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第二十七章 グランドツアー

二人の総長

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 警戒を解きますが、かわりに防御のイメージを発動しておきました。

「なんか急に、空気が騒がしくなったような……気のせいですかな」
 すこし驚きましたね。
 現在のテンプル騎士団総長って、お飾りでもないのですね……

「私には何の事かわかりませんが……でもお友達をあまり待たせるのも、失礼かと思いますが……」

「そうでしたな、呼んできますので、すこしお待ちください」
 一国の元首でもある、テンプル騎士団総長さんの腰の軽い事。

 すぐに一人の男を連れてきました。
 どこかで見たことのある方ですが……
 優しげな初老の神父さん……思い出しましたよ、イエス会総長さん……
 なんでここに?どうして?

「ルシファーさん、やっと本当のお名前を知りました」
「吉川ミコさんとおっしゃるのですか?」
 ここでその様な事をおっしゃると……

 ほら、テンプル騎士団総長さんの耳が、ダンポのようになっていますよ。
 ここではっときづいてくれました、そう部外者が一人いる事に……

 まぁいいでしょう、このテンプル騎士団総長さんは、の置ける人なのは間違いありませんし。

「テンプル騎士団総長閣下、お願いがあります」
「私は貴方が、信の置ける騎士の鏡と思っています、これからの会話は、胸の中だけに納めて下さいませんか」
「ご婦人の願いは聞くものと心得ています」
「感謝します」

 イエス会総長さんに向かって、
「お久しぶりですね、会うことはないと思っていました」
「よく私がここにいると判りましたね」

「シャルル枢機卿は知らぬ存ぜぬの一点張り、ユリウス五世聖下も、聖職者は悪魔の名前を口にしないものと、やんわりと拒絶されました」
「仕方ないので、シャルル枢機卿の動向をそれとなく注意しておりました」

「するとテンプル騎士団総長に、一人の女性の会見を要望していると知り、すぐに旧知のこの者に連絡をとり、会見の日時を確認し、その女性がやってくるのを見ていたら、やはりあの時のお嬢さん、それでいささか強引な手法をとらせていただいたのです」

「そうですか、単刀直入に聞きますが、何の御用でしょうか?」
「さきほどテンプル騎士団総長も誓ってくれたので、構わないのでしょうからお聞きします」

「先にお会いした時、貴女は大いなるお力をお示しになられました」
「私はそれを目のあたりにして、貴女はもしや神の御使いではと、すくなくともこのテラの人ではないと、確信しています」
「そこでお聞きしたいのです、何の目的でこの世界に降り立たれたのかと」

 イエス会総長さん、本当に単刀直入です。
 この相手に言葉をごまかしても無理でしょうし、腹も据わっているようですし……

「その前におふた方にお聞きしますが、明日、全てが終わると知った時に、今日をどうすごしますか?」
「いつかは神に召されるのが人、変わりませんが」
 と、テンプル騎士団総長さん。

「いつものように、人々の平穏をいのります」
 と、イエス会総長さん。

 他の方がこれを云っても、眉唾というものでしょうが、この二人は掛け値なしでしょうね。

「このテラは、56年後には確実に消えてなくなります」
「現在、この太陽系のカイパーベルトの、さらに外側のオールトの雲あたりの、小惑星クラスの星が、進路をこちらへ向けています」

「計算では、外惑星の巨大質量による影響を、そんなに受ける事なくすり抜けるようです」
「はっきりいって、恐竜を絶滅させた程度ではすみません」

「私が何処の誰かということは、勘弁していただきますが、私の『しもべ』の計算によると、それ以外にも、南の深刻な人口増加による環境汚染から、人類が汚染され、出生率の減少による劇的な人口減少が進行します」

「二十年で世界人口の半分強が死亡するはずです、私のしもべの計算です、100パーセントの確率で当たります」

「私が全面介入すれば、すくなくとも56年後の小惑星は消去できます」
「人口増加も環境汚染も、荒技を使えば何とか出来るでしょう」

「しかし事態はもっと深刻です」
「ここを乗り切っても、人の種族としての寿命はつきているのです、問題は人の利己特性です」
「お二人は宗教家であられますので、おわかりでしょうが、今回私が全面介入しても、事態は繰り返します」

「私が何の目的でとお聞きでしたね」
「お答えすれば、ある理由でこのテラへ立ち寄っただけ、不介入のつもりでした」

「しかし色々と縁を持ち、出来るなら何とかしようと、考えを変えました」
「最低でも人類の存続……そしてテラにいる他の高等知的生物の救出……いま言えるのはここまでです」

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