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171 案件No.009_Treasure Hunt Tour(その9)
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睦月は由希奈を伴うと、視界の端に捉えた旅館内のゲームコーナーへと入った。
「随分古い筐体もあるんだな……」
「銃の……ゲームですか?」
「一昔前にあったシリーズだよ。ここ最近はゲーセンでもガンシューティング自体、珍しくなってきてるけどな」
財布を取り出して中身を確認すると、小銭がほとんど入ってないことに睦月は気付いた。無駄遣い防止も兼ねて、普段からこまめに現金を整理していた為に、あまり持ち歩く機会がないからだ。
仕方がないので、睦月は軽く頭を振って両替機を探し、紙幣を差し込んで小銭に換えた。
「でも、ゲームセンターとかって、普通に置いてありそうな印象があるんですけれど……」
「どこかで、『ガンシューティングそのものの人気が減少してる』って、聞いたことがあるな。多分、その影響だろう……まあ、今時は景品の転売目的で回収率が高くなってるクレーンゲームばかりだから、他のジャンルも減っていくかもしれないけどな」
しかも、クレーンゲーム以外は大なり小なり時間を掛けて楽しむジャンルなので、一回操作して終わる分、そもそもの回転率が群を抜いているのは自明の理だ。景品さえ取られなければいくらでも利益は上げられるし、営業妨害になる規模の問題さえ起こさなければ、企業側も転売について何も言ってこない。
ゆえに、クレーンゲームの筐体が増えるのも、仕方がないのだろう。
「それに……ゲーセンと違って、旅館とかのゲームコーナーは利用客の娯楽目的が多いしな。副次利益にそこまで、力は入れてないんじゃないか?」
両替機から百円を取り出し、数枚を残して財布に仕舞った睦月は、その内一枚をガンシューティングの筐体に入れた。
「結構、綺麗にしてあるな……」
ボタンを押し、軽く操作した後でゲームが開始される。
筐体に繋がれた拳銃型のコントローラーを握った睦月は、画面の向こうから出てくる敵に向けて、次々と引き金を引いた。
(わりと、古い筐体なのに……整備も丁寧にしてある。狙いのブレがほとんどない)
実銃とは違い、コントローラーと筐体内に組み込まれたセンサー類で命中判定を出す仕組みなので、衝撃等で部品がずれてしまうことがよくある。それでも狙いが逸れないのは、旅館側が整備を怠っていない証拠だろう。
「やっぱり上手ですね、睦月さん」
「実はこの筐体、地元の駄菓子屋にもあったんだよ」
どこで誰が耳を立てているか分からない以上、銃器の扱いに関してはあまり口にしない方がいい。そう考えた睦月は、由希奈にできるだけ無害な話だけをすることにした。
「昔は出禁になるまで、散々遊び倒したからな~」
「出禁、って……一体何をやったんですか?」
「売られた喧嘩を買っただけだって……言っとくけど、本当だからな」
由希奈の瞼が少し下がるのを横目に、睦月は言葉を濁しながら否定した。
けれども……コントローラーを握っている方の手は澱みなく、出てくる敵を容赦なく撃ち抜いていたが。
「……よし、一先ずクリア」
ストーリーそのものが長い為、適当なステージで区切った後、睦月は由希奈を手招きして呼び寄せた。
「? どうかしましたか?」
首を傾げながら近付いてくる由希奈に、睦月はコントローラーの銃把を差し出して告げる。
「練習代わりに、ちょっと撃ってみないか?」
「え? あ、はい……」
睦月に流されるまま、コントローラーを握った由希奈はゆっくりと構えると、新しく始まったステージの敵に向けて引き金を引いた。
「あ、あれっ?」
「……片手での使用を前提とした設計じゃない限り、武器は基本的に両手用だって考えとけ」
同じく片手で握っていた由希奈の空いている方の手を取った睦月は、両手でコントローラーを保持した状態に構え直させた。
「扱いに慣れない内は、必ず両手で固定して撃て。後は……身体に変な力を入れないように、リラックスするのもいいな」
