったが……和音の注文に対して、内心訝しんでいた。
(一体、何に使う気だ? 機関銃なんて……)
名称こそ『ミニガン』とはなっているが、実際は戦闘機等に搭載している機関銃を小型化した武器を指している。人によっては担いで運べる大きさにしたとはいえ、本来であれば、車両や地面の上に設置して使用することを前提とした代物だ。
映画の中でこそ、屈強な人間であれば担いで発砲できる印象を持ってしまいがちだが、それはあくまで空想上の産物の話である。
実際に抱えて発砲するなんて離れ業をできる者等、世界に数人居れば良い方だろう。そもそもの話、そこまで鍛える前に、別の武器等を使った方が手っ取り早いことの方が多い。
だからこそ、戦争でしか使わなさそうな武器を注文した『情報屋』の意図が、睦月には分からなかった。
(他にも注文があったし、機関銃は単なる仲介か? それにしては、銃弾の数がえげつないけど……)
旧知の仲とはいえ、これ以上は仕事の範囲外だ。下手に関わらない方がいいと考えた睦月は、届け終えた後はすぐに忘れることにした。
4Tトラックと姫香の駆るスポーツカーが縦に並んで、人気のない道を疾走していたが、徐々に速度を落としていく。目的地である商店街に、近付いてきたからだ。
「着いたな。とりあえず、またフォークリフト借りてくるから……」
そう言いながら駐車し、英治と共に4Tトラックから降りた直後だった。
……ものすごく見覚えのある斧槍を構えた、覆面の女に襲撃されたのは。
「なっ!?」
不意打ちに弱いとはいえ、その自覚がある分、常に備えはしている。
高速道路に乗り上げた際、英治と同様に仕舞ってはいたが、降りた直後に再び装備した自動拳銃を抜いた睦月は、トラックから引き離そうと、襲撃者に対して銃口を向ける。
しかし、覆面の女……佳奈の目的は、それこそ睦月を、トラックから引き離すことだったらしい。
「ちょっと英治! 邪魔しないでよっ!?」
「いや、俺達の荷物もあるんだけどっ!?」
(あいつ、自分の正体隠す気あるのか……)
今度はものすごく聞き覚えのある声が、睦月の耳に届いてきた。
次いで、佳奈の背後の方で同じく覆面を着けた弥生らしき小柄な女が、運転席を目指そうとしては英治の回転式拳銃から放たれた.38口径低威力の銃弾で牽制されていた。
「……で、どういうことだよ? あと意味のない覆面、さっさと取れよ馬鹿」
「え~……強盗って言えば、覆面じゃん」
「だったら、得物位変えろよ。せめて銃とかさ……」
呆れつつも自動拳銃の銃身を引いた睦月だったが、同時に、覆面を剥いだ佳奈に斧槍の切っ先を向けられてしまう。
「まあ聞いて。これ結構、重大な理由があるんだよ」
「そりゃ、人様の仕事を邪魔してきたんだからな……相応の理由がなくてもタダじゃおかねえ」
「そこはあるならタダで置いとくとこじゃんっ!?」
備えていたとはいえ、自身の武器はトラックの運転席と姫香達のスポーツカーの方に分散させてある。手元にあるのはタクティカルペンと自動拳銃が一丁のみ。
それに対して、相手は以前、複数の装備を駆使してようやく押し留められた腕前を持つ『殺し屋』である。睦月一人では完全に、勝算が薄かった。
同行していた『傭兵』に頼る手もあるが、現在は『技術屋』――『爆弾魔』を相手にしているので、期待はできない。唯一の救いは、爆発物を使ってこないことだろうか。
(……いや、逆だな。これは)
そこでようやく、訳知り顔で話そうとした佳奈を制した睦月は……盛大に、溜息を吐いた。
「要するに…………弥生の奴、また金がないんだろ?」
弥生の金銭管理が雑なのは、付き合いの長さからよく理解していた。大方、今回も爆薬を買う金がない為、いっそのこと強奪しようと、睦月達を襲撃してきたのだろう。そう考えれば、全ての説明が付く。
ちなみに……弥生の支払いはいつも、全額代金引換である。
