上 下
125 / 131
第二十八章 創世記

会話

しおりを挟む

 お二人とも、あまりの事実に、驚愕の表情が浮んでいます。

 沈黙の後、イエス会総長さんが、
「では貴女は、この世界を救うつもりと云われるのですか?」
「大変難しい問題ではありますが、私も不用意に代価を受け取っている以上、努力をしないわけにはいかないのです」
「代価?」

「女です、私のいた世界は、女性婚多妻制とも呼ぶべき世界」
「このテラでいうなら、レズというのでしょうが……拠無い理由で女性を献上されてしまい、縁を持ってしまいました」
「まぁ、神に嵌められたと、いうべきかもしれませんが、おふた方には不謹慎な話しでしょうね」

「……」

 テンプル騎士団長さんが、
「ところで当面の課題としての、人口増加にはどう対処されているのですか?」
「お答えすれば何もしない、ということです、この意味がおわかりですね」

「……」

 イエス会総長さんが、
「ほっとけば、人口は減少する……実際、それが起こっている」
「貴女はそれを予測でき、なお且つ、だんまりを決め込んでいる……」
「そうです」

「何十億の人間が、死ぬのを放置しているのですか?」
「そうです、弁解はしませんが、人類の生き方に介入は避けたいのです」

「たしかに全面介入すれば、もうすこしマシな人口減少方法にさせる事は可能でしょう」
「しかしそれには、リスクを払ってもらわなければなりません」

「全人類の遺伝子操作、つまり利己特性という、本能の削除が前提となります」
「人が他人に遺伝子操作されて生き残るのが良いのか、それとも自らが利己特性という本能を昇華させて、運命を乗り越えるのが良いのか、私は後者を望んでいます」

「しかし、人の利己特性は本能とも呼べるもの、そんな簡単に克服出来るとお考えなのですか?」

「イエス会総長さん、この場合、追いつめるまで追いつめて、突然変異的に変化しなければ、克服は難しいというのが私の考えです」
「私は貴方に、ルシファーと名乗ったのは、あながち嘘ではありませんよ」

「しかしルシファーの悪評とは、後世のねつ造、本来は光輝く者、人類の生まれる遥か以前から、この言葉はあるのです」
「まぁ人々の殺し合いを、じっと見ているのですから、地獄の魔王といわれても致し方ないですが」

 テンプル騎士団長さんが、
「そこまで追いつめられても、克服できるのでしょうか?」
「確率は限りなく小さいですが、ゼロではありません、しかし人類を救うとしても、人は多すぎるのです、人口減少が何をするにも大前提、それは各種のレポートにも発表されているはずです」

「人口増加による環境汚染は本当に深刻です、天は公平です、してきた事の代価は、必ず支払うことになります」
「人類の人口半減は避けられないのです、ならどうするのか、その結論が、何もしないという事です」

「つまり人口が劇的に減少を始める時に、行動を起こすのですか?」
「いえ、行動は起こしていますよ」


 神子は五人の賢者に暫しの休暇を命ぜられる。
  すると悲しみの涙が世界を覆い始める。

  第五のラッパは第四のラッパが鳴るとすぐに鳴るだろう。
  東の世界の婚姻が世界に静かに広まりだす


 イエス会総長さんが、小さく呟きました。
 テンプル騎士団長さんが、「なんだ」と聞きます。

「まだ公表されていない、聖ナタナエル黙示録の一節、イエス会に秘匿されている文書だ」
「いまふっと思い出した、私はこの意味が判らないのだが、この方なら判ると思う」

 二人の総長が私を見ます。

 ため息が出ましたが、
「ナタナエルが何かは、私は詳しく知りませんが、いわれる聖ナタナエル黙示録は聞き及んでいます」
「確かに私の行動を、予言していると思われる節があります」

「いまの文書は初耳です」
「しかし今までの事を加味して推測すると、神子とは私の事、五人の賢者とはナーキッドの五人の最高幹部の事、東の世界の婚姻が世界に静かに広まりだすとは、日本の我妹子(わぎもこ)制度の事でしょう」

しおりを挟む

処理中です...