「リラックス……ですか?」
「緊張で余計な力が入るとその分、身体が動いて狙いがずれやすくなるんだよ。だから肩とか、あまり使ってない身体の部分はなるべく力を抜くイメージで、冷静に引き金を引いてみろ」
身体に触れ、構え方から教えようとしているのだが、睦月の手を介して、由希奈の緊張が逆に大きくなってくるのが伝わってくる。どうにか落ち着かせようと、偶に代わりにコントローラーを操作しながら、飛び出してくる画面上の敵に架空の銃弾を命中させる、成功体験を重ねさせた。
「イメージは、そうだな……銃弾自体がパンチで、飛距離の分腕が伸びている、とかどうだ?」
「それって……ゴムゴ、」
「いや合ってるけどそういうことじゃない」
共通認識として、同様の漫画知識があるのはありがたいが、あまりそればかりに意識を向けさせるわけにはいかない。睦月は由希奈の身体を押さえつつ、言葉を継ぎ足していく。
「人が武器を持つのは、己の身一つでは限界があるからだ。それを補う為に、武器を使う。つまり……」
「……『武器は、身体の一部』?」
「そういうことだ」
道具として大型の武器を扱うならまだしも、片手でも使える小型ならばまず、認識を改めて使う方がかえって上手くいく。
少なくとも睦月は、拳銃等の片手で扱える物は身体の一部として認識できるまで訓練し、鍛えられてきた。その考え自体は由希奈もすぐに思い浮かべられるように、世間に広く浸透している。
けれども……それを本当の意味で理解し、実戦で扱える者はほとんどいないだろう。
「狙撃するならまだしも、拳銃での有効射程距離は短い。いちいち狙っている暇はないから、反射神経だけでパンチを打つように、構えながら銃口を向けるんだ。引き金を引くかどうかは、先に向けてから考えればいい」
熟達した者達であれば、ただ拳銃を持つ腕を動かすだけで、大体の狙いをつけることができる。たとえ素人だとしても、標的に向けた視線に沿わせて銃身を重ねる基本さえ守れば、放たれた銃弾が大きく逸れることはない。
「後は銃の癖を把握しながら、どう向ければどこに銃弾が飛んでいくのかを理解すればいい。狙うのは基本的に身体の中心だ。そうすれば逸れてもどこかに当たるし、そこらの素人とかじゃなければ、大抵防弾ベストとかで防がれるから、簡単に死ぬこともない」
「相手を殺さない為に……ですか?」
「……ああ、それもある」
時折、由希奈からコントローラーを取り上げ、片手だけで画面上の敵の手足を撃ち抜きながら、睦月は声のトーンを落としたまま告げる。
「結局大事なのは……どんな理由で戦うか、だ。銃を握つこと自体、単なるおまけに過ぎない」
人を傷付けるのが嫌なら、最初から裏社会の住人にならなければいい。それ以前に法を遵守し、『社交辞令』や『ビジネスマナー』を身に着け、『コンプライアンス』に注意しつつ、『ハラスメント』に当たらないよう気を付ければ十分だ。
ゆえに、人は常に学び続け、変化に適応していかなければならない。その上で、相手を傷付けない振る舞いを心掛けなければ……自らに待ち受けているのは、敵だらけの世の中だろう。
だが……それを相手が守ってくれるとは限らない。
無常だが、それがこの世界の真実だった。
時には誰かを傷付けなければ自らを守れない時もあるだろう。それ以前に、動植物を食らって生きている以上、人類全員が例外なく咎人だ。
「自衛程度なら元々、相手を殺す必要なんてないんだ。どれだけ憎悪を抱こうとも、殺害以外の報復がかえって有効な時だってある。結局のところ……生きていく上で相手を傷付ける覚悟は要るが、殺しまで意識する必要はない」
今は遊びの最中だと、睦月は由希奈が真似をして手足を狙おうとするのを止めさせつつ、再び身体の中心を狙わせた。
「まずは、自分の身を守るところから始めてみろ。そうすれば、嫌でも理解できるはずだ。生きていく上で……何が、必要なのかを」
戦う理由は、ないに越したことはない。あっても、自己錬磨か防衛手段の範疇に留めておくべきだろう。味方よりも敵の方が簡単に作れる世界だからこそ、身の破滅を避ける為に明確にしなければならない。
己に課すべき、明確な意思…………『揺るがない魂』を。