「それで先に、爆薬だけ奪って……どっかで資金調達しようとしてた、ってところか?」
「……なんで分かったの?」
「お前よりも、弥生との付き合いが長いからな……というかお前、これで何回目だよっ!?」
思わず一度、弥生の方を向いて叫ぶ睦月。
付き合いの長さ、というよりも前例があった為に、すぐ理解できただけなのだが……そこで、佳奈が出てくる理由も推測できた。
「で、お前の方はそれに便乗してきた、ってところか。まさか……他にもいないだろうな?」
「まあ、理沙ちゃんにも声掛けたんだけどさ……『誠に遺憾ながら、その時間は本業だ』って断られちゃった。あ、でもこの後の麻薬組織狩りには参加するって」
「飲み会かっ! これだから裏社会の住人共は……いかれてる奴しかいないのかよ」
盛大に自分のことを棚に上げる睦月だが、そう言ったところで、佳奈に対する勝率が変わるわけではない。
「じゃあ……そろそろ、始めよっか」
そう言い、静かに斧槍を構えだす佳奈だったが、睦月は自動拳銃の銃口を向けるだけで、他に何かをしようとはしなかった。
手も足も出ない……わけではなく、単に、睦月自身が何かをする必要はなかったからだ。
「そうだな…………姫香、撃て」
――ドゴォッ!
「ばごっ!?」
未だに付けていたイヤホンマイク越しに、睦月が陥っている状況は姫香の耳にも届いていた。その後、擲弾発射器を構えた状態で気配を消しつつ、佳奈の死角に回り込もうとしているのが見えていた。
なので、適当に話を続けながら気を逸らしつつ、最後に暴徒鎮圧用のゴムスタン弾の発砲を指示したのだ。
「まったく……お前といい弥生といい、何で学習しないんだよ?」
ついでとばかりに、佳奈の顎を軽く蹴り上げて脳震盪を起こさせてから、睦月は姫香に指だけで、擲弾発射器の再装填を指示した。
「俺がまともに取り合わないのは、散々思い知ってるだろうが……英治、そっちはまだ終わらないのか?」
「それが、弥生の奴……っ!?」
何を手間取ってるのかと見てみれば、英治は回転式拳銃を発砲しながら、銃身を縦横無尽に振り回していた。その理由は、弥生が『傭兵』を翻弄するかのように、手袋から射出したワイヤーを駆使して立体駆動しながら、銃弾を回避していたからである。
「あれ、完成してたんだな……」
佳奈と出会った頃から開発していたと考えれば、短期間でよく、あそこまで実用化できたものだと思わず感心してしまう睦月……の背中に蹴りを叩き込む姫香。
「あぎゃっ!?」
「ざ、ざまぁ……」
まだ立ち上がれないながらも、視力と声帯はどうにか動かせたらしく、睦月の失態を見て悪態を吐いてくる佳奈……の臀部に、姫香がつま先で蹴りを入れていた。
「ばぼっ!?」
「……お前等こそ、肝心なことを忘れてないか?」
佳奈と違い、脳震盪が起きていないのですぐに立ち上がれた睦月は、空いている方の手をこれからの目的地……商店街へと向けた。
「俺達が誰に、荷物を届けようとしていたのかを」
「…………あ」
そこでようやく、佳奈は襲撃場所の選択を間違えたことに気付いたらしい。
「この…………馬鹿孫がっ!」
「げっ、婆ちゃん!?」
年齢に似合わない和音の大音声が耳に飛び込むや、弥生はワイヤーの操作を誤ってしまい、そのまま空から降ってきた。
「げふっ!?」
受け身は綺麗に取れていたので、特に大きな怪我はしていないだろうと睦月は気にせず、英治の方へと歩いていく。
「お前……『技術屋』相手に、何手こずってんだよ?」
「いや、思いの他すばしっこくて……」
少なくとも、『傭兵』相手に手こずらせる程度には、戦闘の幅が広がったらしい。
「んぎゃっ!?」
「まったく……やるなら私の注文が片付いてからにしな」
「届ける前でも、こっちとしては止めて欲しいんだけどな……というか、盗もうとする位なら買うなっ!」