「……ま、銃の扱いなんて、無理に覚える必要もない。最悪、適当な石ころを脳天に投げつけるだけで十分だしな」
「そんな、身も蓋もない……」
由希奈が両手でコントローラーを握ったままそうぼやいてくるが、それもまた真実だ。
人は簡単に死ぬし、それぞれが抱く罪の意識の大きさは、平等ではない。
そもそも、自分の気持ちすらまともに理解できない人間が、他人の心情を慮ること等、それこそ読心術があったとしても不可能だろう。
「まあ、今回ばかりは必要なさそうな技能だしな。部屋に戻って銃の整備をするかは任せるが、使う機会がなくても文句は言うなよ」
「……分かって、います」
とはいえ、多少の備えは必要だ。追加で小銭を入れて、ゲームの続行を続けること数回。最後まで遊んだ二人は、その足でゲームコーナーを後にした。
旅館内を軽く散策してみたものの、特に怪しい動きは見られなかった。もっとも、それは大浴場や休憩所、先程のゲームコーナーのような共用の場所に限られた話だが。
「各階を見回ったりはしないんですか?」
「泊まってない部屋の階に、用もなく歩いている方が怪しまれる。もし誰かが俺達を探していたとしても、余程の素人でない限りはまずうろつかない。だから……」
最後に由希奈を伴って、睦月が向かったのは旅館の従業員用区画の一つ、警備設備のある部屋の近くだった。
「……監視カメラ、ですか?」
「正解。従業員の目を盗んで忍び込めば、カメラ越しに旅館全体を確認できる」
だが、それは睦月達も同じだ。それに、無断で監視カメラの映像を覗こうものなら、見つかった時点で即通報される。とはいえ、確実に狙われている状況でないのならば、無理に押し入る必要もなかった。
「とりあえず、大丈夫そうだし……部屋に戻るか」
要は、不審な動きをする者が一人でも、警備室の近くで徘徊していなければいいのだ。異常がないのであれば、問題は起きていないということ、つまり現状……『敵は旅館にいない』ということになる。
確認を終えた睦月は由希奈を連れてエレベーターに乗り、姫香が待っている部屋の階へと向かっていく。
「一応、部屋に内風呂はあるだろ? 大浴場に行くかは、姫香や朔に合わせて決めてくれればいい」
部屋の前で由希奈にそう告げた睦月は、開けられた扉へと声を飛ばす。
「さて、と……姫香、出てこいっ!」
その声を聴き、慌てて部屋の奥から飛び出してきた姫香(備え付けの浴衣、スマホ装備)の首根っこを掴むと、由希奈を残して廊下の隅へと移動した。
「真面目にやれ…………いいな?」
とっくに部屋の盗聴器類の確認を終えているにも関わらず、由希奈を追い出して一人寛いでいた姫香の頭を軽く叩いた睦月はどうにか怒りを収め、そのまま近くの壁に身体を預けた。
「後……由希奈にあの話もするけど、俺から伝える。お前は黙っててくれ」
「…………」
叩かれた頭を撫でつつ、頷く姫香。しかし起こした頭をすぐに、横へと傾けてきた。
そして手を持ち上げると、睦月に突き出した左掌に向けて、広げた右手の指を差すと上下に二回振ってくる。
「……【まだ】?」
「まだだよ。いきなり話すことでもないだろ。それに……今は、仕事に集中させたい」
姫香に話した時とは違い、仕事が控えている以上、余計な心労は避けるべきだ。特に発達障害持ちの場合、慣れない複数の物事を抱え込ませるのはできるだけ控えた方がいい。だから睦月は、仕事帰りに由希奈へ伝えようと考えていた。
ある組織に狙われていること。そして……いざという時は、何も言わずに消えることを。
「……おまけに、若干きな臭くなってきてるからな。姫香も一応、用心しとけ」
それだけ言い残すと、壁から起き上がった睦月は姫香に、そのまま背を向ける。
「じゃあ、俺はもう行く……ところで、姫香の方は大丈夫か?」
心配して振り返った睦月だったが……すでにスマホの画面に視線を落としたまま、空いた手でシッ、シッと掌を揺らす姫香を見て即座に反転し、その頭を盛大に引っ叩いた。
「ったく、姫香の奴……」
どうせ部屋に戻った後、由希奈に『睦月に頭を叩かれた』だのなんだのと、愚痴なのか自慢なのか分からない、取り留めのないことでお茶を濁そうとしているのかもしれないが……もう、睦月には構う気力も起きなかった。
「……戻ったぞ、朔」
「随分不機嫌そうだな。また女に面倒事押し付けられたか?」
「目下、押し付けてるのはそっちだろうが。馬鹿姉貴」
その朔夜も今、姫香と同様に浴衣姿で、備え付けられていた手提げ袋に手拭いを仕舞っているところだった。
「これから大浴場に行くけど、お前はどうする?」
「俺は……用事を片付けてからにするよ」
しかし睦月は旅館に来た時の格好のまま、改めて内履きから土足へと履き替えていく。
「ちょっと姫香に、面倒事押し付けられてな……先にそっち、片付けてくるわ」
「……敵か?」
「いや……」
旅館の駐車場に停めた車の鍵や、枕元に隠していた自動拳銃を持ち出そうとする睦月に、朔夜も警戒心を含めた低い声を出してくる。けれども、スマホの画面を見せた途端……そのやる気は極端に消え失せていた。
「姫香が旅館の評判調べてたら、これから盗撮の生配信しようとしている連中を偶々見つけたんだと。ちょっと行ってシバいてくるわ」
「だったらまず、私を止めろよっ!」
同じく旧式の自動拳銃を持ち出そうとする朔夜を置いて、睦月はさっさと出口へと歩き出す。
「大丈夫だって……芸能人の誤情報に踊らされて男風呂覗こうとしている、ピチピチ(死語)の女子大生達を止めてくるだけだからっ!?」
「なお悪いわこの愚弟がっ!」
そして、その女子大生達は朔夜の説得(芸能人の所属事務所から不正アクセスして盗み出した未発表の女性関係を伝えた)により、盗撮行為からは大人しく手を引いていった。
……若干、いやかなりの涙目、というか号泣で。
「っ痛ぇ……朔め、ちょっとは加減しろよな」
大浴場にて『睦月に余計なこと吹き込んでんじゃねえっ!』と怒鳴る朔夜と取っ組み合いをしているだろう姫香を見て叫ぶ由希奈の声を肴に、睦月は飛び蹴りを受けた背中を擦りつつ、露天風呂で汗を流すのだった。
……旅行一日目に溜め込まれた性欲が、未だに解消されないまま。
「随分古い筐体もあるんだな……」
「銃の……ゲームですか?」
「一昔前にあったシリーズだよ。ここ最近はゲーセンでもガンシューティング自体、珍しくなってきてるけどな」
財布を取り出して中身を確認すると、小銭がほとんど入ってないことに睦月は気付いた。無駄遣い防止も兼ねて、普段からこまめに現金を整理していた為に、あまり持ち歩く機会がないからだ。
仕方がないので、睦月は軽く頭を振って両替機を探し、紙幣を差し込んで小銭に換えた。
「でも、ゲームセンターとかって、普通に置いてありそうな印象があるんですけれど……」
「どこかで、『ガンシューティングそのものの人気が減少してる』って、聞いたことがあるな。多分、その影響だろう……まあ、今時は景品の転売目的で回収率が高くなってるクレーンゲームばかりだから、他のジャンルも減っていくかもしれないけどな」
しかも、クレーンゲーム以外は大なり小なり時間を掛けて楽しむジャンルなので、一回操作して終わる分、そもそもの回転率が群を抜いているのは自明の理だ。景品さえ取られなければいくらでも利益は上げられるし、営業妨害になる規模の問題さえ起こさなければ、企業側も転売について何も言ってこない。
ゆえに、クレーンゲームの筐体が増えるのも、仕方がないのだろう。
「それに……ゲーセンと違って、旅館とかのゲームコーナーは利用客の娯楽目的が多いしな。副次利益にそこまで、力は入れてないんじゃないか?」
両替機から百円を取り出し、数枚を残して財布に仕舞った睦月は、その内一枚をガンシューティングの筐体に入れた。
「結構、綺麗にしてあるな……」
ボタンを押し、軽く操作した後でゲームが開始される。
筐体に繋がれた拳銃型のコントローラーを握った睦月は、画面の向こうから出てくる敵に向けて、次々と引き金を引いた。
(わりと、古い筐体なのに……整備も丁寧にしてある。狙いのブレがほとんどない)
実銃とは違い、コントローラーと筐体内に組み込まれたセンサー類で命中判定を出す仕組みなので、衝撃等で部品がずれてしまうことがよくある。それでも狙いが逸れないのは、旅館側が整備を怠っていない証拠だろう。
「やっぱり上手ですね、睦月さん」