空中から落ちた直後、見かけによらない身体捌きで駆け寄ってきた和音に踏み付けられた弥生は起き上がれず、タイヤか何かで轢かれた蛙のように潰されていた。
「ぐぇ……」
「さて、どうしたものか……」
「とりあえず、荷物だけ運んどくれ」
一先ず落ち着こうと、睦月は和音の指示に素直に従い、荷物を運ぶ為に動き出した。
「ヒィ…………」
「ハァ…………」
馬鹿二人は姫香に擲弾発射器の銃口を突き付けられながら、和音の注文した荷物を必死になって押し出していた。
「もう、夜が明けるぞ……一番大きな荷物だけフォークリフトで運ぶけど、良いよな?」
「十分だよ。残りは弥生の爆薬ごと、二人に運ばせるからね」
『おに~……っ』
約一名、脳震盪が残っているにも関わらず……やらかした弥生と佳奈を擁護する者は、誰も居なかった。
「さて、と……」
和音の営む輸入雑貨店にて、睦月達は下着に引ん剥いて逃げられないようにした二人の荷物を漁ってみたが……ものの見事に、金目の物がなかった。
いっそ、弥生の手袋や佳奈の斧槍を質に入れてやろうかとも考えたが、あまりにも特定の分野に特化し過ぎたので、よくて二束三文でしか売れないだろうと、早々に見切りをつけてしまう。
「睦月さんは、麻薬組織狩りに参加しないんですか?」
「商談とはいえ、やばい組織ばかり相手にしてきたんだ。これ以上はさすがにきついって……」
智春にそう答えた睦月は、眼前の床上で土下座している女二人をどう扱うか悩みつつ、腰掛けた椅子に深くもたれかかった。
ほとんど身内の犯行の為、英治とカリーナの二人は、もうすでに帰らせている。用事も済んでいるので、特に残す理由がなかったからだ。
「まあ、当たって欲しくはなかったが……ある程度は予想できてたんだよな」
そう言うと、睦月は懐から取り出した小さめの袋型の容器を、弥生の目の前に投げ捨てた。
「鉄の粉だ。それとアルミ缶で、焼夷弾でも自作すりゃいいだろ」
「それ……遠回しに『死ね』、って言ってない?」
テルミット反応と呼ばれる、酸化鉄やアルミニウムを掛け合わせて多量の高熱を発生させる科学現象がある。焼夷手榴弾の中には、それを基に周囲を焼き払う物も存在していた。
材料自体は簡単に手に入る為、多少の科学知識があれば誰でも自作できるものの……なまじ作りやすい分、事故も起きやすいのだ。失敗すると、下手をすれば人体が容易に溶けてしまう。
「別に、失敗してもいいだろ……自分が巻き込まれなければいいんだし」
「……それもそっか」
「軽くない? 弥生ちゃん」
とはいえ、他に解決手段はない。同じく予想していたのか、和音もまた、弥生の爆薬代を姫香に手渡していた。
「立て替えた代金は、麻薬組織狩りの成果から回収するからね。しっかり稼いできな」
『は~い……』
服と荷物を返された二人は、いそいそと纏い出すのであった。
「そういえば……荻野君、凄い落ち着いてない? 女の子の下着姿見て興奮しないって……勃起不全?」
「なわけねえだろ。そもそも、弥生のは見慣れている上に……」
そう言うと、睦月は佳奈の臀部に描かれたアニメプリントを一瞥し、直後に軽い頭痛を覚えた。
「……お前いくつだよ? せめて無地ならまだ、っぶ!?」
「え? これが普通じゃないの?」
「年齢一桁台位なら、普通だと思うけど……」
まだ興奮しそうな下着について語ろうとした睦月が姫香にシバかれている中、智春は佳奈に、そう答えた上で問い掛けていた。
「そもそも何で、そういう下着履いてるの?」
「いや……これまで特に、誰からもツッコまれなかったから」
その瞬間、この場に居る佳奈以外の全員が思った。
(こいつ…………絶対未経験だ)
と。
――Case No.008 has completed.
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