「実はこの筐体、地元の駄菓子屋にもあったんだよ」
どこで誰が耳を立てているか分からない以上、銃器の扱いに関してはあまり口にしない方がいい。そう考えた睦月は、由希奈にできるだけ無害な話だけをすることにした。
「昔は出禁になるまで、散々遊び倒したからな~」
「出禁、って……一体何をやったんですか?」
「売られた喧嘩を買っただけだって……言っとくけど、本当だからな」
由希奈の瞼が少し下がるのを横目に、睦月は言葉を濁しながら否定した。
けれども……コントローラーを握っている方の手は澱みなく、出てくる敵を容赦なく撃ち抜いていたが。
「……よし、一先ずクリア」
ストーリーそのものが長い為、適当なステージで区切った後、睦月は由希奈を手招きして呼び寄せた。
「? どうかしましたか?」
首を傾げながら近付いてくる由希奈に、睦月はコントローラーの銃把を差し出して告げる。
「練習代わりに、ちょっと撃ってみないか?」
「え? あ、はい……」
睦月に流されるまま、コントローラーを握った由希奈はゆっくりと構えると、新しく始まったステージの敵に向けて引き金を引いた。
「あ、あれっ?」
「……片手での使用を前提とした設計じゃない限り、武器は基本的に両手用だって考えとけ」
同じく片手で握っていた由希奈の空いている方の手を取った睦月は、両手でコントローラーを保持した状態に構え直させた。
「扱いに慣れない内は、必ず両手で固定して撃て。後は……身体に変な力を入れないように、リラックスするのもいいな」
「リラックス……ですか?」
「緊張で余計な力が入るとその分、身体が動いて狙いがずれやすくなるんだよ。だから肩とか、あまり使ってない身体の部分はなるべく力を抜くイメージで、冷静に引き金を引いてみろ」
身体に触れ、構え方から教えようとしているのだが、睦月の手を介して、由希奈の緊張が逆に大きくなってくるのが伝わってくる。どうにか落ち着かせようと、偶に代わりにコントローラーを操作しながら、飛び出してくる画面上の敵に架空の銃弾を命中させる、成功体験を重ねさせた。
「イメージは、そうだな……銃弾自体がパンチで、飛距離の分腕が伸びている、とかどうだ?」
「それって……ゴムゴ、」
「いや合ってるけどそういうことじゃない」
共通認識として、同様の漫画知識があるのはありがたいが、あまりそればかりに意識を向けさせるわけにはいかない。睦月は由希奈の身体を押さえつつ、言葉を継ぎ足していく。
「人が武器を持つのは、己の身一つでは限界があるからだ。それを補う為に、武器を使う。つまり……」
「……『武器は、身体の一部』?」
「そういうことだ」
道具として大型の武器を扱うならまだしも、片手でも使える小型ならばまず、認識を改めて使う方がかえって上手くいく。
少なくとも睦月は、拳銃等の片手で扱える物は身体の一部として認識できるまで訓練し、鍛えられてきた。その考え自体は由希奈もすぐに思い浮かべられるように、世間に広く浸透している。
けれども……それを本当の意味で理解し、実戦で扱える者はほとんどいないだろう。
「狙撃するならまだしも、拳銃での有効射程距離は短い。いちいち狙っている暇はないから、反射神経だけでパンチを打つように、構えながら銃口を向けるんだ。引き金を引くかどうかは、先に向けてから考えればいい」
熟達した者達であれば、ただ拳銃を持つ腕を動かすだけで、大体の狙いをつけることができる。たとえ素人だとしても、標的に向けた視線に沿わせて銃身を重ねる基本さえ守れば、放たれた銃弾が大きく逸れることはない。
「後は銃の癖を把握しながら、どう向ければどこに銃弾が飛んでいくのかを理解すればいい。狙うのは基本的に身体の中心だ。そうすれば逸れてもどこかに当たるし、そこらの素人とかじゃなければ、大抵防弾ベストとかで防がれるから、簡単に死ぬこともない」
「相手を殺さない為に……ですか?」
「……ああ、それもある」
時折、由希奈からコントローラーを取り上げ、片手だけで画面上の敵の手足を撃ち抜きながら、睦月は声のトーンを落としたまま告げる。
「結局大事なのは……どんな理由で戦うか、だ。銃を握つこと自体、単なるおまけに過ぎない」
人を傷付けるのが嫌なら、最初から裏社会の住人にならなければいい。それ以前に法を遵守し、『社交辞令』や『ビジネスマナー』を身に着け、『コンプライアンス』に注意しつつ、『ハラスメント』に当たらないよう気を付ければ十分だ。
ゆえに、人は常に学び続け、変化に適応していかなければならない。その上で、相手を傷付けない振る舞いを心掛けなければ……自らに待ち受けているのは、敵だらけの世の中だろう。
だが……それを相手が守ってくれるとは限らない。
無常だが、それがこの世界の真実だった。
時には誰かを傷付けなければ自らを守れない時もあるだろう。それ以前に、動植物を食らって生きている以上、人類全員が例外なく咎人だ。
「自衛程度なら元々、相手を殺す必要なんてないんだ。どれだけ憎悪を抱こうとも、殺害以外の報復がかえって有効な時だってある。結局のところ……生きていく上で相手を傷付ける覚悟は要るが、殺しまで意識する必要はない」
今は遊びの最中だと、睦月は由希奈が真似をして手足を狙おうとするのを止めさせつつ、再び身体の中心を狙わせた。
「まずは、自分の身を守るところから始めてみろ。そうすれば、嫌でも理解できるはずだ。生きていく上で……何が、必要なのかを」
戦う理由は、ないに越したことはない。あっても、自己錬磨か防衛手段の範疇に留めておくべきだろう。味方よりも敵の方が簡単に作れる世界だからこそ、身の破滅を避ける為に明確にしなければならない。
己に課すべき、明確な意思…………『揺るがない魂』を。
「……ま、銃の扱いなんて、無理に覚える必要もない。最悪、適当な石ころを脳天に投げつけるだけで十分だしな」
「そんな、身も蓋もない……」
由希奈が両手でコントローラーを握ったままそうぼやいてくるが、それもまた真実だ。
人は簡単に死ぬし、それぞれが抱く罪の意識の大きさは、平等ではない。
そもそも、自分の気持ちすらまともに理解できない人間が、他人の心情を慮ること等、それこそ読心術があったとしても不可能だろう。
「まあ、今回ばかりは必要なさそうな技能だしな。部屋に戻って銃の整備をするかは任せるが、使う機会がなくても文句は言うなよ」
「……分かって、います」
とはいえ、多少の備えは必要だ。追加で小銭を入れて、ゲームの続行を続けること数回。最後まで遊んだ二人は、その足でゲームコーナーを後にした。
旅館内を軽く散策してみたものの、特に怪しい動きは見られなかった。もっとも、それは大浴場や休憩所、先程のゲームコーナーのような共用の場所に限られた話だが。
「各階を見回ったりはしないんですか?」
「泊まってない部屋の階に、用もなく歩いている方が怪しまれる。もし誰かが俺達を探していたとしても、余程の素人でない限りはまずうろつかない。だから……」
最後に由希奈を伴って、睦月が向かったのは旅館の従業員用区画の一つ、警備設備のある部屋の近くだった。
「……監視カメラ、ですか?」
「正解。従業員の目を盗んで忍び込めば、カメラ越しに旅館全体を確認できる」
だが、それは睦月達も同じだ。それに、無断で監視カメラの映像を覗こうものなら、見つかった時点で即通報される。とはいえ、確実に狙われている状況でないのならば、無理に押し入る必要もなかった。
「とりあえず、大丈夫そうだし……部屋に戻るか」
要は、不審な動きをする者が一人でも、警備室の近くで徘徊していなければいいのだ。異常がないのであれば、問題は起きていないということ、つまり現状……『敵は旅館にいない』ということになる。
確認を終えた睦月は由希奈を連れてエレベーターに乗り、姫香が待っている部屋の階へと向かっていく。
「一応、部屋に内風呂はあるだろ? 大浴場に行くかは、姫香や朔に合わせて決めてくれればいい」
部屋の前で由希奈にそう告げた睦月は、開けられた扉へと声を飛ばす。
「さて、と……姫香、出てこいっ!」
その声を聴き、慌てて部屋の奥から飛び出してきた姫香(備え付けの浴衣、スマホ装備)の首根っこを掴むと、由希奈を残して廊下の隅へと移動した。
「真面目にやれ…………いいな?」
とっくに部屋の盗聴器類の確認を終えているにも関わらず、由希奈を追い出して一人寛いでいた姫香の頭を軽く叩いた睦月はどうにか怒りを収め、そのまま近くの壁に身体を預けた。
「後……由希奈にあの話もするけど、俺から伝える。お前は黙っててくれ」
「…………」
叩かれた頭を撫でつつ、頷く姫香。しかし起こした頭をすぐに、横へと傾けてきた。
そして手を持ち上げると、睦月に突き出した左掌に向けて、広げた右手の指を差すと上下に二回振ってくる。
「……【まだ】?」
「まだだよ。いきなり話すことでもないだろ。それに……今は、仕事に集中させたい」
姫香に話した時とは違い、仕事が控えている以上、余計な心労は避けるべきだ。特に発達障害持ちの場合、慣れない複数の物事を抱え込ませるのはできるだけ控えた方がいい。だから睦月は、仕事帰りに由希奈へ伝えようと考えていた。
ある組織に狙われていること。そして……いざという時は、何も言わずに消えることを。
「……おまけに、若干きな臭くなってきてるからな。姫香も一応、用心しとけ」
それだけ言い残すと、壁から起き上がった睦月は姫香に、そのまま背を向ける。
「じゃあ、俺はもう行く……ところで、姫香の方は大丈夫か?」
心配して振り返った睦月だったが……すでにスマホの画面に視線を落としたまま、空いた手でシッ、シッと掌を揺らす姫香を見て即座に反転し、その頭を盛大に引っ叩いた。
「ったく、姫香の奴……」
どうせ部屋に戻った後、由希奈に『睦月に頭を叩かれた』だのなんだのと、愚痴なのか自慢なのか分からない、取り留めのないことでお茶を濁そうとしているのかもしれないが……もう、睦月には構う気力も起きなかった。
「……戻ったぞ、朔」
「随分不機嫌そうだな。また女に面倒事押し付けられたか?」
「目下、押し付けてるのはそっちだろうが。馬鹿姉貴」
その朔夜も今、姫香と同様に浴衣姿で、備え付けられていた手提げ袋に手拭いを仕舞っているところだった。
「これから大浴場に行くけど、お前はどうする?」
「俺は……用事を片付けてからにするよ」
しかし睦月は旅館に来た時の格好のまま、改めて内履きから土足へと履き替えていく。
「ちょっと姫香に、面倒事押し付けられてな……先にそっち、片付けてくるわ」
「……敵か?」
「いや……」
旅館の駐車場に停めた車の鍵や、枕元に隠していた自動拳銃を持ち出そうとする睦月に、朔夜も警戒心を含めた低い声を出してくる。けれども、スマホの画面を見せた途端……そのやる気は極端に消え失せていた。
「姫香が旅館の評判調べてたら、これから盗撮の生配信しようとしている連中を偶々見つけたんだと。ちょっと行ってシバいてくるわ」
「だったらまず、私を止めろよっ!」
同じく旧式の自動拳銃を持ち出そうとする朔夜を置いて、睦月はさっさと出口へと歩き出す。
「大丈夫だって……芸能人の誤情報に踊らされて男風呂覗こうとしている、ピチピチ(死語)の女子大生達を止めてくるだけだからっ!?」
「なお悪いわこの愚弟がっ!」
そして、その女子大生達は朔夜の説得(芸能人の所属事務所から不正アクセスして盗み出した未発表の女性関係を伝えた)により、盗撮行為からは大人しく手を引いていった。
……若干、いやかなりの涙目、というか号泣で。
「っ痛ぇ……朔め、ちょっとは加減しろよな」
大浴場にて『睦月に余計なこと吹き込んでんじゃねえっ!』と怒鳴る朔夜と取っ組み合いをしているだろう姫香を見て叫ぶ由希奈の声を肴に、睦月は飛び蹴りを受けた背中を擦りつつ、露天風呂で汗を流すのだった。
……旅行一日目に溜め込まれた性欲が、未だに解消されないまま。
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由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
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※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
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